無干渉な家族
翌朝、いつも通り朝7時に起床した空は顔を洗い、母が用意してくれた朝食を食べていた。
いつも何も考えず、作業のように淡々とこなしていく空だったが、今日に限っては昨日出会った少女について考えており、ほんの僅かだが表情が固かった。
(あれ程の美少女に加えて、あの瞳だし、もしあの子が高校生なら俺の高校でも噂になるかもしれないな。)
あの時間にあの場所で雨宿りしていたと言うことは、あの付近の高校に通っていると言うことかもしれない。
現時点では確証の取れない憶測をしながら、他人について、こんなに思考するのはいつぶりだろう、と思いに耽っていた。
考え事をしながらトーストをかじっていると、二階から人が降りてきた。
「おはよう、母さん」
降りてきたのは空の双子の弟である麻上 海。
顔も体も、声すらもほぼ同じ二人は、無表情でいたら親ですら判断し辛い程の外見である。
しかし、そんな二人だが、性格の方は真反対
と言っていい程違う。
ほとんど無表情でたまに見せる表情の変化も、最低限のモノだけ、全ての事に無頓着という空に対して弟の海は活発で、いつも笑顔でいるという絵に描いた様な爽やか少年。
そんな正反対な二人の兄弟仲は良いか、と問われると、勿論¨否¨である。
同じテーブルで向かい合って朝食を食べているのにも関わらず、二人は一言も言葉を交わさない。
それどころかお互いを見ようともしていない。向かい合って座っているのに見ないように食事をするなんて、なかなか器用な双子だが、この光景を見るだけで仲の悪さが分かるだろう。
いや、仲が悪いと言うよりもお互いに興味が無いのだと言った方がいいのかもしれない。
幼い頃は海が空に懐いていたのだが、二人が小学生の時、空が変わってしまい二人の仲は崩れて行くこととなる。
そこから海は、もう兄には頼らない、とでも言うかのようにあらゆる面で才能を伸ばしていった。
勉学にスポーツ、芸術に家事まで、どの分野でも優秀な結果を出した。特にスポーツに関しては中学時代に所属していたバスケットボール部を全国大会へ導くという輝かしい成績を残している。
もしかしたら自分に刺激された兄がもとに戻ってくれるかもしれない、 そんな淡い期待を抱きながら努力を怠らなかった。
しかし、兄は何時までたっても虚ろなままだった。
次第に海の中で諦めの色が出てき始めて、何時しか兄に対する興味を失っていた。
そして二人はお互い無干渉になって行った。
そんな息子達を両親は心配そうに見守っていたが、何時までも立ち直らない空と努力を積み重ねる海を見比べてしまい、両親もまた、空を見限るようになってしまった。
だが、空はそれでも良かった。他人からの評価に興味は無いし、他人に対する興味もない。
だから、この状況は空にとって都合の良いものだった。