2-2. シューとともにダンジョンへ行ってみる
シューは、とても愛らしい少女だ。
年齢は12歳。
背がちっこくて、ししょー! ししょー! と、ちょこちょこ付いてくる様子は、まるで妹みたいだ。
……流石に普段は名前で呼んでくれと頼んだが。
髪は活発さを感じる、黒に近い茶髪のショートヘアー。
肌もキメ細かく、金色の瞳は幻想的な宝石のような輝きを持つ。
服装は一般的なウィザードっぽく、帽子やマント、長いステッキといったアイデンティティは守っている。
……と言いたい所だが、所々ベルトや銀装飾などのデコレーションが若干派手。
特に身体の首と名が付く部位には、チョーカー系が装着されている。
そういったポイントを抑えている所が、年齢に相応しくないセクシーさが強調されており、ギャップ萌え要素とも言える。
指出しグローブもウィザードらしいといえばウィザードらしい特徴。
必要なものかと思ったが、案外、蒸れるとか暑いとか言いつつよく外しているので、ただのオシャレだろう。
基本的に容姿は、赤と黒で統一されている。
ちなみに、高速詠唱に使われるステッキの先端は随分とメカニカルで、マグナムのようなシリンダーとなっている。
筒がそれぞれ青赤黄色とカラフルなのがマジカルっぽさを感じる。
また、魔術回路が詰んであるバックパックは、腰にかけるポーチタイプで、手頃なサイズ。
ミリタリーで使用されるようなしっかりとした作り。
いくら動いても胴体に固定される為、動き易くなっている。
尚、シューは魔法・魔術の天才らしく、魔力容量が人一倍高く、全属性適性があるという珍しいタイプだ。
俺と同じくIBSで引きこもっていたせいで、そのスペックも宝の持ち腐れのようになっていたそうだが。
まぁ、シューに関しての基本情報はこのくらいだ。
◇ ◇ ◇
「そういえば、何でクイックウィザードになろうと思ったの?
面倒じゃなかった?」
シューを連れてダンジョンへ向かう道中、アイレスは疑問を投げかけた。
「呪文は噛むからですよ」
当然やろといわんばかりの真顔でシューは即答する。
「確かに」
俺も言い難いと思っていた。
「いえ、私の場合、絶対に噛むので、むしろクイックマジックじゃない方が難しいです。
……でもできる事が魔法しかないし、持ってる魔力量ははんぱないしで、
宝の持ち腐れにするのもなんだかなーって」
「普通の魔法は使えないって事?」
「はい、全く。
一切合切、何の魔法も使えません」
極端やなぁ。
質問を投げかけていたアイレスも、若干、大丈夫か? という顔をした。
「レベルはいくつ?」
「1」
気を取り直して質問を続けたアイレスは、シューの答えにまたかという感じを出していた。
「いやでも、ステータスは高いですから!
ダンジョンに行った事ないだけで!」
それも俺と同じパターンなんだよなぁ……。
◇◇◇~~~~~~~~~~~~~~~~~~◇◇◇
【ダンジョン内部】
ダンジョンに入る前まで、トイレの心配ばかりしていたシューだったが、ダンジョンに入ってからは、はしゃぎっぱなしだった。
アイレスとライアスが、「モンスターの方が心配じゃねぇのかよ」というツッコミをしていたのもデジャヴ。
……俺とシューは似た者同士なのかもしれない。
「すごい! 本当にダンジョンの中にトイレがあるんですね!!」
「改めて見ると存在感あるわよね。慣れたけど」
アイレスも最初はシューみたいに驚いてたけど、やはり一日もすると流石に慣れるよな。
「しかもMP回復効果まで付いてて、ホントに凄いです!
……まぁ、そこは私にはあまり必要のないモノですが」
シューのトイレへの関心は止まらない様子。
……いや、トイレにそこまで関心が惹かれるものかと、こちらは少し冷静になってくる。
まぁ機能的には、やはり凄い代物であるのは確かだが。
「流石ですね、師匠!
どういう仕組みになってるんですか?」
「いや、よく分からない。
そもそも貰ったものだし、そういうのは魔法店のルイズがよく知ってるかも」
「なるほどぉ。
でも師匠。これ作るの相当な魔力量が必要になりますよ?
私でも1個形成できるかどうか分からないくらいです」
「そうなんだ」
魔法に精通しているシューが言うんだから、俺の魔力量は大概凄いのだろう。
そんな他愛のない話をしながら、俺たちはボス部屋前に到着していた。
道中、シューの活躍はどうだったかというと、杖に弾薬を装填しながら、ブンブン振り回して敵を倒していた。
その動きは、まるでチアのバトンのような感じだった。
そんな中でも、いやもうお前テキトーにやってんじゃねぇの? ってくらい雑に見える所もあったが、そういう所も実力の高さからきているのだろう。
とても初めてとは思えない戦績で、苦戦する所が見当たらなかった。
他の2人といる時は、若干心もとないと思ってしまう戦力だったが、その隙間に丁度収まった感じで大分楽になりましたね。
もはや俺がいなくてもいいと思えるほど。
むしろ、お釣りがくるくらい。
「じゃあ、そろそろボスの部屋に行くけど、準備はいい?」
「あっ」
「えっ、何?」
アイレスがボス戦の備えを聞いた時、シューが突然思い出したかのように少し苦悶の表情を浮かべた。
「………………。
トイレいきたいです」
デジャヴュゥ……。
分かる。緊張するよな。
ボス戦前だったら尚更。
……………………でもね?
「トイレ近くにあったっけ?」
「ないです。安全地帯が見当たらなかったし、ボス近くだから敵多くてさ……。
こっからじゃ大分遠い」
アイレスが俺にトイレの場所を軽く尋ねて来たが、淡々と即答する他なかった。
そらもうやっちまったなぁ! って表情をしていたと思う。
「そんなぁ……!」
シューの顔がみるみる青ざめていく。
そんな中申し訳なかったが、実際にこの階層には、トイレが設置できるポイントが少なかったのだから仕方ない。
適当な場所に設置してしまうと、トイレ中に殺されてしまうなんて事になりかねない。
だからトイレは適当な場所に設置してはいけないのだ。
だがしかし待ってほしい。
「そういう時の為のリターン・クリスタルですよ」
「それです!」
俺の解決案を聞いて、「さすが師匠!」と言わんばかりにシューの泣きそうだった表情が明るくなっていく。
こんな緊急時にも備えを欠かさない、それがIBS熟練者というものだ。
……まぁ、ここに返ってくるまで、また道中歩かなければならないという欠点はあるが。
「じゃあ、シュー連れて帰るから。
返ってくるまで、ちょっと休憩って事で」
「うん。またボス戦中にいなくなられたら困るしね」
思い出すだけでも、あの時は迷惑かけて申し訳ない……。
「・・・転送」
手に持ったリターンクリスタルを親指で軽く弾く。
最寄のトイレ設置場所がダンジョン入り口なので、そこへ戻る事にした。
◇◇◇~~~~~~~~~~~~~~~~~~◇◇◇
そんなこんなで、俺とシューは、ダンジョンの入り口に戻ってきた。
早く用事を済ませて、アイレス達の下へ戻ろう。
「師匠、本当にすみません。迷惑かけちゃって」
「何、お互いさまだよ」
「じゃ、行ってきますね」
シューは小走りでトイレに向かっていく。
……が、扉の前で突然立ち止まってしまった。
「……………………使用中だコレ………………」