夢見るちょう
小さな青虫のアルトは空を見上げてため息をつきました。
「大人になりたくない」
彼女はお父さんやお母さんのような、小さなモンシロチョウになるのがいやだったのだです。
毎日ミツを求めて、あくせく飛んでいるお父さんやお母さんのようなモンシロチョウになるより、空高く飛ぶヒバリのようになりたかったのです。
「神様、どうかヒバリになれますように」
アルトは月に向かって一生懸命祈りました。
するとお月様が優しい微笑みを向けて、アルトに言いました。
「アルトちゃんのお願いを叶えてあげましょう。但し、十年の歳を貰います」
それでもアルトはヒバリになれるなら、と喜んでお願いしました。
次の朝、アルトは自分の体がヒバリになっていることに気がつきました。
「何て素敵な声だろう。空も高く飛べる」
アルトは嬉しくなって、空をかけ巡りました。
ですが次第に疲れ、おなかがすいてきました。
未熟なアルトはご飯を捕まえることができなかったからです。
疲れて、おなかが減って、一人で寝るときにお月様にアルトはお願いしました。
「お願いです、私をアリにしてください。アリはあまい食べ物をいつもおなか一杯食べています」
お月様は優しく微笑んで言いました。
「では、もう十年の歳と引き換えにあなたをアリにしましょう」
朝になってアリになっていたアルトは、大喜びで砂糖のお山へ行きました。
「ダメダメ! まずは働いてからだっ」
砂糖のお山の前では、怖そうな兵隊アリが目を光らせています。
がっかりしたアルトはともかく働くことにしました。
でも、働くことを学んだことのないアルトは、大きな砂糖を運ぶ術を知りません。
結局、仲間のアリたちにじゃま者扱いされ、泣いているうちに夜になってしまいました。
「お月様、お願い。私はお花になりたい。ただ立っているだけでキレイと言われるお花になりたい」
最近ではめっきり細くなってしまったお月様が、微笑んで言いました。
「わかりました。では十年の歳を貰いますね」
安心して眠ったアルトは、翌朝、自分がかわいらしいチューリップになっていることに気がつきました。
お日様の光を浴びて立っているだけでおなかが一杯になり、チョウやてんとう虫がかわいい、かわいいとほめたたえてくれます。
とても気分の良かったアルトでしたが、ある日、自分の葉っぱの上に青虫が乗っているのを見て「私を食べないで」といいました。
すると青虫は「お前のような汚い花なんか食べたらおなかが壊れてしまう」と言って、素通りしてしまいました。
驚いて朝露にうつる自分を見ると、そこには枯れかけた茶色いチューリップがうつっていました。
やりたいことを探して、どんどん自分の歳をお月様に渡したせいで、アルトはもうおばあちゃんになってしまっていたのです。
自分の周りに咲く、元気なチューリップたちにはモンシロチョウが羽ばたき、ミツをもらっています。
ですが、枯れかけた自分には青虫すら寄ってこないのです。
「ああ、お月様どうか時間を返してください。小さなモンシロチョウでも、皆とっても楽しそうに生きています。大切なのは目の前のことに取り組むことでした。私を小さな青虫に戻してください」
枯れた花びらをふるふると震わせて泣くアルトでしたが、お月様は暗いお空に隠れて全く姿を見せてくれません。
元気なく、うなだれたアルトに朝日が言いました。
「じゃあ、僕が歳を返してあげよう。また小さな青虫に戻ったら、チョウになるまでしっかりと葉っぱを食べて、ミツを取る方法を学ぶんだよ」
ヒバリが鳴く頃には枯れたチューリップは小さな青虫に戻り、一生懸命に葉っぱを食べていました。
いつか、近いうちに時間を作ってイラストを描いて、動く絵本としてアプリ配信できればなと思っています。
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