1-3. 赤髪の冒険者 アイレス・フォーン/3
「いやー、思ってたより、アンタずっと凄かったわね」
先程、ならず者達に襲われていた赤髪の少女が話しかけてきた。
しかし、この赤髪の少女、よく見ても抜群のスタイルで凄く美人だ。
下ろすと肩に付くくらいの赤いショートヘアーが非常に特徴的。
外側に大きくふくらむようなボブになっているのが、
勝気な性格を表しているかのようだ。
目付きも、熱い輝きを放つ眼差しのような吊り目。
服装は、裸体に貼り付くような、身体のラインがハッキリと分かるほどのピチピチのスーツ的な黒いインナーに、所々肌が見えるようになった上着を着ている。
胸の大きさも強調され、夢が詰まっているようだ。
所々メカニカルな武装を施してあり、特に腕と脚は、関節から先の方へほぼ半分ほど覆われてある。
そのような激しいアクションを起こして戦う事を連想させる格好なのに、わざわざミニスカなのがとてもセクシーだ。
チラリズム。
俺が容姿に対して少し見とれている途中、
赤い髪の少女は、また続けて会話を切り出してきた。
「さっきの技、レベル0? 凄いわね。
最初は頼りなさそうだなーって思ったんだけど、とんでもなかったわ」
いや、その通りかもしれないけど。
せっかく助けに入ったんだから、もっとありがたがってくれ。
俺は多少嘆息気味に返答をする。
「……まぁ無事で何よりだよ」
「まぁぶっちゃけ、私1人でも倒せたんだけどね」
「は?」
「君の実力がなんだか気になっちゃったし、ちょっとだけ様子見ちゃった。
……あっ、私が捕まった所は別にピンチだったわけじゃないわよ。
あのままパンチを打たせた腕を掴んで反撃する所もできたからね。うん」
何て?
結構ピンチだったようにしか見えなかったんですが。
少しため息混じりに心配してたら、とんでもない返答が返ってきたな。
「でも、助けてくれてありがと。
本当は、ちょっと心細かったから嬉しかった」
赤髪の少女は、たそがれるような視線を斜め下に向けながら言った。
その顔は、少し赤らんでいるようだった。
感謝されて、嬉しいような嬉しくないような。
「でも本当に凄いわ。レベル0が扱えるなんて。
そんな使えない技、わざわざ習得するの物好きしかいないんだから。
あなた、どういう実力者?」
「レベル0って、そんなに凄い技なんか?」
「えっ?」
先ほどまで関心気味だった赤髪の少女が、俺の回答で一瞬にして硬直してしまった。
いや、言われた通りにやってただけだからなぁ。
分からないな。
そう思っていた最中、ハロが割り込んで解説してくれた。
『レベル0ってのは、できるだけケガにならない、
そして致死量にならない程度の火力って意味さ。
ダンジョンに行く人にとっては、敵すらまともに倒せない技って思われている。
しかも、そのレベル0を習得できるのは、属性の極致にいった者だけ。
だからその実用性の無さから、
一般の人には、物好きが習得した技、っていう認識が一般的みたいだね』
なるほどなぁ……と関心していたら、
赤髪の少女は不思議そうにハロ(通信)の姿をマジマジと見ていた。
「なにこれ?」
しかしハロは赤髪の少女の反応を無視して、解説を続ける。
『でもレベル0は原初の技で、”オリジナル”を作る為にある。
いわば開発者モードだ。
この世界で皆が使っているのは、
”アレンジ”された、誰にでも扱い易くした基本的な教本のような技なんだよ。
オリジナルに至る為には属性を極める必要があって、
そこで初めてリミッターが解除される。
レベル0は魔術の種である以上、アレンジがし易いが、
よく分かってない奴が扱うと下手に暴走し易い。
故に本当に優れた知識を有し、強者である人にしか使えない進化の技なんだ』
「へぇ…………。
つまり、オリジナルで作っている方が教本魔法より強いって事?」
『まぁ、そうなる事もある。
けど、個性に合わせてある以上、他の人には扱えない代物になっていたり、
非常にトリッキーで厄介な戦術に生かされていたり、
先に言ったように、ヘボい技にしかならない事もある。
要は才能により変化する。
……ま、普段は使う機会は絶対にないとも言える。
そういう意味でも物好きの魔法って感じだ。
威力がないから不殺主義の物好きの技、という意味とは大分違う』
大体分かった。
しかし改めてこの知識量の差を考えると、やはりハロがいてくれないと旅には大分困るな。
などと感心しつつ、解説が終わった所で俺達は腰を上げる。
先に立ったのは赤髪の少女だった。
「とにかくさ、さっきの戦いといい、レベル0を扱えるなんて相当の実力者だわ。
アイツらが言ってたけど、私、仲間を探してるのは本当だから。
良かったら、この後も私に付き合ってくれない?
お礼もしたいしさ」
「だったらまず――――」
「?」
「トイレの場所に案内してくれ――」
俺はトイレを探している――――。
とにかく、腰を落ち着けたい。
その為にも、トイレの場所を把握していなければ不安で仕方ない。
それがIBSってやつだ。
「あぁ、うん。それは大変ね……。
私は、これから冒険者ギルドに向かう所だったから、
そこで落ち着いてから話をしましょう」
赤髪の少女は、呆気と困惑が交じって複雑な反応をしていた。
まぁ、いきなりトイレと言われてもな。
だが俺は、そんな事を気にするよりも、とりあえずトイレで用を済ませたくて仕方なかった。
「私の名前は、アイレス・フォーン。
冒険者よ。
よろしくね」
「俺はクダリ・マナト。
マナトが名前。
一般人だ」
「一般の人ではないでしょ……」
互いに自己紹介など他愛のない会話を挟みつつ、冒険者ギルドへ向かった。
確かに一般の人ではないかもしれない。
異世界転移してるしな。
彼女の言っている事は、あくまで能力に対しての素性が意外だった事だろうが。