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少女たちは青春を刻まない  作者: 赤羽 翼
ダブル・ショック
12/27

仲良し五人組の内の三人

 バイクがあったのは人通りの少ない住宅街の歩道の真ん中だった。それを見るや否や、ミノは「これよ」と即座にバイクが犯人の逃亡に利用されたものだと判断した。


 それと同時に疑問点が出てくる。どうして犯人はこんなところでバイクを乗り捨てたのだろうか? ということだ。乗り捨て現場は百メートルほど先に服屋さんが建っているだけで、これといって特徴のない場所だった。しかも人通りは少ないとはいえ住宅街。人の目には気をつけたいはずなのに……。謎が謎を呼ぶ状況とは正にこのこと。


 けど、結局この日はこれだけで私とミノは帰ることになった。刑事さんたちは調べることが山積みなので、いつまでも私たちに構ってはいられないということだ。帰る間際、ミノは「絶対あたしたちも捜査に参加させなさいよ」とか言っていたがどうなることやら。……そして、いつものごとくしれっと()()になっているのもどういうことなのか。


 けど明月さんたちはわざわざ日を跨いでまで私たちを事件に引き込まないだろう。まあ事件の確認で連絡くらいはくるだろうけど、基本的に変わらない夏休みライフを満喫できるはず。とか楽観していたら、翌日――つまり今日、家に明月さんから電話がかかってきた。


『嬢ちゃんか? 事件のことで進展がいくつかあったから、一時くらいに桂川と木暮花音の事件現場にきてくれ。どうせ暇なんだろ?』


 いや確かに暇ですけど。無理やりすぎません?

 断りたかったけれど、一番最初に電話を応答したママの目が怖くてできなかった。

 なので、仕方なく私は駅に一時前くらいに着くだろう電車に乗ることにした。香くんから伝授された方法で切符を買い、電光掲示板に出ている三番線のベンチで電車を待っていると、


「アスマじゃない」


 階段から降りてきたミノと遭遇した。ミノの連絡先など知らないのでお互い示し合わずに駅にきたんだけど、考えることは同じだったらしい。限界まで家にいたいよね。

 ミノは私と少しだけ間隔を空けて隣へ座ると、


「明月から事件のこと、なんか聞いた?」

「なんにも。というよりそれを聞くためにいくんでしょ」

「一応、考えをまとめておきたかったのよ。ま、まとめるほど情報がそもそもなかったわ」


 二人の被害者うち片方の人に至っては名前すらわかってないもんね。

 ミノは持っていたペットボトルのお茶を一飲みし、


「けど、バイクの件は気になってる」

「あー、まああれは変だよね、色々と。木暮さんを襲ったときには使ってたのに、茶髪さんを襲ったときには使わなかったり。あんなところに放置したり」

「あんたがエンジン音を聞いてないってことは、犯人はその茶髪とやらを襲ったときには既にバイクを乗り捨ててたってことになるわよね」

「そうかもね。やってきた方向と逃げてった方向も違ったから、近くに停めてたとは考えられないし」


 ミノは顎に手を添え、考える格好になる。


「バイクがあった場所と、茶髪が襲われた場所ってどのくらい離れてた?」

「さあ? あそこの地理になんて詳しくないからわからないよ。けど、そこまで離れてはなさそうかな」

「使えないわねぇ」

「世間知らずちゃんに言われたくないよ」


 ガンッと脛を蹴られた。い、痛い……!



 ◇◆◇



 事件のあった公園に着くと、既に明月さんと十束さんが汗を垂らしながら待っていた。


「おお、きてくれたか」


 私たちを見た明月さんが安心したように呟いた。それに十束さんが続き、


「明日馬さんと桂川さんなら、シカトして僕たちをこの日差しの下に延々と立たせかねませんでしたからね」


 開口一番に酷いことをおっしゃる。……こなきゃよかった。


「そういうのいいから、事件のことを話しなさい」


 ミノは特に気にしてないようで、通常運転である。


「わかったよ。話は所轄署にいきながらする。とりあえず車に乗れ」


 そう言って、明月さんが近くに停めてあった黒い車の助手席に乗り込んだ。十束さんも続いて運転席に入るもんだから、私たちもそれに従う。ありがたいことに車にはクーラーがそこそこに訊いていたため、そこそこに涼しかった。


 動き出した車の中で明月さんが切り出した。


「嬢ちゃんが遭遇した事件の被害者の名前がわかった。名前は高槻たかつきカンナ。名前を聞いても思い出さないか?」


 おそらく私に訊いてきたので、


「はい。全然憶えてないです。やっぱり私の中学出身だったんですか?」

「ああ」

「そいつ、結局無事だったの?」


 ミノが眉をひそめながら尋ねる。


「無事かどうかはまだわからない。一応一命はとりとめたんだが、意識は戻ってない」

「ふぅん。それで、他には何がわかったのよ? それだけってわけじゃないんでしょう」

「まあな。 高槻カンナが襲われる直前、犯人と思しき不審者が現場周辺を走り回っていたっつう目撃証言も得た。あと、二つの事件の犯人が十中八九同一人物であることも明らかになった」

「どうして?」

「高槻カンナに刺さっていたナイフから二種類のDNAが検出されてな。調べてみたら――」

「高槻と木暮のDNAだった、ってことね」

「そういうこった。だからほぼ間違いなく犯人は同一人物だろう」


 運転中の十束さんが明月さんの言葉に次いで口を開いた。


「二人が親しかったって事実もあるしね」

「二人、友達だったんですか?」


 何となく訊いてみた。


「うん。五人の友達グループのうちの二人だったみたいだよ。今所轄署に向かっているのは、そのグループの残り三人から話を訊くためなんだ」


 なるほどなるほど。二人が仲良しだったら、同じ人から恨みをかっていても不思議ではない。何なら、残りの三人の中に犯人がいる可能性だって十分ある。


「それから、バイクは盗難車だった。事件の三日前にコンビニの前に停めてあったバイクを犯人は使ったみたいだ」


 明月さんの情報にミノは頷きたい


「ただの通り魔じゃなくて、周到に立てた計画だったってわけね。面白くなってきたわ」


 窓の外を見つつミノが笑った。



 ◇◆◇



 所轄署へ着くと、応接室的なところへ案内された。どうやら既に仲良し五人組の残りのメンバーはきているらしい。

 私は気になったことを明月さんたちに訊く。


「あの、私たちってどういう扱いで紹介するんですか?」

「事件の目撃者として、に決まってるだろ。それから一応お前らも容疑者だからな」


 ひ、酷い! と一瞬思うけれど、まあ第一発見者なのだし当然と言えば当然である。二人も別に本気で疑ってはいないだろう。疑ってないですよね? うん、きっと疑ってない。

 明月さんは扉をノックしてノブを捻った。室内にいたのは三人の同年代くらいの女子三人と刑事と思しき男性一人。テーブルに三人が仲良く並んでいる。男性は明月さんにお辞儀をすると、部屋の隅っこにいってしまった。


 明月さんと十束さんが緊張した面持ちの女子三人の向かいに座った。


「はじめまして。県警の明月です」

「同じく十束です。君たちが木暮花音さんと高槻カンナさんの友達の大前おおまえらんさん、伊藤いとう彩梨いろどりさん、白鳥しらとり未玖みくさんだね?」


 女子三人は名前を呼ばれた順に一人ずつ頷いていた。……彩梨て! どんな名前なのそれは。もう名前だけで私は彩梨さんに興味津々ですよ。


 さて、それはそれとして私も座ろうかなあ、と思って部屋を見回すけれどあまりの椅子はなかった。ため息を吐く。立ってるしかないかなあ。もしくは帰るか。まあ帰り道知らないんだけど。


「あの、その子たちは?」


 大前さんとやらが私とミノを見ながら小さく手を挙げながら明月さんに尋ねた。

 明月さんより先にミノが答える。


「あたしたちは事件の目撃者よ。あたしは桂川美濃。隣でぬぼーっとしているのが明日馬薫子。高槻の中学での同級生らしいわ」

「明日馬でーす。高槻さんにはそれはそれはお世話になってね」


 ミノプラス刑事さん二人に「お前憶えてねえだろ」みたいな目で見られた。


「まあ形式的に呼ばれただけだから、あたしたちのことは気にしないで。変わったオブジェくらいの感じに思っておきなさい」


 ミノはきっぱりと言い切ると、口を閉じて明月さんに話をするように促した。


「じゃあまず、木暮さんと高槻さんが誰かに恨みを抱かれていたか、怪しい人物に心当たりはあるかい?」


 三人は三人視線を交錯させると彩梨さんが代表して答えた。


「心当たりはないです。けど……」

「けど?」

「一週間くらい前に花音とカンナが喧嘩した……みたいなんです」


 私とミノは顔を見合わせた。……被害にあった二人が喧嘩してたんだ。

 明月さんはそこのところを更に切り込んでいく。


「喧嘩内容がどんなだったかはわかるかい?」


 次に答えたのは大前さんだった。


「カンナから聞いただけなので、詳しいことはわからないんですけど、花音がカンナの狙ってた男子と付き合っちゃったらしくてもめた、みたいです」

「その男子の名前は?」

吉田よしだ拓人たくとです。同じ学校の同級生」


 ここで白鳥さんが言葉を継いだ。


「けど、二人の喧嘩に巻き込まれたとき、関わるのが面倒になったからか花音とはすぐに別れました」


 そりゃそうだ。私が吉田くんとやらの立場でも別れてるね。

 十束さんが改めて訊く。


「他に心当たりはあるかい?」


 三人は三人首を横に振った。

 続いて明月さんが口を開く。


「木暮花音さんが昨日何をしていたのかは知っているかい? 彼女のご両親は今海外にいるらしくて、わからないんだ。制服を着ていたから学校から帰宅する途中だったようなんだけど」


 彩梨さんが答えた。


「昨日は部活にいくと言ってました。花音は学校帰り、いつもあの公園を通って帰ってましたから……」


 再び私たちは顔を見合わせた。木暮さんが普段からあそこを通っているならば、それを知る人間なら待ち伏せできるということになる。


「じゃあ高槻さんがこの市にいた理由はわかるかい? ご両親も知らないみたいでね」


 明月さんが穏やかな声音で尋ねた。彩梨さんは力なくかぶりを振り、


「わかりません。少なくとも、私たちは遊ぶ約束はしてませんでした。……けど、カンナは結構頻繁にこっちにきてるみたいでしたよ」

「そうか」

「あ、あの……」


 白鳥さんが手を挙げた。


「犯人はバイクに乗ってたんですよね?」

「ああ。その通りだけど、心当たりがあるのかな?」

「心当たり……と言うほどでもないんですけど、一年前にカンナが付き合ってた彼氏がバイク好きだったな、って」


 ミノが小さくため息を吐いた。まあ気持ちはわからなくもない。別に犯人はバイクが好きだから犯行にバイクを使ったわけではないだろうし。

 明月さんは一応その元カレさんの名前を訊いていた。どうやらバイクが好きすぎて茶髪さん……じゃなくて高槻さんと別れたらしい。


 それから、明月さんが三人にアリバイを尋ね、この事情聴取は終了した。

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