1-4. 冒険者ギルド
冒険者ギルドに到着した俺達。
ギルドは、高さは4階ある大きな建物だ。
外観はレンガっぽい。
内装は半分くらい木で出来ており、暖かみを感じる作り。
樽とか酒とか果物とかがよく置いてあるようだ。
ここでは、普通に食事をしていたり、料理を作っている店員もいる。
加えて、武器や薬品といった道具屋も軽く備えられていた。
かなり総合的な場所なんだなと思った。
流石ギルドというだけある。
想像通り、中にいるのは、戦闘系の職業の人達ばかりだった。
壁にある張り紙を見つめているのは、クエストとか……仲間募集とか……そんなんかな?
「いらっしゃいませー」
冒険者ギルドの入り口に入って、まず最初に迎えてくれたのは、女性従業員の挨拶からだった。
メイド服とOLのようなスーツが混ざりあったような格好をしている。
俺はさっそく、その綺麗な店員に向かって、初めての質問をする。
「トイレはどこですか?」
「あぁ……はい。アチラです」
「ありがとう」
今に思えば、かなり真剣な顔付きだったので、何があったのかと少し心配されていたのかもしれない。
いやまぁ、緊急事態ですけど。
慣れない土地でお腹張ってたしね。
俺は用を済ませる。
中のトイレは、思ったよりも清潔でハイテクだった。
というか、俺の世界と姿はあんまり変わらなかった。
唯一違うとすれば、水洗部分は魔術回路になっているのか、流す時にタンク上で魔方陣が展開されていた。
ちょっとカッコイイと思ってしまった。
……ただ用を流しているだけなのに。
あと少し違ったのは、ペーパーは、半永久的に補充されるみたいだ。
ある程度の長さに至ると、キイィィィンと静かに金属音を締め付けたような音がする。
おそらく魔力による充填だろう。
……なんか楽しくなってきたな。
魔術って色んな所に生かされてるんだね。
俺も勉強したら色々作れるようになったりするのかな?
後でハロに聞いてみよう。
◇ ◇ ◇
「おーい! もう大丈夫?」
戻った俺を声で迎えてくれたのはアイレスだった。
「ああ問題ない」
「い、いきいきしてるわね……。急に」
俺の全回復っぷりに若干引き気味のアイレス。
うん、不安材料がなくなったからね!
俺は元気出たよ。
…………相変わらず異世界でも、トイレが相棒なんだな…………。
「で、さっそく話をしたいんだけど、今のマナトのステータスってどれくらい?」
「いや、分からない」
「えっ。……調べてないの?
路地裏の時もそうだけど、レベル0の事知らなかったり……。
……もしかしてマジで初心者?」
「うん…」
目が点になったアイレス。
……ガッカリさせちゃったかな?
それとも意外だったんだろうか。
冒険に出るなら旅の仲間くらい欲しかったんだけど……、
初心者だとやっぱりダメかな?
「ま、まぁ、とにかくステータスを調べれば分かるし。
行ってみましょ」
「お、おん……」
アイレスに手を繋がれるまま、俺はステータスを調べられる場所に行く。
手続きに関しては、アイレスが全て取り運んでくれた。
「あの、ステータスを調べたいんですけど。
あと多分ID発行」
「はい。かしこまりました。
ID発行ですね。こちらへどうぞ」
先ほど入り口で挨拶された店員にアイレスが尋ねたら、マニュアルらしい案内を受けた。
IDの発行には血を使うらしい。
専用の注射器で俺の血を少し吸われた後、その血の入った容器を円盤の下の機材に挿し込められる。
まるで空中に浮くCDプレイヤーだ。
大きさは、それより2.5倍くらいも大きい気がするが。
「――レディ」
そう女性店員が唱えた後、
円盤が青い光や赤い光や黄色い光といった様々な色で発光しつつ高速回転する。
凄く神秘的だ。
……なんかゲームみたい。
これから冒険が始まる感じがあって、こういうシーンはワクワクするな。
『(あれは属性の光なんだよ。
適性を検索しているんだね)』
(へぇ……)
ハロの小情報を聞いた後、円盤はすぐに止まった。
検索が終わったのだろう。
店員が手のひらほどの小さい長方形のカードを差し出してくる。
「こちらがIDになります。
個人情報なので、キー情報は信用できる相手以外には解放しないでください。
――――って、アレ?」
どうしたのだろう?
カードの情報を見た途端、店員が戸惑っている。
「レベル1なのに全ての数値が500越え……?
えぇ……」
あっ、ハロのチート能力のせいか。
そりゃ驚くわな。
500という数値が高いのか低いのかは、知らないけれど。
『あれ? 意外と低いな。
うーん……、後でリンクシステムを改善しておく必要があるな……』
おぉん……? 弱いんか……?
先ほどの情報を聞いてから、ハロはボソボソと独り言を言って考え込んでいる。
しかし俺は、お構いなく疑問を聞いてみる事にした。
「実際は、どれくらい?」
『万はいくね!
この世界は強くても数千のステータスで万以下だから』
「じゃあ低いな」
『まぁ、後で改善しとくよ。
当分は弱い敵だろうから困らないだろ』
……ちょいちょいハロって、いい加減で雑な所あるよな。
大体は頼れる存在なんだけど……。
「やっぱり凄いじゃない!
レベル1だったら、ステータスはほぼ2ケタよ。普通。
やっぱり私の判断は、おかしくなかったわ」
アイレスは、どうやら先ほどの不安は杞憂だったと言わんばかりに、目を大きく輝かせてガッツポーズをしていた。
「ねぇ、マナト。
私の仲間になってよ! お願い!
戦力不足なの。
今、兄と私の2人しかいないし!」
アイレスに両手を握られ懇願される。
その力強さと、俺の顔を真っ直ぐに見つめてくる目に照れてしまって視線を逸らしてしまった。
「いいよ。
俺も最初の冒険で心細かったから。
仲間ができて嬉しい」
「よし、決まりね!」
これからどうすればいいか悩む所が多かっただろうから助かる。
目的を共にできれば、必然的に行動も起こし易いだろう。
そんな中、アイレスの後方から背の高いイケメンの若い男が近付いてきて声をかけてきた。
「よぉ。帰ってきてたんだな。
調子はどうだった?」
身体の半分は分厚い装甲に覆われている。ナイト職かな。
髪は金髪で短い。
前髪は片方だけ下ろしており、髪は全体的にハリネズミのように重力に逆らったように尖っている。
さわやかお兄さんって感じの印象がする。
「お兄ちゃん!」
あ、この人がアイレスの兄貴か。
確かに血縁と言われれば……容姿的には分かるような分からんような。
似てると言われれば似てるレベル。
「ところで……ソイツは?」
「私の友達!
さっきパーティに加入しないか相談してたの。
……聞いてよ、お兄ちゃん!
この人ステータス500なの!
レベル1で!」
「ヘッ、マジか!! やったな!!
戦力大幅アップじゃん!!」
兄妹2人で盛り上がってはいるが、俺には実感がない。
……というより、ハロいわく、まだまだ弱いらしいです。
「俺の名前はライアス・フォーンって言うんだ。
アイレスの兄貴だ。
これからパーティとしてやっていくんだから敬語はいらねぇ。
よろしくな!」
「こちらこそよろしく。
俺の名前はマナト。苗字はクダリ」
「なるほど。
じゃあマナト。これからもよろしくな!」
悪意がまったくないと感じられるほどの全力の笑顔でライアスから握手を求められる。
俺はそれに応じ、手を差し出す。
……結構な握力だった。
「ところで、マナトの職業ってなんだ?」
「…………一般人?」
「一般?
……って、あぁ、そうか。
レベル1だから初心者だったな。
こいつは面白い」
『マナト。君の職業は剣だ。
それ以上にはならない』
ライアスとの会話に割り込むハロ。
……何やら気になる一言だった。
詳しく聞いてみる必要があるだろう。
「どういう事?」
『神のバックアップを受けて君のステータスは向上しているんだ。
……つまり、君の力は神の力、”与えた物”であって、君の力とは少し違う。
職業が剣なのは、”神の剣”という意味で、要は神の使役を意味する。
……なので、君は道具扱いであって、他の職業には絶対になれない』
「えぇ……問題ないんか?」
『勿論。神の力だから装備適性は全部あるよ。
剣というのは、あくまで比喩であって、性質を指さない。
弓でも槍でも、技巧は何でもできるさ。好きな物を使えば良い。
……魔法だけは、与えた太陽魔法と、
自分のステータス以上の属性は使えないけどね』
なるほど。
つまり、万能だけれども万能でない部分があるのか。
それなら心配はいらないだろ……と思っていると、
アイレスが不思議そうにハロの映像を見ていた。
「ねぇ……マナト。
さっきも思ったんだけど、これ何?
誰なの?」
あぁ、そうか。
通信という手段は、この世界では一般的ではないのだろう。
2人とも不思議そうに少し驚いている。
ハロから話を聞いている俺は今まで不思議ではなかったが、
やはり初めて見る人からしてみたら、空中にある映像っていうのは奇妙な物か。
「コイツはハロ。
女神様……らしい。
俺のサポートをしてくれる良い人」
我ながら雑な説明だ。
『そうだ。
ボクの名前は、ハルウォート・ウェスキィ。
慈愛と豊穣の神だ』
「ふ、ふーん……」
自慢げに説明するハロだったが、
アイレスとライアスの反応は微妙に信用していない様子。
俺の雑な説明も理由に含まれているかもしれない。
『はぁ……。まったくこれだから地上の人間はさあ。
想像力が足りないよ。
目の前に神力を見せているというのに信用しやしない!』
「ず、随分態度がでかい神様ね……?」
『あぁ? 神なんだから当然だろ』
「それ以前に、ハルウォート神なんて聞いた事ねぇな」
『うっ……。
ま、まぁ、君達の世界に由縁の深い神ではないしね……』
思うんだが、ハロは俺以外の相手には少し当たりが大きい気がする。
何故だろう?
『と、とにかく。
君達に社会と食の繁栄があるのは、ボクの力によるものだから、
もっと感謝すべきだよ。
……なっ! マナト!』
「えっ……。うーん……。
もっと仲良くした方がいいと思う」
『ぐっ……。
神様にとっては、せっかく人前に出て来たのに神だと信じてもらえないのは、
結構辛いものなんだぞ』
あぁ、なるほど。
当たりが大きかったのは、神様扱いされたかったからなのか。
「……まぁ、信じてもらえないかもしれないけど、俺も別の世界から来てるから。
ハロが神様なのは本当の事だよ」
『うんうん!』
「そ、そうなのか……」
笑顔で頷くハロに対して、ライアスは、ちょっと戸惑いを隠しきれていない。
異世界から来たっていう事は普通に言ってしまったが、神様的には特に問題はないみたいだ。
その後ライアスは、ここで問答してても仕方がないと思ったのか別の話を切り出す。
「ま、とりあえずダンジョンに行ってみようぜ。
ステータスが高いっていっても、やっぱ実力が見たいからな。
パーティに入るかどうかってのは、またその次の話だ」
ライアスの提案により、俺達は装備を整え、メインダンジョンへ向かう事となった。
――っていうか、俺ずっとこの世界でジャージ姿だったんだな。
目立つと思ったが、色々な格好がいるこの世界ではそんな事もなかった。
しっかし、汚れた時、着替えどうしようか。
ジャージ好きだから、この世界にも似たような服装があればいいけど。
そういえば、ダンジョンに向かう前に、間違いかもしれないという事で何度かステータスの再検査を受けた。
しかしながら、やはり同じ結果が出るのみで、正確な診断と分かってもらえた。
ステータスを見ると、どうやら俺は、水と光の属性を持っているらしい。
アイレスが火・光のマジックファイター/モビルウェポン。
ライアスが雷のソードマスター。
今は、まだ世界に詳しくないので、その辺りのステータスの詳細は分からないが。
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■用語解説
【メインダンジョン/アークライト】
メインダンジョンは、その土地で一番大きいダンジョンの事。
ダンジョンは、世界各地に点々と存在している。
人々は、そこで採掘したアイテムで生計を成り立てている。
特にアークライトと呼ばれる宝石が、この世界でのエネルギー源となっている魔力の源。
主に魔物を狩る事や、ダンジョンの壁などからの採掘によって入手できる。
この世界での機器は、全て、巨大なアークライトのエネルギー供給により動いている。
【モビルウェポン】
特殊型強化装備。
要は魔力で動かすメカニカルな魔導兵器。
通常の装備よりもテクニカルな行動を可能とする。
発動中は魔力を常に消費し続ける必要がある。
その為、魔力量が大きい人と身体能力の高さが必須になる武器。
しかし、そういった能力がそこまで大きくない人でも扱う場合はある。
自分のスタイルに合う便利な兵器があれば、自分の魔力量にあった装備を扱う。
人を選ぶ装備品。