表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/53

第1話。導入。

ストック分をまず投下。タイトルは適当なので次回以降はない可能性も


後は地道に。。。

 転生して、第2の生を受けて既に5年経っていた。

 それはいい。

 今まで多少運の悪いこともあったが今までほどじゃない。

 両親は優しいし、周りの大人もよくしてくれる。

 子供だからか、必要以上の害意や悪意に晒されることもなかったしな。


 だが、何でこうなった……。


「ソラ、ご飯できたわよー!」


「今行くーー!!」


 俺を呼ぶ母親の声に従い、部屋を出る前に部屋においてある姿見の自分の姿を見る。

 当然子供だからちんまい身体なのは分かる。だが、何故金髪碧眼の両親から生まれたはずの俺なのに俺の髪は黒くて目も黒いんだ。むしろ、何でソラなんだよ。名前はまだ譲れても、何であの美男美女カップルの両親をしてこの俺があの容貌を受け継げなかったのか。あのロリ神、俺を貶めたいのか?


 そんな不満を今言っても仕方がない。

 両親は遠い先祖に黒髪がいたらしいから、隔世遺伝ってことで納得しているらしいし、問題はないだろう。


「……うまい」


「美味しい、でしょう。この子は、どこでそんな言葉覚えたのかしら」


 ため息をつく母親を他所に、俺は食事を続ける。

 母は村でも料理好きに入るらしく、作るものはうまい。うまいんだが、あくまでもこの世界でのレベルであり、現代社会を生きてきた俺としてはそこそこかな? という程度でしかない。


 素材の味を活かした、といえば聞こえは良いが調味料がほとんど手に入らない状況では、どうしても味が薄かったり素材のデメリットを完全には消しきれていない。

 パンは所謂無酵母パンだから固いし味はない。それを薄味のスープに浸し食べるんだが、それでも酵母パンに比べ柔らかさは足りない。


 果物の糖分があれば天然酵母が出来ると昔聞いたことがあるからそのうちチャレンジするのも良いかもしれない。足りないものがあればその時だ。

 運良くこの村では酪農も行われているし海も近い。おねだりすれば何とかなるだろう。


 それに、肉も加工技術が発展していないのかそれともこの肉自体が悪いのか。

 きっと色々工夫はしているのだろうが、臭みがあり固い。


 前はそれほど食事に拘りもしていなかったし、食べれること自体この世界では幸せなことも分かっているからありがたくいただくが、どうしても比較はしてしまう。

 スープを飲み干した後、グラスの水を飲み干し、一息つく。


「今日も美味しかったよ、母さん」


「ありがとう。今日はどうするの?」


 そこで俺は考える。村は狭いが、人が全くいないわけでもない。とはいえ、あまり大人の邪魔は出来ないし。


「広場にでも行ってみるよ。何もなかったらそのまま帰ってくるから」


「気をつけて行ってくるのよ。お昼も、誰かのお宅にお邪魔するなら早く教えてね」


「分かってるよ。いってきまーす!」


 そんな声に見送られ走って家を飛び出す。と言って出たは良いものの。


 この村に俺と同世代の子供はいない。

 いや、正しくは子供がいない。何せ俺の次に若いのはうちの両親だ。

 5歳の俺に20歳の母親、そして22歳の父親。結婚したのが母さんが14の時って聞いたからどれだけ早婚なんだ、とも思ったがこの世界ではそれくらいに結婚するのが一般的らしい。

 10代後半にはほとんどの人間が所帯を持ち、一生を生まれた村か近くの町で過ごすそうだ。例外は城に仕えたり、商人で行商を行ったり、あるいは冒険者として世界を歩き回るような、そんな多くはない人間だそうだ。


 そう、冒険者がこの世界には居るのだ。

 とはいえ、一攫千金を狙う荒くれ者としてのイメージが強い冒険者は絶対数が少ない。

 なら、世界を闊歩するモンスターはどうするのか、そういう疑問もでてくるが、それは町や村ごとにある自衛団や配属される騎士団によって村や町の外部からの脅威からはある程度守られている。

 特に、こんな世界でも端ののどかな村には、滅多なことじゃ村の近くにすらモンスターは現れない。

 俺のステータスを見れば宝の持ち腐れともいえなくはないが、それでいい。

 少なくとも今は両親の庇護にあるわけだし、端から見ると単なる子供にしか過ぎない。

 精神年齢としては両親を超えているが、それでも守られている子供には変わりがないからな。

 で、俺のステータスだが、この時点で無双できるほどだ。


 Lv.1

 HP 5000

 SP 28000

 STR 1

 VIT 1

 INT 1500

 SPD 800

 DEX 1000

 LUC 50

 CHA 90


 と、魔術職だったからこその非力さ、紙装甲だが、攻撃すればまず外さない器用さ(DEX)と雑魚程度ならどれだけ大群であろうと燃やし尽くす火力(INT)がある以上、先制を取れればまず勝てる。

『レジェンド』では上限値が1000だったが、魔法職カンスト後の転生ボーナスとやらでINTが+500されているのもありがたい。

 単純値でも、1.5倍だ。ただ通常であればLv.1の転生を行う場合はある程度のステータスボーナスはつくものの、基本はもっとステータスは低いはずだ。

 ボーナス値が+20程度しかつかなかったはず。


『レジェンド』終了時はカンストのLv.999だったが、そもそも装備の補正値を抜かせば今のステータスよりも低かったはずだ。

 何故こんなことが分かるのか、といえば。

 世界でどうやら俺だけがこの恩恵に与れているらしい。


『レジェンド』はベースはあくまでVRMMORPG。ステータスウィンドウやアイテムボックス、フレンドにギルドなど各種情報がデータとして閲覧できるようになっていた。

 その仕様がこの世界でも有効になっている。チート、ぱねえっす。


 ただ、あくまで見れるのは自分のもののみ。


 人のステータスは見れないのが自分が今どういった立ち位置にあるのかが分からないのが辛いところ。

 実際はステータス上限が10000で、普通に2000~3000とかだったら泣いても良いだろうか。


 いや、死に辛いとかなんとかあのロリ神が言っていた以上、そこそこに強いんだろう。そうであって欲しい。

 ちなみに、他の人で見れるのはレベルと名前だけだ。

 これは役に立つのか立たないのか、正直よく分からない。


「おう、ソラ坊。今日も暇してんな!」


「おはようございます、村長」


 広場に着いた瞬間声をかけてきたこの筋肉…………もとい、身体のがっしりした男性は村長のロニだ。

 初めて彼を村長だと知ったとき、がっかりしたものだ。

 村の長といえば、老齢の杖をついた爺さんに相場は決まっているのに! と。


 後で話を聞くと、元々はそういった人が村長をしており、高齢で亡くなったため村の自衛団の団長をしていた村長の息子がそのまま繰り上げで村長の座に収まったらしい。

 だからこんなに無駄な筋肉…………もとい、がっちりした身体なんだろう、と頷きはしたが。


「トニーは今日戻ってくるんだってな! 寂しくなかったか」


「あー……ええ、父さんも仕事ですから」


 すっかり忘れていた。トニーこと、俺の父さんは狩りを行う集団に属していて、たまに数日掛けて狩を行いに少し離れた森へ出かける。

 普段口にしている肉やらはその時に売れ残ったものがほとんどだ。

 それをまず村ではなく町に売りにいくものだから、長くて十日以上村を離れることがある。


 元の世界の親父も出張が多く、月の半分いないということはざらだったためあまり気にしていなかった。

 むしろ村の一割近くの大人がいなくなるため、寂しがるのはその家族のほうだ。


「まあ、予定では今日の夕方ごろには戻るって話だし、それまでは良い子にしてるんだぞ」


 ぐりぐりと大きな掌で撫でられる。やめて欲しい、あんたはもっと自分の腕力だのを知ってくれ。そのうち首がもげそうだ。


「や、やめてください」


「お、おう。悪いな、つい俺のガキみたいに扱っちまう」


 がはは、と豪快に笑う村長だが、あんたの息子もう成人してるだろう。その意味も含め睨んでみるが、悲しくも所詮はガキの睨み。村長には不貞腐れてる程度にしか見えないだろう。


「じゃ、俺は仕事があるから戻るな。ソラ坊も、早く家に帰れよな」


 急に仕事があるというのも何だか胡散臭いが、恐らくは事実だろう。

 村長の家に何かしら届ける時いつも机に向かってうんうん唸ってたしな。

 まあ、小さな村でも長ともなると色々としなきゃいけないことがあるんだろう。


 と、なると他に広場にいるのは昼寝をしている爺さんとなにやら井戸端会議を開いている奥様方。

 爺さんを起こすのは以ての外だし、あの会議に参加したいとも思わないし参加権限があるとも思えない。


 つまり、家に帰るか他の場所に寄るか、だ。

 なら、やることは決まっている。行動を頭の中で整理すると、見つからないようにそっと特殊スキル『隠密』まで使って広場を抜け出し、村の壊れかけている柵を抜け、外へと足を運んだ。


『レジェンド』では、実用的なものを始めとして多くのベーススキルとアドバンススキルがあった。

 ベーススキルは例を挙げると『魔術の威力向上』や『片手剣修練』それに、各種属性の魔術の基礎レベルを上げるものだ。それはアドバンススキルを使えば使うほど向上していくもので、別のゲームではパッシブスキルと呼ばれることもあった。


 アドバンススキルは、アクティブスキルとも呼ばれ、『ファイヤーボール』や『ダッシュ』などSPやHPを消費して効果を発揮するスキルだが、これは同じスキルでもベーススキルとステータス、あとそのスキルのレベルに依存して効果が変わってくる。


 そもそも、アドバンススキルは特定のイベントクリアか中ボス以上のモブからのドロップでそれを使用して取得するという面倒なものだったが、一部のスキルを除き取得可能だったため、俺も多くのアドバンススキルを持っている。


 特殊スキル『隠密』もその1つだ。姿を認識されないようにし、本来モブから見つからないようにするそれは、『レジェンド』の戦争中ももちろん、こうやって見つかりたくないときは重宝している。なお、アドバンススキルは大きく分けて、攻撃、支援、回復、特殊と4つに分かれており、どれをどのくらいとっているかで職業が変わるというシステムを取っていた。


 何故、こうやってこっそりと村を抜け出すかというと、当然怒られるからだ。

 危険なモンスターはいないといえど、獣はいる。

 普通の村人ですら怪我をすることもあるのに、小さい子供がこんなところをうろついていては良い餌にしかすぎないだろう。普通であれば。


 だからこそ、村には一帯を覆う魔よけの結界が張られているし、それには獣も近寄れない。


「にしても、アイテムボックスまで空なんて聞いてねえんですけど。あー、小石発見。……お、これ鉄鉱石か」


 特典二つ目。アイテムボックスが利用可能だったことがすぐに分かった。


 俺にしか見えないメニュー画面を操作すると(最初は指で押していたがそのうち目線だけで操作可能なことが分かってからそうしている。子供のすることとはいえ、空中に指を投げ出しているのは流石に怪しかったからな!)ステータス、装備、アイテム、フレンド、ギルド、クエストという項目が浮かび上がった。


 この国は文字も言葉も日本のそれとは違ったが、このメニュー画面やそれぞれのウィンドウに関しては日本語だ。


 昔の言葉を忘れないので構わないが、その分、こちらの言葉を覚えるのが大変だった。


 今でこそ読み書きも出来るが、それまではずっと知らない言葉で話しかけられ大変な思いをした。

 どうせならそこら辺の知識もつけておいて欲しかったが、そこまで贅沢を言うのは違うんだろう。

 苦労したが英語のような文法であることは何となく分かったし、音は何となくで分かっていった。

 今は問題なく使えているし、バイリンガルになったと思えば儲けものだった。


 まあ、そんな言葉の問題はともかくとして。


 始めアイテムウィンドウを開いた瞬間、バグか何かだと思った。

 リアルラックはなかったにせよ、『レジェンド』をしていた時間はそう短いものじゃない。レアアイテムこそ終盤になって漸く手にはしたが、それまで溜めていたものは結構なものだ。

 それこそ、売ってしまえば一生遊んで暮らせるくらいにはなっただろう。それが、何もなかった。


 装備こそ、今身につけているものはそのまま表示されたがそれ以外は何もないのだ。

 確かに単なる村民が持つにしては過ぎたものだが、だからといって何もないのは困る。

 そんなわけで、村を出ては探索し、こうやって落ちている石などを拾っては有効なものはアイテムボックスに収納している。

 石の中には鉱石や宝石も含まれていて、それは特殊スキル『鑑定』によって見定めをして、普通の石以外を集めている。

 アイテムボックスは俺から見える分にはそれこそゲームとしては一般的なものだが、その効果は異常ともいえる。保存可能アイテムは200×999。

 所持可能な重さは今でこそLv×STR×4000の4000しか持てないが、石なんて大きなものでも1か2、木一本でも20ほどしかないんだから、破格のものだといえる。

 しかも、所持可能な重さいっぱいにまでつめたところでその重量を感じることはない。

 だから集めた木材や鉱石、あるいはほんのわずかな宝石を誰かに見咎められる心配もないし、奪われる危険性もない。だが、今のままでは単なる木と石だ。

 木や石は加工しなければならないし、宝石は研磨しなければ本来の性能を発揮できない。

 個人用の携帯炉もなければ、金床も、愛用していたハンマーもない。


『レジェンド』時代は、魔法職でありながら生産職として錬金術師と鍛冶師を行っていた身としてはこれは痛い。


 どちらかがまともに出来ればもっとましな装備が出来るのに。

 と嘆いていても仕方がない。暫くは森に落ちていた単なるナイフで凌ぐしかない。

 鑑定した結果、『錆びたナイフ:ATK+1』とある分、砥げばそれなりに効力を発揮してくれるだろうが砥石すら見当たらないのでそれは諦めた。

 今はもっぱら倒れた木の枝を切り落とすのに使っている程度だ。恐らく獣を狩ることも出来るだろうが、皮の剥ぎ方が分からない以上まだしないのが無難だろう。


 ふと、空腹に気づきアイテムボックスからパンを取り出す。

 固いし、味はしないが空腹を凌ぐには仕方がない。

 アイテムボックスの中に入れたものは腐らないし変化しない。

 生き物をいれたことはないので生き物が生きたままなのか死んでしまうのかは分からないが、これは便利なので余ったパンを貰い、こういった空腹を満たすために少しだけ齧るようにしている。


 そもそも、そろそろ帰らなければ母さんに怒られそうだ。

 今日はあまり収穫もないし、早めに帰ったほうが良いかもしれない。



「ただいまー!」


「お帰り。今日はどこで遊んでたの?」


「広場じゃ誰も相手してくれなさそうだったから、適当に散歩してたよ」


 満足そうに笑う母さんは手を洗ってらっしゃい、と俺を中庭へ追いやる。

 そこで井戸から汲まれていた水を小さな桶で汲み、手を洗い、捨てる。

 こうやって日々を送るのは退屈だが、悪いものじゃない。


 いずれは村を出て独立するか冒険者にでもなろうとは思ってはいるが、残されるであろう両親は心配だ。

 せめて、弟か妹がいれば家をそっちに譲り町へ出たいと思ってはいるが。

 まあ、未だに良好な関係の両親だから、きっとそのうち2人目も出来るだろうけど。

 とにかく、今は今の生活を享受しよう。

 それが両親のためでもあるし、何より俺自身のためでもあるんだから。



「ただいま、クリス、ソラ」


 昼食を済ませ、暇を本を読んだり外を眺めたりしてどうにか潰していたその矢先。

 暢気な声が玄関から聞こえた。

 まあ、ただいまという人物はこの家では3人しかいないから、帰ってきたのは父親だろう。

 声も変わるわけがないし、特殊スキル『気配察知』でも誰かを認識している。


 ちなみに、便利ということで幾つかの特殊スキルは使っているが、攻撃や回復など目立つ魔法はまだ使っていない。

 目立つし、すぐにただの子供じゃないとばれるからだ。

 成人した大人ならともかく、まだ5年程度しか生きていない子供が魔法を使うなんて分かったらその先はろくでもないだろう。

 よくて国で死ぬまで騎士団か魔術団へ放り込まれる。

 最悪、様々な貴族や組織に身を追われる羽目にもなりかねない。


 そんなことにはなりたくないので力をむやみに見せないのは正解だろう。

 そもそも、こんな辺境の村にそうそうトラブルなんて起きはしない。

 この村、『ユグドラシルの葉先』は若い人間がほとんどおらず、地場産業も質のあまり高くない織物だけということもあり、ほとんど村の外から人が来ることがない。

 周囲の村からも距離が離れており、強力なモンスターも出没しないため冒険者もほとんど立ち寄らない。

 定期的に行商が村に物資を売ったり、この村の織物を買いに来る程度だ。

 そのため村唯一の酒場の2階が宿屋を兼ねて数部屋用意されているが、年に数回しか使われないし一応の体制を整えているに過ぎない。


「ソラ、お父さんが帰ってきたのよ。挨拶は?」


「お帰り、お父さん!」


 サービスだと言わんばかりに帰宅したばかりの父に飛び掛る。

 なにやら随分と長い割には脱線したことを考えていたような気もするが、気にはしないでおこう。


「うおっ!? ソラ、お父さん疲れてるんだけどなー」


「お父さん、お土産は?」


 そんなことは知らないとばかりに無邪気な子供を演じる俺。正直時々加減が分からなくなってへんな敬語を使ったりもするが、それでどうにかやりくりしていくしかない。

 騙しているという罪悪感はあるが、それでもこの2人の子供であるという事実は変わらない。

 なら、今のうちに甘えられるだけ甘えて、後で恩返しをしよう。


 結局、出来なかった前の両親の分も含めて。





 あれからさらに4年の月日が流れ、幾つか変化があった。

 俺は9歳になった。まあ、これは当然だが。

 1つは、一番大きな変化だが、妹が出来たこと。

 2歳になる妹は正直、可愛くて仕方がない。

 シスコン? ああ、分かっているさ。そんなこと。だが、可愛いものは可愛い!

 もう1つは、世界の方だ。


 この世界は『ムーンディア』と呼ばれ、神様が創造した世界らしい。

 容貌を聞く限りではあのロリ神ではなさそうだ。それはともかく。


 世界には大きく分けて2つの大陸、そして幾つかの島国で構成されているらしい。


 2つの大陸の名前が『シートレイア』『ボルガミア』


 シートレイアの中の国が『ギストリア』『ボリディア』『ゼットア』


 そして、ボルガミアの中の国が『ユースリンティア』『リンジョア』『ミミネフィスア』となっている。


 また、この『ユグドラシルの葉先』は『リンジョア』の中でも海に近い田舎だ。


 大陸の由来だの何だのにこれまた大層な逸話があるらしいが、詳しくは知らない。というか興味がない。


 それで、世界で起きた変化というのがモンスターの活性化だ。

 今のところ、この村にそれが襲い掛かることはないが、全世界的に見ると異常なんだそうだ。

 普段は群れをほとんどなさない種類のモンスターが大量にグループを作っていたり、人を襲わないはずの温厚なモンスターが人を襲うようになったり、と。

 ……あのロリ神、また何かしでかしたのか?


 いつも村へ行商に来る商人が言っていた話なので全てを鵜呑みには出来ないが、それを否定する要素も見当たらない。

 そんなものでしかないが、ある意味ではそれらしくなってきた、とも言える。


 他にも細かい変化なんて幾らでもあるが、そこは目を瞑ろう。

 生きている以上、変化は常に起こっているのだから。

 文字の書き取りや通貨の確認なんて些細なことだ。少なくとも今はそれほど重要じゃない。


 ただ、この4年の間に未だに練金も調合も出来ていないのが正直不安だ。

 魔法は何度か試したものの、そっちに関しては素材こそ集めているものの、まだ実践をしたことがない。


『レジェンド』の頃は実践的な知識が活かせることもあり、色々知識を揃えてはいたものの、ここまでしていなければ出来るかどうかも、出来なかった場合の手段の開拓もしなければならない。

 それは出来る限り避けたい事態ではあるのだが。


「おにいちゃん、れにとあそんで?」


 考え事をしているとくいくいと服の裾を引っ張られる。

 そこには、想像していた通りの金髪碧眼の美幼女様が…………!!


 つまるところ、俺の最愛の妹たるレニがいじらしく俺に遊んで欲しいとせがんでいる。


「よし! 今日はどんなことをして遊びたい? お兄ちゃんはレニが満足するまで付き合ってやろう!」


 この言葉に嘘偽りはない。レニが疲れて眠ってしまうまで俺は倒れてでも付き合う所存である!

 前にそれをやって母さんにめちゃめちゃ怒られたから程ほどにする予定ではあるが。

 だが、レニの『もういっかい』は反則だ。きらきらしたあの瞳で見つめられて、誰がやめられるか!


 だから、俺が倒れるのも回避不能な予定されたものでしかなかった。




「……おり? もう夜か……にしちゃ、やけにうるせえな……」


 オォーーーン……遠くから聞こえる獣の鳴き声で目が覚めた。

 疲れきって、両親のどちらかがベッドに運んでくれたのか? 窓から見える空は暗いわりには、やけに騒がしい。

 祭りも暫くあとのはずだし、何よりもこんなに近くで獣が鳴くわけがない。


 やな予感しかしないな。……さて、どうするか。


「ソラ! 起きたのね?」


「……母さん、どうしたの?」


 今起きたとポーズをとるために目をこすってみる。

 そんな俺の仕草にほっとしたのか、母さんはレニを抱いたまま息をついた。


「いい。家から絶対に出ちゃ駄目よ。あなたは、レニと一緒にいなさい」


「何かあったの?」


「…………いいえ、何もないのよ。大丈夫だから、寝てなさい」


 一瞬の葛藤の後に見せた言葉に俺は特殊スキル『気配察知』を使う。

 村長にアドルフのおっさん、それにアンナのおばさん、それに父さん。

 広場にはそれだけの人間が集まっている。

 自衛団と狩りのメンバーでもそこそこの腕がある人間が集まっているらしい。

 ただ、主要メンバーがいないって事は、外に出ているってことか? 母さんの姿も、普段は見ない格好をしている。

 普段はいかにも田舎娘って格好だけど、その上から皮の鎧に皮の手甲、腰から下げているのはあれは短弓だろう。


 考えられることは一つ。

 モンスターが町の近くに現れたということだ。

 それも村の結界を抜けられるであろうモンスターが、だ。

 そんなものが近くにいるだけで危ないのに、もし村の中にまで入られたらアウトだ。

 俺だけならどうとでもなる。けど、村の人は違う。


 俺が今まで見た中で、一番の高レベルは今の自衛団のリーダーのアントニオさんのLv.25だ。

 それが高いのか低いのかはやはり不明だ。『レジェンド』の世界で当てはめるならそれはまだ駆け出しで、初心者でも1週間そこらで鍛えられる程度のレベルでしかない。


 だが、この世界の平均も上限も分からない以上、それに当てはめられないだろう。

 恐らくアントニオさんは村の外まで出て、村に侵入させないようにしているんだろう。

 だが、モンスターの種類によってはそれも難しいだろう。

 俺はそう判断すると、特殊スキル『気配探索』を使用することにした。

 それは『気配察知』をカンスト――熟練度を100まであげたときに派生するスキルで、気配察知がこの村いっぱいの知っている気配を調べることに使えるもので、気配探索になると知らないものも含め、半径10kmまで調べられるスキルだ。


 これを使えば、どこに誰がいて、敵のレベルまで分かる。普段は使わなかったが、こんなときこそ役に立つ。


 ――見つけた。が、これ無理じゃね?

 思わず詰みゲーだと叫びたくなったが、それは今は自重しろ、自分。


 アントニオさんならび自衛団、騎士までが一体の前に佇んでいる。

 とはいったものの、佇んでいるのか倒れているのか、死んではないだろうけどどうなっているかは分からない。

 いや、それはともかくだ。

 その一体が問題だ。Lv.30 ワーウルフ。

『レジェンド』では中ボスで、レベル20~30台のパーティーの絶好の敵だったが、現状はどうだ。

 少なくとも、今いる自衛団はレベルが20に満たないし、駐留している騎士も20しかない。ワーウルフの特徴は銀色の体毛でも銀色に暗く輝く目でもない。

 強力な爪と牙、そして今日のような満月の夜に凶暴化することだ。

 もし、そのルールが適応されているのであれば、あのクラスのパーティーでは持たない。


「ソラ! ソラ! 聞いているの!?」


「……ごめん、行かないと」


 余裕がないのか、絶叫する母さんに謝罪をし、窓を開け放つ。


「ソ、ソラ? あなた一体何を」


「――吹く風は翼を成す。我が背にその翼を宿せ。空を舞う自由を。『飛空(フライ)!』」


 俺の背中に透明な翼が出来たことを確認すると、窓のサッシに足をかけ、そのまま飛ぶ。

 そのまま上空5m程度まで飛べたことを確認すると、一路アントニアさんの下へ。間に合ってくれよ!



 正直、吐きそうです。

 まだ死人は出ていないものの、ワーウルフにやられたであろう人の血だの何だのの臭いが充満して、もうやばいです。

 ワーウルフ自体も派手にやられたらしく、右腕はぶらぶらとなってるわ、わき腹からなにやら腸らしきものは食み出てるわで、暫く肉はいいっすわ、本気で。


「白き光は我が友を癒す! 輝きは彼の命の灯火! 再生たるその癒しを! 『癒しの光(ホーリライト)』」


 白光に輝く光が周囲を満たす。敵を倒すのも必要だけど、その前にこのままじゃ全滅フラグも立ちそうですよ!

 光に包まれたみなさまはどうやら治癒が可能な程度の傷だったらしく、服が破けてたり防具が裂けてたりはするものの目立った傷はふさがったようだ。一応光の中級回復魔法だ。

 内臓の破裂程度なら回復は出来る、はず。


「ソラ!! お前、どうしてこんなところに!」


 アントニアさん、そんなことよりももっと気にすることがあるんじゃないですか? というか、幾ら血の臭いがきつくても俺混乱しすぎですから!


「話は後でします! 今はモンスターを!」


「おうっ! 動けねえやつは後ろに下がってろ! 後衛、狙いを定めてやつを止めろ!

 前衛は後衛が攻撃した後に突っ込むぞ!」


 って、まだ突っ込むのかよ! 回復したから今のままだと死なないとしても、攻撃ばっかされても困るってか線上にいるな! 攻撃範囲を潰すなー!!


「縛るは強き力! 地よ! 草よ! 木よ! 我らを害するものの自由を奪い去れ! 『束縛(バインド)!』」


 もうこうなったらやけだ! 必要もないほどに叫び続けてやる!

 レベルの差はあれど、所詮は通常のLv.30の人狼、INTを判定基準にもつ拘束は破られるわけがない。

 事実、土だの蔓だのに巻きつかれた人狼は暴れるだけ暴れはするものの、全くそれから逃れられる気配すら見せない。

 さて。ここまでくれば後は自衛団だけでどうにかできるかな、っと。


「うおおおおおぉぉぉ! 突っ撃ぃぃいいい!!!」


 アントニオさんの叫びに呼応して突撃していく自衛団の皆さん。あとはやつが肉塊に行くのを待つだけっす。正直、見てられねえっす。家畜のと殺すら見たことのない高校生舐めんなよ!

 それはともかくとしてだ。魔法の効果も切れそうだし、いい加減地上に降りますか。

 ぐちゃ、だのドス、だの妙に生々しい何かを突き刺す音なんて聞こえません。獣の絶叫の声も聞こえません。聞こえないったら聞こえやしねえ!


「しょーじきあんなやりとり出来ねえ。まじ無理げーっすよ」


「坊主。お前平気なのか?」


「いや、血の臭いでやばいっす。正直吐きそうっす」


 心配してくれるのはありがたいっす。けど、やっぱ無理っす。


「そうじゃなくてだな。そもそも、何でお前がここに――」


 グランさんの言葉の最中、ドダドダと騒がしい音が村のほうから聞こえる。

 おかしい。村のほうにはモンスターは侵入していないはずだが。


「ソーーーーラーーーー!!!」


 ……必死の形相でこちらに走ってくる父上でした。


「お父さん……お土産は? げふぅっ……!」


 とりあえずぼけてみました。抱きしめられ、その勢いで肺の中の息が全て出て行きます。

 いえ、余裕なんてないですよ。つーか痛ぇ!


「ソラ! 何でこんなところに居るんだ! 危ないじゃないか!」


 というか良い具合に決まって声が出ないのですが、むしろ意識が……どんど…………ん………………とお、く…………がくり。





 気づけばそこはまた黄金に輝くよく分からないところだった。って何でだよ!? あれか、あれでまた俺は死んだのか! 二度目の死亡早かったな、おい!


「落ち着きたまえ。キミはまだ死んでないよ」


 またお前か! このロリ神!


「落ち着けと言っているのが聞こえないのかね。少し手違いがあってね、その説明に来たんだよ。タイミングよくキミも気絶してくれたからね」


「手違いって何だよ! あれか、この俺の姿か! 名前か! モンスターのことか!」


 というか神が度々手違いなんて起こすなよな!


「いや、姿に関しては要望がなかったからね。

 そのままの姿にさせてもらった。あまり変化が大きいと世界にも負担が掛かる。

 そうなると、キミが前以上に不幸に見舞われる可能性がある。

 だから力だけに限定して変更をさせてもらったんだが、すまない。説明していなかったね。

 それと、こちらが本題なんだが。こちらの神が暇つぶしに、魔王とやらを復活させたらしいんだ。

 こちらとしても約束が違うと抗議はしたんだが、あいにくとそこに関してはしらばっくられてしまってね」


 何故嬉しそうに笑いやがる。ロリ神様よ。


「つうか、魔王? 最近のモンスターの活発はそれが原因だったのかよ?」


 だったらそのうち勇者とかが現れたりしてな。俺は今はもう異世界の人間じゃないからそれに巻き込まれるつもりはないけどな!


「そうらしいよ。まあ、そこはキミが頑張らなくてもどうにかなるからいいとして、何か質問はあるかな」


「今は特に思いつかねえよ。聞きたいことがあるときはいつでも聞けるように出来ねえのか?」


「そんなに暇じゃないと言いたい所だけれどね。キミが困ったときには手を貸せるようにはしよう。

 いくらこの世界の神の仕業とはいえ、無関心というわけにもいかないだろう?

 過ぎたことは出来ないけど、助言くらいならすることは出来るだろうからね」


 ロリとは思えないくらいしっかりとした態度はあれか? やっぱロリば……


「それ以上何か考えるようだったら、こちらもそれなりの対応をさせてもらうよ?」


 やべえ、空気が死んだ。


「……おーけえ。俺は何も考えない。何も言ってない。何かあったらその時は助言を求める、それでいいな」


「偉そうなのが気になるが、まあいい。そろそろ起きたほうが良いよ、キミのご両親も心配しているだろうからね」


 顔は笑ってるが、こめかみあたりに異常な筋が立ってるロリ神様は触れないでおこう。まさに触らぬ神に祟りなしってことか!

 つまらないことを考えている間に、また意識が遠のく。……にしても、あれでも年齢を…………



 異常に冷たい気配を察して、飛び起きる。……ふう、気のせいだったか。

 目覚めたのはいつもの俺の部屋。既に外が明るいって事は、少なくともそれなりの時間を寝たということに違いないか。


『気配探索』を使って、念のため周囲を探る。

 外にモンスターはいないっぽい。

 自衛団の詰め所に人が若干多いくらいで他にはおかしなところはなさそうだな。

 ほっとため息をつくと、部屋を出てリビングへ向かう。

 二人とも、そこに居るのは分かったからな。……今回のことは話さないとな。


 最悪、ここを出る覚悟もしたほうが良いかな。

 自嘲気味に笑うと、リビングに繋がるドアを開いた。



評価やつっこみ所があればよろしくお願いします


2011/9/11 誤字等を修正しました。haki様ありがとうございます。


2011/9/16 改行とか追加とか。内容は変わってないです。


2011/10/4 誤字の修正をしました。くらんさまありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ