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IBSの俺が異世界ダンジョンでトイレマップを作る /(IBS=過敏性腸症候群)  作者: 弥ぶんし
第1章:はじめての異世界ダンジョン(トイレマップ)
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1-7. いざボスへ!

【ダンジョン・ボス部屋前】


 一番目の階層主の所へ辿り着いた。

 最初辺りの階層という事で苦戦する事もなく。

 目の前には、まるで巨人が住んでいるかのような大きな扉がある。

 この先に大物がいると言わんばかりの異様なオーラを放っているようだ。

 扉は金属でできており、所々に目玉のような赤い宝石が埋め込まれている。


「よっし! お前ら。

 準備はいいか?」

「もちろん!

 挽回の状態でボスの階層まで来れるなんて、

 今までにないくらい絶好調よ!

 流石トイレの力というべきか!」

「「アッハッハッハ!」」

「それカッコ悪いぞw」

「だって仕方ないじゃないw」


 ボスの扉の前で気合を入れつつも、

 アイレスとライアスは余裕ある談笑繰り広げている。

 道中、用もないのにトイレでMP回復効果試しまくりで、すげぇテンション上がってたからな。

 2人にとっては馴染みのない経験みたいで、新しいおもちゃを貰った子供のようなはしゃぎっぷりだった。

 俺にとっては、思わぬ形でトイレが受け入れられた事は少しホッっとした。

 ……いや、別にトイレ好きなわけじゃないが。

 不自然な形でダンジョンに馴染まなくて良かったなぁと、そんな気持ちだ。



 ――俺が2人が話している後ろで静かにしていて、

 しばらくして全員の気持ちが落ち着いた頃。

 ボスの扉にライアスがダンジョンキーを差し込んだ。

 その瞬間、この空間にボス戦前の心構えができていった。


 そういえば、ダンジョンキーには様々な形があるらしい。

 ちなみに今回の鍵は、よくある名刺サイズのカードタイプだった。

 普通に鍵の形をしていたり、棒状だったり、または動物の形だったり。

 他にも分からないくらい種類があるので、特に決まった形はない。

 だが、キーだと分かる目印、もしくはヒントのような物がダンジョンには隠されている。

 基本的には、カードタイプやキータイプの奴が多い。

 そういった攻略に必要な情報を探索していくのも、ダンジョンの楽しみ方らしい。


 岩同士が揺れ合う地響き音が鳴りながら、ゆっくりと扉が開いていく。

 その隙間から、広い部屋である事が伺えた。

 …………。

 ――奥の方から、2つの赤く発光する物体がある。

 おそらく巨大生物の目だろう。

 2人はやる気みたいだ。

 だが、俺は、今から大物と戦う緊張感を持っていた。

 お腹が少し張り始めている。



「グオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


「ゲッ!?」



 ぐおおおおおお……。

 胸や腹に響くボスの唸り声。

 実に獣らしい……。

 っていうか、かなりデカイ!

 怖い!!

 2人もあのデカさに驚いているんだろうか。

 目の当たりにした瞬間に意外そうな声を発していた。


「あれナイトミノタウロスじゃないのよ!

 何でこんな初心者階層にいるのよ!?」

「……あれだろ? レアモンスターって奴。

 たまに初心者殺しのようにめっちゃ強い奴が出るの」

「私達のレベルじゃ無理なんだけど!」

「大丈夫だって!

 マナトも合わせりゃギリ行けるって!」


 えっ? ちょっと待って。

 そんな無責任な言葉を!

 目の前の存在に俺は驚愕を隠し切れない。

 倒せるか心配で動揺するアイレスをよそに、ライアスは気楽に構えている。


 いやしかし、無理だって! 無理無理!

 熊に遭遇したら怖いだろうなーって日頃思う事はあったけど、

 多分これ、それ以上だよ!

 体長は5mくらいあるし、

 皮膚は所々鎧のように模られた岩らしき物体が貼り付いている。

 全てを憎んでいるかの如く赤い眼光。

 強さを象徴しているような大きな角があちこちに。

 ミノタウロスといえば牛だが、その動物としての姿と、もはや戦士としての姿と照らし合わせても、想像しているより遥かに筋肉量が多く化け物じみている。

 ソイツの右手には、おぞましい形の斧が握られている。

 いくつもの命を葬り、その怨霊を血肉として成長したと言わんばかりの。

 ……もはや狂戦士。

 その姿は、さしずめホラー映画に出てくる感じで、ただの人殺しにしか見えない。

 もっと簡単なボスからはじめたかった!!


 『ぐぎゅるるるるるる……』


 あっ、やべっ。

 あまりの緊張感でお腹が鳴り始めている……。

 お腹が痛くなってきた……。


「よっしゃ! 先に先制攻撃を仕掛ける!

 アイレスも反対側から翻弄してくれ。

 頼んだぜ!」

「しゃーない! やるか!

 ブーストッ!!」


 ナイトミノタウロスめがけて、駆け出していくアイレスとライアス。

 アクセルを全開に踏み込むように駆けていった。

 ライアスは電撃を纏いながら駆け抜け、その跡を青い電撃が尾を引いている。

 続いてアイレスは、ロケットように両方のふくらはぎのブースターから炎を噴出。

 飛びながら加速していった。


 いやぁ、カッコイイ。

 ……だがすまん。

 それ所ではなくなった。

 どうやら俺の腹具合は、ストレスで一気に限界を迎えてしまったらしい。



「て、てったーーーーーーいっ!!

 ちょっとすまん!!

 トイレ行ってくるーーーーーー!!」



 遠くまで届くよう渾身の力で叫び、俺はボスのいる方角から逆走する。


「うぇええええええええ!?」

「すぐ戻る!!」


 間の抜けた驚きのリアクションになってしまったアイレス。

 そりゃそうだ。


 すまない! 逃げたわけじゃないんだ!

 マジでお腹がもう無理!

 見捨てたわけじゃない!

 この身体の状況じゃまともに戦えないんだ!!


「どうすんのよコレェエ!?」

「マナトが戻るまで俺達で持ちこたえるしかないだろ!

 やるしかねぇ!」

「マジでホント頼むわよマナトーーーーーーーー!!」


 敵の猛撃をなんとか防ぎながら、苦しい攻撃を繰り出しダメージを与えている2人。

 ホントすいません!

 トイレしたらすぐ戻りますから!!

 それまで耐えて!

 あぁ、何で俺だけカッコ悪いんだ!


 トイレのある場所まで、全力で駆け抜ける俺。

 なんか変な汗もかいてきている……。



 ◇ ◇ ◇



「マッピングしといて良かった!

 全然間に合うぞ!」


 トイレの場所は完全に把握している。

 自分の場合、マップを覚えるにはまず、トイレの場所が明確である方が覚え易い。

 ゲームであれば、HPが回復できる宿屋とかセーブができる場所とか、

 そういった重要ポイントはすぐに覚えられるアレだ。


 ゴールを目指し走っている道の途中、何やら人影が見えてきている……。


「あぁ、お父さん! しっかりして!

 リターンクリスタルはどうしたの!?」

「悪い……。さっきの攻撃で無くしちまって……。

 この残った1個でお前は戻れ……」

「馬鹿言わないで!

 お父さんを置いて行けるわけないじゃない!

 あぁ、何で今日に限ってこんな強いモンスターばっかり……」


 目の前には、少しデカい二足歩行のトカゲに襲われている家族らしき人間が2人。

 50代くらいのおじさんと、15歳を超えたくらいの娘。

 おじさんは負傷しつつも、娘を庇うように戦っている。

 うおぉぉぉぉぉ……、何て悪いタイミングだ!

 すぐに片付ける!!


「《ファイアショット》!!」


 勢いだけで魔法を出す。

 剣を振って出した火は、一気にトカゲの胸から肩を燃やすように抉った。

 俺には火属性がないのだが、とりあえず太陽属性との繋がりで一応使える。

 攻撃を受けたデカトカゲは、キュアアアッと首を締められたような甲高い悲鳴を上げながら倒れ、煙となって消滅する。

 消滅した跡には、魔物を動かす原動力であったアークライトがドロップしていた。


 その一瞬の内に起こった一連の様子で呆気に取られていた娘。

 事が終わった後には、すぐに我に返り、感謝をするようにこちらへ向かってきた。


「助かりました!

 ありがとうございます!

 お礼がしたいので是非お名前を……」


 それ所ではない。


「名乗るほどの者じゃない。

 先を急いでるんだ。礼はいい。

 早く手当てをしてやってくれ。

 助かって良かった」

「まぁ、なんて素晴らしい勇者様なのかしら……」


 なんだか感動しちゃってて目が潤んでいる娘。

 違う。違う。違うんだ。

 ウンコ我慢してるだけ!

 急いでるんだ……。


「近頃の冒険者にしては、なんて謙虚で立派な少年なんだ。

 カッコよかったぜ、にいちゃん。

 助かった。ありがとう。

 ……いててっ」


 違うんですおじさん。

 ウンコ我慢してるんです。


「もうっ、お父さん。

 無理しちゃダメよ」

「ははっすまねぇ。

 久々にダンジョンに潜りたい気持ちが湧き上がってきちまってな。

 しかしまさか、こんな出会いがあるとはな。

 にいちゃんを見てると、またあの頃の血が滾ってきて俄然やる気が出てきたぜ。

 ……いててっ」

「あの人。あの凛々しい顔にあの強さ……きっと名のある勇者様に違いないわね」


 やめてくださいウンコ我慢してる顔です。

 娘が父を手当てしながら、先程の俺の活躍を変に拡大解釈した話を繰り広げている……。

 ウンコ早く行きたかっただけなのに!

 お願いします、やめてください。

 恥ずかしくて死んでしまいます。


「今日は、突然ダンジョンにMPが回復するトイレが設置されてあったり……

 不思議な事ばかりだな」

「ホントね。

 誰があんな親切な事をしてくれたのかしら……?

 ギルドの職員かしら?」


 それも僕です……。

 自分の為にやったんです、すいません!

 MP回復効果もたまたまなんです……。


 背を向けながら父と娘の会話を聞いている中、どんどん俺への評価が大きくなっていっている。

 早く用を足したいのに加えて、恥ずかしさと誤解の申し訳なさで、この場に居る事にいたたまれなくなり、駆け足で去る事にした。


「走る姿もカッコイイ……」

「おめぇが嫁にいくんだったら、父さんはああいう男が良いな」

「もうやだ、お父さんったら。

 ウフフ」

「今日の事はみんなにも広めてやろう!」


 そんな俺の気持ちを知る由もなく、さらに楽しそうに会話する父と娘。

 やめろぉ!



 うおおおおおおおおおぉーーーーーーーーっ!!



 ◇ ◇ ◇



【ダンジョン・トイレ設置ポイント】



 心の中で叫びながらダッシュでトイレに辿り着いていた俺。

 ……だが、トイレの中で思わぬ苦戦をしていた。


「……………………出ない」

『おい、大丈夫か? マナト』


 用を足している最中、ハロに心配そうに声をかけられた。

 いや、流石に恥ずかしいのでトイレ中は通信止めてもらえますか?


「こんな時に便秘とは…………………」

『一応回復魔法かけ続けてるけどさ、あんまり無理するなよ。

 あいつらリターンクリスタルも持ってるんだぜ?』

「いや、裏切るわけにはいかない。

 なんとか終わらせる!

 ぐうううっっっ!! 痛い!!」


 ちくしょう! 腹が痛いのに出ない時が一番最悪だ!

 慣れない環境で悪化したのか、大腸の運動が悪いようで内側から物理的な痛みが発生している。

 この痛みは排泄できるようになるまで続く。

 痛い。痛い。痛い。

 出れば痛みが引いて解決してくれるのに!

 ハロがかけてくれる魔法が、少ないながらも効果が出ているようで、痛みは軽くなっているのが幸いだが。


(頼むっ! 早く出てくれーーーーーーっ!!

 うおおおおおおーーーーーーっ!!)


 力いっぱい心の声を叫ぶ。

 アイレスとライアスがピンチなんだ!

 言う事を聞いてくれ!!

 早く助けに行かせてくれ!!



 ◇ ◇ ◇



【戦闘中のアイレスとライアス】



「うわああああああああああーーーーっ!!」


 ボスと戦っているアイレスの格好はもうボロボロだ。

 いや、体力的にはまだまだ元気そうなんだが、

 所々服が破れている上、アーマーが損傷して肌が露出してきており、破廉恥な格好になってきている。


 その原因は、いつの間にか増えていたファイアリザードマンの群れであった。

 赤色の甲殻な鱗の皮膚を持ち、頭はトカゲだが、二足で行動する姿は人に近い。

 大きさは2m以上。

 手には、冒険者の捨てた武器か、自身で作った武器か、平凡な剣を皆持っている。

 どこで入手したかは知らないが、人の手で加工された事が伺える。

 武器を持って戦う事と集団性がある事から、多少なりとも知恵を持っていると思われる。

 ただでさえ暴風とも言えるパワーを振るうナイトミノタウロスに苦戦しているというのに、そこにファイアリザードマン集団の戦力が加わっている。

 どう見ても戦力差は明白ではあるが、アイレスとライアスはなんとか善戦している。


 ……が、その状況の理由は、ファイアリザードマンの手加減じみた行動にあった。

 どう見ても相手を殺す攻撃ではない。

 致命傷にならないよう、微妙にかすらせるように攻撃している。

 口からの火炎放射の加減も服を焦がすだけに留めていた。

 そう。あたかもアイレスの服を脱がそうとせんばかりに。


「なんでこっちばっかり狙ってくんのよーーっ!

 ばかーーーーっ!」


 アイレスはやけくそに涙目になりながらも、リザードマンの群れに反撃する。

 脚部のモビルウェポンからブーストスキルを連発し後退しつつ、フレイムバスターを両手から連射。

 その強化されたスピードから、リザードマンとは一定の距離を取り続けられている。

 後方へ飛びながら拳を突き出す度に、腕に装着したモビルウェポンからフレイムバスターが発射され、炸裂する大砲のようなビーム状の火炎が前方へ走る。

 射程距離は中距離。

 ヒットアンドアウェイを繰り返している。

 それにより、非効率ながらファイアリザードマンの数を微妙に減らし続けられていた。

 今の所、安定した戦闘が行えているが、

 体力が尽きれば終わりという勝負となっており、ジリ貧だ。


「なんかすげぇ興奮しているし、お前に欲情してんじゃねぇの?」


 口を引きつらせ、微妙な表情をしているライアス。


 今の戦術は、アイレスがファイアリザードマンの囮になる形になっている。

 ライアスは、大剣でナイトミノタウロスへ電撃を振るいながらスタン効果をかけている。

 そうやって注意を引き付けて時間を稼いでいた。


「いやーーーーっ!

 このスケベトカゲーーーーッ!

 早く戻ってきてよマナトーーーーーーーーーーッ!」


 はだけた胸を腕で押さえつつ、スピードと共にさらに加速するアイレスの攻撃。

 それを見て、余計に欲情していくファイアリザードマン。

 ハッハッハッと荒い息を吐きながらヨダレを垂らし、

 攻撃などお構い無しにひたすら追いかけている。

 もう我を失ってメスを求めている顔ではなかろうか。

 ブーストで飛んだり、フレイムバスターを発動する度に、豊満な胸が揺れる。

 性欲を持て余す程度に丁度良く育ったむちっとした脂肪。

 それだけの代物が目の前にあるのだから、当然といえば当然の反応。

 腹や太ももといったありとあらゆるフェチな部分も汗でツヤが出ている。

 その妖艶な姿は、余計にトカゲの劣情を煽っているのだろう。

 あれでは走る色気である。


「マナト……。早く帰ってきてくれ…………」


 そんな情けなく逃げ回るアイレスの姿を見ながら、ライアスはどこか遠い目をしていた……。



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■用語解説



【ブースト】

 瞬間的増幅系で、主に加速するスキル。

 通常の人間が使ったら速度の向上と跳躍力が上がる。

 対応するモビルウェポンを装備している者であれば、様々な機動性を持つ。

 その性能は、ロケットのような加速から、等速的なスライド運動、アクロバティックな旋回などを可能とする。

 主に回避と奇襲に使われる基本技。

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■〔最弱最強の主人公……は、結局最弱だった件〕
■〔お前が神だと? そんな俺は魔王だが? そんなことよりおっぱいだ〕
以上の短編作品もありますので、是非観てください。
期待値があれば、連載化も視野にいれる事ができます。

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