日常に紛れた小さな異質
声を掛けられた空は少し驚いていた。
その少女は陶器の様な白い肌に流れる様な黒髪を腰辺りまで伸ばしていて、体の線は細くスラリと伸びた脚は長い。
顔も整っており、クリクリとした大きな目がとても愛らしい。彼女も走って来たのだろうか、少し息使いが荒い様に見える。
間違い無く美少女と呼ばれる彼女に声を掛けられたから驚いている訳では無く、理由はその少女の瞳にあった。
左右で色の違う瞳
右目が黒、これは日本人なら珍しくもなんともない。
問題なのは左目の方だ。
全てを見透かす、そんな印象を与える透き通る様なサファイアブルーの瞳。
両目共に黒の瞳が多い日本でその瞳は特殊だった。
(見た感じ同じ位の年齢みたいだけど、高校生かな? でも、こんな目の美少女がこの辺にいるなんて聞いたことないし、見たこともないな。)
一人で考え込んでしまい、掛けられた言葉に返答することを忘れた空だったが、少女は返答が無いことを特に不快に思った様子もなく、クスクスと笑い始めた。
「やっぱりこの瞳、気になります?」
不意に投げ掛けられた質問に空は先程から少女を無視していたことに気付き、首を縦に振りながら答えた。
「確かに変わった目だし、気にはなるな」
「やっぱりそうですか、初めて会う人は大体興味を持たれるんですよ」
苦笑い気味にそう言った少女は左目を数回瞬かせた。
その様子を見て空は、肌も異様に白いしきっとハーフだろうと予測し、そう考えると不思議でも何でもないな、と結論を出した。
元々、多少気になっていただけで其処まで興味の無かった空は自分の中で結論を出せたので少女との会話に意味を見出だせなくなっていた。
雨も大分弱まってきていたので此処に留まる理由はもう無いとばかりに、別れの言葉を口にする。
「雨も上がりそうだし、俺はもう行くよ。じゃあな」
「はい!私もそろそろ行きます。さようなら麻上 空君!」
手を振り上げその場を後にしようと種を返した空に対して少女も別れの言葉を告げた。
しかし、その言葉に違和感を感じた空は急いで後ろを振り返る。だが其処に少女の姿はもう無かった。
(なんで・・・、俺の名前を知ってるんだ・・・?もしかして知り合いだったか?)
しかし、あんな美少女見たことがない。仮に以前会ったことがあるとしても、あんな印象的な瞳を忘れる筈がない。
反対に此方は一度会っても暫く会わなければ忘れ兼ねない平凡な容姿だ。
空が忘れているのに彼方が覚えているなんてあり得ない。
少し気にはなるが、考えていてもしょうがないので、取り敢えず自宅に帰ることにした。