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少女たちは青春を刻まない  作者: 赤羽 翼
ダブル・ショック
13/27

わかったことを色々と

 明らかになった三人のアリバイをまとめるとこんな感じだった。大前さんは私が買い物をしていたスーパーに、彩梨さんはバイクが乗り捨てられてた道の先にあった服屋に、白鳥さん木暮さんの事件現場から徒歩四分ほどのところにある本屋にいたと言う。真偽は不明なので、これから調べることになる。


 三人が去った部屋にて、明月さんが口を開いた。


「俺らは彼女たちのアリバイの裏を取りにいくが、お前らはどうする? 邪魔だから付いてきてほしくはないが」

「後で教えてくれればそれでいいわよ。あたしらは事件現場でも巡ることにするわ」


 え、やっぱり私もなの? もう帰りたいんだけど。

 まあそんなことを言っても聞き入れてもらえず、結局私とミノは木暮さんが殺害された公園へと舞い戻ることとなった。


「ミノさんミノさん。事件現場を巡るって言ったってさ、何をするの?」

「とりあえず、この公園から高槻が襲われた現場までどのくらいでいけるのかを調べたい。……あんたが事件に遭遇したのは十四時半だっけ?」

「そうだよ。ミノが事件に遭遇したのは二十二、三分なんだよね。七分くらいあればいけると思うよ。途中までバイクに乗ってたなら尚更」

「一応の確認よ。案内しなさい」


 と、ミノに横暴な感じで促されたので、事件現場へ向かうことにした。犯人の足跡を辿る関係上、一旦バイクが乗り捨てられていた地点へ赴くことになる。


「犯人はここまでバイクできたんだよね」

「そうね。徒歩で三分だし、信号とかもないからバイクで一分くらいかしら。それで、あんたが遭遇した事件の現場は?」


 私はきた道を少し戻って右折すると、現場へとぼとぼ歩いていった。乗り捨て現場から大体五分ほどで私が遭遇した事件の現場へ辿り着いた。歩いて五分だから走ればもっと早いだろう。


「時間的には問題なさそうね」

「そうだね」


 納得するミノにテキトーに頷いておく。


「アスマ。あんた、さっきの三人組の話聞いてどう思った?」

「どうって言われてもなあ。容疑者の最有力候補っぽいと思ったくらいかな。木暮さんの部活情報と下校通路を知ってたなら待ち伏せできるし」

「やっぱりそうなるわよね。他に怪しい奴が出てくればその限りじゃないけど、今のところあいつら意外にいないものね」


 私は汗をかくことを予測して持ってきておいたハンカチで額を拭きつつ、遠い目で言う。


「そういえば、変だなって思ってることがあるよ」

「なに?」

「木暮さんを襲ったのは待ち伏せでいいとして、茶髪さん――じゃない、高槻さんを襲ったシチュエーションがなんかおかしいよね。彼女、ただ歩いてただけなのに突然やってきた犯人に刺されちゃったんだよ? 高槻さんがどうしてこの市にきてたのか、みんな知らないらしいし」


 知らなかったら狙うことができない。だからおかしい。


「犯人だけその理由を知っていて、それを黙ってるってこともあるでしょうけどね。事前に犯行に使うバイクを盗んで確保しておくほどに用意周到な犯人だもの。本人から直接予定を聞いていてもおかしくないわ。まあそれでも変っちゃ変だけどね」

「第三者である私が近くにいたのに凶行に及んだり、移動に便利なバイクを乗り捨ててたりね。なんか、偶然歩いてたら高槻さんを発見して、だから刺したみたいな感じがするよね。それならバイクを乗り捨てたことの説明がつくし」

「確かに、それが一番しっくりくるわね。けど木暮を計画的に襲っておいて、高槻を突発的に襲うのは何というか雑な気もするのよねぇ」

「まあそれは確かに」


 事件に関する疑問点は尽きないが、もっぱら私は口に出すだけで特に考えはしない。いつも通りそういうのはミノに一任する。私は思いついたことを言えばいいのだ。

 ミノは手をかざして太陽の光を遮りつつ、


「後は警察の情報待ちってとこねぇ。……あ、そういえば訊いてなかった。あの三人の中で、怪しいと思った奴はいる?」

「彩梨さん」

「それ絶対名前が変わってるから注目してるだけよね?」

「まあね」


 どうやら私の思考回路はミノに筒抜けらしい。



 ◇◆◇



 明月さんからの連絡がくるまで私たちは図書館で時間を潰していた。ミノなら、警察より先にやったるわ! みたいな感じで三人のアリバイを調べるかと思ったが、そういう地味で面倒な作業は率先してやりはしないらしい。まあもちろん自分が調べなくてもいいからそうしてるだけで、あてがなかったら自分――と私を巻き込ん――で調べるんだろうけど。


 二人で無言の時間の過ごしていると、入り口の自動ドアが開く音がした。ちらりと見ると明月さんと十束さんだった。全身から汗を流している。警察でお仕事って大変そう。


「遅いわよ。四時間も待たせて」


 ミノが言った。まあ、ミノが二人を労うわけないよね。

 明月さんは苦虫を噛み潰したような顔になり、私たちが座っているテーブルの席へ座り、


「アリバイ調査の他にも色々あったんだよ。新発見とかな」

「新発見? 何よそれ」

「後で説明してやる。先にあの三人のアリバイと他の容疑者の有無を教えてやる。十束」


 明月さんに促され、ごくごくペットボトルのお茶を飲んでいた十束さんは一瞬むせたように咳をした。


「え、ええっと、ずっと調べてる高槻さんと木暮さんに動機がある人物は、依然として名前すら上がってない。本人にも覚えがないらしいし」

「本人?」


 ミノが眉をひそめた。


「高槻さんさ。目を覚ましたんだ」

「ふぅん。よかったじゃない。けど、肝心なことは何も聞けず、って感じ?」

「そういう感じ。何もわからないってさ」

「木暮と男関係で揉めたのは認めた?」

「うん。亡くなったって伝えたら喧嘩したばかりで最近あまり話せてなかったみたいで、悲しがってたよ」

「どうしてこの市にいたの?」

「夏休みになってまったく動いてなかったから、遠出してみたんだってさ」

「ふぅん。……あたしと同じような理由か」

「ちなみに二人の喧嘩の原因になった吉田拓人君は、一昨日から家族旅行で沖縄に出かけてるみたい。アリバイは完璧だね」


 ここで明月さんが言葉を継ぎ、


「まあそんなわけで、今のところの最重要容疑者はさっきの三人ってことになるんだが……」

「けど、なんですか?」


 私が首を傾げながら尋ねる。明月さんは苦い顔でため息を吐いた。


「全員にアリバイがあった」

「ありがちねぇ」


 頬杖をついたミノが呑気に呟く。妙な事件に巻き込まれすぎて慣れてしまったのだろう。かくいう私も――事件に興味が薄いこともあって――特に動じはしなかった。

 明月さんは続ける。


「具体的に話してくぞ。まずスーパーにいたという大前蘭には木暮花音が襲われた十四時二十二、三分にも高槻カンナが襲われた三十分にもアリバイがあった。監視カメラにばっちりと映っていた」


 お茶を一飲みした十束さんも口を開く。


「服屋にいた伊藤彩梨さんには高槻さんが襲われたときのアリバイはないけど、木暮さんが襲われたときのアリバイはあった。本屋にいた白鳥未玖さんはその逆で、高槻さんのアリバイはあったけど木暮さんのアリバイはない。二人とも監視カメラに映ってる」


 犯人が同一人物なのは凶器に二人の血が付いてたことからほぼ間違いなさそうだから……アリバイを一つ以上持ってる三人は犯人になり得ない。

 しかしミノは疑わしそうな声を上げる。


「彩梨がいた服屋ってバイクがあったとこの近くでしょ? なんか怪しくない?」

「なんかって何がだよ」

「なんかはなんかよ。ただの勘よ」

「らしくねえな」


 明月さんがつまらなさそうに吐き捨てた。

 ミノはふんと鼻を鳴らし、


「うっさい。それより、他に何かわかったことはないの? 別の刑事たちと手分けして調べたんなら、たったこれだけの情報を集めるのに四時間はいくらなんでもねぇ」

「お前な、これだけの情報を集めるのも大変なんだぞ。……まあ、一応他にもわかったことはあるんだが」

「何ですか、それ?」


 とりあえず訊いてみる。答えたのは十束さんだった。


「犯人の遺留品が見つかったんだ」

「え、結構な発見じゃないですか」

「そうだよ。だから遅くなったんだ」

「それで、その遺留品ってのは?」


 このミノの質問には明月さんが答えた。


「犯人が身につけてたもの一式だ。厚手の上着、ダボついたズボン、手袋……二つの現場からほど離れた通路の植木の下に隠されてた」

「上着、ズボン、手袋……ヘルメットは?」

「ヘルメットはなかった。理由は知らん」


 ミノはそこに引っかかりを覚えたようで、顎に手を添えて首を捻った。確かにおかしな話である。フルフェイスヘルメットなんて一番かさばりそうだし、処分も難しそうなものなのに。……ん? もしかして、そういうことだったりするのかな。


 ピン、と頭の中で電球が光ったけれど、確かなことじゃないので言わないことにした。流石にこの推理はあまりにも推理すぎる。

 明月さんが肩をすくめた。


「その遺留品の鑑定結果を待ってたから遅くなったんだ。何も出なかったがな」

「無駄な時間ね」

「お前らの夏休みよりは有用だよ」


 睨み合う両者。いつもの光景。それを意に介さず十束さんが呟く。


「事件は振り出しって感じですから、二人に共通する容疑者を新たに探すしかありませんね」

「そうだな。……じゃあ俺らは仕事に戻る。お前ら、余計なことだけはすんなよ」


 明月さんは私たちに釘だけ刺すと、十束さんと共に立ち上がって図書館から出ていってしまった。


「どうするの?」


 一応ミノに尋ねてみた。


「彩梨がいたっていう服屋にいくわよ。バイクが近くにあったっていうのが気になるわ」

「いくわよ……って、まだ私を巻き込むつもり? もう流石に帰りたいんだけど」


 ミノは仕方ないとばかりにため息を吐いた。


「しゃあないわね。あたしだけでいくから、あんたは帰っていいわよ」

「わかった。じゃあね」


 そのミノの言葉に、私は何の逡巡もなく甘えさせてもらった。



 ◇◆◇



 いち早く帰りたかったが、電車という交通手段を使う関係上は任意の時間に帰ることはできない。私はちょうど電車が出たタイミングで駅にきてしまったため、約三十分も待機することとなった。都会じゃどうか知らないけど、ここらでは電車は一時間に二本しか出ないらしい。


 駅のホームのベンチで夕暮れの生暖かい風を感じること二十分。隣にどかっとミノが座ってきた。その顔は不服そうだ。どうやら事件に関連する情報は手に入れられなかったらしい。

 ミノは何も訊いてないのに喋り始めた。


「なんもわからなかったわ。そもそも店が休みだったし。店の裏はバイクの駐輪場になってて、バイク繋がりで何かあるかと思ったけど何もなし。隣の雑貨ビルとの間の路地には服屋の出した黒いポリ袋があるだけ……。クソつまらない事件だわ。犯人はあたしたちじゃ調べようのない領域の人間みたいね」


 どうやら私たち向きの事件じゃなくてがっかりしているのだろう。犯人が用意周到に計画していたとはいえ、結局は通り魔事件だしね。私たちにはどうしようもないよ。……と、言いたいのだが、どうやらそうでもないらしい。確かめなきゃいけないことはあるけど、まあそれは明月さんとかに任せればいい。無駄に思われたミノの報告がさっき浮かんだ推理と、


「繋がっちゃったー」

「はあ?」


 ボソッと呟いた私の言葉にミノが顔をしかめた。

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