~亡き父が残したインテグラTypeR(DC2)~
俺は親父を亡くした。事故だそうだ。だが、詳しくは知らない。
2005年4月6日・山梨県真田家
「走るか…。」
俺は上着を持ってインテグラに乗り込む。足掛け二年の無免許でインテグラと一緒に走り続けている。
「…。」
クラッチを踏み込んで、イグニションキーを回してエンジンが掛かる。走る時は何時もこの音を聴くが、毎回聴いてて飽きない。
「…。」
俺は何時までこんなことをしている?
「…何時までやるんだろうな。」
まあ、問うたところで答えはでないか。
「行くぞ、インテグラ。」
シフトをセカンドに入れて、クラッチをゆっくりと繋げる。
「今日は仕事か。内容は…〝15kgのバック〟の運搬…か。」
今日も嵐が吹き荒れそうだ。
「急ぐか。」
アクセルを踏み込んでサードに上げる。
十分後…
「では、これを御願いします。」
「分かりました。」
俺は物を受け取ると助手席に固定した。
「あと、前金の10万円…確りと頼みますね。」
「承知しております。」
依頼代理人から封筒を受け取り、エンジンを掛ける。
「時間は〝多少〟変動しても構わないからね。」
「…分かりました。」
まあ、その多少は今回も凄い多少になるだろうな…。
「…音楽でも聴くか。」
メディアプレイヤーを起動させて音楽をかける。
「うん。良い曲だ。」
やっぱり、峠を…
「ん?パッシングか…煽ってるな。さて、譲るかペースアップでブッちぎるか…。」
でも時間無いからな、仕方ねぇ…。
「ペースアップするか。」
トップからサードにシフトダウンしてアクセルを踏み込んだ。
だが、煽った後続車は直ぐに着いて来なかった。
「…ワンテンポ遅い上に加速に躊躇がある。なら、遠慮なくちぎるか。」
レブリミッターのギリギリ8500rpmまで上げて、トップにシフトアップする。
どんどん突き放す。こりゃ良い気分だな。
「さて、突っ込むか。」
本当ならこんな真昼間からドリフトなんぞやりたくなかったが…
「事情が事情だから仕方ないか。」
コーナー前でややセンター寄りにして、直前でブレーキをかける。前方に荷重が掛かるのが分かる。一瞬遅れてクラッチを切り、右足のかかとでアクセルを一瞬だけやや強く踏み込む。勿論、右足のつま先はブレーキを踏んだままだ。そして、シフトチェンジをしてサードに下げる。これをステアリング操作の直前までに終える。
「こん位かな?」
センター寄りからインに鼻っ面を向けて、直ぐ逆方向にステアリングを動かす。リヤタイヤも滑るが、フロントタイヤも滑る。まあ、片方だけ滑られてもスピンして甚だ迷惑だが…。
「さて相手は…あ。」
鉄板が壁に激突してグシャグシャになる音が響いた。
「…無茶しやがって。」
ここは突っ込みの速度が不十分だと壁と友達になるコーナーだ。大体80km/hか遅くて65km/hじゃないと、インかアウトの壁と仲良く同一化して友達になってしまう。
「…あ、山乃さんのインプレッサだ。」
俺は知り合いの車に気付いて、ハザードを三回たく。ホームコース(ここ)の走り屋のルールで〝コノ先事故車アリ、注意サレタシ〟という合図だ。
対向車のインプレッサは、ハザードを三回たいた。これは〝了解〟という合図だ。
勿論、一般の事故では無い〝走り屋の事故〟の合図である。本当に一般の事故なら、とっくに救命活動をしている。それが無駄だとしても…。
三十分経っただろうか?
「…ここだよな?」
引渡場所の住所は合っている。だが…
「ボロアパートかよ。」
もう家賃一万で入居者が居るかどうかのアパートだ。
「ここ、本当の引渡場所か?」
「そうだよ。」
うげぇ…後ろから来たよ。
「何で私は、何時も後ろから声を掛けられるんでしょうかね?」
「さあ?それが定めなのでは?」
「確かに言えてるかもしれませんね。」
「さて、〝物〟を。」
まあ、前振りはここまでだな。
「分かりました。少々お待ちを。」
俺は急いで助手席に固定した〝15kgのバック〟を取りに行き持って来る。
「はい。物です。して、私が代理人経由で渡した用紙を出して頂きます。」
「ああ、照合だな。」
これがないと、信憑性が無いからな…。
「はい。」
「では失礼。」
バーコード機器で引渡人の持っているバーコードと、〝15kgのバック〟に括り付けたバーコードと照合する。
「はい。照合しました。」
照合したことを確認して、括り付けたバーコードを外して〝15kgのバック〟を引渡人に渡す。
「はい。これ報酬ね。」
「ありがとうございます。」
バックを引き渡し、封筒を受け取る。
「では、私はこれにて。」
「うん。ありがとね。」
「どう致しまして。」
さて、帰るか。
その後、帰りもまた後ろから煽られてコーナーでブッちぎった。そいつは事故らなかったが、速度が出過ぎたらあの世行き確定であった。ガードレールに擦って、ちょっと話していたようだが…。
2005年4月7日…
「う~ん…。」
「武~!早くしないと、学校に遅れるわよ~!」
朝っぱらからうるせぇな…ん?
「しまった!今日始業式じゃん!!」
やべぇ!遅刻だ!!
「全く…お父さん?武は、またあなたの車で峠とか攻めているんですよ?誰に似たんでしょうね~?」
仏壇に置いてある写真に向かって、困った顔をして語り掛ける女性…俺の母だ。
「恐らく、両親に似たんだと思います。」
「あら♪褒められちゃった~♪」
…皮肉を言ったつもりが、褒め言葉として受け止められた。
「溜め息吐きたいのはこっちだよ。いってきま~す!!」
今日から新学期だ。気合入れていくか。
〝アイツ〟と久々に会話したいからな。