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第40話。フオンiii

 襲撃者のボディチェックをして貰った所、危険物のバーゲンセールか、と言いたくなるほどの量を隠し持っていたらしい。

 使途不明の符や爆発物らしきもの、毒にロープに諸々。麻痺薬らしきものも確認できたということだから、第一優先は拉致で、それがうまく行かない場合は、ということなんだろうが雑すぎる。

 さて、少し冷静に考えてみよう。恐らく、俺を拉致したり触媒を奪う、というのは出来ればといったもので主目的ではないと思う。

 背後にいるのは、『ディルキリウスの死鱗』に似た呪いをかけたもの。それも、ある程度権力を持つような相手だろう。

 そうなると、狙う相手と方法はある程度絞られる、か。



 地響きと、吹き付ける風と共に爆発音が聞こえ、もうもうと黒い煙が上がったのは学園の方だ。まあ、そうだろうな。

 逃げ惑う人々の悲鳴、……大惨事だな。いや、ここは冷静になっている場合ではないか。


「触媒を設置した場所へ人々を誘導してください! 俺は学園に向かいます!」


 まだ学校は終わっていない。逃げてくる人々に学生がいないのがその証拠だろう。


「ソラ殿! 私の後についてください! バー、後ろは任せたぞ!」


 俺の意図を汲んでくれたのか、危険はあるはずだが止められはしない。それだけ信頼されている、んだろうか?

 2人の騎士に挟まれ、学園へと向かう。さて、俺がやることがどれだけ残ってるだろうか?



 と、走って数分。いきなりすること、というか障害が現れた。

 しかも物理的な障害、つまり爆発に巻き込まれたのか、倒れ崩壊した建物の残骸、だ。

 煉瓦造りの家だったのか、ある程度高さはあったはずのそれは、崩れているため俺は上を渡っていけるが、騎士2人はどうだろうか。

 登って行って途中で崩れでもしたら危険だから、迂回した方がいい、か? 迷って時間を無駄にするわけにもいかないため、迂回するか。急がば回れ、だ。

 といっても、ゲームとは違い、崩壊していない建物に入れてもらい、逆側の扉から出るだけという不自然なオブジェクト化していたという過去のRPGゲームなんかでは考えられないような方法を取って通過しただけだが。

 ともあれ。そうやって抜けた先には襲撃者らしき男たちと対峙する騎士や門番たち。

 どちらもしばらく戦っていたんだろうか。少なくない傷や防具や武器の破損具合を考えると一進一退の攻防といった所なんだろうが。


「……無効化しますから、後お願いします」


 何とも言えない空気になりそうだが、仕方ない。正面にしか気を付けていない隙だらけの背に向け、『麻痺』と『停滞』を付与する魔術品を発動させ、一気に無効化させる。

 驚愕を貼り付けて声もなく倒れていく襲撃者と呆然とした表情の騎士。もしかしたら何かクライマックスを迎えていたのかもしれないが、さっさと危機を回避する方が大切だから仕方ない。


 とはいえ、そのまま放置するのはあまりにも、だったためひとまずポーションだけ渡して、報告のためについてきてもらうことにした。

 最低限の守備力は保持しなければならないため、1人だけだが。



 学園にはほぼ顔パス、この場合は騎士パス、だろうか? 大したチェックもせずに通過させるのは騎士がついているからだろう。

 不審者に対しては今の状況もあり通すわけがないだろうが、騎士の恰好をしていたら別、ならだいぶまずいが。


「よ、平気か?」

「ソラ? お主、何故ここに?」


 案内された先には何故かマイアが居た。お前、何で外に出てんだよ。


「色々あってな。で、こっちはどうだ?」

「……この通り、今は収束に向かっている。爆発が何回か不発に終わったらしいが、お主か?」

「場所によってはそう、だろうな。とりあえず20人弱位捕まえたから尋問したら何かしら黒幕の痕跡には辿り着くだろ」

「無理をするなといつも言ってるだろうに」


 睨まれるが、今は多少の無理も無茶もすべきだろう。そういうとまた怒られそうだが。


「ともかく、だ。面倒なことになった。恐らく、これだけじゃ終わらないだろう」

「どういうことだ?」


『ディルキリウスの死鱗』から始まる一連のこれらは一種のテロ、しかもこの町や貴族の動向に詳しい誰かの仕業の可能性が高い、と順を追ってマイアに報告した。


「次から次へと面倒な。バーミリャの一派の者か、あるいは、まさかな。……すまないが、お主の力、借りれるか?」

「おう。何をしたらいいんだ?」

「錬金術の秘儀の中に人を探すことの出来るものがあると聞いたことがあるが、持っている、あるいはすぐに作れるか?」


 人探しとなると占術(せんじゅつ)、つまり占いの領域になる気がするが、どちらかといえばMAP機能を使った『気配探査』やナビゲーション機能に近いものが必要なんだろう。

 それを実現させるとなると、ネタアイテムばかりが思い当たるが、効果や名称を考えると今は出しづらい。


「『ノイシュヤッドの(いざな)(とう)』なら使えるか。材料は、ここらにある分で足りそうだな。

 じゃ、ちゃっちゃと作るから騎士たちに準備をするよう伝えておいてくれ」


 『ノイシュヤッドの(いざな)(とう)』の材料は植物の蔓に枝、蝶の鱗粉、蝋、そして燈心(とうしん)となる糸や草の髄だ。

 蝋だけが足りなかったため、学園にあった蝋燭を少し貰いはしたが。

 蝋を溶かし、燈心に浸し固める。その周りに枝を編み、蔓を這わせ、鱗粉を振りまいて完成だ。

 見た目は、単なる枝と蔓でできた丸い何か、だが。


「……これが錬金術なのか? 魔力を使って作り出し物だと聞いていたが」

「傍目では単に照明器具としか見えないだろうが、まあ錬金術としての本質はこれからだよ」


 出来上がったそれに魔力を籠めると、ゆっくりと浮き上がり枝がほどけ、中から作った蝋燭がせりあがる。

 そして火をつけたわけでもなく、自然と芯から明かりが零れ、周りを照らしていく。


「探したい相手の顔と名前は分かるか? わかるのなら、そいつの事を頭に浮かべるんだ」

「……浮かべるのもしたくないような相手だが、仕方ないな」


 嫌々そうにため息を吐くと軽く目を閉じそれを思い描いているらしい。

 それに反応し、ノイシュヤッドの誘い灯に火が灯り、その明かりがその相手の現在の様子を映し出す。


「固定化もできたし、もういいぞ」


 映っているのは短く銀髪を刈り上げた無駄にごついおっさんだ。

 見覚えはないんだが、軍属といった感じで目つきは厳しいが、何だろうか。人としての厭らしさというか、いかにも企んでいます、という表情が悪人です、と自分から言ってるように見えなくもない。

 それ以上に、周囲を囲む襲撃者たちと同じ格好をした複数名が黒幕です、と名乗っているのと同じだろう。ご丁寧に怪しげな爆発物や薬品類も置いてあるし。


「……やはり、奴が黒で間違いないか。今、どこに居るかわかるか?」

「ああ。……わざわざドブ板に根城を持つ位だから、だいぶ後ろめたいというか、計画的なんだろうな。周囲を警戒してるのは、20人。

 中はこのおっさんを含め8人。諸々を貸すが、俺も出た方が」

「ならん。お主はここに居ろ。いいな、命令だ」

「物資が足りない時に困るのは実際に戦う騎士だぞ? ポーションの類はいいとしても、取り扱いに困るようなものは、っておい、マイア?」


 がっしりと抱きしめられる。いや、おい、お前何してるんだ?


「マイア。いや、お前な。遊んでる場合じゃ、って何で俺を縛る?」

「人が死ぬ。そんな場面にお主を連れていく訳がないだろう? 安心しろ。私も一緒にここに居る。これ以上、貴族のごたごたに巻き込むわけにはいかないからな」


 いつ打ち合わせをしたのか、後ろで控えていた騎士が俺の足や腕を縛っていく。抵抗しようにもマイアを怪我させるわけにもいかないし、縄を引きちぎることも、恐らくできないだろう。双炎を引き抜けば何とでもなるが、そうすると別の問題が出てきそうだ。


「……俺を身動きできなくして、お前まで行くのは無しだぞ」

「分かっている。心苦しくはあるが、……の方が、……からな」


 口の中で呟く声は耳元で囁かれても聞き取ることができない。そんなマイアを労わるかのように騎士たちはそっと部屋を出ていった。


「悪いが、座らせて貰えるか? 縛られた状態だと、案外立ってるのがつらい」

「あ、ああ。そうだな。椅子はこの部屋にはないからこのまま床にで構わないか? 椅子を取ってきたら、そのまま居なくなりそうだからな」


 ちっ。マイアを部屋から出して縄をほどく作戦だったんだが、そう上手くはいかないか。

 ぶっちゃけ、ステータスから装備欄を開けば縄を解除することは容易だ。だからこそ人前ではそれが出来ないんだが。


「はぁ。他に選択肢がないならそうするしかないだろ? 座るから、支えてくれ」

「ああ。こうか?」


 そのまま座ろうにも倒れそうで少し怖かったため、マイアに補助を頼んだ。頼んだはいいんだが。


「座れたから、離してくれ」

「……少しだけでいい。このままじっとしていてくれ」


 座るときに横側から背中と腰を支えられ座ったんだが、その体制ではマイアも同時に座ることになり、何故かそのまま抱きしめられた。

 こいつ、頬をやけに触ったり色々な場所を触ってきたりと接触がやけに多いんだが、甘えたがりなんだろうか?


「少しだけな。けど、他の奴がもし来たら、離れろよ?」

「……構わない。見た者が居たのなら、見せつけてやればいい」

「誤解されても、解くのはお前だからな?」


 俺の肩辺りに顔を埋め、強く抱きしめてくるのは割と痛いんだが、我慢すべきか。特にこれでHPが減るわけでもないみたいだし。


 時たま何か体勢を変えたいのか、ぐにぐにと動くのはやめてほしい。というか、何故最初は顔位しか密着させていなかったのが、上半身全部を使って抱きしめてきているのか。

 何ていうか、あれだな。ええと、さっきとは別の意味で『冷静沈着に(Be cool)』を使い続けているのは勘弁してほしい。

 二次性徴を迎えていないとはいえ、精神的には俺はそういったことはあれなんだからな?!

 微妙にスキルが間に合っていない感もあるんだが、それで済んでいるだけましというか、むしろ生殺し感が高まっているというか。

 流石に、この状態で何故、ということは聞けない。俺が勘違いしている可能性があるのは重々承知の上ではあるんだが、それ以外の言葉が返ってきたら俺は家から出ず、引き籠ってしまう自信はある。


「な、なあ? マイア。人の足音が聞こえるから、そろそろ放してくれないか?」

「……嫌だ」


 いや、嫌だじゃないんだが。


「複数がこの部屋に向かってるんだ。お前に用だろうし、こんな格好で対応するわけにはいかないだろ?」

「…………仕方ない」


 仕方ない、と言いながら何故体勢を変えない。仕方ないから解放する、じゃなくてこのまま対応しても止むを得ないといいたいのか?


「姫さ……ま? あ、し、失礼致しました!」


 緊急だったのか、ノックもせずに入ってきたおっさんは状況をどう理解したのか、開けるとき以上の速度でドアを強く閉めた。


「……マイア。確か、あれ学園長だったよな?」

「もう少し、こうしていたかったんだがな。……私は部屋を出て対応するが、勝手に抜け出すなよ?」

「部屋の中でもいいんじゃないか?」

「お主のこのような恰好を、他の者に見せたくはない。いっそのこと、このまま連れて帰ってもいいんだぞ?」

「俺はよくない。……約束は守るから、お前もやることをやれよ」


 名残惜しそうにマイアは俺の横顔に自分の顔を当て、ようやく立ち上がり部屋を出ていった。


 さて。抜け出してもいいんだが、そうすると色々と面倒なのはわかっている。

 舌の根の乾かぬうちに約束を反故にするのも問題だろう。次こういった事があったら複数から監視をされそうだ。



 マイアと学園長との話は長引きそうで、暇を持て余した俺はアイテムボックス上でのアイテム精製に励むことにした。

 暇だから仕事をするのは良くないことだと認識はしているが、やはりそうはいっても暇なものは暇だ。

 家なら本を読んだり、出掛けたりができるが、割とそういうことをしている場合でも本来はないだろう。そもそも縛られてるし。

 ……さっきマイアとのことがある意味で最大ではあるんだが。


「……一体、此処で何を?」

「おー。騎士に囚われてな。むしろ、何でここに来たんだ?」

「それは僕が聞きたいよ。騎士様から姫様を呼んでほしいって言われたから事前に言われていたこの部屋に来たのに」

「……騎士から、マイアを? スコット。部屋の外に居る隠密に、今の言葉を伝えてくれ。それを伝えたら、お前はトール達と合流して、そうだな。出来ればハッフル氏の元へ向かえ」

「師匠の所に? いいけど、どうして?」

「ハッフル氏にはやってほしいことがあってな。それに、隠密も一緒に向かうように。いいな! ハッフル氏に確実に伝えてくれよ?」


 最後の台詞はむしろ隠密に伝えたものだ。今のタイミングでマイアの居場所を知らない騎士がマイアを訪ねるわけがない。

 となると、騎士のふりをした刺客か、内通者がいるということに他ならない。

 縛られたままの俺からの指示に首を傾げながらも、触れてはいけないと感じたのか微妙な表情のまま頷き去っていくスコット。

 本当なら解いてほしかったんだが、一応様子を見ておきたいこともある。何事もなく終わってくれるのがベストではあるが。



 マイアを待つ間に町の被害状況はある程度把握できた。現状被害は拡散しておらず、被害も貴族街や貴族に関わりの深い商店だけらしい。

 ただ、気になることは見る限りで被害があった場所に共通点が見えない、ということだ。

 俺が気づかないだけで派閥だったり何だったりがある可能性があるが、少なくとも特定の個人だけを狙っているようには見えない。

 オウラの側仕えが被害に遭った以上、割とヤバい問題になっている可能性が高いが、国内外を問わず、あるいはたまたまフェネジアが巻き込まれただけということも考えの1つには入れておこう。


「待たせたな。……抜け出していても不思議ではなかったが、そうしていなくて何よりだ」

「一応約束したからな。そろそろ痛くなってきたから外してくれないか?」


 何故か苦笑されるとあっさりと縄を外される。それなりにきつく縛っていたためか、跡が残っているんだが、魔術品で隠すか。


「すまなかったな。それよりも、スコット達が聖女殿の所にお主の指示で向かったようだが、何か作戦でもあるのか?」

「ハッフル氏の所に避難させただけだよ。あいつらなら俺が持たせた魔術品で防御力は多少あるはずだが、狙いは恐らく貴族、あるいはお前だからな」

「騎士に内通者が居るかもしれない、ということだな。恐らくこの状況では、居るだろう。理由はまだ分からないが、許されたものではない。

 私だけの判断で全てを決めるわけにはいかないが、だからといって何もしないわけにもいかない。よって」

「黒幕に話を聞きにでも行くのなら俺も行くからな。つーか、悪手だから止めろ」


 せめて相手が誰で何が目的でこうしたかが判明してから動くようにしてくれ。


「だが、それも私の役割だ」

「んな、勝手に思ってるような役割はどっかに捨てとけ。それよりも被害のまとめと二次被害を出さないように対処するのが先だろ。

 ……いざとなったら、ゴーレムでも何でも出して排除するさ」


 むしろ、そっちの方が早い気がするが、下手にそれでゴーレムの優位性が明らかになるのもまた困る。

 そのため、するとしたら『がおーらいおんさん』や『でふぉるめうさぎ』でかく乱しつつ騎士を投入する位か。

 ……ゴーレムの名称は俺がつけたものではない。


「そういや、渚とことねはどうしたんだ?」

「ナギサとコトネなら、待機している。出番があるべきではないが、もしもに備えてな」

「出番は、ない方がいいんだろうが、難しそうだろうな」


 さっきから、『気配察知』が何度も同じ警告を出している。場所は、さきほどノイシュヤッドの誘い灯が映し出した場所。


 イサコ・ゾノホル

 Lv.36

 憑依:ガガフル(第5階級悪魔)


 俺の知っている悪魔の知識としては7爵位による王を頂点とする72柱のものだった気がするが、そこまでは同一ではないらしい。

 まあ、それはそうなんだろうが。

 問題は、憑依状態ではレベルを見ることができないことと、その名前を聞いたこともないということだ。

 こっちで悪魔と対峙したのはサイクリヴォルスのみだ。あれを最終的対処したのはハッフル氏だったが、スキルをほとんど使わなかった状態でも対応できていたため2つほど追加でスキルを使うことで終わっていただろう。

 ともあれ、それとは異なる悪魔で俺も戦ったことのない相手に対し、どうすべきか。

 ひとまず、勇者の出番となるといった所だろうか?



 渚とことねに合流し、ある程度の概略を説明する。ことねは俺の背負っている剣に興味を持っているようだが、無視だ。ことねに持たせるには5年早い。5年もこっちに居させるわけもないが。


「それで、姫様。俺はどうしたらいいんでしょう?」

「出来れば待機を続けていてほしい。だが、そういうわけにはいかない、らしい」

「ああ。これを見ろ。これは錬金術の1つで、人を探すための道具なんだが、それだけではなく、色々と限定的ではあるが『鑑定』が可能だ。

 疫病を持っていたり、危険物を所持していたり、何かが憑いていたりといったものについては特に、な」

 ノイシュヤッドの誘い灯を改めて作成し、さっきのイサコとやらおっさんが映っている。渚は勿論初めて見たそれに目を丸くしているし、ことねも、恐らくセーフだろう。興味津々と眺めているが、不思議そうに見るだけで特に俺を疑いの目で見ているようには見えない。

 一旦ことねの反応は置いておいて、ノイシュヤッドの誘い灯の火に軽く息を吹くと、火は軽く揺れ、煙を上げる。

 その煙は映し出している映像に色と像を重ねる。主に、おっさんに、黒いオーラのようなものと、中に蠢く何かを、だ。


「うわ、何ていうか、グロテスクだね。それで、このおじさんって一体何者なの?」

「イサコ・ゾノホル。確か、男爵家の3男だ。本来なら当代が長男に家督を譲って、平民にとっくになっていてもおかしくはないはずなんだがな。

 それはともかく、あれはこの町の騎士団の分隊の1つを指揮していたはずだ。……名目上だけで、配下代わりの兵が1名ついているだけだったと思うが」


 そういう裏事情は別に聞いてないんだが。つまらなさそうに淡々と話すそれは報告書を読み上げているようで、単に事前に誰かしらから聞いていた話をそのまま言ったに過ぎないんだろうか?


「よくわかんないけど、あまり偉くないってこと? で、鍛冶師くん。この靄みたいなのは何かな?」

「そっちは何かが憑いている状態を示している。色が黒ければ黒いほど深く憑依されてる状態だな。この状態であれば、自我はある程度残っている可能性はまだなくはないが、影響は確実に出てるだろうな。

 そして、それだけの影響を与えられる様なものは、恐らく悪魔あたり、だろうな」

「悪魔憑きってことだね。多分、悪魔だったら光とか聖なるものとかに弱いんだろうけど、私も渚くんもそういったものは持ってないよ?」

「よく効く、ってだけで他の属性でも、いや属性すらなくたって悪魔自体には攻撃は通るはずだ。いや、悪魔にもといった方が正しいか」


 つまり、寄生されているのかそうなるよう仕組んだのかは分からないが、悪魔憑きのおっさんにも勿論有効だということだ。


「ソラ、さん? は悪魔に詳しいの?」

「一度戦ったからな。詳しいほどではないが、全く知識がないわけじゃない。……相手が悪魔だとわかっていたらハッフル氏をこっちまで来させたところを。

 仕方ない。マイア、光属性の使える魔術師は、……そうか。いないか」


 黙って首を振られる。4大属性と言われる火風水土に比べ光と闇の属性の持ち主は相当少ないらしい。

 ことねは魔術の才能はないらしいし、渚も風と火で光の属性を使うことはできないようだ。

 俺が使う、のはなしだ。隠しているし、そもそも魔術を使わなくてもどうにでもしてみる、というのが錬金術師としての俺の矜持でもある。

 悪魔が憑いているからテロ活動をしているのか、それとも活動の一環として悪魔と手を組んだのか。それを知るためには悪魔が邪魔になる。

 というわけで、悪魔だけを排除するための方法を幾つか用意できる。

 強力な聖属性を宿した変わった水『せーなるおみず』や浄化能力の強い『清めるための塩』悪魔やある特定の動作を行うプログラムに対して特効がある『Daemon Buster』などネタレシピばかり持っていたのはあくまでも俺がネタキャラだったからに他ならないが、そういったものの方が効果が高いのも一因としてある。

 正統な聖水や清め塩、符やお香、それっぽい十字の何かや血っぽいそれらも勿論ありはするんだが、正直そんなに効果は期待できない。

 あと、掃除機やバールのようなものもあるにはあるんだが、どちらも形容しがたい何かであり、ような何かの元々の物がない状態で作り出すわけにもいかないだろう。

 あくまでも形状しがたいものであり、名状しがたいものではない。無駄に作成するための難易度が高すぎるだけで、理性や正気を失ったりするようなナニカではないため存在していても問題はないんだが。


「ま、憑依している悪魔を分離させるならこれだけで十分だろ。分離した後はこれで何とかなる、と思う」


 1つは真っ白な丸薬『封煙葬魔(ふうえんそうま)』、もう一つはお香の『インスタントサンクチュアリ』だ。

 物と名称が逆だと思われるかもしれないが、丸薬は投げつけたら煙が発生するし、お香は炊くと何故かそれが領域を生み出すという謎仕様なもののため間違っていない。

 本来であれば『せーなるおみず』をぶっかければほとんどの悪魔は消滅もしくは相当弱体化し人に憑依することもできなくなるんだが、聖属性というものを見たことがないためどう働くか分からないため中々使えるかどうかの判断が難しい。

 そんなわけで誰でも使えてほぼほぼ確実に作用するであろう2つを選んだ。


「ならば、ソラも含め待機だ。勇者どのよ。今焦らずとも、必ず活躍の場は出る」

「焦ってはない、つもりなんだけどね。ねえ、鍛冶師くん。他に危険な人とかいないの?」

「何がどう危険なのかを細かく切り分けてその上で危険物を持っているか、といった判断位なら付けられるが、騎士や兵士に内通者がいるとなると、判断は難しいぞ?」


 あるいは、条件を俺に対し敵意を持つ相手、としたらある程度探すことはできるかもしれないが。


「そうか。……ひとまずは、事態の収拾が先だな。そんな表情をしなくても、ここからも指示は出来る。事前の手回しのおかげで怪我人もほとんどいないようだからな」

「なら手を回した甲斐があったな。……ままならないな」

「『行く術に困ったなら、術を知るものに頼ればいい。術を知りさえすれば、私たちはどこにでも行ける』んだよ、鍛冶師くん」


 前に、どこかで聞いたことのあるような台詞だった。


「そうか。なら、どうすればいいと思う?」

「『術を知る術がなければ、ひとまず行動あるのみ。突貫せよ、若人たちよ』だよ」


 つまり、何も考えず突撃しろということか。いや、あいつは幾ら何でもそこまで考えなしじゃなかった。……そうか、聞き覚えがあると思ったら、あいつの言ってた言葉にそっくりなのか。


「突貫はしないが、そうだな。ソラ、どれだけの量手持ちにある? いや、どれくらい用意が出来そうだ?」

「手持ちは、4セットだな。これから作ろうとするうと、此処じゃ設備が足りないな。鍛冶師ギルドまでいけば、そこそこの量は作れると思う。

 とはいえど、4セットもあればこの町の中に対しては十分だろ」


 魔族は他にはいないようだし、むしろ副次的作用を有効に使うためにはあまり多すぎても意味がない。

 あとは、俺の覚悟の問題、といった所だろうか? 今回はそこまで備える必要はないと、思うけれど。



 騎士には余剰分を残して備蓄分も含め多くのポーションや道具類を渡したらしく、運搬用のカートが何台も走っているそうだ。

 騎士がカートを牽いているのは中々レアな風景だろうが、それを目撃する人はほぼいないだろう。


「それで、鍛冶師くんの背負ってるそれ、何?」

「ちょっと今試してる最中の物でな。俺に馴染むように暫く持ってるだけだ。……貸したり抜いたりしないからな?」


 ことねの表情に不満が浮かんでいるが、そんなのは俺が知ったことではない。

 こいつは、戦闘狂というわけではなさそうだが、恐らく俺と同じようにゲームでの経験を活かして、というかことねなりに楽しもうとしているというべきか。

 ……そういった所をどうこう言えるような立場でもないのは分かってはいるんだが。


「そういえば、ソラさ、ん。追加で魔術品用意することって出来るかな?」

「ん? まあ、効果と形状と素材によるぞ。まあ、何が必要かは後でまとめておけ」


 話を変えたかったのか、渚の無理やり気味な話にひとまず乗ってみようとは思ったんだが、魔術品をこの場で作るわけにも勿論いかない。

 といっても、サンパーニャで作るわけにもいかないため、するとしたら鍛冶師ギルドで、だろうか。

 鍛冶師ギルドに出たら出たらで、見習いの面倒を見る必要があるとは思うけれど。



「……魔族の処理は完了したそうだ。ソラ、あれのレシピは……提供できるか?」

「した方がいいならするし、しない方がいいなら出来ない、と言っておく。悪いが、どっちがいいか決めておいてくれ」


 渡した後気づいたことがある。『封煙葬魔(ふうえんそうま)』と『インスタントサンクチュアリ』のコンボなんだが、適性レベルは500~700ほど。つまり、俺が『レジェンド』をやっていた頃では中盤頃に使っていたものだが、今回の敵に少々使うにはレベルが高い、気がしなくもない。

 ほぼほぼ効果が出るのは分かってはいたが、ぶっつけ本番でかつ、どういった状況だったかも見ていない以上、どこまでの効果が出たかは分からないが、マイアの探るような表情を見る限りでは、やってしまったんだろう。

 本来ならこういう場合は、適性、というか妥当性を守るべきなんだが、この前のイオンの件をまだ引きずっているんだろうか。

 オーバーキルはロマンではあるんだが、何というか、最後に全力でといったものがロマンであり、安全圏内で全力でぶん殴る、のであれば違う気がしてならない。

 俺が0距離魔法使いとして割と無理なことをしてきた結果とも思えなくはないんだが、それを基準にするのもまずいだろうし、頼るのも違うだろう。

 ……それとは別としてあとで、きちんと報告を受けておくべきだろう。さすがに、どういった状況になったのか知らないのはまずいだろうから。


「報告を聞く限りでは強力すぎる。いつか、必要になる時が来るかもしれないが、今ではない、だろうな」

「過ぎたるは(なお)(およ)ばざるが(ごと)しって言うしねえ。……ってわかんないか。翻訳でもこっちに意味の存在しない言葉までは通訳してくれないみたいだし」


 ことねからの爆弾発言に少し動揺する、わけもなくポーカーフェイスを貫く。何となく想像はしていた。

 例えば誰かと話すときはそういった例えはあまり使わないようにしているし、上級職人はともかくとして、見習いや鍛冶師と関係のない知り合いに対しては出来るだけ専門用語を使わないようにも気を付けている。

 それは村に居た頃からだ。

 あの村では教養のある人がほとんど居なかった、ということもあるが例え話自体がほとんど通じない。

 ないものについて分からないのは分かるんだが、何というかあるものを他のあるものに例えても中々通じない。

 まるで~~のようだ、という比喩表現ですら伝わらないことも多かったのは中々言葉のキャッチボールが難しかった、というと二重の意味で理解が得られない程だ。


「ナギサが前に言っていたが、多くとも少なくともどちらも同じように良くない、何事にも適切を守るべき、ということだったか?」

「そうそ。渚くんも流石に現役高校生だね。にしても、姫さまよく日本語なのにわかるね?」

「いや、日本語というものは分からないが、私が使っている『翻訳』の魔術品はコトネとナギサと同じ、ソラの作成したもので、何といえばいいか、何と言ったのかに加え意味合いが何となくだがわかる。

 他の者が使っている『翻訳』の魔術品では同様の事がないから、ソラの作ったものが特別なんだろう」


 そういうこともあるだろう。翻訳というのはあくまでもその言葉だけではなく、その言葉や意味を汲んで相手に伝える技術、らしい。これまで作ったものも、他の職人が作った場合とどう違うのか確認する必要もありそうだ。


「俺の作ったもののことは、まあいい。それよりも、確認をしたいことがあるから現場に出たい。安全の確保は出来てるのか?」

「あ、ああ。大丈夫だ。私はまだすることがあるから行けないが、騎士を護衛につける。それと、ナギサ。ソラについて行ってやってくれ」

「あれ? お姫さま、私は?」

「オウラ姫の元に向かってくれないか? 状況の報告も必要だろう?」

「んー。そう、だね。分かった。鍛冶師くん、渚くんのことよろしくね?」


 ことねは苦笑しながらそう言って何人かの護衛を引き連れ、出ていく。


「……マイア。不機嫌になる気持ちは分からなくはないが、八つ当たりすんなよ」

「八つ当たりなど、していない」

「じゃなかったらことねが原因になるぞ。状況の整理も含めて、頭冷やしとけ。渚、行くぞ」

「あ、う、うん。じゃ、じゃあ行ってきます」


 ふくれっ面を隠そうともしないマイアを置いて、ナギと騎士を引き連れ、現場へと向かうことにした。


「……よかったの? 姫様、怒ると怖いよ?」

「おう。知ってる。ただ、あれはまだ不貞腐れてるだけだ。いや、自分が理解できていない焦燥感故に、といった所だろうな。

 その原因だの理由だのはいまいちわからんが」

「……鈍感」


 ナギにあきれたように言われるが、分からないものは分からない。それよりも、だ。


「一応、これ飲んどけ」

「え? これ何?」

「念のために、な。安心しろ、薬であって毒じゃない。副作用もないから飲みすぎた所で問題はない」


 何の薬か聞きたがるナギに無理やり押し付けたのは『冷静沈着に(Be cool)』を効果ポーション化させたものと、霊薬『エリクシア』だ。

 転ばぬ先の杖、濡れぬ先の傘。本来なら同行する騎士にも飲ませるべきなんだろうが、ある程度そういうことには慣れているだろう。多分。



 町は流石にまだ混乱と、妙な静寂に包まれている。誰もがじっと陰で息を潜めているような、そんな嫌な感じだ。


「さて。勇者、お前に聞きたいことがある」

「え? 突然、どうしたの?」

「ここから先に進む覚悟は、お前にあるか?」


 敢えて仰々しく言ってみる。此処を曲がった先に現場があるため、決してそれっぽいだけで何もないというわけではないんだが。


「う、うん。大丈夫、だと思う」

「といっても、俺が先に行く。お前はここで待機してろ。少なくとも、今は敵はいないだろうからな」


 何か言いたそうな渚を無視して、普段通りの歩調で曲がった先は、何というか。爆心地、とでもいうべきか。


「……爆発でもしたのか? 火薬の臭いは、しないが」

「ん? 確か、トニーの息子だったか。今は、此処は立ち入り禁止だ」

「姫から現場を見てくるよう言われています。すみませんが、先行してください」


 周りに居る騎士に話しかけると、黙って頷き未だに熱気を放っている広場に入っていく。


「この方は、殿下から命を受けている。通して、貰うぞ」

「はっ。……ええと、気を付けろよ?」


 警備兵と騎士とでは立場が違いすぎるし、それが例え要請であっても決して断ることはできない、らしい。

 ただ、状況が分からないでも気をかけてくれるジールはやはりイイヒトイケメンなんだろう。



「この場の処理を行ったのは?」

「私です。指示された通り、丸薬を潰した後、お香を炊いたのですが、ゾノホルから黒い煙が上がったと思ったら、煙が灰になり、そのままゾノホルも同じく灰に」


 道理で大量の灰が広場に積もっているわけだ。


「ゾノホル以外は? というか、屋敷にいたはずのゾノホルが何故こんな離れた場所に?」

「離れた、といっても一区画も離れていないんです。ゾノホル以外の襲撃者と交戦になり、逃げてきたところを補足、何かを行おうとしていたため、実施いたしました」

「襲撃者は? ……いえ、悪魔と関係ないなら問題はないですが」

「それが、関係ないかが正直わからないのです。他の者たちは、血を吐いて全員息がありません。ただ、ゾノホルは苦悶の表情を浮かべて灰になりましたが、他の者は苦悶の表情も浮かべてはいない。特に外傷もないようなのですが、目だけが血走ったかのように真っ赤に染まっていたんですが、すぐにゾノホルと同じように灰になりました」


 ふむ、と考えてみる。『封煙葬魔』の効果は煙を吸い込んだ相手に対し『魔』に対する耐性を与える。つまり普通の人に対しては呪いや悪魔に対しての抵抗性を持つようにするだけに留めるが、悪魔そのものやそれに与するような相手に対してはその特性の排除及び弱体化をさせる。

 それに『インスタントサンクチュアリ』は簡易的な聖域を作成することにより弱体化した悪魔なんかを一気にせん滅する効果を持っている。

 つまり、本人が望んだかゾノホルとやらに唆されたのかは分からないが、完全ではないが一部、あるいは徐々に悪魔に近い存在になっていた所を効果が発動した、んだと思われる。


「ひとまず、この灰は早急に処分が必要になります。……手持ちで、無効化だけは出来るか」


 といっても、無毒化というか、悪影響が出ないようにするだけで、完全無効化するには足りない。

 超高温の炎で一気に焼き尽くせばいいんだが、錬金術では温度が足りないし、もし仮に誰もおらず魔法を使ったとしても、ある程度の広さの場所を一気にとなると、広域殲滅魔法や禁制魔法、設定上のみにあった禁忌魔法などになるが、地面がガラス化したり、物質的な意味での液体化だったり、燃え続ける不毛の永遠大地と化したりとロクな結果にはならないだろう。

 そんなわけで取り出したのは石が2つと水袋が1つ。どちらも単なる石と水では勿論ない。

 まずは石を手で磨り潰し、粉にする。ここで粉に大量に魔力を籠める必要があるんだが、むしろ魔力は灰にわずかに残ったものを吸着させるために使うため、魔力は籠めない。磨り潰す工程で若干魔力が移るが、それは仕方ない。

 それを適当に振りまくと水筒の蓋を取り、中の液体を撒いていく。

 中の液体自体はどろっとした、タールのような比重の大きそうな液体なんだが、空気に触れることにより中の水分と周囲に含まれる魔力を取り込み、ジェル状に変化していく。

 それが広場に広がっていき、俺が撒いた粉ごと灰を飲み込み、包んでいく。


「そして仕上げに、『永遠への回帰』展開。儀技:集約、―――プロセスを固定、体積120%から0.0012‰まで膨張;収縮、プロセスを50回続行。精製、『揺蕩(たゆた)忌子(いむこ)』」


 ジェル状のそれはまるで脈動をするかのように膨張、縮小を行い、ゆっくりと体積を徐々に減らしていく。

 ちなみに、警備している騎士たちは何故か引いているが、多少気持ちは分からないでもない。


 終わるまで暫くかかりそうだったため、場を騎士に任せ渚を連れ、襲撃者たちを収容した詰所に向かうことにした。

 その建物に入った所、鼻につく臭いが漂っていることに気づき、『せーなるおみず』と先ほども使った液体『ブルエインの彗液』を部屋全体にぶちまける。


「……この遺体を搬送したもの、搬送時に居た者全員にこのポーションを服用するよう通達してください。渚は、……お前もだ。

 あと、遺体の運搬から、元々居たであろう場所の全てにこれらを振りまいて下さい。事は、一刻を争います」


 異臭の原因は、腐臭だ。襲撃者がどんな状態であったとしても精々数時間程度でここまでの腐臭を発することはまずないだろう。

 そうなると、何かしらの影響が考えられるが、何かを確認する前に襲撃者たちは俺がぶっかけた液体で骨の欠片、服の糸くずすら残っていない。


「罠か、時間が進行することによってそうさせるように仕向けていたか、か。さっきといい、原因の追究は、難しそうだな」

「大丈夫、なの?」

「錬金術師というのは毒や呪いに強い。ま、心配すんな」


 ステータスを見ても異常は認められない。隠しステータス系ならわからないが、どうやら『鑑定』を行うことにより俺限定ではあるが、異常が出ている場合は確認ができるようだ。

 にしても、思ったよりも影響範囲が大きそうだ。早く処理を行えたため、重篤な症状が出た人はいないようだが、頭が重い、あるいは眩暈がするといった程度の体調不良は出ている。ただ、幸か不幸か灰や何かしらの残留物も確認できないようだ。

 もしわずかなかけらが残っていたとしても、全て『せーなるおみず』で無効化はできただろう。強烈な呪いでもないかぎり形状を残す、ということが無理な物なんだし。


「それよりも、あっちもそろそろ終わるだろうからお前はマイアの所まで戻って報告しておいてくれ。護衛は、俺は特に必要ないから全員勇者を守ってもらえれば」


 と、騎士たちは役割がそのそも決まっていたのか、ナギに付くのが2人、俺に付くのが4人と密偵が3人。

 戦闘職と非戦闘職との差なんだろうか。いや、それにしても何かおかしい気がするんだが。


「……とりあえず、回収したら俺も戻る。場合によっては追加で処理を行う必要もあるからな」


 不満そうなナギと別れ、広場に戻るとそこはすっかりと灰が片付き、元の形を取り戻していた。

 異なる点としては、ほぼ中央の辺りに1つ水晶のような物体が落ちていることくらいか。


「俺がいない間に、何かありましたか?」

「特に誰も近づいたりはしていませんが、あれは一体?」


 あれ、と言われたのが水晶体のものだ。


「まあ、錬金術の秘術の1つです。詳しいことは、秘密ですが」


 悪魔の灰を集めたもののため、気になるのは間違っていないだろう。安全かどうか分からない物を放置しておくわけにもいかないし。


「とはいえ、何かしらの呪いや災いを齎すものではないですよ。錬金術の材料の一つだと思ってもらえれば」


 間違ってはいないが、使い方の一つであり、正しくはない。使わず消滅させるつもりだからそこについては問題ないだろう。

 実際、俺に問いかけた騎士も良く分からずただ何となく頷いている状態だ。

 それでいいのか、とも思わなくともないが。ひとまず、後片付けはひと段落ついた、と言えるだろう。

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