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~武、爆走屋引退~

 千早…俺はもう爆走屋を引退する。もう、この世界には身を置けない。だってさ…。

 2005年12月24日・22時過ぎ

「千早、すまねぇな。こんな時間に…。」

 俺はインテグラの助手席に千早を乗せていた。

「ううん、折角の冬休みだから大丈夫!大丈夫!」

 …夏休みから千早も変わったな。一学期まではこんな活発じゃなかった。

「って、あれ?武って免許持ってたっけ?」

 今更ながら疑問を持った千早。

「ああ、7月の20日に免許を取得した。」

「え?7月20日って風邪で休んだんじゃあ…。」

「ああ、あれは嘘だ。」

「あ、そうかそうか…ふぇ!?」

 まあ、当然の反応だろうな。

「流石に先生には内緒だぜ?」

 楓スカイラインの入り口に差し掛かる。

「千早…」

「何?」

「このドライブの中じゃあ、全部は伝えられねぇけど…。」

 峠の始まりに入る。ここからは規制速度で行く。

「俺が抱えていたこと、伝えようかなっと思ってな。」

「え?」

「御互い、負い目無しにしたいからな。あの時の…あれだよ、あれ。」「あ…。」

 千早…。

「俺な…バイト、結構ヤバかったんだ。」

「ヤバかったって…あ、かなり時給が低いの?それで、辞めちゃったの?」

 そっちいくか…。

「いや、バイト代はバカみたく高い。だが、ハイリスク・ハイリターンのハイリスクがヤバイ。」

「ど、どんなバイトなの?」

「単なる運び屋。だけど、命の危険度が高い依頼ばかり扱っていたよ。」

「…バカじゃないの?」

 お前に言われたら、俺も相当なバカだな。

「ヤバイぜ。それに、今まで後ろから煽られたことはないという日はないぜ?」

「武が不運なだけじゃないの?ここらは走り屋沢山居るって言うし♪」

 どう見ても追手ばかりってのが多かったような…まあ、いいか。

「まあ、無免許運転を二年間すれば大体撒ける。」

「え?今、さらりとヤバイこと言わなかった?」

「無免許運転は…まあ、気にするな。今、普通自動車の免許持ってるからな。」

「それはそうだけど…大丈夫かな~?」

 ん?ちょっとだらしねぇな?なら、リフレッシュがてらに攻めるとするか。

「千早。」

「なになに~?」

「ちょっとだけ飛ばすぞ。」

「ふぇ?まあ、良いけど…。」

 但し、100km/hだがな。俺はアクセルを踏み込んだ。

「ちょ、ちょっと。前、ガードレール…」

「舌噛むなよ。」

 ヒール&トウをかまし、シフトをトップからサードに叩き落とした。

「ふぎゃ!?」

 予期せぬ状況に、前のめりになる千早。

 タイヤが横滑りして雪の粉が舞う。

「…大丈夫か?」

 千早を気にしつつ、左に切ったステアリングを右に直ぐ切り返す。

 ここで、姿勢が道路の進行方向に対してやや横に向く。ノーズの向きは、スレスレで壁とキスするぐらいになっているだろう。

「アハハハハ…だ、大丈夫大丈夫!」

 千早、笑っているけど顔が真っ青じゃあ説得力は無いぜ。お?

「千早…」

「な、何?」

「お前、よく見たら背より胸の成長が凄いな。」

 胸の谷間にシートベルトが通っている千早。強調された胸が見える。

「ば、バカ!何処見てんのよ!!」

「いやいや、俺は好きだぜ?」

 あれ?俺も何言ってんだ?

「こ、このロリコンめ!!ま、まさか、武がロリコンだなんて…。」

 オイコラ、俺ロリコンじゃねぇよ。

「千早。中学一年生までならロリだが、それ以降はロリじゃねぇぜ?」

「じゃあ変態!!武は変態だよ~!大変だよ~!!」

 こりゃ面白れぇ。あれだけ暗かった千早が今じゃあ凄く活発的だ。

「千早。俺はそうしている千早が好きだ。」

「え?」

「…今後はそうしてくれ。」

「…うー、ラジャッ!!」

 …完全に変わっちまったな。

「俺さ、夏休みに筑波とこの楓スカイラインでバトルしたんだよ。両方とも女性ドライバーで歯が立たない腕前だったよ。」

「へぇ~女の走り屋か…。」

「それでな…この公道(ライン)で負けた。」

「ふ~ん…ファッ!?バトル!?走り屋!?」

 あれ?聞いてなかったのか?流石の俺も、左に切っているステアリング時にも関らずに右肩がコケそうになった。

「…それで、バトルして分かったんだ。俺はここに居て良い人間じゃないってな。」

「武って、中二病だっけっか?」

 おいおい…。

「俺らはもう高校三年生だぜ?」

「うん。だから?」

「だから…まあいいや。要するに、俺は公道ランナーに向いてないんじゃないかって思ったのさ。それに、進路のことも考えなきゃいけないしな。」

「え?進路?…あ。」

 今更か…。


 楓スカイライン山頂折返地点駐車場・展望台

「…寒いな。」

「当たり前だよ~。冬なんだから~♪」

「…だな。」

 街の方は明かりはチラホラ見えるが、これはこれで美しい。

「千早、お前…将来何になりたいか?」

「ふぇ?まだ決めてないよ?」

「そうか…実は俺もなんだ。デンジャラスストリートランナー辞めるけど、どうするかな~?って思っている。」

「話し振っといた本人が決めてないなんてバカだな~。」

 まあ、確かに俺もバカだろうよ。

「お前に言われたきゃねぇよ。まあ、レーシングドライバーになるのも悪かねぇなって思ってはいる。」

「…武なら出来るよ。」

 千早は笑いながらそう返してくれた。

「どうも。あと、親父と同じ海軍軍人かな?小学生の時、清水港に行って駆逐艦や海を見て憧れていたな。」

「おお、何か相交わらない職業が出てきた。」

「まあ、今の所はレーシングドライバーか海軍軍人か…。運び屋は、何時まで生きていられるか分からんし。」

「私より給料良いバイトしておいて!この~!!」

 千早がポカポカと叩いてくる。

「痛くねぇぞ~。」

「えいっ!」

〝ドスッ!!〟

「あべしっ!本気にする奴居るか!?」

 右の脇に重いストレートが入りやがった…。

「居るよ!」

「何処だ!!」

「ここに!」

「そっか!!」

 まさかの身近な人でした。

「…そろそろ時間か。」

 俺は腕時計を見て、短針が10と11の真ん中に指していた。

「今何時なの?」

「22:30ぐらい。」

「あ、なら早く帰らないと!」

「そうだな…。」

 俺は街の明かりを背にインテグラの方へと向く。

「千早…」

「なに?」

「俺はお前のことが好きなのかもしれない。」

「…え?」

「…なんでもないや。今さっきのは忘れてくれ。」

 恥ずかしい。やっぱり、正直に言うのは難しいな。

「何よ!何て言ったの~!」

〝ガバッ〟

「うおっ!」

 こいつ…まあ、いいか。

 俺は、千早(こいつ)を護る為に生きることが一番かもしれない。

「帰るぞ!」

「も~!武なんて知らない!」

「なら置いてくぞ~。」

「それは嫌だ!」

「なら早く来い…。」

「は~い!」

 俺と千早はインテグラに乗り込んで下っていった。


~END~

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