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別視点での話。アイシャ・ソーキンスから見たソラという少年について

 アイシャ・ソーキンスにとって、それは青天の霹靂、ともいうべきものだった。

 彼女にとって、王宮とは優先されるべきかけがえのないものであり、誰からも崇拝されるものだ。

 それは多くの人物にとっての事実であり、そうは思わない者は、あまり関心されるものではない。

 ともあれ、それは大きく違っていた。


 久方ぶりの第4王女の帰城。正確には勇者の召喚で戻ってきてはいたが、大々的に行われたものではなく勇者がこの国の言葉を話せないことが判明した途端、何か心当たりがあるのか勇者を連れてさっさと学術都市に戻ってしまった。

 王国に対し重要な場所である魔術学園を抱えるその町では、様々な規制があり、多くの騎士や魔術師などを抱えることができない。そのため、いずれ王女付きになるはずの彼女も第4王女であるマイアが城に居なくてもそこにいることしかできない。

 王城への滞在はさほど長くはないが、久しぶりに王女が戻る、ということでアイシャは非常に興奮した様子で数日を過ごしていた。

 とはいえ、アイシャはソーキンス子爵家の2女という立場ではあるものの、まだ仕えてもいない王女と直接会う、ということもできず、会場でこっそりとマイアの警護をしようとしていたが、自体は思いもよらぬ様相を呈していた。

 マイアの周囲にいる人物、勇者であるナギサは別として、他は誰も知らない顔ぶれだった。

 少しおっとりとした様子の執事や、険しい表情をしたメイドは恐らく現地で雇い入れた側用人だろう。

 それはいいが、貴族が集まる会場で場違いな、いかにも不快そうな気配を消さない恐らくは魔術師と、マイアに庇われるようにその背後にいる小さな姿だ。

 姿恰好からすると下級貴族に見えなくもないが、その在り方に違和感を覚える。

 恐らく成人を迎えていない幼い子供だが、その割には真新しい礼服に、正装を着こなしている。同じ場所にいる勇者は服が気になるのか、首回りや袖などを何度も気にしているし、周囲の見慣れぬ貴族に対しても不安そうにきょろきょろしている。年齢はマイアよりも上だが、そういった場所に出る機会がなければそれも当然だろう。

 ただ、少年はそうではなかった。ただ、そこにあるのが自然だとでもいうかのように、静かに佇んでいるし、何も考えていないのではなく、堂々と、それでいて警戒は怠らないといった様子だった。

 アイシャは思わずほぅ、と感嘆のため息を吐いた。自分では王女の後ろでそんな態度でいることはできない。そもそも、王女のお側には恐れ多く近寄れない。一応、アイシャは将来的に近衛兵になる予定として入城しているため、何を言っているのか、と周囲には言われているが、それでも緊張をしないというわけにはいかない。

 その様子に他の貴族なども少年を注視しているが、害意や悪意などを感じられないためか、軽く視線をいなし、流す。

 恐らく自分の視線にまでは気づいていないだろうが、ここまで注目を浴びている中多少煩わしそうにはしているが、焦りもしないその様相に、非常に感銘を受けていた。

 実際にはアイシャの視線をソラは気づいた上で放置していたのだが、少女はそれを知る術はない。


 そして、アイシャの何よりの驚きというものは、王女と『降誕の聖女』という上級貴族の女性に囲まれても何の反応も見せなかった少年が、今回王女が戻ってきたきっかけでもある、街道整備の重要人物である平民だということだ。

 その情報については、本人たちからではなく、王女の命でソラの護衛任務に当たっていた密偵からのものだった。曰く、鍛冶師でありながら革新的なポーションを作り、ただ同然で町のポーション売りに製法を配った者、曰く、魔術品であろうと武具であろうと短時間で作ってしまうよくわからない職人、曰く、錬金術師としての適性を持ち、街道整備のコアである触媒を一人で作り上げ、不正をしていた錬金術師ギルド長を追い込んだ者。

 それだけのことをしておきながら、『魔術工房サンパーニャ』という小さな工房で工房長ではなく見習いとして働いている変わり者。それ以外にも様々な製品を作り上げ、町に貢献をしているのだという。

 姫とも非常に親しい付き合いがあり、どちらも悪い感情を持っていないというのも今の状況を見ているとわかる。姫の背後に居るし、そもそもの場所が近い。

 また、王家の誇りをもって普段徹している姫が、少年には少し心配そうな表情を向けているのだ。公人としては向けないそれは、私人として親しいということを気づけるのは姫を良く知る人物でなければ難しいだろう。

 そういった意味では、個人的に気に入った相手を取り込もうとした姫の行動かとも思ったが、大きく違った。

 あまり計画に対し協力的ではなかった騎士団に憤慨したマイアは、よりにもよって、一番騎士団でも新入りでまだまだ経験もない騎士、見習いともいえる者に少年が作ったという変わった形をした剣を握らせ、硬く切れ味抜群の、この国の中でも1、2を争う鍛冶職人が作った剣に切りかかれ、と言ったのだった。

 剣を握らせた騎士は渋々と受け取り、騎士団長も含め、他の騎士はこのような剣で何ができるのか、と嗤っていた。ガキン、と金属同士がぶつかり、結果どちらの剣もが折れるという結果が出るまでは。

 それは、対剣破壊用短剣(ソードブレイカー)という、左手で持ち、本来は刺突剣(レイピア)など細い剣を受け止め、折るための剣だったからこその結果で、火波の剣(フランベルジェ)など他の剣であれば、一方的に騎士団長の持っていた剣のみが破壊される、という結果が待っていたことはソラ以外は知らないことだが。


 ともあれ、破壊されてしまった剣の代わりとしてその場で鍛錬された剣もやはり異常だった。『元・侯爵家専任鍛冶師』のベディが手伝っていたのも驚きだが、自分の身長よりも遥かに大きな武器をたった数時間もかけずに特別でも何でもないハンマーで鍛造した腕は、凄腕、とだけでは片づけられないものだ。

 アイシャ自身はそのような大きな剣を使うことはできない。使うのは小剣やナイフなど、重量の軽い武器がメインとなる。それでも、その大剣が纏っているものはかなりの業物のそれだ。

 国宝級や伝説級の武器とまでは行かないだろうが、それでも熟練の鍛冶職人が数人がかりで精魂込めた逸品と同等のものだろう。実際には、魔力を籠めることにより機能などを変化させる既存のものと大きく違った武装だが。

 それに気を良くした騎士団団長は少年が誰の客かも忘れ、無理な依頼を吹っ掛けた。少年は予想通りとでも思っているのか、つまらなさそうに時間的にその数は無理だと断った。

 姫も私の顔に泥を塗るつもりか? と静かに呟いたのも効いたらしい。現実的にどれだけの装備が必要なのか、あるいは幾つであれば作成が可能か、という話になった結果、5人分であれば可能だと少年はいう。

 その場合、通常上から順に、あるいは早急に装備を整える必要があるものから選んでいくものだ。実際、騎士団と魔術師団の団長と副団長が選ばれた。

 そこまでは優先順位からいっても問題はない。ただ、その後に選ばれるのであればどちらかの部隊長や遊撃の隊長など、やはり優先される位が高い側になるだろう。

 そのため、少年はただただ公平にアイシャの武具のオーダーを引き受けた。

 理由としては、アイシャの装備が他のものと比べ、あまりにも貧相で不格好だったからだ。酷い言い分ではあるが、事実である。

 アイシャの家、ソーキンス子爵家は代々王家に仕えてはいるが、あまり裕福ではない。領地を持たず、収入は主に王家からの給金。それに、子供好きな当代は、子が合計20人もいる。

 そのため栄養状況も貴族としてはあまりよくないのか、兄妹はみな比較的小柄で、アイシャも14歳という年齢にも関わらず、10歳程度の身体的特徴しか現れていない。

 小柄で身軽、という特徴があり、少し年上と比べても隠密としての実力が高かったため、近衛兵見習い、という名誉ある立場(本人はそう思っている)には付けたが、まだ新人も新人。

 最低限の装備は与えられたが、通常は自分でもっといいランクの装備を持っているためそれを身に着けることはしない。

 しかし、アイシャにはそういった事情もあり、与えられた装備のまま日々の訓練を受けていた。そのため、ほつれが何カ所にも見られたし、サイズがあっておらず窮屈そうだ。

 そのままではどう動くにしても動き辛いだろうから、という判断の元で、選ばれなかったものは不服そうな表情を浮かべるものの、姫の客人の決定に意見を言えるような立場にはない。

 とはいえ、あくまでも自分が選ばれなかったことが面白くない、というだけで正体も知れない職人が作った武具を本気で欲しがる、という貴族は中にはいなかったが。


 ソラは依頼を受け、それぞれのデータを収集すると即与えられた部屋に引きこもった。とはいっても、1日の内に何度か食事であったり工房であったりに出るため、完全に引きこもったわけではないが、それでも他を遮断するという意味では引きこもったということで間違いないだろう。

 そんな彼を心配するのは1人だけだ。護衛役としているはずのハッフルは実家に戻っていったし、王女も様々な役割がある。その中で一番彼に気を配っているのは渚だ。それは少女にとっても不思議だった。

 王女が召喚した、異なる世界とやらからやってきた勇者。そういった意味では庇護者はマイアになるはずだ。王城ではある程度の安全は確保されているが、それでも一番身を守る方法というのはマイアの側にいることではないか。それを呑気に鍛冶師の心配などしている場合なのだろうか、とアイシャは考えていた。

 アイシャ自身も、まだ見習いということもあり王女がいる間は目立って仕事もないため、自分の武具を作るといったソラが気になり、度々部屋の前まで行って様子を窺っている以上、あまり渚の事を言えたものではないが。


 そして、そうこうしている間に、渚は決心を固めたのか、遠慮がちにドアをノックすると、非常に面倒そうな表情のソラに部屋に招き入れられた。

 そこで何かしらやり取りがされていたが、こっそりとメイドに扮装し潜り込んだ少女に分かったのは、少年が依頼料替わりに受け取ったものは小さな絵のようなものだった。

 非常に精巧に作られたそれは、それが何かは分からなかったが、少年にとって、それは仕事をしても十分な報酬になるものだったのだろう。

 ただ、やはり少年の作った過程もそうだし、出来上がったものも通常のものではなかった。

 コアとなる魔力の籠った宝石は別のものに取り付けかえるだけで効力を発揮するということも聞いたことがないし、ローブは淡く光を放ち、杖はまるで炎を模したような、赤く鈍く輝く金属が何本も絡み合ったようなデザインのものが先端についていたものだった。

 白夜のローブとガンバンテインという杖は、防御力の底上げや、いざとなった時の武器だけではない。魔術品が故のスキルは勿論、それそのものの見た目からの勇者としての見栄え、何よりも追加の機能、というものが恐ろしく強いものだった。

 まともに作成をしたら、今回ソラの作った計5名分の武装を全て合わせたよりも圧倒的に高額な代物だが、少年を含めそれに気づく者はいなかった。そもそも、同じものを作成できるものは他に居ないが。


 そんな誰もが正しい状況を把握しないまま、既に作成し終えた武具が各々の手に渡り、ソラは帰宅の途に、就けるわけもなかった。それはある意味では当然の結果ともいえる。

 王女に降誕の聖女という、貴族でも王族でも上位の存在と親しい『鍛冶職人』など王都にもいない。

 それも、ただ親しい関係だけというわけでなく、その腕も非常に謎ではあるが、異様に良い。良い、などという言葉では片づけられない、単純に考えても10人以上の鍛冶師の腕を持つ者をそう易々と離すはずもない。

 都合のいいことに、姫には勿論、その姫が召喚した勇者にも気を配っているようであり、勇者を盾に、交渉という名の命令をするつもりだったが、それを嫌ったのは第4王女だ。

 そもそも、マイアにとってソラは今回の旅に必ず同行させなければならないわけではなかった。確かに計画の大部分はソラの功績によるものだったし、渚が一番懐いているのは王女ではなく小さな少年だ。

 ただ、それにしても町にとっても重要な少年を同行させるためには理由として薄い。薄いのは理解した上で、王城に呼びたかった。

 ソラという少年は、マイアから見ても非常に欲の少ない人間だった。たまによくわからないことに執着したり、食事に対して貪欲だったりはするが、それ以外の事については達観しているというか、冷めているというか、言われたままに、とは違うが、面倒そうにしながらも相手の要求に対して応え、要望以上のものを提供し続ける。

 追加での金銭の要求は行うが、それも当然だろう。需要と供給という言葉は理解はされないが、無茶を言うのであればそれに対する対価は必要だ。それを求めなければ周りもそうすることを強要される可能性すらある。

 ただ、それにしても少年は名誉や地位というものに拘っていない、むしろ興味がないようだ。異邦人たる彼に身の丈以上のものは必要ではないが、そうであると理解できるのは渚だけだ。

 そのため、マイアは無理やりとは理解しているものの、少しでも少年の立場が良くなるよう、正当な評価をされるよう、今回の旅に同行させた。

 マイアにとって、少年が平民としてはある程度一般的な感覚を持っている、ということに気づかぬまま。いわば良かれと思っての、行動だった。

 平民にとって、貴族としての在り方は勿論無用だし、地位も名誉も、平民の求めるものと貴族の求めるものと大きく違う。ソラの知識や技能を考えると、平民の求める地位では足りないため、マイアの考えも間違ってはいないのだが。

 そういった意味では多くの武具を作らせるということは目的として外れていないはずだが、長時間拘束されるのは都合が悪い。

 マイア自身はあと数日もしたら町へ戻るし、その際は渚も連れて帰るつもりだ。その時ソラを守れるものがいないのは困るし、何かの弾みで誰かに無理やり取り込まれても困る。

 ソラは腕前や口調、精神面では非常に大人びているが、両親と共に暮らす子供なのだ。マイアとしても、子供を無理やり引き離すことは許容できない。

 それに、ソラと居ると非常にマイアは楽しく、心がくつろいだ。同じ年代の人間というものはマイアを第4王女として扱う。それは当然と言えば当然だが。

 学園に通うようになり、多少は友人は出来たし、親しいと思える後輩もできた。だが、それでも壁はやはり存在する。

 それを、ある日偶然に出会った少年はそんな壁などない、と言わんばかりに接してきた。

 最初は妙に丁重な敬語を使ってきたが、そうする必要がないと言った瞬間、「そうか?」とだけ言い、馴れ馴れしく、まではいかないが、相手を必要以上に気遣わない、特別扱いしない。そんな相手を、マイアは感謝していた。



 それはともかく。アイシャにとってだけでなく、王城、いやほとんどの人間が見たことのないそれが鎮座したのはさらに2日後だった。

 まず、見た目が大きく違う。若干ソラの趣味が入っている可能性もあるが、従来の全身鎧(フルプレートアーマー)ではなく、それぞれの部分ごとに軽量化を施し、それと同時に強度を上げたものだ。そのための工夫として、言わば当世具足に近いもの。つまるところ、薄片鎧、ラメラーアーマーと呼称されるものだ。

 ある程度フルプレートアーマーでもパーツ毎の分割は可能だが、均一の厚みを持たせ、強度と軽さを保つのはなかなか難しい。ソラがスキルを使えばそれこそmm単位での誤差も出ないが、そういうわけにもいかず、まだ常識の範囲として細かいパーツをそれぞれ見てムラが少ないという程度で収めれば、いいだろうと考えた結果だった。

 新しい技術、精密な技巧、そして作られたそれらが全て魔術品であるという特異性。それをみすみす逃すようなものは貴族にはいないとは考えていないのは自分を過小評価しすぎている証ともいえるが。

 また、それ以上に特殊だったのが、アイシャの装備だった。見た目で言えば、忍の一言に尽きる。忍刀も鎖帷子も用意していないが、直剣と防刃ショートコート、動きやすく改良された衣服、その全てが黒くなっているのは隠密性を重視した結果というが、やはり趣味の可能性が高いようだ。

 と、趣味と実用性を兼ねたそれは、それを見た職人を唸らせ、消沈させるほどにはレベルの高いものだった。

 何しろ、それら全てを作り上げたのが、たった一人で、かつわずか数日の間に作り上げたものだ。それぞれの使用者の体形や好みには合わせているものの、その技巧を再現できるものは王宮専属の職人にもいない。つまり、国内にこれ以上の職人はいないということを示しており、それが年端もいかない子供が作ったものであるというのがより職人達を呆然とさせるものだった。

 ただ、作った側としては趣味に走った実用品としての認識しかないし、作られた側も見た目や性能は通常のものとは異なるということは何となく分かりはしたものの、実際にどこまで違うか、あるいは自分にどれだけあっているかわからない。

 つまり、今の段階ではまだ、何か凄そうな武具があるらしい、ということしかわかっていない。訓練を以って試用をしてみるまで、それがどういったものか、実感を持って理解することはできないだろう。



「……何もあそこまでやらんでも良かっただろう」

「あれでも俺の秘蔵としてはそこそこの性能だぞ? 正直、貸し出してる武器の方が上だし」


 渚の分も含め、ソラの作った武装の慣らしという名目で行われた訓練を見た感想としては、幾ら何でもやりすぎだ、というマイアとまだこれ以上がある、というソラ。

 ソラの貸し出しをしている武器というのは何点かあるが、それもどれもが『魔術工房サンパーニャ』を魔術品の工房ではなく、良く分からないが何か良く分からないものを作っている場所、と認識させている原因の1つだ。

 それには及ばない、といっても騎士団や魔術師団の保有する武具よりも遥かに高性能なものであるということはすぐに証明された。

 騎士団長の持つ武器は『あの』ベディが協力して作ったものだからこそある程度の性能になるだろうと思っていたが、実際はそれ以外の武具では歯が立たない、というものだった。

 つまり、切り結んでも、盾で防御しても、たったの数撃で使い物にならなくなる。勿論、ソラが作った武器を受け止めた側が、だ。

 その結果、当然ながら武具の依頼が殺到した。とはいえ、マイアの命により基本的には断られたが、アイシャの追加武装という要望は応えられた。

 ソラとしては面倒事は出来るだけ避けたいが、アフターサービスに入る程度の依頼は受け付けるということだったらしい。

 アイシャが追加で依頼したのは、予備となる短剣と手甲。元々アイシャは隠密としての活動に向いており、状況次第で幾つかの武器を使い分けるように訓練を受けている。

 あくまでも現在進行形のため、使いこなせる、というわけではないが、癖が少ないうちに体に合う武器を使わせよう、というアイシャの教育係の方針だった。

 そして、単純なものならそれこそ半日もかからず作ってしまうソラに、その程度の仕事は難しいことではなく、やはり趣味全開、といった様相のものを作り上げた。

 そもそも、他のものと比べアイシャのものは非常に凝った作りになっている。スキルでは作り出せない、正確には構成が用意されていないそれらは、パレットの存在が大きく貢献している。


 スキルパレット。『レジェンド』がMMORPGとしてサービス稼働していた頃、サービスの拡充を目的として何度目かのアップデートの時に追加パッチとして登場したものだった。

 中には以前ソラが使った、特殊スキル『変化』や魔術品を作るときに使う、外観などを登録することができたし、戦闘時を除いてだが、簡単な動作を登録し、再現することのできるマクロプログラム機能、有料アイテムが必要だが、自分の外見を選択しなおせる『再クリエイト』機能などが搭載されていた。

 その中でも、ソラが多用しているのは魔術品の作成をする際に外観を調整することだ。やろうと思えばやりようはもっとあるのだが、如何せん秘匿するということが現状では非常に難しい。

 デザイン画もなく正確な魔術品を作れるのは、そういった背景があってのことだ。


「あの、少し宜しいでしょうか?」

「ん? ああ。……いいのか?」

「私に聞くな。少し話をする程度なら構わん。だが、あまり時間はないからな」


 思い切ってアイシャが話しかけたのは、ソラとマイアがテラスで午後の茶会をしている最中だった。茶会といっても、食後に一杯とマイアが誘ったものだが。

 王女とその客人の茶会を邪魔するというのは通常万死に値する、とまではいかなくとも厳しい処分を与えられるのは通常だ。

 ただ、それでも今のソラには時間を作る余裕が実はない。誰の差し金か、来訪者が多いのだ。

 王宮付きの鍛冶師に彫金師、あるいは錬金術師などが面会に訪れ、そのたびに製法を聞きに来たり、意見を交換したりなど、面会そのものを断ることが難しい。

 最初は引き籠ることで回避していたが、武具を作ってからというもの、そういうわけにもいかなくなってしまった。

 そのため、無礼は承知の上で、一息ついたこのタイミングを狙った。アイシャがそういったことに疎いということもあったが。


「ソラ殿。何卒、私を側においてください」


 アイシャの目は本気だった。何がそうさせたかはソラには見当もつかないが、ただ真剣にそういっていることだけは理解できた。


「……お主は本当に。どうしてこういうことになる」

「俺もわからん。というか、どうしてこうなった?」



遅くなりました。

更新速度は月に2~3回程度は最低でも更新したいと思っています

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