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魔法使い時々錬金術師のち鍛冶師(仮)  作者: セイ


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第38話。錬金術師としてのお仕事。

 金烏玉兎(きんうぎょくと)輪舞曲(ロンド)を普通に修理し、出来上がったものをひとまずアイテムボックスの中に入れておくと、ひとまずノルンさんに話を持っていくために錬金術師ギルドに戻ることにした。

 錬金術の商品も置くため、ノルンさんにまず話を持っていくべきだろう。

 その後に、お姉さんで、ギルド長、といった順番だろうか。ギルド長よりもお姉さんの方が重要だし。

 で、父と母にも、話さなきゃならないか、そろそろ。



 準備は元々されており、店を持つ、ではなくレンタルということでひとまず話は付いた。

 ただ、俺1人で借りるには広すぎる店舗らしく、弟子だのどこかから見習いを貸し出すだの不穏なことを言われたため、寄り合いでの店舗運営にすることを決めた。

 ひとまず、中堅の鍛冶師や魔術職人に声をかけているんだが、1人、2人ではそれでも広すぎるというからどれだけの店舗を寄越そうとしてきたかが謎だが。

 今の所は、そろそろ独立が出来そうな中堅の鎧鍛冶師と細工師、その弟子として引き抜く予定の見習いが1人ずつ、あと何故かおやっさんの所の支店、と謎な感じの集まり方をしている。

 多分、おやっさんの所に関しては、他が煩くなる前に牽制を入れるためなんだろうが、何人か独立してもおかしくないおやっさんの高弟が来るのが理解に苦しむが、誰に継がせるかの見定めの時期なのかもしれない。

 あと2店舗くらいは入る余裕があるらしいため、残りは1つはこれから声をかけ、もう一つは、保留にしておいた。

 空いてるままなら倉庫として使えばいいし、必要なら埋まるだろう、といった所だが全てを埋める必要が今はないわけだし。


 そんなわけで、ノルンさんに話を持って行った時点で色々と順番が狂ってしまった感があるのと、そこまで動いたらいっそのこと俺なしでもいいんじゃないか、と言ったらギルド長から何故かため息をつかれてしまった。

 覚悟を決めろ、と言いたいんだろうが難しいものは難しいと言いたい。いや、いきなり店を持って弟子なんかを取るということを強要しないだけ随分と段階は踏んでくれているんだろうが。

 店舗のどこに誰が入るかはまた後日ある程度揃ってから、と言われたため鍛冶師ギルドを離れると、若干重く感じる足をサンパーニャに向けることにした。



「ちょっと、時間いいかな?」

「ソラくん、うん。今は大丈夫だけどどうしたの?」

「えっと、何ていうか。その」

「言い辛いことなのかな? うぅ、私何かしたかな?」

「お姉さんが何かしたってことじゃないから、そこは安心してほしいんだけど。何ていうか、暫くの間錬金術を使った品を扱うことになって」

「サンパーニャに置きたいの? 元々魔術品以外も扱ってるから、いっぱいは難しいけどちょっとなら大丈夫だよ」


 そんなことくらいなら問題ないよ、と笑うお姉さんに心が痛む。い、言わないと。


「そうではなく、ソラくんは別に店を持つか錬金術師ギルドに納品する、ということだろう? それで、うちに長時間居られない、といったところじゃなかな」

「……一応、寄り合いで店舗を一定期間レンタルする、ということでギルド長に話をまとめてます。

 ギルド長は、俺に店を持たせたがってるみたいですが、そんな実力があるとも思ってませんから」

「ソラくんに実力がないなら、私ううん。この町の多くの職人は店を持てないよ?」

「人を扱うことについて、かな。実力というか、志というか心持ちというか」

「ソラくんの言いたいことは何となくわかるけど、多分ソラくんなら大丈夫だよ。勿論、ずっとうちに居てほしいんだけどね」


 お姉さんにそう言ってもらえるのはありがたいんだが、難しい、んだろうな。

 ジェシィさんも少し微妙そうな表情で笑ってるのも同じなんだろう。



 といっても、今の所俺が魔術工房サンパーニャの所属であることは変わらないため、ひとまずこなすべきことをこなす。

 んだが、どうせなら、と何故かお姉さんが俺の仕事を真後ろで見守っている。


「お姉さん? あまり近いと、危ないんだけど」

「え? ソラくんなら大丈夫だよね? 大きい鎚使うことも今日のはないよね?」


 ちらり、とお姉さんを覗くと何故か爛々と目を輝かせながら俺を見ている。


「とりあえず今の所その予定はないけど。ちょっと、やりづらいというか」

「でも、ギルドでは何人もの前で打ってたって聞いたよ?」

「誰がそんなことを……リリオラか」


 頼まれてもしないのに人の個人情報を自分の成果だとばかりに話すリリオラの姿が目に浮かぶ。


「だから、私も。ソラくんに、教えてもらうわけにはいかないから」

「お姉さんなら、俺が指導しなくても大丈夫だと思うけどね。まあ、何か覚えたいというのなら。

 あいつらにも教えてない技術、覚えられるものなら、ね」



 大きく満面の笑みを浮かべ頷いたお姉さんは今は目を回している。流石に少しだけ本気を出した俺の腕は理解に及ばないらしい。

 お姉さん、いやほとんどの鍛冶師とは一線を画すのは俺のスキルがほぼ全てといってもいい。

 物理法則、が一部異なる部分はあるんだが、この世界にスキルは、存在する。

 魔術とは異なる、経験を基にそれをさらに強化したもの、といったらいいんだろうか。

 それに対し、俺のスキルもその一点だけは同じだ。経験を重ね、それを強化し、強化しつくし、存在すら元のものから大きく逸脱するもの。

 それだけではなく、経験を重ねなくてもスキルポイントを加算するだけでこれまで行っていないことを達人以上に行うことが出来る。

 今の俺のレベルでいえば62のポイントを自由に振ることが出来る。1つのスキルのカンストが100のため、そう考えると大した数字ではないんだが、半分くらいまで伸ばせる、となると少なくもないといった微妙な所だ。

 ゲーム中であれば、初心者からレベル200くらいまでは1~2か月程度で伸ばすことができたため随分とのんびりしているが、特にレベルをそこまで上げる必要はない。

 ともあれ。このスキルポイントを使って検証はそろそろ行うべき、だろう。

 いざとなった時にどれくらい振ることで状況を改善できるか、でまた気持ちの余裕も違うんだろうから。

 逆に、STRやVITといったステータスに振るのは怖すぎるため、振るとしてもINTかDEX、あたりか。CHAは上がることにより何が起こるか分からない以上、少しでも振るのが怖い。

 ボーナス値として、DEXだけでも300以上の加算があるが、普段は職業補正を切っているため実際に発揮されているステータスとしては変わっていない。

 ただ、そろそろレベルボーナスがついてもおかしくないため、色々と考えなければならないんだろうが。



 大きく思考が脱線した気もするが、ともあれ。傍目にはただ適当に鎚を揮っただけにしか見えないそれで正確に金属を延ばし、堅固にするだけではなく、幾つ作っても同じものが出来るのはそういったスキルやステータスによるものだ。

 それをそうさせるだけの繰り返しは勿論行ったが、出来ることとできないことの境界線そのものが違う気が、する。

 ゲーム中ではアイテムは特化した一点物か、あるいは量産品のどちらかしかなかった。工業製品がない以上、スキルで通常に作ったものは全て同じもの、つまり量産品になるし、特定のクエストを達成し、さらにそこから発生したクエストの中の『忘れられた技法』を取得してようやく作成のための一歩を踏み出せる、といった工程を踏まえてようやく一点物を作成できるようになる。

 つまり、ある意味ではワンオーダーやセミオーダーのものを作る方が、全くの狂いもない同じ量産品を作るよりも難しい、というのが俺のスキルだ。

 そこまでをお姉さんに求めるつもりは勿論ないんだが、俺がここを去っても、サンパーニャがあるうちはそうであってほしい、という俺の我儘だが、正直な気持ちもある。

 ままならないものではあるが。


 考え事をしながらの方が正確なものを作れてしまうのはあれなんだが、ひとまず必要となるものを作り、出来上がったものを一カ所にまとめておく。

 作ったものはほとんどがチェーンパーツで、これから組み上げる必要があるため個別に置いておく必要は今のところない。

 むしろ、ここからはお姉さんに任せ、俺は別のものを作る、のだけど作り上げるものは無意識のうちに全て作り終えてしまったらしい。

 とりあえずお姉さんにすることはないか聞いてみるが、特にないということらしいため、一度錬金術師ギルドに寄ることにした。


「イオンはどうですか?」

「ええ。服を着ることは出来るようになりました。あの外套を装備しようとすると、それだけは外れてしまいますが」


 イオンが元々持っていた装備の中で、呪いの類、特に繋ギ止メルハ全テノ魂ノ名ノ元ニはヤバすぎるため俺が破棄することは決まっている。

 双唯たる化依印は何故か姿かたちなく消え去ったため、そっちはひとまず置いておく。うさ耳フード付きの果敢な逃亡者は装備解除不可が外れなさそうなため保留、白い外套の清廉たる守り衣は暫くお守り代わりに装備をさせる必要がある、というのが俺の見解だ。

 清廉たる守り衣についている常時スキル『争いなき世界』は戦闘状況を無理やり終了させる、というものだ。

 とはいっても、装着者自身のSPを使うため、切れた瞬間戦闘状況が強制開始してしまうというものだが、しっかりと装着していなければ発動しない、という微妙な判定があるためいざというときの身を守る手段として持っていた方がいいだろう。


「よ、体調はどうだ?」

「……はい。前に比べたらいい、です」


 といっても、イオンの表情は優れない。まだ顔の模様が若干薄くはなっているものの、消えてはいないからだ。

 改めてステータスを確認するが、ひとまず目に見えて呪いの項目は見えない。模様が消えていない以上、『サディリアルアの呪い』が消えてはいないようだが、それとは別に死の誘いは恐らく動作していないだろう。

 それは何故か、というとイオンに飲ませている薬がその要因だ。

 体力回復用に特製ポーションと秘薬『劣化レザリクサー』を服用させている。レザリクサーは復活薬であり、死の淵からの復帰を行うための秘薬なんだが、何故だかそれを作ることができない。

 そのため、その手前の、死の宣告に対しそれを無効化させる劣化レザリクサーを飲ませている。

 あとは鑑定紙を持たせ、何日かに渡り状況を確認するだけ、だろう。


「それで、ソラさま。イオンさんについては、どうなされますか?」

「どうも何も。呪いがちゃんと解けたら、自宅に帰れるようであれば戻ってもらって。呪いをかけた相手に警戒するのであれば、暫くこの町に滞留してもらう、といった所ですかね?」

「それはそう、なるのでしょうけれど。薬品類は、ソラさまの持ち出し、ですよね?」

「原材料も製法も表に出したくないものが多いですから、そうなりますね。

 初動を誤った感もありますし、今回は俺の勉強代ということで。

 イオンには、黙っておいてもらいますが」


 そう。最初に投与するのが劣化レザリクサーやエリクサーだったら、結果は今とは違っていただろう。

 どちらにせよ秘匿すべきことなら最初から全力で行くべきだった、というのは俺の手落ちだ。エリクサーはなかなか飲ませることはできないけれど。

 ともかく、イオンの着替え用の消耗品はともかく、それ以外の秘薬類は特に原材料もありもので済ませたし、金額的には大したこともない。

 ないんだが、ノルンさんの目が訴えている。


「ええと。ここで滞留するのであれば、少し手伝ってもらいますか? あとは、帰るようでしたら帰りの護衛費用はあとで請求とか」

「そう、ですね。ひとまずは、そういった所で考えておきましょう。ご本人にも、勿論お伝えは致しますが」


 本人に伝えもせず、借金を勝手にさせるのは違法だ。勿論、伝えても同意なしに多額の請求をするのも違法ぎりぎりなんだが。

 そのため、話をした上で金額を事前に提示する。その上で金銭が発生しない方法も伝える必要がある。

 実際には金銭が発生しない方法、は現実的では無かったり危険が高いことも多いため、支払える現実的なものを選択する、ことが多いが。

 といっても、手伝いは何をしてもらうもないため、隠匿というか匿うという側面が強い。

 まあ、事が露見したら外聞が悪いにも程があるため、軟禁状態は状況が許せば即解除したいところだ。

 本人もずっと閉じこもっているのも不安だろうし。


 ノルンさんのステータスも鑑定紙を使って問題ないことを確認すると、説明等を任せ、次なる目的地に向かうことにした。

 それは、この町の他の錬金術師の所在確認だ。

 前ギルド長が更迭されてから誰も姿を現していない、ということは活動を公にしたくない、あるいは既にこの町からいない、のどちらかなんだろう。

 わざわざ俺が代行だと伝える必要はやはりないが、だが活動をするつもりがあっても以前のギルド長のやり方ではできなかったのであれば、その機会はあるべきだろう。

 そんなわけで、クリスタルから引き出した情報から、町を巡る。ここに住み始めてそれなりに俺もそこそこ期間は経ったし、色々と歩き回った結果、町については多少詳しくなった気がする。


 この町の住宅事情だが。貴族は貴族街、平民は住宅街。というのが基本だ。学生であれば学生寮、あるいは一部の見習いは店に住み込むこともあるが、それはそこまで多くない。

 そして平民用の住宅街だが、戸建てとアパート、というか集合住宅の割合は大体6対4といった所だ。

 戸建てが多いのは、商人でも割と裕福な世帯がある程度いるのもあるが、それ以上にその中の一室を別の誰かに間貸ししているケースが多いらしい。

 そういう意味では家は物理的に部屋が余っているが、俺のやっていることの都合上誰かに貸すわけにもいかない。

 集合住宅は、狭くて場所も奥まった所に多いため、若い単身者向けだ。エレベータなんてものもないため、上階になればなるほど賃料は安くなるが、精々4階建てまでで、1つの建物で多くても30名程度までが暮らしているらしい。

 勿論個別のキッチンやトイレがあるわけではなく、共同だというから、それこそ寮や下宿、シェアハウスといったものが近いかもしれない。

 そして錬金術師のほとんどはその共同住宅に住んでおり、外観から見る限りではまだ住んでいる者。もう誰かが住んでいるような部屋ではない場所、数年前に死人が出た部屋、などなどがあった。

 中でも、最後に訪れたのは意外な場所だった。


「また来たの? ううん、来るのはいいんだけど、椅子独占しないでよね?

 むしろ、うち来るなら師匠さんの所行ってほしいんだけど」

「ハッフル氏には掴まって用件も済ませてるよ。それより、3階に人住んでる?」


 来たのはアンジェの店だ。登録上ではここの3階に1人で住んでいる錬金術師がいるらしい。


「うん? あ、うん。フェルアってお姉さんが住んでるけど、何で?」

「ちょっと、仕事で今も住んでいるかどうかの確認をしててな。まあ、今もここに住んでるならそれでいいさ」


 個人情報とは何か、と思うが特にそれを整備するような法や慣習がないため仕方がないのかもしれない。


「そっか? それよりも、ソラごはんはもう済ませたの?」

「そういや、今日は忙しくてまだ何も食べてなかったな」


 外を見ると夜の帳が落ちかけている。一日働き通しだったから仕方ないんだが、あまりよろしくもない。


「お腹空かないの?」

「気が付かないとそんな空かないな。そういう意味では、非常時であれば2~3日位なら飲まず食わずでも行動くらいは出来るぞ?

 色々な方面から苦言を呈すると思うから基本はしないけどな」

「そうじゃなくてもちゃんとご飯食べないとダメだよ? ソラ、ただでさえちっちゃいのに」


 ちっちゃいは余計だ。


「それはともかく。じゃ、今の時間だと家でももう食べ終わってるだろうから、適当に屋台で済ませるか」


 ここしばらく食事を家で摂れるかどうかも分からない日々だったため、母に頼み昼過ぎに帰ってくるとき以外は用意はしないようお願いをしている。


「じゃあ、今日はお母さんとお父さんが記念日でこれから2人で食事に行くっていうから、ボクも一緒していいかな?」

「いいぞ? じゃあ、店終わったら迎えに来るからな。後30分位、か?」

「うん。ちょっと早めに閉めるみたいだけど、その後のことも考えるとそれ位だと思うよ」


 ラーレさんの姿が見えないと思ったら、その記念日のために色々と準備をしていたらしい。

 記念日がどういったものかは分からないが、家族で祝うものではないんだろうか。それがこの世界の風習なのか、家のルールなのかは分からないが、とやかく言うことではないのは確かだろう。



「ここ、屋台じゃないよ?」

「俺1人なら屋台でもいいんだけどな。夜来たことなかったから、付き合ってくれ」


 ランチの時間であれば比較的安めの料理を出す店なんだが、それは前日の夜の残りや多目に仕入れる食材を上手く使った結果安くなっただけで、本来なら値段はそこそこにする。

 本来であれば、ドレスコードまではいかないが、ある種人を選ぶというか、有体に言えば貧乏人お断り、といった店だ。


「ソ、ソラ。ボク、そんな、持ち合わせ、ないよ?」

「まあ、此処のオーナーは知ってる人だから大丈夫だよ。で、何がいい?」

「えっと、何て料理かわかんない……」


 流石に学園に通っているだけあり、文字の読み書きは出来るがそれがどんなものかまでは全ては分からないらしい。

 俺だってこの町に来たばかりはほとんどの料理は分からなかったし、前の世界だってイタリア料理やブラジル料理なんかはメニューの説明を読まなかったらいまいち名前だけでは分からないものが多かった。


 そんなわけで適当におすすめのコースを2人前注文し、食前酒代わりに果実を絞ったものを注文した。


「う、何でそんな慣れてるの? ……何かずるい」

「最近は堅苦しい食事の機会もあったからな。何事も経験ってな」


 王城やハッフル氏の実家など、それ以外にも案外会食の機会は少なくない。上級ギルド員や役員と仕事の話をしながら食事というのは少なくない。

 イメージ通り、職人は礼儀作法よりも実益を取る人の方が圧倒的に上、だが。


「じゃあ、おいしいものもいっぱい食べてるんだろーなー。ボクなんて家の野菜ばっかなのに」

「アンジェの店の野菜はいいものばかりだぞ? といっても、それが多いと飽きるかもしれないな」


 アンジェが照れたようにはにかむが、運ばれてきた料理に目を輝かせ、それに釘付けになっている。


「さて、特に堅苦しいマナーは気にせず、……あんまり汚さないようにな」


 早速運ばれてきたばかりの前菜を口いっぱいに頬張り出したアンジェに苦笑しながら、俺も食べることにした。



「も、ダメだよ。ボク、もう入らない」

「後は口直しの甘味があるらしいんだけど、もういいのか?」

「あ、甘いものがあるの?! た、食べる! 食べるに決まってんじゃん!」


 前菜にスープ、それにメインの川魚にパン。量が割とあるそれらを食べ尽くしたアンジェは幸せそうにギブアップしていたが、まだ料理が残っている。特に甘いものがあると聞いただけでわくわくしながら目を輝かせる様は見ていて面白い。


「ソラさん。それに可愛らしいお嬢さん、本日はようこそおいでに。先日、教えていただいたアントルメが出来上がりましたので、宜しければお試しいただけますか?」

「ええ、是非。どれが出て来るか、楽しみですね」


 店のオーナーでもあり、ふとしたことで知り合いになったシェフのグランツェさんがわざわざこのタイミングで挨拶に来た、ということはよっぽど自信があるらしい。

 俺の持つレシピの中でも今あるもので作れるものを。中には割と高額な原材料が含まれるものもあるが、比較的簡単に作れ、アレンジもしやすいものを幾つか彼には教えている。


「え?! ソラが考えたやつなの?」

「まあ、考えたというか作れそうなものを幾つかアイデアだけな。とりあえず、ジュースでも飲んで落ち着け」


 果実酒も勧められたんだが、アンジェは飲んだことがないというし、俺も酔うことはないため、遠慮してノンアルコールの飲み物のみだ。

 酔いたくて飲むわけじゃないが、酔えない酒に何の意味があるんだ、と説いたのはかつての知人の言葉だ。


「年輪焼きにティアルダのコンポート、それにプリンのパリフイアのソースがけか。これだけで店が出来そうだな」


 ティアルダはリンゴに似た果物で、パリフイアはマンゴーに味の近い野菜だ。

 本当はプリンにはアイスや生クリームをトッピングしたいところだが、冷凍をする術や生クリームの安定提供が難しかったため諦めた。

 そういう意味ではバウムクーヘンも色々と機材などの問題があったが、そこは俺が特殊すぎる鍛冶師ということもあり、半自動のバウムクーヘンのオーブンを特注することにより焼きの問題はひとまず解決し、食材もあるものだけで安価に作るためマジパンもない。その代わり用意できたナッツのペーストで代用はしたが。

 工夫の後が見えるのは色々と面白く、ゆっくりと味わっている間にアンジェはさっさと食べ終わったらしく、食べている俺を恨めしそうに見る。


「……流石にこれ以上は食べすぎだぞ? どうしても食べたいなら、手土産で包んでもらうこともできるけど」

「それは欲しい! け、けど! もうさすがにボクも食べれないよ!」


 少しからかい過ぎたか。両親にも食べてほしい、ということらしく包んでもらうことにして、改めて話を聞いてみると俺の食べ方が綺麗すぎて悔しいらしい。


「ソラ、身内に貴族さまとかいないんだよね?」

「そうだな。知り合いとしては何人かいそうだが、そういうのを除けばいないな。仕事での付き合いに、あまり一度に多く食べれないからな。ゆっくり食べてたらそれそこそこには見えるよ」


 食べること自体は好きなんだが、昔から量もあまり食べれないし早食いもできない。だからコースの時も俺の分は少なめにして貰っている。

 働き盛りの子供として食べる量は多少少ないくらいだが、豪商や貴族の子女はこれ位の量が普通らしく、人によっては多すぎるため残すことが多いようで店側としても量の加減、特に減らす方に関しては割と簡単に対応できるらしい。

 量が減ったからと言って大きく金額が減るわけでもないんだが。


「じゃ、そろそろ出るか。と、悪い。さっきのグランツェさんに渡したいものがあるからちょっとここで待っておいてくれ」

「そっか? うん、じゃあ早く戻ってきてね?」


 グランツェさんに料理のお礼とついでに料理分の会計も済ませるとアンジェと店を出る。会計時に代金はレシピを貰っているから結構です、と三文芝居を打ってもらったが、アンジェにはばれなかったようだ。

 手土産についてはそこで折角だからと俺が出して、家にまで送り届け帰り着いたころには割といい時間になっていた。

 レニは勿論寝ていたし、母も寝る準備をしていたらしい。父は、明日早いらしく既に寝ている。

 母には連絡なく遅くなったことについて若干怒られてしまったが、俺も手土産としてバウムクーヘンをロールで買っていたため、試食も兼ねて晩を外で食べていたことを伝え、何とか許してもらった。

 というか、たまには家族そろって外で食べてもいいかもしれない。レニは人見知りもある程度するから、個室か貸し切れる店限定だが幸いツテはある。

 何か祝い事があれば、そういうことをしてもいいかもしれない。



 起きてから、朝日が昇り切った後に鍛冶師ギルドに出向くことにした。

 受付でギルド長に取り次いでもらい、用意された個室に向かう。本来なら俺の役職、上級職人でもなかなかギルド長には面会は難しく、会うまで日数がかかるはずなんだが、まあ今更だろう。


「それで、決まったのかね?」

「ええ。ひとまずは、店は当初話したように複数店でのレンタルで。サンパーニャには、一応話はしておきました」

「貴殿が鍛冶師として活動をする前から世話になっていた店だからこそ、の恩義というものか?

 いや、それだけではない、ということか」


 あまり探りを入れられると思わず俺も色々と大人げないことをしてしまいそうだ。

 と、少しそれが表面に出ていたのか、ギルド長の全身に汗が浮かんでいる。

 空調設備はないが、今日は汗をかくほど暑くはないはずだが。


「ともかく。あまり目立つようなことはしませんよ。出来上がったものだけおいて、店番でも立てますから」

「では、貴殿はどうするつもりなのかな?」

「在庫の準備はある程度済んでいますから、サンパーニャに居ることのできないなら、適当に諸国を漫遊するのも面白そうですね」


 にこり、と笑う俺を見るギルド長の顔色がどんどん悪くなっていく。


「マイアやハッフル氏あたりから問い合わせが来るかもしれませんが、その時の『対応』はお願いしますね?」

「げ、下世話な勘ぐりをしたのは私が悪かった。だ、だが」

「……だが、何でしょう? これ以上、言い訳を重ねるようであれば俺も少しだけ機嫌を崩しますよ?」


 それきりギルド長は黙り込む。言い分や他からの要請なんかもあったんだろうが、それらを全てすっぽかすことは今の俺には可能だ。

 今の所それ以外にもこの町に留まる理由はあるためそうするつもりはないんだが。今のところは。


「あ、そうそう。思い出したので伝えておきますが、少し素材集めに町を何日か出ます。その時は、色々とお願いします」


 何か焦って言おうとしているが、黙殺しギルドを出る。これまでの意趣返しというわけではないが、言うことを何でも聞くと思ったのであれば間違いだ、ということを正しておく必要がいい加減あっただけだ。

 フラストレーションの溜まり具合も正直悪い意味で上昇しているため、無心に採掘なんかを行いたい。

 いずれにせよ、イオンの件が片付いてから、とはなるだろうけれど。



 ともあれ。ともあれ、だ。結局その後やることもなく、家に帰り着いてしまった。

 帰り着いたのは昼前。父も今日は仕事がなかったようで、家にいる。割と久しぶりに家族4人揃っての食事なんだが。


「ソラ、何かあったの?」

「まあ、色々と。……食後に、でも」


 そんなわけで、端的に言っても問題のないことだけを軽く話した。

 端を発する、王家への献上、錬金術師ギルドのギルド長代行といった俺が行ったことに関しては勿論一切話していない。

 話しても仕方がない、というかデメリットばかりが目立ってしまう。今でこそ嫌がらせはある程度納まっているが、俺が権力というか色々持つことを面白く思わないやつらなんてまだまだいるんだろうから。


「そっか。ソラ無理してない?」

「何が無理かによるだろうけど、俺が店を持つわけじゃないから。

 むしろどこまで自重したらいいか分からないから、どうしようかなって」


 懸念点としてはそこがある。自重しないと錬金術を駆使しこの世界ではあり得ない物を気づかない間に販売してしまっている、ということになりかねない。

 とりあえず、ゴーレムにホムンクルス、人造精霊辺りは販売しないようにしよう。特に精霊が実際に存在するこの世界において人造精霊は禁忌な気がする。

 ……魔封剣を作っている以上、今更ではあるんだが。

 今回作成した【双炎】というものは精霊の力を人が制御しようとしたものの一端、『レジェンド』の何度目かのシステム追加の際に発生したクエストの中で、俺と俺の所属するギルド員の何人かで作り出した意志ある武器、開発コード名『Spirit of Weapons Soul dwell-in SYSTEM』略称『SWSd』の二振りだ。

 まあ、俺は素材集めとコードの選定、疑似人格の一部の作成しかしておらず、クランマスターと通称『何でも屋』妙月の魔女と呼称していた廃人たちが主に設計図の作成とプログラムの構成、精霊の精製を行ったんだが。

 そもそもまだ『起動実験』をしていないため、この世界でどのような状況になるか確認をする必要はあるんだろうけれど。

 他にも『SWSd』において作り上げた武具は大量にあったが、俺が使い慣れているのは双炎で、水月や金星、土竜に爆炎猊といった様々な意味でユニークなそれらはどうにも馴染めなかった。

 場のノリだけで作った『織りなす神々への貢物』は酷い結果になり、すぐに『封印処理』となったのは、まあある種での黒歴史ではある。

 ……パレット内にレシピは残っているから、全ていつでも作り上げられるが、死蔵すべきだろう。あれらのものは。


「あとは、店番でもつけるつもりだから、信頼できそうな人を商業ギルドから斡旋してもらおうかなって思ってるくらいかな」

「店番ならだれでもいいんじゃないの?」

「錬金術師の作る薬品は取り扱いが難しかったり、爆発物も多いからね。それに、高級品もあったりするから金銭の管理がちゃんと出来る人じゃないと、ね」


 ある程度セーブしても、恐らく売り上げとしては2~3月もあれば1白銀貨、100万R(ルード)位までは行くだろう。

 ちなみにサンパーニャの売り上げは月に平均金貨20枚程度、20万Rと考えると若干おかしいが、サンパーニャでは扱わない武具類やそれのメンテをすると考えたら、そこくらいまでは行ってもおかしくない。

 例の魔術品の外部ユニット、魔術具については、国から販売許可が出てからだろう。それまでは、ある程度のものしか出さないようにしよう。

 そう考えると、店の護衛として用心棒なり何なりを用意する必要があるかもしれない。用心棒と言うと何となく悪いイメージしかないんだが、ボディーガード、SP、警備員、全ていいイメージだけがあるわけではないのは、それを雇う側に問題があることがほとんどだからだろう。


「大変そうだね?」

「俺だけがやるわけじゃないから。知り合いも同じ建物に居るし、困った時はちゃんと相談するよ」


 ちなみに父は難しい顔をして黙り込んでいる。前は色々と心配して言ってきてくれていたが、今はむしろ心配していないわけではないが、どう言っていいか分からない、らしい。

 たまに自分の仕事の話をしたり、町であったちょっとしたことを話してくれるんだが、俺が知っていることも少なくなく、といえどそれをわざわざ言うこともないため黙って聞いてるんだが、それが故に話が続かなくなる、ということが続いている。

 前世での父親とは、どうだっただろうか。たまに話はしたが、忙しい人であまり家にもいなかったし、その時も勉強はどうだ、とか学校はどうだ、とか当たり障りのない話ばかりだった気がする。


「うん、私たちにもちゃんと相談してね?」


 曖昧に笑ってその答えをはぐらかす。気持ちは嬉しいが、相談できないことは、あまりに多すぎるからだ。



 食後、意味もなく自室のベッドに転がってみる。暇つぶしに本、は読み終わったし図書館に行くのもそんな気にならない。

 地下室に籠っての実験も、こういう時はあまり進捗が進まないのは分かっているためしない。

 つまり、ゴロゴロしつつスキルパレットの整理、をすることにした。


 前世では俺の使っていた端末上に存在していたパレットだったが、実際にはその内部データは各サーバ上に保管されており、一定期間での同期及び最適化を行っていた。

 レジェンドしかり、他のゲームしかり、だ。

 異なるゲームで管理自体が異なるため、相互利用などは出来なかったが、いつでもカスタマイズが出来るよう、ローカルに保存されていたものが、何故か今呼び出すことができる。

 動作させるためには多少手を加えた方がいいものも中にはあるが、大体そのまま使えるものばかり、なんだが使えないものもやはり多い。

 そういったものは肥やしにしているものが大半だが、必要なコードや構成だけを引き抜いて組み替えることにより新しいものに適合化させることもできる。

 その結果、幾つかこれまでに使ったことのないスキルもできたため、それらを踏まえ実地実験を行いたいんだが、流石に地形を変える恐れのあるものは使えない。

 そうなると、破壊不可の部屋なんかがあれば助かるんだが、そういったものはない。

 精々壊れ辛い部屋や特定の現象に対し特化したものは作れるが、俺が本気を出したときに耐えられるものを作れる自信がない。

 全力なんて出す機会がない方がいいんだろうが。



 パレットの整理が終わったら、次にすべきは店のラインナップと店員として誰を置くか、を考える必要がある。

 俺が全く店にいないのは問題だが、毎日いるわけにもいかない。

 店番として最低限必要となるのは、計算が出来ることと、信頼できる人間であることだ。

 といっても、計算はある程度教えれば何とかなるだろう。そう考えると、信頼が出来る相手を探すのが難しいだろう。

 勿論、信頼できる、というのは品物を大切に扱う、ということと金銭の横領をしない、といった最低限の所だ。

 機密のものもあるが、錬金術師が見たらわかる程度のものか、どうやっても分からせるつもりはないもののどちらかしか置くつもりはないため、情報の漏洩ができるものならばやってみろ、と思っているからそっちは重要視しない。

 秘匿の分については、過剰すぎる程の隠匿に罠をこれまでもかというくらいに仕掛けているため、解読するコストがかかりすぎるためまともな相手ならそんなことはしないだろうし。


 そうなると、商業ギルドから人を回してもらうか、俺の個人的なコネを使うか、のどちらかになる。

 誠実さでいえば、リオナやスコットがまず浮かぶんだが、どちらも学校があり、リオナは実家の絡みで何かあると面倒だ。

 そういう意味では幼馴染集団は、休みの日にまで働きたくないだろうから除外しよう。

 ひとまずは状況を見ながら考えるか。



「そろそろ呼ぼうと思っていたが、お主から来てくれるとはちょうどいい」

「ん? 何かあったか?」

「ああ。お主に紹介しなければならない相手がいてな。ああ、安心しろ。お主の仕事に関わることだ」


 何故か慌て気味に言葉を紡ぐマイアに少し首を傾げるが、仕事の事というのであれば、魔術職人としてか、錬金術師としてだろう。


「といっても、紹介するのは明日だ。変わり者で時間に無頓着なようだが、恐らく必要となる、だろう」

「クリシエールのように俺に敵意を持たないならそれで構わないよ。まあ、それはともかく。

 もう報告は入ってるだろうが、店を借りることになった。それで在庫はあるんだが、幾つか足りない素材があってな。

 町で集まらないようなら別に用意する必要がある」

「錬金術のか? どういったものが必要か分からないが、用立てなら出来ると思うが?」

「集めるのにコツが必要だったり、採取したら錬金術師がその場で加工しなきゃいけないものも少なくない。

 この町に残っているであろう、錬金術師は少ないみたいだからな」


 暗に俺が直接採りに行く、ということは伝わったようだ。納得できない、といった表情を浮かべているが。


「ちなみに、市場にはまだ出さない予定だが、霊薬の用意もある。欠損からの回復や重度の呪いに対して有効であるものは流石に作れないけどな」


 表には出せない、が正しいんだろうけれど。


「どれくらいの種類を、いくつ、いつまでに作れる?」

「素材と、他の仕事次第だな。ひとまず、10個ずつ納品する。目録を用意しておくから、必要なものがあれば言ってくれ」

「ああ。ちなみに、優先納品してもらえる、という理解でいいんだな?」

「優先というか、しばらくはマイアの所だけに卸すって所だな。俺が個人的に使う分も幾つかあるだろうけど、まあ微量だろうし」


 と、マイアが眉を顰める。必要な時の備蓄用だから特に問題はないと思うんだが。


「お主、私に何か隠し事はしていないか?」

「急にどうしたんだ?」

「お主につけている者から、報告を受けた」

「イオンのこと、か? ……隠し事というわけじゃないんだが、ちょっと色々と危なくてな」


 軽く状況を説明する。呪いにかかっていたため治療中であることと、装備により抑えていたため感染者はいない、というところだけだが。


「なら、何故早く報告しない?」

「移る呪いかまず確認する必要があって、それは大丈夫そうだと思ったから後は治療を早く終わらせるべきだからな。

 それに、珍しい種類の呪いだ。もしそれで変なのに捕まったら、まずいからな」


 マイアの眉は変わらず、何かを疑っているままだ。


「ええと? ど、どうしたんだ?」

「お主、聖職者ではないだろう? 何故、呪いの種類まで分かるんだ?」


 あー。呪いだの何だのはそっちに分類されるのか。となると、そっちの警戒も必要になるのか。


「俺の隠し玉の1つ。……誰にも話さないと約束出来るなら、伝えることは出来なくもない」

「隠し玉、か。誰にも、というのは王にもか?」

「ああ。誰一人として、だ」


 少しだけ考えた後、マイアは頷く。


「俺は、鑑定紙を鑑定することができる」

「勿体ぶった割には、なんだ。その、そうなのか?」


 まあ、それが何か分からない、のであればそれで流してもいいんだが、そういうわけにもいかないだろう。


「鑑定紙には、目に見えない様々な情報を記録することができる。読み出せる項目は少ないけどな。

 だが、それを鑑定して全ての情報を読み出せたら、どうなる?」

「その者が隠している情報や気付いていないことも鑑定できる、と言いたいのか?」


 軽く首肯する。どこまでを読み取れるか、までは言うつもりはないし幾らでも隠しようがあるが、隠す必要があるほどのものだと判断してもらえればいい。


「確かに、秘匿すべき情報だな。目に見える怪我ならともかく、慢性的な怪我や重篤な病気については隠すべき場合があるだろう。

 それを一般的には一部の情報しか見ることができないはずの、鑑定紙がそういった機能を持つことを知ったら、よからぬことに使う者も少なくはないだろう」


 鑑定紙はそれ自体の発動そのものを誤魔化す、ことは単体では難しいが幾つかの方法を使うことにより鑑定をしたということを気づかせないことは可能だ。


「とはいっても、調べる方法は他にもなくはないから、俺の作る薬品の製法程の秘匿情報ではないんだけどな」

「……隠し玉といった意味がわかったが、他に一体何を隠しているというんだ?」

「秘密、秘密だよ。まあ、錬金術師としても鍛冶師としても、技法は秘密ばかりだからな」


 効果ポーション1つとっても、俺の魔力を使う品物はスキルの有無を別として秘匿している。

 割とヤバい毒物を作ることも可能だし、霊薬の手前、上級薬品のヒントにもなる。

 それら自体は問題はないと思っているんだが、様々な素材が問題になる。

 俺は錬金術師らしく素材を別の素材に変換することによりそれを補っているが、どうやら一般的ではないらしい。

 本来なら古龍の爪を使う物を庭に生えている木の枝と葉っぱで代用できるとは誰も思わないだろうし。


「それと先ほどのものとは性質が異なる気がするが、まあいい。それに、本当に出来るのか。お主だけなのか、お主以外が鑑定してどうなるのか、も確認できない。か」


 鑑定結果がどうなっても、表に出せないしマイアが『鑑定』を使えない以上誰かに頼むしかない。

 ある程度信頼のできる相手はいるだろうが、その情報にどれくらいの価値があるか。そしてそういった情報を誰が求めているか。

 いっそのこと、信頼ができ、素質がある人を見繕って調べてもらった方が早い気もするんだが。


「今の所そういった隠し玉が幾つか存在するから、誰にも言えない秘密が増える可能性がある。

 それが嫌なら、あまり詮索するなよ?」

「私はお主以上に秘密がある。そこに1つや2つ増えた所で対したものではない」


 俺の場合は魔術やスキル、他諸々とあるからそういう意味では意味合いが違うんだろうが。にしても、マイアの秘密ねえ?

 一国の姫だから、ある程度のものなんだろうが、知りたいような、知ったら後悔しそうな。


「そうか。じゃ、そろそろ俺はサンパーニャに戻る。することがいくつか残ってるからな」

「いや、まだ話がある。……思い出してしまったというのが正しいが」


 嫌々ながら、渋々と、と言った感じでマイアが話を振ってくる。これは覚えてはいたが話をしたくなかった、といった所だろうか?


「仕事が残ってるから、そんなに時間をかけて聞いていられないぞ?」

「そうだな。つまらない話だ。教会がお主を招いて精霊の話を聞きたがっている。それに、洗礼も受けさせたいとな」

「興味ないな。……というわけにはいかないだろうから、仕事が終わったらまた戻ってくる。ちゃんと、話せよな?」


 いったん仕切り直しもしたい。面倒な話であることは、確実だろうから。


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