1-6. はじめてのダンジョン
【冒険者ギルド・メインダンジョン出発前】
「おっ、やっと帰ってきたな」
「ちゃんと買い物済ませられた?」
ルイズの店の買い物から帰ってきた俺を、ライアスとアイレスが笑顔で迎えてくれた。
「大丈夫だ。トイレの備えは完璧だ」
「いや、もっと他に心配すべき事があると思うんだけどな……」
ライアスからの鋭いツッコミ。
キメ顔でガッツポーズを決めている俺に対して、頬を掻きながら少し苦笑いをしている。
いや、トイレも大切な事だよ?
魔物も心配すべき点だけど。
とにかく、俺にとっての心配点はなくなった。
多分、忘れ物はないだろう。
メインダンジョンに向かう事にしよう。
◇◇◇~~~~~~~~~~~~~~~~~~◇◇◇
【メインダンジョン入口】
メインダンジョンのゲートはタワーになっており、
ざっと300m以上はあるだろうか?
どこにいても凄く目立つ建造物だった。
四角柱をベースに、先端の中心に向かって細くなっている。
外側は、なだらかなノ曲面を描いたツルツルの表面。
装飾や構造上の立体的なパーツもほとんど見受けらない。
思った以上にシンプルな外観だ。
もっと装飾が派手だったりとか、岩に囲まれているのを想像してた。
しかし、見た目に反してダンジョンは地下へ潜るタイプらしい。
メインダンジョンの高さは、街のどこに居てもダンジョンの場所が分かる便利さがある。
だが実際には、何であんなに入り口が高く作られているのかの詳細は不明。
調査がまだ行き届いていないらしい。
当然ながら、最下層まで行った人もまだいないままだと。
よし!
それはともかく、無事ダンジョンにも付いた事だし―――――
「さっそくトイレを作ろう」
「なんでよ!」
「さっそくかよ!」
「あ、いや、形成式のトイレを貰ったんだけど、ちゃんと使えるかどうか試してみたくて……」
ダンジョンの入り口にさっそくトイレを作ろうとしたが、2人からほぼ同時にツッコミを受けてしまった。
携帯型のトイレではなく、形成式のトイレだったので、2人には馴染みがないのだろうと思い、ルイズの店でもらった青い宝石のアイテムを見せる。
やはり2人には見覚えのないアイテムのようで、試運転も兼ねて実際に扱って見せる事にした。
「えーーーーと、T設置」
適当に呪文を唱える。
そういえば、使い方を聞いてなかったので、適当な呪文でも起動するか試してみた。
…………成功したようだ。
使うという意志表示をすれば何でもいいみたいだな。
設置する箇所に光が円状に線として描かれ、そこから円柱状の光が登った。
その後、目の前にロッカーのような小さな建物が上からフェードインするように姿を現した。
その一連の流れは、一瞬の内に行われ、とても素早い形成に2人も少し驚いていた。
……トイレの中の構造もちゃんとしてあるようだ。
さっそく使って見る事にしよう。
「どうだった?」
軽く済ませて戻ってきた後、アイレスが軽く質問してきた。
……あれ? 隠蔽式のアレンジ効いてるから外から見えないんじゃなかったっけ?
「あれ? トイレ消えてなかった?」
「うん。ずっとあったわよ」
…………。
そういえば、形成術の時にトイレのイメージが流れてきた。
もしかしてこれは、自身の想像力が必要になっているのかもしれない。
今度は隠蔽式のアレンジもイメージに加えて設置してみるかと、再びトイレを形成した後、中に入る。
…………。
外から驚いたような声が少し聞こえる。
トイレから出て確認してみよう。
「トイレ消えた?」
「消えたわ。
凄いわね、ソレ」
アイレスは少し嬉しそうな表情を浮かべていた。
おそらく技術的には珍しい事だったのだろう。
関心の眼差しだ。
しかし、やはりだったか。
とにかく使用法は分かったので、トイレの心配はなくなった。
あとは安全圏を探しながらトイレを設置し、マッピングして行こう。
いちいちトイレでダンジョンを埋めつくしても困るから沢山作れないし。
あと、他の人も使えると便利かもしれないな。
ドア越しでも見られるのは恥ずかしいかもしれないので、使用中は消えるようにしておこう。
2人から色々とダンジョンでの注意点などの指南を受けながら、俺はダンジョン内部へ向かっていく。
……俺の装備や魔法でなんとかなるだろうか?
やってみるしかないが。
◇ ◇ ◇
「ハッ! せいっ!!」
「ハァァァーーーーッ!! ヤァッ!!
《フレイムバスター》ーーーー!!」
「《サンダーストーム》!!」
ライアスとアイレスが次々と華麗にモンスターをなぎ倒していく。
2人曰く、浅い階層ほどセオリー通りに、基本弱いモンスターだけだから2人のレベルでは苦戦する事がないらしい。
経験の差を感じるなぁ……。
俺も先程から小さいモンスターを相手にちまちま倒している。
軽く剣を振るだけですぐに消滅していく。
やはり俺のステータスは高いんだな。
今更ながら、何かズルい気もするな。
「よっし! 結構数倒してきたわね。
慣れてきたんじゃない?」
軽く汗をかいたアイレスが明るく声をかけてきた。
まぁ、大分ダンジョンの雰囲気には慣れてきたかもしれない…………。
「いやー、想像以上だな。
魔法も使わず、手数も少なく敵を倒していきやがる。
ここまでステータス差があると、大分教える事も少なくて助かるぜ。
……トイレの設置も最初はよく分からねぇと思ったが、
設置場所は、マナトの検索スキルで的確に安全圏を探し当てられるしな。
マッピングもしてあるから、すぐに休憩ポイントへ戻れるし、
おかげで大分助かってるぜ」
ライアスの言う通り、正直俺もここまで役に立つとは思っていなかった。
ダンジョンでは、基本休む場所を探す事は困難になるらしい。
似たような場所ばかりが広がるからだ。
しかし今は、”トイレがある=聖域”とも言える状態になっている。
魔物などの危険性がない安全圏が目視で確認できる状況となっていた。
「あのトイレもMP全回復の効果があるみたいだし、
この回復を利用していければ、今までよりも深い階層に辿り着けそうね」
また、アイレスの言う通りに、トイレ自体にもMPの回復効果と魔物避けの効果も含まっている。
MPとは、自身の残り魔力量を指す。
2人に大分余裕のある笑顔がキープできているのは、強いというだけではない。
魔力量を気にせず、そのいつでも安全圏があるという強い安心感があるからだ。
その為、MP切れを気にせずダンジョンを攻略していける。
……あのトイレって、他の人にも使えるようにしてあるし、
沢山の人が余裕を持ったままダンジョンに攻め入っているわけで、
もしかしてトイレ設置が最強スキルなのではないだろうか?
……神様から貰ったスキルよりも役に立っているぞ!
なんだこれ。
俺の現実世界での相棒がトイレだったわけだが、本来の意味通り、他の人にとっても、ダンジョンでの相棒がトイレになってしまったのか…………。
…………俺が色々と思っている中、2人はトイレの話で盛り上がる事が多かった。
ハハハ…………。