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第41話。束の間の休日?

 マイアに結果を報告しようと訪れた所、事後処理が溜まっているため緊急でなければまた後日にしてくれ、と言われ学園を後にした。

 で、一応鍛冶師ギルドの方にも話をしようとして気づいたんだが、やはり町は人ひとり出歩いていない。

 正確には騎士や警備兵なんかは巡回をしているんだが、それ以外の誰もが通りにはいない。

 さっきもそうだったが、何かに怯えるかのように、と考えてみたら終息宣言もしていないため当然か。

 事態が実際に落ち着いていたか、俺にも分からないが。



「というわけで、まあ元凶たちはさくっと退場してもらいました。そちらでも何かしらの情報源はあると思いますが、どうでしょう?」

「貴殿はまた無理をする。そうだな。一応事が静まった、らしいということは聞いてはいるがまだ暫く様子見だな」

「そうでしょうね。俺もそうします。問題は、それを誰がどう終息したかと判断するか、ですね。

 ……マイアが出すわけにもいかないから、騎士に働きかけてもらうか」


 街中を軽く歩き回ってはみたが、目立った混乱などはないため、ギルド長に情報を共有することにした。

 騎士の行動に対しては、俺が指示を出すわけにはいかないから、マイアに依頼をして、だが。いや、しなくてもマイアなら気づいてすぐに出してくれるだろうけれど。


「本来、こういった役割は町長が行うはずなんだがな。ただ、状況が状況なだけに騎士様から行っていただいた方が、良いのか」


 自己完結するギルド長は置いておいて、この状態では仕事にもならないだろうから家に帰ることにしよう。あまり長く空けて両親やレニを不安がらせる必要もないわけだし。



「ただいま」

「お帰りなさい。外、大丈夫なの?」

「騎士が動いていたみたいだから大丈夫だよ。すぐにもう大丈夫だって話が出ると思うから」


 母は安堵したように息を吐く。どうやら町が危険だという話は騎士が動いた、という事実で解消される程度の認識しかないようだ。

 俺もしばらくは警戒をしていれば、どうにかなるだろうし。


「それよりも、その服どうしたの?」

「ちょっと、着てたのが駄目になって。洗って返さないと」


 俺が、というかほとんどの平民が持っている服というのは似たり寄ったり同じような素材、同じようなデザインのもので差別化というものはほとんどされていない。

 これが貴族だったり、有力な豪商なんかであれば多くの衣類を持っており、同じデザインの服を何日も連続で着る、ということはないようだが、俺はそういうことをするつもりは特にない。

 辛うじて女性の服については色や柄が男性のものよりも存在するため、男性よりも女性の方が華やかさはあるが。

 ちなみに、衣類は自宅で手仕事で作る場合と売っているものを購入する場合とどちらもあるが、うちは父の服以外は購入する場合が多い。

 成人男性の服は何故かあまり売っておらず、母親や妻などが作るのが一般的らしい。

 特に、父のように狩人だったり、兵のように服の消耗が激しいような職種だと一々買っているわけにもいかない、という事情もあるらしい。

 まあ、そういったこともあるため、明日にでも服を見に行くことにしよう。今日は、もういいだろう。疲れたし。



 何気にハードな一日を過ごしたためか、普段よりもだいぶ早めに寝た割には起きた時間はいつもよりも遥かに遅い時間。

 昼、少し前位だろうか。軽く体を解すと、適当に着替えて食事は外で摂ることにした。



 と、普段よりも圧倒的に人通りの少ない街中で、何人かが見守るように集まっている場所があった。

 何やら言い争いをしているところを見守っているようだが、その内何人かは見覚えがある。


「そういうのは私たちに任せればいいんっす! お呼びじゃないんっすよ!」

「あんたたちが何か知らないけど、そんなこと言われて黙ってそうですかって聞くと思ってるの?!」


 ……何やってんだ。あいつら。罵声を浴びせあうそれらを止めるため、集団に近づくことにした。


「こういう時こそ、鍛冶師が守るべきなんすよ!」

「鍛冶師がどうしたっていうのよ! それだったら、私たちの方がよっぽど役に立ちそうだけど?!」

「それこそあんたたちは何者なんすか! これ以上、何か言おうものなら、黙ってらないっすよ!」

「……お前にその権限を誰かが与えた覚えはない。これ以上騒ぎをたてるなら、越権行為で懲罰対象になるぞ?」


 余計なことを言いそうになるリリオラの首根っこを掴み、黙らせる。


「ぐげっ!? な、何をするんっす……ソ、ソラさん」

「それに、アンジェ。お前もだ。何があったかは知らんが、ハッフル氏の名を穢すつもりか?」

「だ、だって! こいつがいきなり難癖付けて来るんだから仕方、うぐっ」


 少しだけ、目を細めて哂ってみせる。


「スコット、ラージ。何があった。つーか、お前らがついてて何でこんなことになってんだ?」


 びくり、と体を震わせるがいいから話せ。


「これ以上、俺の手を煩わせるようなら、関係各位全て巻き込んで全員一から教育しなおすぞ?」


 逃げそうにしているリリオラを腕一本で拘束しながら笑う俺は、端から見たらどう見えるか少し心配だが、仕方ないと思うべき、だろうか。


 スコットとラージから聴取した内容としては、どちらも町の見回りをしていた、らしい。

 片や鍛冶師見習いとして、片や魔術師見習いとして、だが。

 そんな中、何が気に食わなかったのか街中で遭遇したアンジェとリリオラが言い争いになったようだ。


「にしたって、鍛冶師の見習いとはいっても、何でお前が抑えてるんだよ。ソラ」

「ああん?! どこの平民がソラさんを呼び捨てにしてるんっすか! この方は、い、痛いっす! そっちの方向には腕は曲がるようにできてないっす!」

「リリオラ。頼むから少し黙っててくれ。俺もお前に別に痛い思いをさせたいわけじゃない」


 実際、痛みは感じないように、ただぎりぎりまで可動域を広げようとしているだけだ。


「ソ、ソラさん。リリオラも反省してるんだし、そろそろ解放してもらえない、ですか?」

「そうだよー。女の子に乱暴しちゃだめだよー?」


 どこにいたのか、ミミンとソフィアも集まってきた。


「なら、リリオラ。俺が許可するまで発言を禁止する。アンジェ、お前は、この前のサボりをレーラさんにバラされたくなかったら、余計なことを言わないようにな」

「ぶーぶー。横暴だー」


 アンジェは何が楽しいのか反省しているようにはあまり見えない。


「リリオラ、ミミン。それにラージ。お前たちは見習いとはいえ、この町の鍛冶師だ。町の事を想うことに対しては否定しないが、無駄に突っかかるな。

 アンジェ、ソフィア、スコット、それにそこに隠れてるトール! お前らは単なる学生に過ぎないんだから余計な事に首を突っ込もうとするのはやめろ。

 両者とも、いいな?」


 リリオラやミミンは渋々と、ラージも黙って従う。それに引き換え、アンジェもソフィアも素直に聞く耳を持つようには見えない。

 ちなみに、野次馬はまだいるが、囲っているのはいつの間にか鍛冶師がほとんどになっている。といっても、一般鍛冶師ばかりのようだが。


「俺たちは魔術師だ。この町を、守りたいと思うのが悪いのかよ?」

「見習いもいい所だろうに。思うことは悪くはないが、騎士以外にこの町の自衛権を持ってるのは、俺達鍛冶師だ。

 前回は当事者だったからまだよかったが、今回は動ける理由はない。俺達に任せろ」

「でも、ソラ。君も、見習いじゃないのかい?」


 ぎろり、と発言をしたスコットに視線がいくつも向かう。抑えているリリオラもそうだが、俺が発言を禁じているだけあって何も言わないではいるが。


「魔術師の、坊ちゃんたちよ。あんたらが貴族ではない、んだろうよ? この人の知り合いだから、何も俺らはしやしないが、これ以上この人や俺らを侮辱するようなら」

「……すみませんが、その手の発言を見過ごすわけにはいかないため、それから先は言わせませんよ。

 お前たちには言ってなかったな。俺は鍛冶師ギルド所属、上級職人の1人。こいつらは俺が面倒を見ている何人かのうちの3人だ。

 そんなわけで、こいつらの暴走も、お前たちの無鉄砲も俺は見過ごすわけにはいかないんだよ。……説教臭くなってんな」


 軽くため息を吐く。別に隠しているわけではないんだが、こうやって説教をするのは好きじゃない。少なくともトール達とは対等な立場を作ってきたはずだったんだが。


「そういうわけで、この場の諍いは全て俺が責任を持つ。次会った時、もう喧嘩すんなよ」


 リリオラを解放し、改めて息を吐く。もう少しうまく治められたらよかったんだが。


「あの、ソラさん。ごめんなさい、私が居て、リリオラを止められなくて」

「ま、次に活かせ。こいつがトラブルを起こすのは今に始まったことじゃないだろ?」

「そう、なんですけど」


 リリオラ、何故そこで不服そうな顔をする。


「もう喋っていいぞ。とはいえ、反省もしろ。いいな?」

「……分かってるっす」


 不貞腐れてはいるが、分かってるならとりあえず今回はそれでいいか。こいつ1人ばかり叱っても問題ではあるし。


「ソラ……、怒ってる?」

「怒ってるというか、呆れてる。後でマイアにもハッフル氏にもちゃんとお前たちから報告しておけよ。

 それでたっぷりと絞られてこい」


 小さくなっているアンジェは少しだけ可哀そうだが、正直自業自得だ。

 どちらが悪いとは断言しない、というかどちらも悪い。俺が友人に対し、何かをするわけにもいかないから、監督責任のある相手から存分に怒られて来ると良い。


 すっかりと重くなった空気を手を叩き、解散させることで少しでも発散させる。

 こういった上から叱ることはしたことがないため、正直対応が間違っていると言われたらそれまでだ。

 これからそういった機会も増えるんだろうけれど、慣れたいものではないな。



「それにしても、魔術師にああいった態度で、大丈夫だったんですか?」

「ああ。あいつらは貴族じゃないし、俺の友人関係にあるからな。

 というか、下手に騒いで問題になるのはお前らじゃなくて、俺やお前らの師匠連中なんだからな。

 といっても、その責任を取るためにいる。

 やりたいことをしたいなら、まずやる前に相談しろ。いいな?」


 俺の言葉にミミンが項垂れる。ミミンの所属する白風の丘は小規模な工房で、上級職人が在籍していないため、実質的に問題が発生した時に責任を取るのは主に俺になる。勿論ミミン本人や工房主も全く処罰がないわけではないが。


「今回は見習い達の町を守りたいという気持ちが先走った、という所で落としどころがつくだろうが、絞られるのはお前たちもだぞ。

 ……説明し辛いなら俺も付き合うぞ?」


 あいつらのフォローならあとでも出来るが、こいつらは所属している工房も違うため、それぞれがどういった処罰を受けるかが分からない。

 給料が減る、きつい単純仕事を長時間やらされる程度ならまだいいんだろうが。



「そうですか。魔術師と、街中で口論を」

「俺がもう少し早く仲介できていればよかったんですが。周囲もほとんど鍛冶師でしたし、大ごとにはならないと、思います」


 面倒を見ている鍛冶師と友人たちとの諍いで何かあったら笑えない。

 俺だけでどうにかなるようなことでは勿論ないんだが、組み合わせが悪かったと思うしかないか。

 とはいえ、自衛権を持っているのはあくまで上級職人なんかの一部の限られた人間だけだ。

 勿論、自主的に町を見回ることは禁止されていないし、昨日の今日で行動を始めること自体はいいことだとは思うんだが。


「ソラさんのおかげで、ひとまずの危機は回避出来そう、といった所であればいいいんですが。うちの娘が、申し訳ない」


 まず訪れたのは、バーギングス。リリオラの父親が工房主の店だ。

 いい防具を扱うんだが、割と自由な娘に振り回されるという印象の強い人で、それ故に苦労も多いという感じだ。

 胃を抑えているのはいつもの事ではあるんだが、今回は流石に普段以上のストレスだろうから、胃痛を抑える効果ポーションと、疲労やストレスを軽減させる薬を渡しておいた。

 リリオラはそのまま置いていく。俺が居るところでは中々色々な話は出来ないだろうし。あの人なら俺が連れてきた理由も察してくれるだろう。



「親方、申し訳ありませんでした」

「あたしに謝っても仕方ないだろう? ソラさん、間に入っていただいて、すまなかったね」

「それも仕事の内ですから。ミミン自体は巻き込まれたような、ものですから俺としても軽い叱責程度で済ませてもらうと、ありがたいです」

「それは、今後の事次第、ね。筋もいいし、真面目にやってくれるから大事にはしたいんだけど、そういうわけにもいかなくなった時はさ。

 悪いけれど、他の子もいるから」

「そうならないように祈ってはいますよ。今回の事だけなら、そう大ごとにはならないと思いますよ」


 あくまでも周囲が変に話を持ち上げる、というか大ごとにしたがらなければ、という話でもあるが。



「おう。悪かったな、手間かけて」

「まあ、あっちはハッフル氏に話を付けていれば問題はないかと思いますから。……えーと。それはともかく、何で俺は鎚を持たされてるんでしょう?」


 最後に訪れたのはアンドグラシオン、なのはいいんだが、何故かおやっさんにハンマーを渡された。

 ちなみに、ラージは見習いをまとめている人に預けてきたためこの場に居ない。まあ、強く生きろ。


「話は既に鍛冶師ギルドにも届いている。お前さん個人がどうってことにはならんが、にしても誰かが責任を取る必要がある。

 俺もギルド長も反対はしたんだが、唯一居合わせたお前さんを上級職人の役割が果たせていなかったと言い出す奴らが居てな」

「……ギルド内に、ですか?」

「いいや。報告をしてきた、魔術師にだ」


 わざわざ男爵家の次男がギルドにまで報告、というよりも文句を言いに来たらしい。誇りある魔術師が平民の鍛冶見習いに愚弄された、と。

 年齢的にも非常に若い男だった、らしいため恐らく学園生だろう。とも言われたが。

 というか、最初に暴言を吐いたのは少し遠くに居たそいつらしい。


「俺、もしくは鍛冶師ギルドに恨みのあるといった所でしょうね。学園関係であればほぼ俺関係でしょうけど」

「俺たちはお貴族様に関わることはめったにない。だから、ギルド長といえど反対もしきれなかった。

 といっても、何か罰則があるようなことでもないんだが、その男が厄介なことを言い始めてな」


 厄介なこと、というのが迷惑をかけられた補填として俺の作った魔術品を寄越せ、ということらしい。


「しかも材料は全て指定。それにかかわる費用は全てこっち持ち、らしいぞ」

「……呪いや、自滅機能なんかを乗せてもいいなら作りますが」


 どうせそれを自分の力だと勘違いするのは目に見ている。ちなみに、材料だけでも金貨2枚以上するらしい。


「それはそれで見てみたいが、変なもんを作って、妙な噂になるのも違うだろうよ」

「まあ、それもそうですね。ひとまず、作る必要はないので作りませんが」


 結局のところ、今回の分について何か補填をする必要はない。それが誰かを傷つけたり、物を壊すなどしていたらそれについては補償するべきだろうが、そういった物損になるようなことはなかったはずだ。


「まあ、何か問題があるようでしたら、その相手から騎士にでも伝えるように言ってください。……で、結局これは何をしたら?」


 俺の交友関係を知っているおやっさんやギルド長が、男爵の次男程度に言われてただ頷くとは思えない。


「誰かしらが責任を取らざるを得なくなる前に、報告とそれに伴う何かをやってしまった方が後々の面倒を避けられる。

 お前さんの所の話はある程度うちの連中から聞いてる。材料は都合してやるから」


 にやり、と笑うおやっさんは完全に悪巧みをしようとしているんだろう。

 俺も、同じような表情をしているかもしれないが。



 仕上がったものは、魔具、に近いものだ。割と高級な素材で作った金属製のバレッタに細いチェーンを通し、その先にギリギリ効果が発揮されない属性石をくっつけたもの。

 属性石以外は、例の男爵の次男が指定してきた素材だ。といっても、俺の紋章も入れていなければ、複数の効果を発動させるような組み換え式のスロット機構は作っていない。

 効果も『SP自然回復促進(小)』のみで実用的なものではないし。

 で、わざわざそれを作って、だ。その次男の名前は知らないし、住んでいる場所も分からない。興味がないから聞くつもりもない。

 ただ、出来上がったら鍛冶師ギルドに持っていけばいいらしいため、明日にでも持っていくか。


「じゃ、出来たので俺はこれで。……一応、数日は休みにするつもりだったんですけどね」

「そりゃ、悪かったな。といっても、お前さんならこれ位は仕事の内にも入らんだろう?」

「それはそうですが。休みは休みとしっかり分別はつけておきたいんですよ。買い物に行く予定でしたし」


 おやっさんはバツが悪そうに頭を掻く。おやっさんでも俺に強制することはできない。要請や依頼はすることは出来ても、だ。


「あー。その、何だ。若いのを1人付けるから、財布代わりに連れて行ってやってくれ。その買い物は俺が持つからよ」


 どんな買い物かも言っていないのに太っ腹な。そう大きな買い物をするつもりは元々ないんだが。



 アンドグラシオンを出ると、付いてきた見習いのジェシカを連れ、割と近くにある服屋に入ることにした。

 価格帯としては、ほとんどが日用品レベル程度で、たまに何かしらのお祝いの時に着るような服を扱っている、いわば大衆用の店だ。

 ジェシカは俺が上級職人であることを知っているため、訝しそうに見るが、普段着でそんな高額な衣類を身に纏うつもりはない。中古ではなく、新品のみを扱っている店だから良いと思うんだが。


「あの、もう少しご購入されても、親方は何も仰らないと思います」

「傷んでいるものを取り換える程度ですから。後は少し予備も購入しますが、特にめいっぱい買わないとというわけでは」


 と言っている横から何故服を追加するんだ。しかも、店の価格帯として上位のものばかりを。


「親方から、きっと相応の物品は選ばないため代わりに選ぶよう、聞いてます」

「……そうですか」


 スポンサーだと思ったら、何というかもの言う株主ではないが、資金提供だけではないらしい。

 流行の衣装なんかは知識にないため、そういう意味では助かる気もしなくはないが、少し使われている原材料が良くなっているだけでそんなにデザインなんかは大きく変わらない。細かな刺繍などが施されているものもあるが、鍛冶をする人間が着るには相応しくない気がする。

 と言った所、休みの日に着るものだと言われたが、ここしばらくまともに1日休んだ記憶がないのは何故か。

 それを告げても引かれることは分かっているため、曖昧に返事をするしかなかったが。


 結局、俺自身が選んだものよりも大量の荷物を買うことになり、大きめの木箱に詰めてもらったのはいいんだが、俺とジェシカではまともに運ぶことが出来なくなってしまったため、一部を除いて運搬を頼もうとした所、運送ができる見習いがいないからと断られてしまった。

 ある程度のチップを積んでもいいんだが、以前から考えていた物資の移動手段を試してみてもいいか。

 方法の1つ、ではあるが。


 イメージとしては、何が最適か。俺が以前、『レジェンド』でクランメンバーに教えてもらった技の中に、ボールの上に細い板を渡し、その上でバランスを取りながらナイフでジャグリングをする、というものがあった。

 どこかの雑技団でもやっていた技らしいんだが、ともかく、小さな円形に丸めた金属板の上に大きめの板を乗せ、その上にさらに荷物を積載する。

 それだけでは勿論板も金属板も耐えられないため、載せた物には『軽量化』を、板や金属板には『強靭化』を付けている。

 金属板や板はその辺の雑貨屋で売っていたものを少し加工したものだ。

 それを俺の持つ『軽業師』のスキルを使って運んでいく。

 勿論そのままでは板が丸めた金属板の上を滑るだけだから、それに合わせて金属板も回転し進むように工夫はしたけれども。

 そんなその場で作り上げたものに対し服屋の店主は相当驚いていたが、まあそんなに気にしなくてもいいだろう。荷物の上に乗っているわけではなく、板を押しているだけだし。

 その気になれば、俺が隅に乗ってそのまま手漕ぎのトロッコのごとくバランスを取りながら移動させることも可能なんだが。


「その、ソラさんは器用なのですね?」

「これでも、魔術職人でもありますからね。手先は器用ですよ。……ただ、これだと当初の通行人の邪魔をしない、という目的にそぐわないんですよね。やはり、リモートクラウドを軸に開発を進めるしかないか」


 今はほとんど人が出歩いていないから邪魔になることはあまりないだろうけれど。

 とはいえ、1つの手段だけに固定化するとそれが飽和した時に身動きが取れなくなる。リモートクラウドの場合、実際に運用を始めると空が渋滞したり、何かがぶつかって荷物が落下してくる危険性だってある。

 実証実験も現時点ではできていないし、他の手段も講じる必要はどうしてもある。

 そんなわけで、機会があれば少しずつ試したいんだが、魔術職人としては大量の原材料を運ぶことはまずないし、錬金術師もそうだ。

 そういう意味では何人かに実験的に渡すのが一番なんだろうが、誰を選ぶかによって色々とが変わるため、むしろそれはギルド長に丸投げするのが無難な所か。

 ちなみに、ジェシカが運んでみたいと言ってきたため、代わってはみたがすぐにバランスを失い崩れたためこれはやはり向いていない、ということだけは分かった。

 材料費が安く、接地面さえ確保してしまえばという前提もあるが、うまく運べる人がいれば割と場所を考えず使えそうな気もするけれど。

 ちなみに、リモートクラウドは地面まで降ろして家に置いてある。リモコンはアイテムボックスにしまっているため、誤ってレニが怪我をすることもないように動作は一切させなくした上で、だ。


 それはともかく、ついでに幾つかの買い物も済ませておいた。勿論それらは自分で払ったものだ。



 アンドグラシオンと家の分岐点辺りでジェシカと別れ、家に帰り着くと服を改めて分類していく。

 仕事着、普段着、休みの日なんかに着る少しいい服、それと何故か紛れ込んでいた妙に仕立ての良い、明らかに豪商や下級貴族の着るような服、と種類ごとに分け、部屋のクローゼットに放り込んでいく。

 何気に仕事着と普段着がこれまで同じだったんだが、生地の傷み具合を考えると分けた方がいいとは思う。

 見習いではそこまでの金銭的余裕はなく、ほつれたり破れたものを騙し騙し使っていくもの、らしいんだがむしろ俺の場合はある程度そういうのにもお金を使った方がいいんだろうか。

 食料品や、たまに母やレニにお土産は買っている他は俺が個人的に使う素材類にしか使っていないため、貯まる一方だから少々使ってもいいのかもしれない。

 服は、一度水通しをした方がいいと以前聞いたことがあるが、埃や化学物質を除去するため、あるいは生地を長持ちさせるためにした方がいい、とか何とかだったと思う。

 一応そこそこのものについては魔法で洗浄・乾燥はしておいたから問題ないだろう。普段着や仕事着は割と数が多くなってしまったし、そこまで気にする必要はないだろう。

 念のため、普段着は水洗い、というか前に作った洗濯機で軽く洗っておいたが。

 それに、オウラから借りていた服も洗ったから、フェネジアの様子を見るついでに返しに行くか。

 接触した相手がいないかを聞けるようであれば聞いておきたいし。

 それと、また使えそうなため金属板はアイテムボックスにしまっておくことにした。



「そレは、お礼ノ一部。返さレテも、うちニハそれを着れる体格ノ使用ニンはいナい」

「……なら何故それを持っていたんだ?」

「元々、ソラに渡す予定ダッタ。機会がなかったカラ、ちょうどよかった」


 道理で、俺のサイズにちょうど合うわけだ。……いや、待て。襟の短さはいいとしよう。俺が普段履いているズボンはもっと丈が長く、大体短くても膝下、普通はくるぶし辺りまであるものばかりなんだが。

 外套は使い勝手が良さそうなため、他のと比べそれだけはそのまま使えなくはないとは思うんだが。


「ひとまず、それは置いておく。フェネジアの様子は、どうだ?」

「今ハ落ち着いて寝ている。苦しそうな様子もないし、油断ハしないケレど、多分、平気ダト、思ウ」


 女性の寝室にまで押し掛けるつもりはないから問題のないならそれでいいか。

 念のため、幾つかの効果ポーションと通常のポーションを渡して、服はとりあえずありがたくいただくとしよう。


「アとは、また正式ニ。クニに戻レば、目録も渡セるンだけれど」

「別にそんなに考える必要もないだろ。というか、別に何か欲しくてやったわけじゃないからそう気にするな。

 それに、そういうのは、何というか手柄を上げた家臣に与えるものだろ? 俺とオウラは友達だから、そういうのは不要じゃないか?」

「ソれと、コレは別。ワたしだけでなク、フェネジアの分モある」


 何故か折れないオウラに押され、その内何か相応しいものを受け取る、ということで決着はついた。

 そんなに褒美? を渡したいとは、モノズキな。

 オウラから言わせれば、俺の方が変わっているらしい。……失礼な。


 用事はひとまず済ませたため、とりあえず町に出てみたのはいいんだが、やることがない。

 したいことは山ほどある。採掘とか採取とか生産系のことは勿論なんだが、いい加減本格的に体を動かさなきゃやばい。

 多少の運動はしているが、戦闘を前提としたものではない。

 魔王との戦いにでしゃばるつもりはないが、採掘をするにしても戦闘はほぼ起こるだろう。数か月前よりも魔物の分布図は拡大し、より多く、より強くなっているようだし。

 というわけで、武器と防具の仕入れだな。……俺はあくまでも魔術職人であり、錬金術師だから武具は作るつもりはない。散々作った気もするが、たまには人の作ったものを見るのもまた勉強になるだろうから。



「うちでは、ソラさんにお出しできるような商品の取り扱いはありませんが……」


 と、いきなり断れたのは何故か。


「いえいえ。ちょっと外に出れそうなので、軽装の皮鎧でもあればいいんですけど」

「革も布も、金属を使わないものでもあなた以上のものを用意できる自信がありませんよ」


 いやいや。……何か見られ方がおかしい気がするんだが。


「俺は自分だけで自給自足は出来ませんし、全てを自分で用意することもできません。

 それに、俺は鍛冶師であっても、武具の専門じゃないですから」


 俺は、それこそ一点に特化した武器を作ることは出来る。魔術品の応用で誰にも模倣すらされない防具を作ることもできる。

 ただ、ある意味でそれだけだ。普通の、と銘を打つものを俺を作ることはできない。

 革鎧や服でさえ、気付けば他にない一点物(ワンオフ)になってしまうのは、決して職人とは言えない。

 スキルを使えば全く同じものを作ることは出来なくはないはずなんだが、使ってみた結果、全てが異なるものに成り果ててしまったのは忘れたい出来事だ。

 ……何故、革の鎧を作ろうとしたら、炎舞姫の儀典王鎧なんて良く分からないものが出来上がったんだ。

 思った通りの装備を、思ったように、かつ万人が扱えるものを安定して供給できないのでは、なあ。


 そんなこんなで、初心者でも装備するかどうか正直怪しい革の装備、鎧に篭手、脛当といったものを購入した。

 武器は、『双炎』のテストを行う必要もあるし、今回はそれを優先させよう。

 一応、外套を羽織ってダミーの短剣辺りは用意しようと思うが。



 というわけで、着いたのは冒険者ギルドだ。

 ボロボロに偽装した外套を羽織り、顔もやはりボロボロの包帯を巻いた姿は、我ながら怪しさ満点だと思う。

 同じような恰好をした冒険者は少なくはないが存在はするらしいから、目立ってはない、と思うけれども。


「あ、あの。何か、御用でしょうか?」

「……登録に」


 声を低く、そして少し籠ったようなものに変えているためか、受付嬢がびくついたかのように俺に接している。

 ただ、それでも職務はきっちりとこなすのか登録用の羊皮紙を渡された。


 冒険者になること自体は他のギルドに所属するよりも圧倒的に簡単といえば簡単だ。

 鍛冶師ギルドは実力面を見るか、後継となる師匠がいるか。商業ギルドは取り扱う商品が具体的に何か、どれくらいの数量金額を扱うか、それと加入のための金銭や品物を納める必要がある。

 それに比べギルドは名前を書くだけで加入できる。名前も書けない場合は代筆も可能なようだ。

 そして、冒険者の中には一部自分の名前も分からない人間がいるらしい。

 そういった存在もなれる、ということもあり、冒険者という存在の多くは社会的地位も高くない。

 というわけで、冒険者には偽名でもなれるし、本名を隠して活動することもできる。

 よくも悪くも、それは隠し蓑となるため冒険者だと公言するものは冒険者以外はほとんどいない、という分かるような分からないような話は聞いたこともある。

 で、提出する名前は『ルベルタ』俺が過去にオフラインゲームで何度か使ったシーフの名前だ。

 オンラインのものだと、どこでことねと会っているか分からないため中々使い辛い。あまり特徴的なものでなければバレることはないんだろうが。

 また、それとは別に、俺の個人情報の記載されたギルドカードも提示しておいた。

 理由は2つある。1つは冒険者には緊急時のほぼ強制的な出動要請があるらしい。町や村、あるいは人がいる場所に対し危険な魔物なんかが出た場合に、傭兵や騎士などに従い戦闘に駆り出される。

 もう1つはある種での好条件を得るためだ。生産職である俺が緊急時の出動に応じても役に立つわけにはいかないし、同じような活動をする時間もない。

 そのため、少しではあるが偽造したギルドカードを提出したんだが、受付嬢は固まっている。

 ああ、偽造といっても、自分自身の権限で錬金術師としての所属をギルド長代行から上級職人にまで表記を下げた。実際の降格ではなく、活動を行う中で不利益を生む可能性がある場合は表記だけを下げることがギルド長には可能らしい。

 そんなわけで、俺のギルドカードには、鍛冶師と錬金術師が上級職人、商業ギルドの一般相当、がある種異常に見えるかもしれないといった所だろうか。

 また、勿論ギルドカードには俺の本名、といっていいのか表記されているのはソラの名前で、書いたルベルタではない。



「それで、何で冒険者なんぞになろうと思ったんだ?」

「まあ、別件で動くことがあり、それに対して必要だと思ったから、ですよ。ギルド長どの」


 少しの停止後、動き出した受付嬢に捕まれ、奥にある個室に連れていかれたと思ったらすぐに以前会った失礼なおっさん、もといギルド長がやってきた。


「そうか、変わってんな」

「……あなたにそう言われる覚えはありませんが。それで、俺が冒険者になることに何か異論でも?」


 ギルド長、もとい失礼なおっさんに問いかける。確かに不人気というか、あまり人に勧められる職業ではないらしいが、現在の地位としては以前よりも向上しているだろうに。


「そりゃ、異論はないさ。俺らはよっぽどの奴以外は何でも受け入れる。そう、決まってんだからな。

 だが、受け入れるわけにはいかない毒ってもんもある」

「確かに、俺は毒をも扱いますよ。そういう、意味ではないでしょうけれど」


 錬金術師は薬も毒もどちらも等しく扱う。そこにベクトルの差はあれ、意味合いとしての差はさほどないからだ。

 むしろ、毒は薬になるし薬は毒になる。具体的には普通のポーションを作っていたはずなのに毒薬が出来てしまうことも、なくはないということ。

 お姉さんの謎技術もそこに含まれる現象の一端に近い可能性が高いが、まあ今は関係のないため置いておこう。


「あんたを一目置く奴は多いらしいな。うちの奴らからもあんたの名前は何度か出てるらしいじゃねえか」

「俺はポーションも提供しますから。……武具をこれ以上提供するつもりもありませんが」


 その言葉に分かりやすく顔を歪める。


「俺は、もし渡すとしてもそれを使いこなすと思った相手以外に渡すつもりはない。

 ……あんたは力はそこそこあるようだが、武器を上手く使おうっていう風には見えないな。多少の権力があろうと、強制できるものじゃないからな?」


 つまり、何かしらの才能なり秀でたものがあるからこそギルド長にまでなったんだろうが、戦士という視点から見た時に強いとは全く思えない。

 ぶっちゃけ、俺がペティナイフ1本でも持てば圧倒出来ると思う。いや、俺の矜持として今まで出会ったほとんどの相手にはレターオープナー、ペーパーナイフでもあれば何とかなるとは思ってはいるんだが。木の枝なんかでは強度がなさすぎるから難しいとは思う。

 それで通じなさそうなのは、ことねとロリ神位じゃないだろうか。実力が見え辛いため、実際の所は分からないけれど。


「……どうやら俺は喧嘩を売られているらしいな?」

「先に売ってきたのはそっちだろう? ま、興味も関心もあんたにはないから、これで失礼する。

 ……ちゃんと登録は済んでるんだろうか?」


 苛立ちを隠そうとしないおっさんを相手に俺も不機嫌さを隠さないまま立ち上がり、部屋を出る。

 本来なら俺もここまで言うつもりはないんだが、前回の事もあるし、何よりも冒険者、らしい気がする。

 それに、それ以上に言いたいこともあったんだが。とはいえ、喧嘩を売って面白い相手でもないから、これ以上の損が出なければ関わらないだけだ。



 受付で冒険者用のギルドカードを受け取ると、軽く依頼が貼り付けられている掲示板を確認し、ギルドを出る。

 そして適当な路地で変装を解き、使ったものはアイテムボックスの中に納めておく。

 で、別の路地から出たら特に怪しまれることはないだろう。俺を護衛している隠密には一部始終を目撃されているだろうけれど、これだけでは問題視はされない、と思う。

 あくまでも今回の俺の目的はこれだけじゃないし。主目的は、これから向かう場所にある。

 いや、本来なら服を買うのが主題で、それ以外は特に考えてはいなかったんだが。

 そもそも、外に出る口実と準備はある程度必要だが、好んで今の所戦いたいわけでもないんだし。

 前回の欲求不満が全く解消されていないのが問題だからこそ、徹底的に準備は行うけれど。



 そんなわけで、今回の主目的となる場所。それは、一見したら単なる空き家。に見せかけた秘密の武器屋、だ。

 秘密といっても違法なものを扱うのではなく、ある種、俺達鍛冶屋向けの武器屋だ。


「『ニベル』何か掘り出し物は?」

「あんたか。なくはないが、何が必要だ?」


 狭い室内に武器は置かれておらず、渡されたのはカタログが1冊。

 それは今この店で取り扱っている武器の一覧を載せたもので、置く場所に困った在庫処分品から自分で扱うには客層の違う物。

 あるいは作ったはいいが、同じものを作れそうにない場合、だ。

 それが自分の最高傑作品であれば話は別だが、たまにできる質のいいもの。については正直店に並べて販売してそれをまた求められても数を用意できない、あるいはそれが基準となってしまい客足が遠のいてしまう場合もある。

 あるいは俺のように本来は武器を扱わない職人にも関わらず、勉強のためだったり、気まぐれだったりで作ってみたはいいものの、自分で売るつもりもないがそのまま倉庫に放置するのも何となく惜しい、そういったものが流れ着く場所だ。

 そういった経緯もあり、扱っている商品は基本的に作成した工房を表す印がない。印を入れるような作品はその工房を代表するような作らしく、そういった意味では入れない意味も分からなくもない。

 ちなみに、印と俺が王に献上したものにいれた紋章とは意味合いが違うらしい。印自体入れることを許可された工房は少なく、この町では3つ。紋章を持つのは、ギルド長には聞いてみたがはぐらかされてしまった。

 そういう意味では俺も滅多なことでは紋章を出さない方がいいんだろう。きっと。

 おやっさんをはじめとする一部の職人は作成者の銘を刻むことはあるようだが。

 ともあれ。カタログには簡単なスペックと外観の記載がある。それだけで俺は誰が作ったかの予想は付く。恐らく俺以外の上級職人なんかでも分かるんだろうが、それを探るのはよろしくない。

 例えば、この短剣はあの人の作ったものだろうし、こっちに載っている杖はあそこの人が作ったんだろう、と確証に近いものを感じても、それをわざわざ指摘する必要もない、ということだ。

 といっても、職人はやはり売ることが多く、購入者のほとんどはその辺りの事情を知っている冒険者らしいけれど。


「それで、背負っているのは売りに来たのか?」

「いいや。これは、実験ついでに持ち運んでるんであって売れるものじゃないよ。と、こっちも追加な」


 追加用の投げナイフや細見の短剣を選ぶと、金貨を15枚ほど渡す。10万R(ルード)の消耗品となると、割と高額ではあるが、短剣は投げなくてもいいし、修理は自分で行える。

 ちなみに、この店の店員は複数いるが全員『ニベル』と名乗る。本名では勿論なく、ペンネームというか偽名の一種で、この店専属の職人らしい。

 俺も何度かこの店に武器を売ったことはあるため、ある程度の事は分かるが、深く関わることもないだろうから、らしいだけで済ませているが。

 自分で使う分くらい作ればいいじゃないか、ということも考えたんだが、作ったはいいが表に出せないものばかり出来上がったため、同じ表に出せない物でも意味合いの違うこっちに白羽の矢が立ったということだ。



 そんなわけで色々仕入れ、そのほとんどを箱に入れてもらい、さっきのアイテムボックスに入れていた金属板を改めてその下に引き、転がしていく。結構重いが、運べない程ではない。

 ちなみに、さっきの服屋と違い有料で購入品を希望の場所に送ってくれるサービスはあるが、武具を家に運んでもらうわけにはいかないし、別の場所でも問題がある。

 軽業師のスキルを連発しているが、それでも俺をそっちの面で鍛えたやつらにはまだまだ敵わない。ボールを縦に5個重ねたものの上で片手逆立ちをしながら足でジャグリングをするような相手を基準にするのは間違っている気もするが。


 家に帰る、前に錬金術師ギルドに寄ることにした。ノルンさんとイオンの様子を見るためだ。

 ある程度安定してきているとは思うんだが、呪いがどう作用するか分からない以上、あとは一気に解呪してしまった方がいいんだろうか?

 そうなると、禁薬を使うか、無駄に派手な魔法を使うか、という話になってくるんだが、魔法は最悪の時以外は使わないように、したい。

 禁薬は、禁忌薬・ライラの霧隠れもそうだが、効果は絶大だが材料がまともな神経をしていたら用意できないものだったり、あるいはそもそも色々な意味で作ること自体がまずいものが多々ある。

 あるはずなんだが、俺の作れる禁薬の内、その大多数は俺自身が作り出したオリジナルのレシピで、この世界には存在していないものがほとんどだ。

 その少ない、この世界にあるらしきものとしては、『仮死薬』に『死人薬』、それに『ビルエントの口づけ』の3種だ。

 仮死薬は一時的な死の状態までもっていき、死人薬は死者の肉体に一時的な生を戻すもの。ビルエントの口づけは、死んでしまった肉体を無理やり動かさせる、つまりゾンビを作るもの。

 どれも肉体に対して効果を、特に死についてのものは特に禁忌中の禁忌で誰も手を出してはならない物、のようだ。

 ただ、イオンにかかっている呪いはその手のもののはずなんだが、禁術としては指定されていないというか、存在が確認できない。

 よっぽど特殊なことなのか、あるいは別の何か、なのか。それを確認する術すら今はないのが歯がゆい。



「ノルンさん。何か変わったことはありましたか?」

「いえ、あの後からは特に。イオンさんも、特に問題はないようです」


 錬金術ギルドのギルド長室の隣、臨時の秘書室にしている場所でノルンさんに話を聞く。その間にノルンさんのステータスチェックを行うが、特に異常は見られない。

 あとは、イオンの様子を見に行くとしよう。

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