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IBSの俺が異世界ダンジョンでトイレマップを作る /(IBS=過敏性腸症候群)  作者: 弥ぶんし
第2章:ダンジョンにトイレを求めるのは間違っているだろうか
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2-1. クイックウィザード シュー・マッハ・マードレー 《出会い》/あなたを師匠と呼ばせてください!

【冒険者ギルド・食卓】



 前回の冒険が終わり腰が落ち着ける事ができてから、俺達は日々をまったりと過ごしていた。

 今日もダンジョンに行くか、どんなクエストがあるか、そんな一日どうするか考えながら冒険者ギルドで色々な掲示物などを眺めながら時間を潰していた。



 そういえば、俺が日々どこに寝泊りをしているかという話だが、先日ナイトミノタウロスを撃退した後、同じパーティとして過ごすからと言われ、アイレスとライアスの自宅へ招待された。

 そこが今、俺の家になっている。


 2階建ての一般的な家庭。

 ほとんど木で出来ている事から、自然の暖かみを感じる住居。

 インテリアとして観葉植物も少々置いてある所がオシャレだ。

 掃除が行き届いており、物は綺麗に整頓されていて、1つ1つの部屋が広々としている。


 1階は、キッチンやダイニングや居間といった広い空間がある。

 庭もちょっとした緑が広がっていて清潔感に溢れていた。

 そこは、大いに朝の日差しを感じられるスポットになっている。

 この家は全体的に少し裕福感を感じる作りだ。


 また、2階は主に個室になっている。

 個室は一応1階にもあるのだが、俺は2階の部屋に割り当てられた。

 スタンドライトが置いてあるデスクが1つ。

 空の本棚が1つ。

 壁に埋め込まれたクローゼットは、最低限の衣服の収納できる広さ。

 あとは、睡眠を取る為のベッドが1つあるだけの大分シンプルな部屋だ。

 街を見渡せる窓が1つあり、非常に景色が良い。

 そこからはダンジョンの入り口である高い建物が見えた。

 1人で過ごすだけならば言う事がないくらい条件の良い部屋だった。


 元々家族4人で過ごしていたらしいが、両親の2人は今は行方不明になっているらしい。

 今は兄妹の2人で過ごしているという事だ。

 家族が増えたみたいで嬉しいとか喜ばれていた事は、歓迎されているようでこちらとしても嬉しかった。

 何から何まで、本当に助かっている。



 そんな事はさておき、俺達は空いていたテーブルに付き、皆で今日の日程を考える事にする。

 夜のギルドは食事時で人が多くなるが、日中は冒険者の行動が皆バラバラになっている為、ほとんどガラガラの空席だ。


「よく考えたんだけど。トイレ設置に50万は確かに安かったわ」


 そう話を切り出したのはアイレスだ。


「初心者の階層は、ほとんど設置しているから今更追加で設置する事はないし、追加で報酬を貰う為には、さらに深い階層にいく必要があるじゃない?

 1つの階層に安全圏が沢山あるわけじゃないし、10個くらい設置しても500万でしょ?

 生活費や装備品とかに回していると年収くらいにしかならないし、継続的な収益を狙うには不適当な仕事だと思うのよね」


 アイレスの言う事はもっともだ。

 トイレは1度設置すれば終わりで、それ以上の料金は発生しない。


「沢山設置できりゃいいんだけどな」


 ライアスの言う通り、1つの場所に沢山設置できれば効率が良い。

 何故ならば、当然ながら1つのパーティは複数人であり男女もいるし。

 また冒険者は沢山いるので、使いたい時に使用中だったという事態も多く考えられる。

 それだけに、トイレの数が多ければ多いほど、その事態を避けられる。

 加えて、パーティ人数分、ある程度まとめてMP回復も行う事ができるのも強みだ。

 しかしなぁ……。

 俺はライアスの意見に反論した。


「安全圏は多いわけでもないし、スペースが広い所も中々見つからない。

 そんな中、限られた場所に無理やり設置しても場所を圧迫して邪魔になってしまう」


 そう。ダンジョンは人が住むようにはできていないから。

 以前にもその話はしたので、元々ライアスも分かっている部分ではあるのだが、お金に関する問題は何事も上手くいかないものだ。


「マナトも、前回の報酬全てルイズっていう魔法店の店主にほとんどあげちゃうし……。

 それはまぁ、今回のお仕事のキッカケになってくれたから全然良いんだけど。

 今後は普段の無駄遣いとかは避けて、きちんと計画的に稼いでいくべきだわ」


 アイレスは、普通の人よりも家計をきちんと考えるタイプだ。

 両親がいなくなってから兄妹で生きてきたからだろうか……?

 お金には苦しい思いをさせられたのかもしれない。

 だからか、お金の管理を任せるには最適の人間ではあるくらいには、使い道をしっかりしている。



 そんな話をしている最中、ギルドの受付の方がなんだか気になった。

 いつもお世話になっているギルド職員のおねーさんが誰かと会話している様子だ。


「クダリ・マナト様ですか? ……おそらくアチラに……」


 小さく声が聞こえた。

 ギルド職員はこちらを向いて、手の平で俺のテーブルの方を指し示す。

 そんな様子を眺めていると、小さな女の子がこちらのテーブルへ向かってきた。



「あの…………クダリマナトさんはアナタですか?」



 恐る恐る質問する小さな少女。


 俺は、先日の活躍(親子を助けた事やら、太陽魔法やら、トイレ設置とか)から1日で有名になってきていた。

 だから、知らない人からよく話しかけられたりする事が多くなり、街の皆とはほとんど好意的に接せられている。


「そうだけど」


 小さな少女は、俺の返事を聞いた途端に、先程まで心配気で俯き加減だった顔に一気に陽が差したようにパァァッと一瞬で明るくなった。



「師匠! 是非マナトさんを師匠と呼ばせて下さい!

 私! パーティに入りたいんです!!」



 …………師匠? 何故?

 まぁ、そんな事はともかく、彼女の表情からは必死さが伝わった。

 顔は赤らみ、叫ぶ勢いあまって目を力いっぱいに閉じている。

 あらかじめ何度か話しかける練習してきたようにも見受けられる。


 俺は、彼女のそんな様子を察し、とりあえずは落ち着いて話ができるようにする。


「とりあえずは名前を教えてくれるかな?」

「あばば! そうでした!」


 俺の問いかけで、少女は取り乱した状態から姿勢を取り直す。

 服をポンポンッと叩いて整え、最後にウィザードらしい大きい帽子をクイクイッっと下向きにネジ回すようにポディションを直す仕草が非常に魔法使いらしかった。





「申し遅れましたが、私の名前は、シュー! マッハ! マードレー!!

 この世で数少ない、高速詠唱の使い手!

 まさにクイックウィザード! それが私!

 気軽にシューとお呼び下さい!」





 得意げなドヤ顔でポーズを決めるシュー。

 これも鏡の前で随分と練習したのだろう。わりとカッコイイ。

 内股気味で腕を前方でしっかりとクロスさせ、長いステッキがしっかり映えている。

 ……形から入るタイプだな、これは。


「シューマッハ?」


 アイレスは、名前がよく聞こえていなかった様子。

 せっかくキメたのに……。





「シュー・!!

  マッハ・!!

   マードレー!!

 です!!!!」





 半ばやけくそ気味にキメ直すシュー。

 多分、アニメなら表情ドアップに集中線効果が付いてるはず。

 かわいい。


「クイックウィザードって何? ウィザードと違うの?」


 今回、アイレスはボケボケしている。

 質問ばかりで何も理解できていない様子だ。


「お前、高速詠唱も知らんのか?」


 質問に対して答えを切り出そうとしたのがハロだった。


 前回ハロは通信だけの存在であったが、気が向いた時にはこっちの世界へ現界してくれる。

 ……といっても、普段から俺の傍にいたがるので普段から実体化している。


「高速詠唱っていうのはな、詠唱の省略化だ。

 あのクソ長くてめんどくさい詠唱を短くできる。

 単語1つ、動作1つ、スイッチ1つで魔法が発動したりなど。

 発動が簡単になるわけだ。

 だけどそれには、複雑な構造を構築する必要があって、それなりの実力が必要でな?

 高速詠唱が使えるってだけで、わりとそれなりのウィザードってわけ」

「へー、すごいじゃん」

「そうでしょう? 天才ですからね?」


 ハロの端的な説明に、薄く関心を示すアイレス。

 その話の中で、首を突っ込むように目をキラキラさせながら自慢するシュー。


「じゃあ、何かクイック魔法見せてよ」

「いいでしょう!」


 アイレスの軽い願いに対し、シューは、自信満々に魔法を発動する姿勢を取る。

 マントをバッっと大げさに広げる所が実に魔法使いっぽい。

 ……怪盗っぽくもあるか。

 いちいち動きが大げさらしいのはウィザードの習性なのか?


「私のクイック魔法は、このオリジナル開発した杖に、弾丸化したスクロールを装填する事で発動します。

 …………ホイッ」



 ボッ!



 シューのステッキの先端で火が小さく爆発するように燃えて消えた。


「わっ、すごい!」


「高速詠唱には色々と方法がありますが、私の場合は予め詠唱してあるものとして、自身の魔法詠唱をスクロール化しておきます。

 これを溶かして小型に形成し直し、ステッキを経由して解凍するんですね。

 時間がある時に弾薬(コイツ)の中に魔力をストックしておけば、自身の魔力も魔法石の消費も使用せず魔法が使えるという事になります。

 もう既に使用頻度の高い魔法は後ろのバックパックの中で魔典格納(ライブラリ)化してあるので、弾薬が無くなっても、バックパックがある限り、魔力を消費して、すぐに形成し直す事ができます。

 その仕組みに関してはややこしいので省略しますが、私は、ステッキとバックパックがある限り無敵モードというわけです」


「なんかよくわかんないけど、凄いのだけは分かったわ」


 相槌を打つアイレスの理解が雑過ぎるが、俺もそんな感じだった。

 即時簡単に使える魔法って事だけは理解できたけど、そんな理解(モン)で大丈夫だろう。


「凄いなお前は。魔法の発動にスキがない。綺麗な順路を辿っている。

 大抵の魔術師はできるといいつつ、わりとガタ付いてる所があるが、お前の魔法は完璧だった。

 人間にしてはやる方だ」

「あ。わかります?」

「神様だからな」

「は?」


 上から目線な感じのハロ。

 突拍子もない神様宣言にシューはキョトンとしてるじゃないか。


 ……なんかもうめんどくさいからほっとこ。


「それはいいとして、なんでマナトが師匠なの?

 マナトはウィザードじゃないわよ」


 まぁ、その通りだ。

 アイレスの疑問はもっとも。


「それはその…………………。

 実は私もお腹が弱くて…………。

 そういった意味で先輩として、ダンジョンでの指南をしてほしいなとか……。

 その……そんな感じで。

 ダンジョンに入るのが夢だったんですが、体調のせいでなかなか難しい所があり……。

 是非、ダンジョンでの攻略の仕方を教えてほしかったんです」



 なるほど…………。


 なぁるほぉどぉ……。



 そういえば、受付のおねーさんが言ってたなぁ。

 わりとダンジョンでトイレ事情に悩まされている人がいるって。


 ……いたんだなぁ。



「俺は、特にメンバーに入れるのは反対しないけど、みんなはどうなの?」

「入れるべきだろう。少なくともこの2人よりも使える。

 クイックウィザードってだけで相当な実力者だ。間違いない」

「うぅ……。私だって問題ないわよぉ」

「俺も後方支援が増えるんだったら大歓迎だぜ」


 ハロは相変わらず言い方がトゲトゲしいが、メンバーはもはや慣れてきている。

 悪気があるわけではなく、視点が神様的なのだという事を理解してきているからだ。

 (アイレスは少し悔しそうな感じだけど)


 アイレスとライアスの快諾もあり、シュー・マッハ・マードレーは、するっとパーティに加入する事となった。

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■〔最弱最強の主人公……は、結局最弱だった件〕
■〔お前が神だと? そんな俺は魔王だが? そんなことよりおっぱいだ〕
以上の短編作品もありますので、是非観てください。
期待値があれば、連載化も視野にいれる事ができます。

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