1-Ending. ここからはじまるトイレマップ
ナイトミノタウロスを討伐した俺達は、報酬を精算しにギルドへ戻っていた。
帰りを迎えてくれたのは、今日ギルドで最初にお世話になったメイド風の職員だった。
……でも、なんだか申し訳なさそうな顔をしている。
そんな彼女が恐る恐るといった様子で質問をしてきた。
「あのぅ……クダリ……マナト様……でいらっしゃいますか?」
「はい」
俺は軽く返事をした。
しかし、なんだろう……怒られそうな気分だ。
「その……今日、ダンジョンでトイレを設置してたのはアナタでしょうか……?」
あっ。
………………………………。
……まずい事したかな。
とりあえず謝っとこう。
「すいません……。あれ永続で……。
撤去した方が良かったですか……?」
「あっ! いえいえっ! とんでもありません!
是非これからもトイレを設置してください!」
「えっ?」
俺の意外そうな反応を見てから、一呼吸を置いて、
グーにした手を口元に当てながらオホンと軽く咳をした後、
話を進めるメイド風職員。
「あのですね。
実は、あのトイレにはMP回復効果がありまして……。
それが他の冒険者から大変好評でして……。
実は、ダンジョン冒険者でトイレ事情に悩まされている人も影ながら多く、
モンスターが寄り付かない休憩ポイントにもなる事から、
すぐに評判が広まり、
重宝したいという意見を多数頂いております」
マジか。
そんなにトイレという存在がダンジョンに浸透してしまうのは正直意外過ぎた。
「そこで、ギルドは色々な人からお話を聞き、調査をしまして、
ある親子から凄くお強い冒険者様がいると耳にしました。
その親子は、ダンジョン内で強力なモンスターに襲われていまして、
そこをとある勇者が助けてくれたという情報を冒険者仲間に広めていまして。
その話の中で、
その勇者様がトイレを設置したりする所を見ていたという人も出てきて、
その勇者様がマナト様だと、今回のご活躍をギルドでも情報を掴んだわけです。
大変素晴らしい方だと評判が広まっております」
あの親子か……。
いや、あの時の理由を考えると喜んでいいの悩む……。
「そんなマナト様に、ギルドからお願いがあるのです。
……どうかこれからもダンジョン内でのトイレの設置をお願いできませんか?
勿論報酬は少ないながらもお出しします。
1つの設置につき50万ほど…………」
「えっ?」
「うっそ……」
さらに意外な提案が。
えっ? と懐疑的に驚いた俺よりも、アイレスの方が驚いている気がする。
絶句しながら「あんな簡単にできてた作業で50万……」とか嬉しそうにボソボソ呟いている。
しかしまぁ、俺としてはトイレがないと困るわけだから、この提案を断る理由がない。
それが人助けに繋がり、お金も貰えるのであればこれ以上ない条件だ。
そういった訳で快諾した。
「いいですよ」
「ホントですか!?
いやー、ありがとうございます!
あんな高度な設計を大量生産するなんて、本当はとても難しいので助かりました。
MP回復効果も加えて、トイレとしての機能を果たすマジックアイテムは、
本当はもっと高いくらいなんです。
神聖な噴水などパワーアップとか効果のある自然古代建造物は、
凄く高額な料金を請求されますし……」
話を聞く限り、神の力というのは、本当に凄い物なんだなと実感する。
とにかく怒られそうというのが杞憂に終わって良かった。
ギルドのお姉さんも喜んでくれてるし、自分の事の為にやった事が他人の助けになれるのであればなにより。
「マナト! やるしかないわね!
これはもう億万長者よ!」
目を星のように輝かせガッツポーズを取りながら、俺に熱い視線を送るアイレス。
「マナトはさしずめ、トイレの勇者って所だな」
「おいやめろ!
その肩書きはマジでやめろ」
ライアスの屈託のない悪意ゼロのような顔で言われる所が、わりと冗談抜きに本気で広められそうで焦って止めた。
流石にその呼び名で広まるのは嫌過ぎる。
『マナトはボクの太陽の勇者だよ。
これからもね』
子を見守る母のような優しい声を俺にかけてくれるハロ。
その温かい笑顔を見ると安心する。
日頃の嫌な事でさえも、ハロが傍にいていれば心が洗われるかもしれない。
そう感じる所に、俺はハロの神性を思い描いていた。
ほら、と言いながらハロの指差した方向には、明るく笑う多く人の姿があった。
その中には、今日助けた父と娘の家族の姿がある。
ハロが嬉しそうなのは、そういった平和な日常を見守れた事にもあるのかもしれない。
ハロの優しい瞳の奥の小さな輝きには、あれが君が守った風景なんだよと語りかけているような、そんな暖かさがあった。
最初は不安ばかりだったこの旅のはじまりも、この皆ならば、なんとかやっていけそう。
そう思う俺も、ハロと同じ方向を見て微笑むのであった。
次回は、シューという小さな女の子の魔法使いが登場する予定です。
そこでパーティメンバーが全員揃ってくると思います。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました!