第3話。学術都市と探検。
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まだ導入すらほとんど終わっていないのにも関わらず読んでくださって感謝です
……俺は案外弱いのかもしれない。
そうまず思ったのが前回のモンスター騒動の時だ。
あの時は血の臭いで吐きそうになったし、今回も馬車の揺れに内臓ごとシェイクされている感じしかしない。
よく考えてみると前もレバーは生臭くて食べれなかったし、車に乗るたび気持ち悪くてずっと無理やり寝ていた。
車の免許は怖くて取れなかったしな。俺が運転なんてしようものなら絶対に事故に遭う。
今だからこそ確信して言えるが、前はどうなるか不安で不安で仕方なかった。
どこのどいつの仕業かは知らんが、本当にえらい目に遭わされた。
ただ、今もこうなってるってことは……単なる体質か、あるいは他の何かで絶望的に合わないのか。
事故には遭いそうにないから、暫く我慢するしかないか。
「ソラ、大丈夫かい?」
「……ええ、それはもう大丈夫ですとも」
心配して背中を擦ってくれる父上に礼を言う。
馬車に乗ること6時間ほど。とはいっても時計なんてないから体感的なものだが。
漸く着いた町の門の前で馬車から降りる。
同乗したとはいえ、こちらは帰りに便乗させてもらったに過ぎない。
そのため町の中に入る手続きは別々に行う必要があった。
「よう、トニー。この前来たばかりだけど、今日はどうしたんだ?」
「ああ。ジール、今日は買い物と知り合いに会いに来たんだよ。こっちは息子のソラ。ソラ、こちらはこの町の警備兵のジールだ。挨拶なさい」
「はじめまして、ソラです」
ややオーバー気味にぺこりと頭を下げてみる。その後に若干上目遣い気味に目を見るのがポイントだ!
「おう。お前がソラか、俺はジール。この町の警備を担当している。よろしくなっ」
きらりと光る歯がまぶしいです。……西洋風の彫りの深い銀髪赤眼様が! 俺の父の知り合いは全てイケメン様か!
いや、落ち着け。父の所属している猟師団は別に普通のおっさんやお、姉さまばかりで特に優れているわけじゃない。
それは偶然だろう。そもそも、町の顔みたいなものだ。
多少見てくれは良いほうが良いに決まっている。そうに決まっていると信じたいです……。
イケメン警備兵と握手を交わし、問題なく町の中に。父の審査だけで俺は特になし。
まあ、見てくれは子供だからな。
アイテムボックスの中に色々としまいこんでるとは思うまい。
いや、まだ危険物は入ってないよ? ホントだよ? そのうち入れるつもりなだけだから。
「それで、父。まずは何処へ?」
要塞じみた壁面がすげーとか、亜人キターー! とか人多っ! とかは後で一通りするから良いとして。今は今後の動きを知るのが先だ。
ボケてもいいが、余裕をなくすのは知らない町では危険すぎる。
「とりあえずは魔術ギルドが先かな。その後お昼を食べて、知り合いのところに向かおう。だから、ギルドには僕1人で行くからソラは……よく行く食堂があるからそこで待ってなさい」
「父1人で行かせるのも不安だからね。少し、待っててくれ」
行く先がもう決まっているなら早い。念のためだが、俺もついていったほうが良いだろう。
近くの路地裏に入り、特殊スキル:『変化』を使用する。
目線の高さが変わり、服装が変わり、髪の色が変わったことを確認すると、通りへ戻る。
「すまない、待たせたな。トニー」
「……ここまで来ると、どうしたら良いかもう分からなくなるね」
「すまんが、慣れてくれ。あと、そうだな。名前を呼ぶときは向日で頼む。あっちの名前だと何かあったとき拙い」
特殊スキル『変化』はそのまま見た目を変えるスキルだ。
熟練度ごとに効果の時間こそ変わるが性能は変わらない。
つまり、今の俺の姿は170cmほどの銀髪碧眼様になっているはずだ。
このスキルの面白いところは、パレットに作成した姿を保存、共有できるところにあった。
『レジェンド』の自キャラの外見データをコピー、クランメンバーに配り、また俺も貰う。
それで戦争時度々姿を変えては敵を混乱させたものだ。
同盟クランも混乱することになってひんしゅくを買うこともあったが。
とにかく、今の俺は自キャラのデータをドロー、『レジェンド』時のキャラ、ドン・○バチョの姿になっているはずだ。
他のメンバーは黒服の怪しいギャングだったり、子供だったり、着ぐるみだったりとまともなデータがなかった以上、これに落ち着くのは当然だ。
魔術師の格好をしているし、魔術ギルドに行くのであればこちらのほうが良いだろう。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
町のメインストリートらしき大通りを歩くこと5分、いかにも怪しいですといわんばかりの黒い3階建ての建物の中に入った。
中は思ったよりは清潔にしてあるが、どこか薄暗く湿った空気が流れている。
俺たち以外客は今は居ないらしく、静かな分さらに薄気味が悪い。
「魔具を買い取って欲しいんだけど」
父はそう言って俺が預けていた銀のブレスレット【風の守護】+2を取り出し、カウンターへおいた。
「魔具の買取……ですか。鑑定しますので、少々お待ちいただけますか?」
受付に座っていたおっさんが慣れた手つきで腕輪を弄る。さて、いくらになることやら。
おっさんといっても魔術職というよりも気弱な研究肌の中年にしか見えないが。
「……ちなみに、こちらは何処で手に入れられたのでしょうか?」
弄りながらこちらをちらりと、観察するようなおっさんの目。
「俺の家にあったものだよ。爺さんがそういうもんを集める趣味があったんだが、この前逝っちまってな。
で、遺品を整理してたらそれが魔具だって事を書いた手紙と一緒に発見してな。
俺は別にそんなものに興味はねえから売っちまおうって思ったんだが、何かあったか?」
今即興で作った話にしてはそれなりに信憑性はあるだろう。
どういったものかはともかく、どうやった扱いを魔具がこの世界でなされているのか。
それを知らない以上、そういうしかないというのもあるんだが。
「いえ……そうでしたか。ですが、こちらはどうやら魔具ではないようで。
ただ……それなりに価値はありそうなのでうちで引き取らせてもらうことは可能ですが……」
「ふーん。で、幾ら?」
明らかに嘘をつくおっさんに噛み付こうとする父を片手で制す。こういうのは今突付くべきじゃない。
「そう、ですね。……能力も特についていないようですし、金貨2枚でどうでしょうか?」
足元を見るにしても程があるな。魔術ギルド全体がこうなのか? なら、こっちは参加するべきじゃなさそうだな。
「ならいいや。鍛冶師ギルドにでも持っていって一度壊した上で再加工してもらうか。
この宝石はここで外しちまったほうが良いな」
おっさんから腕輪を取り戻すと、腕輪についている宝石に手をかける。
魔具である以上、これが損傷すれば宝石の付加能力もなくなりかねない。
「ちょっ!? い、いえ。そうであるなら、こちらで買い取らせていただきますよ?
使う予定がないのでしたら、わざわざ他のギルドにまで足を運ぶ必要はないでしょう?
で、ではそうですね。金貨3枚で買い取らせてもらえればと思うんですが」
それでもまだ言うか。さて、どうしたものか。
「ヒュウガ、魔具じゃないならそれで魔術を使ってみたらどうだい? 君も簡単な初級魔術なら使えただろう?」
「いや、ここで使うのもおかしいだろ。まあ、知り合いの魔法使いに先に聞いておくべきだったか。けど、おっさん。あんたにはこの能力はどう見えるんだ?」
父の魔法が使えるアピールは確かにいい。それを否定しないまま、おっさんへバトンを投げつける。
「え、ええ。そうですね……これは……単なる銀のブレスレットですが」
「おっさん。上のもの呼べよ、な?」
にやりと笑って話す。単にこのおっさんに見る目がないのか、そう指示されているのか、あるいはこのおっさんの独断なのか。
「い、いえ。そうは言われましても、これは単なるブレスレットですし……相場よりは良い値段を出させて貰っているのですよ……?」
「ふうん。俺が、"魔法を使って"みた時はちゃんと発動したんだが、それはどうしてだ?」
「……そ、そんなことはないでしょう? これはちゃんと耐久性も減っていないですから……魔術を使ったことがあるはずがないんですが」
「ほお。何で魔具じゃないただ単なるブレスレットに耐久性なんてもんがあるんだ?」
後であれほど黒い笑いを見たのは初めてだと父に言われたが、そんなものは知らん。
「え゛……い、いえ。それは……その……」
面白いくらいにうろたえるおっさんの顔は笑えるが、もういい加減見飽きたな。
「ギルマス相手じゃねえと話にならなさそうだよな? おっさん」
暑くもないはずの部屋の中で、滝のような汗を流すおっさんに連れられ向かったのは3階のやけに分厚い扉の奥。
ギルドマスターの部屋だ。
「うちのものが失礼したようだね」
「ああ。おかげで金は損しそうになるわ時間は盗られるわ、まあ良い経験をさせてもらった」
いかにも典型的な魔法使いっぽい黒いローブをまとった爺さんも正直怪しい。
だが、ギルマスまでそうならこの町では魔術ギルドに世話にならないようにするだけだ。
「それで、改めて売ってくれるという魔具を見せてもらってもよいかの?」
「ああ。これだよ、爺さん」
手に持っていた腕輪を渡すと、爺さんは早速鑑定を始める。
「……ふむ、風の守護が付いた銀製の腕輪か……作り手が良いのか、能力の底上げも為されておるの。で、これを何処で手に入れたんじゃ?」
「爺さんの遺品だよ。爺さんが何処で何時手に入れたかは知らん」
この爺さんは少しは信用出来そうか? 説明自体は今まで通りで問題ないだろう。
「いや、それはおかしいの。これが作られたのは最近……ここ数日のことじゃな。
まだ守護の魔力が固定しきっておらん。それは作られたばかりの魔具の特徴なんじゃよ」
まじか? とはいっても、『レジェンド』の時はそんなことはなかったし、こっちだとこれが始めての魔具だ。本当か嘘か分からん。
「……僕の知人の錬金術師が造ったものですよ。その人は人前に出ることを避けていまして。
ちょうど僕が物入りだということでわざわざ造ってくださったんですよ」
父も案外演技が上手い。決して褒められたものではないんだろうけども。
「ふむ。おぬしらには迷惑をかけたからの。迷惑料も含めて白銀貨3枚と金貨50枚でどうじゃ?」
さっきの100倍以上かよ。いや、いいんだけど。あのおっさんどれだけぼろうとしてたんだよ。
「ああ。次から無い様にしてくれよ?」
「分かって居るわ。あのものは度々同じようなことを仕出かしおっての。
次やったら除名処分ということも伝えておったんじゃが。
そんなことをおぬしに言っても仕方なかったな。料金は現金での支払いで良いのか?」
「白銀貨は銀行への振込みでお願いします。金貨は現金で」
「うむ。ならばギルドカードを出しなさい」
父は懐からカードを一枚取り出すと、爺さんに差し出す。
そのカードは爺さんの隣にある水晶らしきものに差し込まれ、すぐに取り出される。
「これで振込みは終わった。現金は今持ってこさせるから暫く待ちなさい」
爺さんはそういうと父にカードを返し、部屋を出て行く。
よく分からないが、今ので銀行の口座に入金されたんだろう。
となると、ギルドカードは結構便利なものなのかもしれない。
「これで残りの金貨50枚じゃ。間違いないの?」
「ええ、……後は受け取りのサインをすればいいんですね?」
上質な黒い布の小袋に入れられた金貨を数えた父は、取引締結の紙にサインをし、爺さんに渡す。
「うむ。これでよい。……で、ちと相談なんじゃが、よいか?」
「爺さん。先に言っておくが、魔具を作った人間の詮索と作成の依頼なら断るからな?」
魔具が不足していると言っていたし、まあ今のタイミングで言うならそんな所だろう。
「そうか……なら仕方ないの。じゃが、また機会があればこちらで買い取らせてもらえれば有り難いの」
「それくらいなら伝えておいてやる」
とはいっても、暫く売るほどのことはするつもりはないが。家の予算にはよるが、普通の家程度であれば何の問題もないだろう。
「それで、何処で飯にするんだ? トニー」
「……ヒュウガ、いつ戻るんだい?」
父の言葉はどこか疲れている。きっと俺の豹変振りに嘆いているんだろう。
「まあ、いつでもこうできるからな。……ま、すぐ戻るよ」
慰めるように肩を叩くと、先ほどと同じように適当な路地裏に入る。
本来なら丸1日は持つこれを解く方法は時間経過以外でも結構ある。
ただ、あまり光ったりなんだったりをするのは目立つから止めることにして。
特殊スキル『なかったことに』自分に掛かっている全てのステータスをなかったことにする地味に便利だが、あまりに地味すぎて人気のなかったスキルの1つだ。
というか、取得クエストがマゾすぎて挑戦する人間がほとんど居なかったに過ぎない。
俺もドン・○バチョでなければ見向きもしなかったスキルだ。
「父、ただいま」
「あ、ああ。ご飯にしようか」
歯切れの悪い父には後で聞こう。道中であまり話すようなことでもない。
父がよく行くと言う食堂へ。美味しいものがあれば嬉しいんだが。
とはいえ、町の中に何があるか分かりません。というか、ようやく町の見物が出来そうですよ。
ペティトアルテにドワーフにエルフに獣人。見る限りでは様々な人種が暮らしているのかどうかまでは分からないが、居るらしい。
獣人もほとんど獣のような犬の兄さんやら思わず抱き締めたくなる猫のお姉さん。
俺のような人とあまり変わりなく、耳や尻尾など一部特徴を残したウサギらしいお姉様など種類は様々だ。
思わずバニーとしか思えないお姉様の後をふらふらと付いていきそうになったのは秘密だ。
ちなみにペティトアルテとは小さな職人という名を持つ小人族だ。
「思ったよりも高値で取引できたから、好きなものを頼んで良いよ」との父上の言葉に甘えようとここぞと言わんばかりに注文をしようとした、のだが。
「……名前は分かるが調理法がよく分からん。何だ、トテのギュリンドーって。グラッダのオースタートは一体何処の邪神だ?」
文字が読めて、ある程度の教養とこの世界の常識は身につけたものの。
肝心の調理法の名称が分からない。母さんの料理も色々名前はあるんだろうけど、それが伝わっていないのか俺が聞かなかったからか材料がどんなものかは分かっても、どんな味付けの料理なのかすら分からない。
「……父よ。ここに魚のムニエルやリゾット、もしくはマルゲリータでもいい。とにかく今言ったものに近い料理はありますか?」
「……その料理がなにか分からないけど、僕に任せてもらえるって事かな?」
とりあえずいえすと返事をすると首を傾けるも、気にしないことにしたのか近くに居たお姉さんを捕まえ注文する父。
まるで聞いたことのない呪文のような言葉を口にする父は少し怖かったです。
「それで、さっき言っていたのはどんな料理なんだい?」
「……料理が来る前だからいいけど。ムニエルは魚を香草やら塩で味付けした後、両面を粉でまぶした後にバターを引いた鍋で両面をこんがりとやいたもの。酸味のある果物の絞り汁をかけるとなお美味。リゾットは米、ライスっていう穀物をブイヨンで煮込んだもの。野菜だの肉だのを一緒に入れて芯が残る程度に煮た料理だよ。で、マルゲリータは醗酵させた小麦粉の生地を薄く丸く延ばした上にトマトソース、チーズ、バジルをのせて窯でやいた料理。……そういや、そこら辺なら作ろうと思えば作れるな。いや、米が今まで見たことないからな……なかったらそれだけはどうしようも出来んぞ」
それはまずい。確かに醤油や味噌も捨てがたいが、あれは大豆があることは分かっているから作れる。
しかし、米がなければ日本人としての俺のアイデンティティが許さない!
「……これはまずい。……っと、何故ムニエルが? 父よ、頼んだものの中に実はムニエルはあったのか?」
「いや……初めて見る料理だけど。ドミニクさん、どうしたんだい? これは」
「こっちの坊やが言ってる料理が面白そうで旦那が勝手に作っちまったんだよ。
それが一番簡単に作れそうだったからね。坊や、味見お願いするよ」
「そういうことなら、戴くことにする。ふむ、見た目は問題なさそうだけど。
味は? ……思ったよりも酸っぱい。もう少し酸味は弱めるか、かける量は調節したほうがいいかもしれんですよ……」
だが、確かにこれはムニエルだ! パンしかないのが辛いところだが、全粒粉のパンにはむしろあうのか?
「そうかい。これくらいのほうが臭みは抜けて良さそうだったんだけどね。じゃあ、それでまた作ってみるよ」
「あー……それも好き好きなので、カットした果物を添えて、それを好みに応じた量だけ絞ってもらったほうが風味も飛びづらいのでいいかもしれませんよ? そっちの方が見栄えもいいでしょうし」
「それは面白いね。じゃあ、うちのメニューに入れさせてもらおうかね」
「今日の料理代をまけてもらえるなら構わないですよ? あと、次回来たときにもっと美味しいムニエルを食べさせてもらえるなら」
美味しいものが食べられればそれでいいが、あまり勝手にアイデアを盗まれても困る。
という建前は一応必要だろう。
「旦那も久しぶりに張り切ってるみたいだし、今日の分はただでいいよ。後はもっと料理のアイデアをもらえたら良いんだけどさ」
「そこまでしなくても、ここの店であれば問題ないでしょう? ソラ、あまり無理を言わないようにね」
やんわりと止める父はやはり絶妙だ。こうやって口を出すタイミングを計れるのは猟師としての勘なんだろうか。
「そうだね。ついつい調子に乗っちまったよ。悪かったね」
苦笑するおばさまも嫌悪や怒りの表情は見せない。本当に自分も悪いと思っているんだろう。
「……ごめんなさい」
俺も自重しなければ。美味しいものは幾らあっても構わないが、あまりそれを増長させるのもよくはない。
あまり異物は混入しすぎないほうがいい。多過ぎる差異は、いつかわが身に降りかかるだろうから。
結局、ギュリンドーは葉っぱに包んで蒸し焼きにしたもの。オースタートは解し身を丸めあげたものだと言うのが分かった。
それはともかく。
父のお勧めの料理を堪能し(それでも味が薄いのは変わらなかったが。これは素材が新鮮なものが多いからあまり香辛料などを使わないのが一般的だそうだ。あと残念なことにパンはまだ固いままだった。広まっていないのか?)向かうは家を仲介してくれるギルド。
と考えている間に、建築ギルドへと辿り着いた。……食堂のすぐそばだったから辿り着くも何もないんだが。
「父上。母の意向もなしに家を決めてしまって問題ないのですか?」
また話を聞かないといって泣かれるのは勘弁して欲しいのだが。
レニは良い子だからほとんど泣かないが、それでもレニにも母にも泣いて欲しくない。
家族というのもあるし、基本的に女性の涙はどうにも苦手だ。
「大丈夫。クリスの希望も聞いて来たらからね」
自信ありげに頷くのであれば信じるしかない。あとは、俺の希望次第と言ったところか。
「分かりました……では父に母の要望に関しては任せます」
さっきの魔術ギルドとは全く違う。これも当然と言えば当然だが、2階建ての広い建物だ。
広く作られたフロアに、日の光が入って開放感が半端じゃない。
客が多く入っているのも活き活きとした風情を出していて尚良い。
「やあ、シエッタ。久しぶりだね!」
「お義兄さん、ご無沙汰しています。お元気そうで何よりです」
義兄? そう父を呼ぶ女性はどこかで見たような金髪碧眼だ。
どこかおっとりとした表情は母を重ねる……となると、俺の叔母なのか?
「今日は休みだったんだろう? トーマスにも悪いことをしたな」
「旦那は今日も仕事ですから。ソラよね、小さい頃に一度会ってるんだけど覚えてるかな?」
「ええっと……いえ、ごめんなさい。覚えてないです」
わざわざしゃがんで俺の視線に合わせる彼女はきっと良い人なんだろう。俺の母の妹ならそれは保障できそうだ。
「そっか。まだ赤ちゃんだったもの。覚えてなくても仕方ないわね。改めて、あなたのお母さんの妹で、シエッタよ。よろしくね、ソラ」
「初めまして……じゃおかしいか。ご無沙汰してます、でいいのかな?」
「シエッタ。こんなところで立ち話もなんだ。案内してくれないか?」
「そうね、じゃあ案内するから付いてきて」
俺の手を繋ぎ、シエッタはカウンターの奥へ。何でわざわざこんなところにまで?
「義兄さん。ご無沙汰してます」
「フランク! 仕事中にすまないな」
この世界では珍しい、メガネをかけた男は入ってきた父を見つけると小走りに駆け寄ってくる。
それなりにしっかりはしているものの体格的にあまり筋肉が付いていないところを見ると、建築士なんだろうか?
明るい茶色に近い赤毛と薄いグレーの瞳は細い体躯と相まって見るものを魅了するだろう。
……つまり、やはり父の周りにはイケメン様しかいないのかっ!
いや、だからとりあえず落ち着け俺。イケメン様許すまじっ! とまではまだ至っては居ないはずだ。
「今日は家を購入すると言うことで来たと思ったんですが。違ったんですか?」
それなら確かにこの叔父にとっては仕事だろう。父はやはりどこか抜けているんだろうか?
「いや、そうなんだけれどね。久しぶりにフランクにも会えて嬉しいよ」
満面の笑みを浮かべる父に隙はない。父は猟師よりも他に適職があるような気がします。
「そう言ってもらえると俺も嬉しいですよ。シエッタ、お茶を頼むよ」
叔母夫婦は一瞬見つめあうと微笑みあい、離れる。……いちゃつきやがって。
「それで……君がソラだね。義兄さんから話は聞いてるよ。随分とお利口なんだってね」
お利口。若干馬鹿にされてる気がするが、まあいい。まだ若いからだろう。
「初めまして、ソラと言います」
軽く頭を下げる。挨拶は先手必勝、それくらいの礼儀は流石に弁えている。
「ああ、初めまして。俺はフランク、ここで建築士をやっている。よろしくな」
流石イケメン様。笑みもやばいくらい決まってやがる。
こういう場合は俺は薄く笑うだけで十分だ。変に目立たないためにも愛想笑いにならない程度の表情を作ったほうが敵を作りづらいからな。
「じゃあ、早速で悪いんだけれど今住める家を教えて欲しい」
この町『学術都市バーレル』の平均的な家は賃貸で一月金貨1枚、購入で白銀貨1枚と金貨50枚だそうだ。
つまり、購入しても今回の魔具を売ったお金だけでも白銀貨2枚が丸々残る計算になる。
まあ、新築でないらしいからリフォーム代だの何だのにそれなりに費用は掛かりそうだが。
5~6人暮らせる家が庭も付いて1500万。妥当といえば妥当なラインだな。日本だって高いのは土地代で箱はそこまでしないらしい。家なんて買ったこともないから分かりようもないが。
だが、そう考えると、家を2件買えるような魔具はどれだけ需要があるのやら。
今回こそ必要だったから行動したものの、やはり派手に動くのは危険だな。
魔術ギルドのギルドマスターだってやはり信用は置けそうにない。
いずれはなんらかしらの交渉はする機会はあるかもしれないが。
「ソラは何か希望はあるかい?」
「お風呂と地下室が欲しいです」
風呂は切実だ。『ユグドラシルの葉先』では上下水道が整備されていなかったからトイレはもちろん水洗ではなかったし、風呂もない。
水浴びが一般的だったのは結構しんどい。
こっちは上下水道が整っているらしいからそこに関しては問題ないだろう。
問題は何処までそれが町のシステムとして浸透しているか、だ。
あとはあまり人目に付かないところで研究や錬金を行いたい。
鍛治は炉の問題や音の問題も有るし家に工房を持つのはほぼ不可能だろう。
それを両方満たし、父と母の要望も叶えられる。そんな家があるのだろうか?
「その条件だと、あるにはあるんだけど。ちょっとお奨めできないな」
渋い顔のフランク。そんなに好条件なものを売りたくない、というわけでもなさそうだ。
「何か曰くでも?」
俺の問いに顔を引き攣らせる。当たりだな。
「見た目は広くて安いから何度か契約にまで結びつこうとするんだが、建物まで行くとどうしてか気持ちが悪くなる、帰りたくなる、原因不明の病にかかる、夜悪夢を見るとかで決まらないんだ。
で、そんな家をずっと保有するのも金が掛かるからって壊そうとすると道具が壊れたり、作業員が怪我をしたりでずっと放置したままなんだよ。そこ」
祟りか、それは? それにしては随分と甘いと言うか、下手したら子供の悪戯レベルじゃないか?
確かに不気味だし、そんなのがずっと続くのであれば住みたくはないだろうが。
「ソラ、どうしたい?」
「……見てみたいです」
「いやいや、義兄さんもソラも話は聞いたろ?
今はまだ誰も大怪我をしたりはしてないけどな、不気味だぞ?
住もうとした客の全てがあそことは関わりたくないとまで言い出すんだからな」
そこまで素直に言えるのは好感が持てる。
自分が不都合になりそうな情報は意図的に隠される場合が多い。
それでもちゃんと情報を出せると言うのは素晴らしいと思う。
「大丈夫だよ。場所、案内してくれるかい?」
「どうなっても俺は責任取れないですからね」
……紹介したのは叔父さんだと俺は思うんだが。
というか、父よ。俺に解決させる気満々だよな、これ。
歩きながら紹介された『学術都市バーレル』のことをここで少し纏めよう。
この町は前に手紙が届いた魔法学校があることで栄えている町だ。
円形に広がる町は町を4分割する通りで大きく区切られている。
1つが、魔法学校を始めとするその関連施設が立ち並ぶ学術区。
1つが交易などで入ってきた商品を売る商業区。
1つが町民が暮らす住宅区。
そしてもう1つが大商人や下級貴族が暮らす高級住宅区だ。
ちなみにギルドや食堂は商業区にあり、今案内されている建物は住宅区にあるとのことだ。
案内されてやってきたのは想像以上に広い、これはむしろもう家と言うよりも館と呼んだ方がいいんじゃないか?
まるで貴族が住むかのような馬鹿でかい3階建てのそれは、別に外見からいかにも何か不吉です! と言うような不気味の悪さは感じない。それならまだ魔術ギルドの方が不気味だ。
周りの家とも不思議と調和が取れているし、どちらかと言えば一瞬眼に止まってもそのままスルーしてしまいそうな、そんな不思議な家だ。
いや、正しくは正しく認識できないように、スルーされてしまう。
そんな認識のズレを起こさせられている。
俺も父も、きっとここを目当てで来なければ認識すらしなかっただろう。
「……父、恐らく魔術か何かで守られている。俺が行くから、父はここで。それと鍵を」
「駄目だ、と言っても勝手に行ってしまいそうだしね。フランクには上手く言っておくから、無理はしないようにね。
フランク。家の中を見たいから鍵を借りたいんだけどいいかな。ああ、ありがとう。
ああ、そういえばこの周りの家のことなんだけどね」
そういって父はフランクに鍵を貰い、こっそりと鍵を俺に渡してくれる。
了解、と短く返事をすると特殊スキル『気配探知』『鑑定』を起動させる。
単なる建物ならどちらも反応はしないはずだが、さてどうなるだろうな。
待ち人の家
DEF ??? MDEF ??? 耐久度【5874/10000】
主人の帰りを待つ家。
招かれざるものは無事に入ることは出来ない。
備考:自動警備用の魔法陣展開中
これ、『クランハウス』かよ。
『レジェンド』ではクラン用の建物が幾つかあり、規模によってその形式や維持費、機能が異なっていたが購入すれば家を持つことが出来た。
さらに費用と素材を使えば強化と増築も出来たな。
そこではクランメンバー用の倉庫や専属NPCからサービスが受けられたし、回復率増加なんてのもあってボス狩りの後は祝賀会をしながらまったりと過ごすことも多かった。
通常の建物ではこういった鑑定は出来ないが、『レジェンド』では戦争時、町の建物の破壊は出来ないが『クランハウス』を襲撃して破壊することは出来た。
戦争後、呆然とクランハウスの残骸の前で立ち尽くすクランがいくつあったことか。
そのため、クランメンバー以外にはその家の防御力を知ることは出来ないが、鑑定スキルをカンストしたら耐久度を知ることが出来た。
そんな経緯もあり、俺はここをクランハウスだと睨んでいるが。NPC……もとい、ハウスキーパーなどが中に居る様子もないし、主が不在のときに発動する自動警備といえば聞こえは良いが、要は悪戯防止の防衛が何らかの形で残っていてずっと動作しているんだろう。
クランハウスは何もしない状態でも1日耐久度が1下がる。一ヶ月がこの世界は固定で30日だから、10年は誰も住んでいないのだろうか。
とはいえ、入るためには邪魔なだけだ。魔法陣を壊そうにも当然魔法陣は家の中にあるだろうし、外部からは干渉できないようになっているはず。
そうなるとどう入ったものかとは思うが、まずは正攻法だな。
鉄で出来た門扉を鍵で開け、中に入る。
1歩踏み出すと頭の奥がずきっと痛んだ。1歩進むとさらに頭の痛みが増す。思い切ってジャンプしてみると気持ちが悪くなってきた。それに懲りず進んでみると帰りたくなった。まだ諦めずに進むと何でこんなところに居るんだ、と強く思うようになった。
色々と順番がおかしい気はするが、これがフランクが言っていた客が契約しない理由か。
恐らく館の主人が不在の時に近づくものを追い返すように精神に働きかける魔法陣なんだろう。悪趣味な。
特殊スキル『なかったことに』を使用して、今までの嫌悪感をリセットすると、一気に駆け出す。
このスキルの最大のメリットは、名前の通りなかったことになるため、蓄積型の呪いでも呪いが発動する前にまで戻す。
その場合は最初から溜め直しになるから、敵が使ってきた場合それまでのSPが無駄になるという結構暴虐なスキルだ。
まあ、今回は館の中までの距離かもしれないからあまり関係はなさそうだが。
館の扉にまで辿り着いた俺は、鍵を鍵穴にぶっさし勢いよくまわす。
普通の家なら鍵穴か鍵が壊れそうだがクランハウスであるなら多少荒っぽく扱っても問題ないだろう。
どうせ後で扉は交換する予定だし。
鍵が開いた音を確認すると、中に入り扉を閉める。
この状態で身体の異常はないから、あくまで入るまでの嫌がらせ程度の効果しかないんだろう。
あまり強い効果であれば壊されてるだろうし。
館の中は、10年掃除をしていなかったこともあり、埃が層になって積もっていた。
一切足跡がない以上、埃が積もるようになり始めて以来、誰かが中に入ったことはなかったんだろう。
怪しい気配も今のところは感じないし、人の気配もない。とりあえず、魔法陣のあるところまで進むか。
中を探索して分かったことが幾つかある。
まずは意外なことに罠がないこと。まだ全ての部屋を探索していたわけではないが、クランハウスにはクランメンバー以外の重要な施設への出入りを防ぐため要所要所に守護者を配置したり、罠を張り巡らせたりする。
その代わりなのか、重要施設へ入れる方法が面倒くさい。鍵が基本どこかに隠されていて、ドアを開けるために鍵の掛かっている引き出しの鍵を探したり、火のともっていない燭台を引いて隠し扉を見つけそこから見つけたバールで封じられていた扉を開いたり、と。
ここは何処の脱出ゲームだ! と言いたくなるほどの手の込みようだ。
この館の主人は相当に悪戯好きか、性根が曲がっていたんだろう。
俺が脱出ゲー好きでなければドアを全て吹っ飛ばしているところだった。
そして、そんな中見つけたのが1冊の手帳。羊皮紙で作られたそれは随分と昔のものらしく、結構ぼろぼろだ。
読むのにはインクが掠れていたりして困る部分も多かったが、何とか解読は出来た。
この家の主はオーデ=ソリア。どっかの貴族の三男坊で、結構な家柄の出だったそうだ。
だが、道楽人のオーデはまだあまり栄えていなかったこの町に家を立て暮らすことにしたそうだ。
その経緯や理由はインクが滲み読み取れなかった。まあ道楽にまともな理由はないだろうし気にするほどのことじゃない。
そして、この館に仕掛けられている魔法陣のことが書かれていた。
家柄の良い貴族が越してきた、ということで町の柄の悪い連中に目をつけられたそうだ。
普段はお抱えの警備員を雇ってそれで対応していたらしいが、深夜や自分がいないときはどうしても警備が手薄になる。
盗られて困るようなものも少なくなかったし、そういった連中が自分の足元をうろちょろされるのも腹立たしい。それで知り合いの魔法使いに頼んで家に許可なく近づくものには追い返すような魔法陣を組んでもらい、道楽仲間の大工に協力してもらい家をからくり屋敷に改造してもらったそうだ。
俺からみたらどう考えても単なる嫌がらせでしかない脱出ゲーだが。
つまり、これは道楽ついでの防犯で中に入ってしまえば害はないというわけだ。
入ったら入ったで扉を開くための労力をかけさせられるのもしんどいんだが。
まあいい。途中で見つけたマスターキーがある。後はさくさくと進めるだろう。
能力チートであれば何でもできると思っている時代が僕にもありました……。
マスターキーだと信じてたのに。鑑定もして間違いなかったのに!
……何故かマスターキーだけ脆くて折れました。幸運にも鍵穴から折れた鍵は回収できたので問題ない、というか。他の扉内開きなのに対して、この扉だけ何故か外開きってどうよ。
むしろ能力チートに頼らずここまできて、最後の最後で裏切られた気分だ。
あれか? 鍵にも実は隠しステータスとして耐久度がありオーデが使いまくってたから脆くなったのか?
ええい、考えても仕方がない。アイテムボックスからナイフを取り出し、上下に取り付けられていた蝶番をさっくりと壊す。
……邪道なのは分かってる。あえてここで鍵を探すのが正しい脱出ゲームの作法だって言うのも分かってる。言われなくたって分かってるんだよ、ちくしょう。
蝶番が壊れ使い物にならなくなった扉を逆側に開け、とりあえず壁に立てかける。
床には弱弱しい光を放つ魔法陣。これはあと数年もしたら何もしなくても消えそうだな。
そうはいっても、家が欲しいのは今。地下室自体何部屋かあるみたいだし、俺としても都合がいい。
魔法陣の効果は人を退けるもの。魔除けに近いし、消しても構わないだろう。
これが町の外であれば魔除けを張りなおさなきゃならないところだが、学術都市の異名を取るこの町の魔法陣や外壁はそうそうモンスターの進入を許しはしないだろう。
必要であればもっと効率の良い人払いの結界を張ってしまえば良いだけのことだ。
「そうはいっても、魔法陣を消すのもこっちの世界じゃ初めてなんだけどな。
―――この場に在りし力よ。我はそれを否定するもの。強き力よ、沈まれ。過ぎ行く力に、永遠の沈黙を。魔法解除」
若干の不安はあったものの、魔法陣は最後の足掻きかのように一瞬強く光ると、その光を宙に投げ出し、消滅する。
さて、これで家の問題はひとまず片付けられそうだな。掃除したり、補修したりとやることは多そうだが、建築ギルドでそういった依頼もかけられるだろう。
ギルドの人間も入れなかったのか、部屋には家具も残ったままだし、捨てることになるものもあるだろうけどそのまま使えるものもあるだろうからその辺も安心できるだろう。
「父、ただいま戻りました」
「お帰り、もうすんだのかい?」
館を出て、待っていたのは父と叔父。1時間は少なくとも掛かっているとは思うんだが(体感時間的に)2人ともずっと待っていたのだろうか?
「はい。もう平気です。父、契約をお願いしたいのですが」
叔父が居る以上、どう話せばいいか加減が難しい。そのせいで変な敬語になりっぱなだが、緊張していると受け取ってもらえるだろうか?
「実はもうすんでいるよ。ソラが行っている最中にね」
父は豪快なのか、先をあまり見ていないのか。俺がもし失敗したらどうしたんだろうか。
「義兄さんの慌しさには少し参りましたよ。家の中すら見ていないのに契約したいって。
中を見るのは契約した後でいいから、って俺でも始めて聞きましたよ」
苦笑する叔父はどこか諦めが入っている。父はどうやらこうやって人を困らせる趣味があるらしい。
「それにしても、ソラは何処に行っていたんだ? 義兄さんとギルドに戻ったときには既に居なかったよな?」
「ええと……館の探検、してました」
てへ、ととりあえず誤魔化してみる。子供ならまだこれですむかなっ!?
「おいおい。この何年もギルドの人間も立ち入り出来てなかったんだぞ? もし床板が腐ってたらどうしたんだよ」
呆れた叔父に心配の色は見えても怒りは見えない。……このイケメンイイヒトがっ!
いや、きっとこれくらいでないと母や叔母の旦那としては不良品だということなんだろう。きっと。
館の改装案に関しては父に丸投げして、(嫌そうな表情で見られたが見て見ぬ振りをした)町に出かけることにした。
そのことを伝えると、お土産でも買っておいでと魔術ギルドで貰った小袋の中にいくらかお金を入れてもらって送り出された。
父上、幾ら俺が今回のお金を作ったとはいえ、銀貨50枚は子供のお小遣いにしては多すぎると思うのですが。
前でもバイトした分と小遣い合わせてももう少し少なかったと言うのに。親ばかなのでしょうか?
まあ、貰えるものはありがたくいただくとして。子供が持つにしてはやはり多すぎるのですよ。
そんなわけで変化して町を廻ることにしました。これならちょっと柄の悪いお兄さんに囲まれてもばれることはないでしょう。
流石に大きい町だけあって活気もあり、ただ歩いているだけでもわくわくしてくる。
人ごみの多さには少し辟易するものはあるが、あの村では一年に一回の祭りのときですらここまで人が集まることはなかった。
まあ、100人ちょいがひっそりと暮らす村だから比較の対象にすらならないんだが。
そんな中を苦労して進むと、暫くして中央の広場に出た。
正規のやり方かどうかはわからないが、地面に布を広げ、商品を並べ声を張り上げ売込みをする。
それを見てまわる客はそれぞれだ。この景色は『レジェンド』のそれににて、思わず笑みが零れた。
「お姉さん、これ幾ら?」
「この首飾り? 銀貨1枚と銅貨30枚だけど、お兄さん素敵だから特別に銀貨1枚と銅貨10枚でいいわ」
「お姉さん気前いいねえ。じゃ、これも一緒に買うよ」
母と妹へのお土産でも早速調達しようとあれこれ見てまわった中で、細工を取り扱う店で俺は立ち止まった。
「ホントっ? じゃあ、あわせて銀貨2枚と銅貨50枚。サービスで包んであげるわ」
「ああ。じゃ、銀貨3枚からでいいか?」
その中でも首飾りとイヤリングを選び、小袋の中から銀貨3枚を取り出し、渡す。
これでまずはご機嫌取りは上手く行くだろう。鑑定はしていないが、この細工は中々凝っている。
「じゃあ……おつりの銅貨50枚と品物ね。また寄ってね」
おつりとそれぞれ包まれたものを受け取る。
さらに出ていた屋台でパニーニのような、固いパンを薄く切り開いたものに肉と野菜をはさんだものを2つ買うと、また館へ。気配探索により父がそちらへ移動していたのがわかったからだ。
「父上、早めの夕飯として食べると良い」
「ああ。そうだね、ありがとう」
当然戻ってくる前に、変化はなかったことになっているのであしからず。
まあ、叔父が大工らとともに修理・補修箇所を見回っているらしいので今はここに誰も居ないのだが。
埃だらけの家の中で物を食べることに若干抵抗感はあるものの、さっさと食べてしまえば問題はない。駄目だったときはお腹を壊すだけだ。死ぬことはないだろう。問題はない。
「……おええ、ふぉうきふぁった? ふぃふぃ」
「きちんと食べ終わってから話すように。行儀が悪いよ」
おっと、失礼。とはいってもこれはやはり水分がないと辛いものがあるな。
とはいっても完全に失念していたから飲み物は買っていないし、アイテムボックスには……試作のポーションしかない。
まあ、流し込めば良いだけだ。2つほど出しておこう。
喉に流し込んだポーションは思いのほか滑らかだ。舌に残る味が微妙なものだが。
これでも無理やり果物を詰め込んだおかげかそのままのポーションに比べたら随分と飲みやすい。
「それでは改めて。どう決まりましたか? 父」
父にもポーションの瓶を渡す。そういえば、この瓶は何処で精製されるんだろうか。
俺が使った材料はリーンの草という干して煎じると薬草になるという草と同じく薬草になる雫花だ。
それと臭み消しのために林檎をその草の3倍ほど。両方薬になるのだからと思って調合してみたのだが、上手く成功したようだ。ただ、ガラスの瓶を用意した覚えは俺はない。
だが、そんなことも知らない父は嫌そうな顔でそれを喉に流し込む。
「……ソラ、このポーションやけに苦くないんだけど」
「それはそうでしょう。これでも俺の渾身の一作です。味を優先したためHPもSPも回復量はたいしたことがないですが」
飲みながら説明を聞いていた父がぶはっ、とむせ液体の一部を床に零す。
「父、飲み物を粗末にするのは如何かと」
「……ソラ、ちなみにこれの効用はどうなってるのかな?」
「鑑定したところ、名前は『特製ポーション』HP+500 SP+250 それと3分間継続で20秒ごとに最大HPとSPの回復+5%ですね。まあ、チャージがあるのでまだいいものの、回復量としてはいまいちなのですね」
せめてHPだけであれば1000、SPであれば2000は回復してくれないと困る。滅多に当たらないとはいえ、それが上位級ボス並みの敵に遭遇したら危うい。せめて10個ずつは保有しておきたいところだ。
3分丸まる自動回復を抜きとしても最大45%。低くはないが瞬発力としては足りない。
「ソラ、これを売りに出さないようにね」
「分かっています。この程度では売値もたいした物にはならないでしょうし、材料が集まりやすいとはいえ小遣い稼ぎならもっとしっかりとしようかと」
「ソラ……これを売りに出せばきっと、1つ銀貨20枚は取れると思うよ」
「村の中にも生えているような簡単な雑草と果物だけで作ったものがそんなにするはずがないでしょう。父、からかうにしても程がありますよ?」
幾ら俺がこの世界の物価を知らなくても単なる草と果物がそんな価値を持つわけがない。
「……やっぱりこの子にはもっとこの世界についての教育が必要そうだね」
失礼な。
「それは今後の課題として……今日中に村には戻れそうですか?」
「高速馬車を使えば可能だろうけど、後はフランクに任せてあるけど、きっと今日帰ろうとしても帰り着くのは明日になりそうだね」
そうだった。馬車に乗らなければならないんだった。辛い思いすぎてすっかり忘れてましたよ。
その時、俺の脳裏にはあるスキルとそれに基づく騒動が思い出されていたのだった。
何故昔話の語り部口調なのかは分からないが、改善できる方法は見つかった。
「父よっ! 馬車を買いましょう!」
今回も説明回となりました。
次回こそあらすじに沿うような骨組みは出来るように頑張りたいです。。。
館と町でそれぞれ1回ずつ立った戦闘フラグは発動されませんでした。
…戦闘はやはり行わせた方が良いんでしょうか?
評価や突っ込みお待ちしています。
2011/9/11
誤字等を修正しました。haki様ありがとうございます
2011/9/13
種族名を事情により変更。。。海松房千尋様、ご指摘ありがとうございました。
2011/9/29
誤字等を修正しました。ごるば様ありがとうございます。
2011/10/4
誤字等の修正を行いました。まーやさまありがとうございます。
2019/4/30
言い回しを一部変更しました。