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第15話。束の間の休日。

読んでいただきありがとうございます。

 ゆっくりと食事を終え、外に出かけようとすると父から呼び止められた。


「ソラ、何であんな無理をしたのかな?」


「無理、に結果はなったけど俺1人であれば少なくとも死ぬことは無かった。なら守ることは当然だと思うけど」


 もう少し分が悪くなければ片手剣用のスキルを惜しまず使う予定だったし、最悪の場合は魔術だって使うことを惜しまない。

 少なくともそれくらいは覚悟は出来ていた。思っていたよりも剣の性能が敵に対し高く、あっさり終わったが。


「もっとソラならうまく逃げられるだろう? 怪我をしてまで無理に残る必要が何処にあったのかい?」


「あれは父も知っていると思うけど、狩りをするために本来は森の中に居るような存在。

 あの周囲に森は無かったし、恐らくはイレギュラーなんだろう。俺をあそこに誘った2人もそんなことは想定していなかったみたいだったから攻撃手段もない。あそこで逃げていたら確実に俺たちは追われ、途中で追いつかれるか運良く町まで逃げられたとしても町の自衛団たちに犠牲が出る。俺だからあそこまで軽い怪我で済んだ。自衛団でも10人ほど居なきゃ撃退も難しいと思う」


「自衛団もソラと遭遇した先行隊と本隊合計20人は居た。だから、ソラが無理をする必要なんて無かったんだ」


 最初の数人は俺の救援隊ということか? それにしては遅すぎる気がするが。


「あの時点で俺がそれをどうやって知る術があるのさ。まずは確実な安全の確保。その後に逃げるかどうか決めるよ。結果が殲滅だったんだけど」


 父は何か勘違いしているようだが、俺の『気配探知』も戦闘中は精々2~3km程度しか分からない。

 それでは察知した時=見えた時だ。360度視線を持つ程度の役割しかならない。


「でも、気絶するほどのものだったんだろう?」


 あー。気絶するほどの怪我か何かをしたと思われていたということか。


「あれは血の臭いでやられただけ。あと、そのせいで戻してポーションも飲めないし、怪我をしてる部分に効くはずだからポーションをかけたら焼けるような痛みでくらくらするし、それで気を失っただけだよ。戦いのダメージは精神的なものの方が大きいくらいだよ」


 とはいえ、身体能力との不適合が凄まじい。身体は思ったよりも動くものの、どう動かせばいいかが分からない部分もあった。

 これに関しては今後の課題か。


「け、けど。あまり無理はして欲しくない」


「しないって。少なくとも1人で戦うのはもううんざりだし、その必要も今のところないし。

 というか、父よ。そんなに青褪めて何かしでかした?」


 俺の説明を聞くたびに父の顔から血の気が引いていく。

 これは、何かやらかした人の表情だ。やらかしたというか、何か行き違いで勘違いをしたという表情か。


「話して、くれるよね?」



 包み隠さず白状した父を説教タイムに持ち込んでみた。

 どうやら父は俺が倒れたという連絡を受け、お姉さんとリオナに遭遇。

 事情を聞いた後、怒鳴ったり手を出したりはしなかったが責め、とまではいかないものの叱ったそうだ。

 それはまあいい。勘違いでしかないが、お姉さんやリオナも恐らくきちんとは説明していなかっただろうし、そもそも認識できていないはずだ。

 だが、その後にお姉さんと話し合い、サンパーニャでの働き方にまで言及したらしい。

 毎日遅くまで働いて日によっては疲れ切って帰ってくる。話によれば俺の方が主体で動いている。

 そういったことで働く時間を制限するよう言ったそうだ。

 心配してくれるのは嬉しいし、いずれは必要なことだろう。

 けど、今はそれをするには時期が悪すぎること。それにそんな話を当事者抜きに話さないこと。

 本当なら正座させて反省を促すところだが、正座の方法を説明するのもばかばかしいからしないでおいた。

 何か言いたそうな表情はしていたが、黙殺した。


「いらないお世話と言うつもりはない。けど、今は俺の我侭を聞いて欲しい。無理なことはしないし、出来る限りで早めに帰るようにもするから。だから、少しは信用して欲しい」


「信じてるさっ! けど、心配するっ! 家族なんだからっ!」


 父の大声なんて何時ぶりに聞いただろうか。普段物静かな人なだけあって、珍しい。


「あのさ。心配しないで欲しいとは言ってない。信頼して欲しいだけ。口を出すのもいいけど、勝手に進めないで欲しいだけだよ」


 相手のことを信じられないから自分が頑張る。相手に心配されたくないから自分が頑張る。

 似ているようだが、大きく違う。

 まあ、今までの俺で信用しろと言われたら難しいのは分かるんだけど。


「ま、今回のことは俺がけりをつける。だから、待ってて欲しい」


 最後ににぃ、と軽く笑って見せると、父も渋々頷く。

 まだ納得できていない部分が多いんだろう。一度で納得させられる術をまだ俺は持っていない。

 だから譲歩を引き出すだけだ。まあ、ダメだったときは素直に怒られよう。


「じゃ、俺は出かけるけど夕方ごろまでには戻れると思うよ。父、仕事は?」


「今日は特にないよ。ソラ、本当に無理だけはしないでくれよ?」


「そうそうトラブルなんて起こらないだろうし、それに巻き込まれるようなことは無いはずだよ」


 断言は出来ない。可能性が低いだけで、ないわけじゃないんだろうし。

 その返事にさらに不安そうにする父だが、何とか説き伏せて外に出ることにした。



 と、あんな科白吐いたから何かしらに巻き込まれると思ったが今のところ平気だ。

 今日は露店を開いているはずだから、中央広場を避けて今まで来た事のないこの町を象徴する場所、学術区に出向くことにした。

 流石に授業中なのか学生の姿は見えないが一般解放されているらしく通行人の姿が見える。

 この学術区にあるのは魔法学校を始めとした、それに属する機関ばかりだ。

 で、色々とあるのだが今日来たのはその中でも結構な大きさを誇る図書館だ。

 流石に俺が行ったことのある大きな図書館などに比べたら小さいが、それでも俺の住む家よりはでかい建物の中に入ると、本が大量に置かれている場所独特の匂いがする。

 そこで受付のおねえさんに聞いたところ、本を借りるのは貸し出しの許可証を作らなければならないし、それを作るのは有料だが、本を閲覧する分には誰でも可能だそうだ。

 ただ、その場合でも一部の本は閲覧禁止だそうで、階によって分けているがその場所には立て札がかかっているから入らないように、とのこと。


 そんなわけで、少し勉強することにした。

 それは歴史のこと。相変わらず神がどうとか精霊がどうとか、痛々しいものを読んでいる気がして中々読む速度は上げられなかったが、適当に斜め読みするだけでもそれなりのことは分かった。

 知りたかったのは神のことと精霊のことだ。

 そういったものを調べるのは神話や宗教本かと思ったが、導入に関しては歴史書が良いとおねえさんに教えてもらった。

 深く知りたいならその道に詳しい人などに聞いた方が早い、と言われたのは思わず苦笑しそうだったが。


 まあ、そういったことはひとまずおいて。分かったこととしては、神は複数存在していてそれぞれが今はいない神によって創造されたもの、だそうだ。

 とはいっても神も何によって創造されたのか分からないし、それが何だったかを指し示すようなものもないようだ。

 さらにその神から創られたものが精霊であり、人だそうだが詳しいことが一切載っていないので恐らく他の可能性もあるためこちらも気にしなくて良いだろう。

 人は獣人や知性のある亜人も全て含んでいるそうだ。何故そうなっているかは分からないが、そのためか身分の差などはほとんどないそうだ。


 と、結局分からない事尽くしなのだが一番分からなくて困るのが神との接触方法と、『魔王を生み出す可能性のある』神がどれか分からないことだ。

 暇つぶし、と考えると娯楽や享楽、或いは荒廃を好むようなものかと思ってはいるがそういった神は文献には記されていない。

 神自体人に対してあまり接触せず、というか交流を持たず一方的な神託という形でしかこの数百年は関わっていないそうだ。

 現状長く歴史を正確に蓄える手段がないらしいから、こういった歴史書も平気で改ざんされている可能性がある。


 あと、この町の歴史なんかも少し分かった。

 この町には他の町などと違い、神を崇めるもの、神の傍にいるものとして神傍者(かんぼうしゃ)というらしいのだが、それのためのギルドが存在していない。

 この町は成立が魔法学園ありきで、その後多くの商人などが集まったが神信仰よりも精霊信仰があついらしい。

 そのため自然と魔術師や鍛冶師など精霊と関係の深い職業の人間が集まるような町になってしまったらしい。

 鍛冶師が精霊と関係するのは、火や金属は精霊の恩恵を受けているからだそうだ。まあ、何となく意図するところは分からなくも無いが。


 そういった町なので神からの神託は受け辛く、ここ20年は誰もそんなものをこの町で受けたものは居らず、さらに神の信仰は薄れているそうだ。

 こっちは歴史書ではなく、この町の日々という日記らしきものから読み取ったものだ。

 最後の日付が1年前になっているのに寄贈されているのはどうしてだ?

 まあ、そんな状況だからそんな蔵書も集まりづらく、研究者が自分用にストックしているだけでこういったところにまで回って来ず、神に対する知識は得られ辛いという結論になった。

 これ以上の知識を持とうとするなら他の町だのに行くか専門家に聞くしかないか。

 まあ、今すぐにするべきことではないから保留で構わないが。


 後はスキルのことだ。「すぐに使える! 3分スキルブック」や「初心者入門、これであなたもスキルマスター?」みたいなhowto本もなかったためこれも調べるのに時間がかかったが、出てくるのは面倒な事実だけ。

 俺のスキルの多くはクエスト報酬か敵からのドロップ品からのものだったが、こちらではそういったものは一切なく、魔術は精霊への語りかけ、他のスキルは名の如く技術、だそうだ。


 特に解析や探索系のものは酷い。たとえば俺が使う気配探知。あれはどの方向、距離にどの敵が居るか、あるいはどのような人物が居るかを知ることが出来るスキルなのだが、こちらではどのくらいの大きさのものがどちらの方向に居るか程度しかわからないものらしい。

 スキル扱いできるものは武器を使った攻撃スキルだったり、単純な解析だったり、あるいは誰でも使えるような補助スキルだったりと。まあ役に立つだろうが、酷く曖昧なものばかり。

 何よりも、それを取得する方法が良く分からない。というか、取得そのものは出来るのが当然なのか特に書かれていない。

 そういえば、魔術ギルドのギルドマスター(じいさん)が鑑定したときも正確な数値や効果は見れていないようだった。

 スキルの譲渡を行うスキルもないし、やはり俺に直接教えるということは無理なようだ。

 それとも案外、クエストやらモンスタードロップによる取得方法は確立しているのか?

 未だにギルドに加入出来ていないから確認する術も無いんだが。



 ある程度区切りをつけたため、本を元の場所に戻し外へと出る。

 と、同じ服を着た少年少女がちらほらと通りにいる。これが学生の制服ということなのだろう。

 そんなどうでも良いことを考えながら家路に就きたいんだがどうもそういうことにはいかないらしい。


 もうお姉さんは店に帰ってるだろうから、と中央広場に向かったのだが、その途中で何人もの人に足止めされる。

 その理由も、俺がいなかったけどどうしたんだ、とか今日は買い物か、とかそういった話もあったがその後にとんでもない話を聞かされた。

 どうやら、今のサンパーニャは俺がお姉さんから譲り受ける前で今はその顔見せの段階らしい。

 そう聞いてくる相手にはサンパーニャはお姉さんの店でそういったことはない、と話してどうにか納得はしてもらう。

 けど、常連になるほどお姉さんの不器用さは知れ渡っているらしく、次々と新しいもの、或いは魔術工房として再建していく姿はお姉さんがしているようには思えず、全て俺の手柄なのだそうだ。

 完全に否定できることではないが、あくまで俺は手伝いをしているだけだと説明してもそっちは信じられていないようだ。

 派手に動いたつもりはないが、お姉さんをフォローしていくうちにお姉さんとの比較をされてしまったみたいだな。


 少し前の俺なら此処で潮時だと感じ、サンパーニャから離れただろう。それでも収入を得ることはできるんだし。

 けど、今はそうは思わない。これから、お姉さんを名実ともに鍛える。いや、出来る限り成長をともにしたいというのが本音か。

 その後お姉さんがどうしたいかはお姉さん次第にはなってしまうが、それは悪いことではないだろう。


 といっても、解禁されるまでは俺も動けない。

 何人かに今日の露店の状況を確認しただけだ。『隠密』を使って確認してもいいのだが、今日は露店は終了していて、店の中に入ろうとするとどうやってもバレるだろう。

 次の露店の日まで待つか、解禁されるまで待つしかない。となると、今は我慢する方が良いのか?


 と、歯痒さを感じながら家に着くと、その前にはリオナがいた。何故家の前に、と思ったがお姉さん経由で知ったんだろう。家の前にいるのは入れなかったから、という可能性が高い。

 チャイムなり来訪を知らせる魔法陣なり組まないとダメだな。


「や、どうしたんだ? こんなところまで」


「あっ! あ、あの。話があるんだけど、平気?」


 リオナは俺の姿を確認すると途端に動揺しだす。何だかこれだと俺が虐めてるみたいじゃないか。


「ああ。家の中で良いか?」


「いえ。来て欲しいところがあるの。その、外じゃないし迷惑ならいいんだけど」


 小さな子供が怖い大人に対峙したようにびくびくとするリオナの言動に少し違和感を持つが、話をすれば分かるか。


「ああ。構わないよ。けど、あまり遅くなると怒られるからそれでもいいなら」


「え、ええ。もちろんよ」


 安心したのだろうか。軽くため息を吐く姿が昨日と重ならない。

 と、手を引っ張るリオナにそのまま引っ張られるようにして家を通り過ぎていく。



 ついたのは、住宅街の一角、お姉さんの家の近くだ。


「それで、どうしたんだ?」


「その、ええと」


 何かを言おうとしてやめる、それを何度か繰り返し突然勢い良く頭を下げられた。


「ごめんなさいっ。私、あなたに酷いことしてっ。助けてもらったのに何も言えなくて、ごめんなさい」


「や、別に大したことしてないんだけど、というかちゃんと理由を説明してくれ」



 しどろもどろ話す説明は以前のお姉さんの説明に比べ分かりやすかったものの、主観や客観が入り混じり少し分かり辛い。

 感情的に騒いだりしなかったからいいんだが。


 で、リオナの言いたかったことは調子に乗るな、ということではなく俺を窘めたかったのと俺の本意を聞きたかった、らしい。

 お姉さんから話を聞き、お姉さんのことも窘めたがそれと同時に危機感を覚えたらしい。

 その危機感はお姉さんの話を聞く限りでは単に俺が入ってきて嬉しい程度だったが、リオナの解釈はそれだけでは済まなかった。

 あまりに俺が働きすぎているし、あまりに無欲すぎる。それにお姉さんも働きすぎ、流されすぎという面が気になったそうだ。

 そんなわけでその日から学校が終わったら友人や知人、あるいは町で色々と情報収集を行うことにしたそうだ。


 サンパーニャやお姉さんのご両親について聞いて回ったところ、町でひっそりと根付いている噂、俺も聞いた、サンパーニャをお姉さんが俺に譲ろうとしている、ということを聞いた。

 リオナが火消しを行うことも出来ず、それなら俺に話をして認識を改めるよう仕向けたかったが本心すらお姉さんにも分からなかったらしく、それをまず問い質そうと思い、そうするためにはどうすればいいのか。


 考えた結果が、自分がむかつくことをすればきっと感情も顕わになるだろうと結論。支離滅裂なことを言われればむかつくからとりあえずそうしてみよう。と行動した結果があれだったそうだ。

 議論する際は感情的にならずに行うべきと俺は教えられたが、それが裏目に出たんだろうか?

 どちらにせよ、きちんと話し合いを行わなかったのはまずかったか。


「別に謝る必要もない。俺は俺で拙いところがあったわけだし、あの場はああするしかなかっただろ? むしろ俺が怒られて当然だと思うけど」


「でも、私がもう少し気をつけていたら、あなただけに負担をかけることも無かったわ」


「それはサンパーニャのこと? それとも、あの戦闘のこと? どっちも不可抗力だよ。工房の現状は暫く知らなかったんだろ。それに、あそこにモンスターが現れるなんて考えようも無かったんだ。

 なら、そんなことを気にする、のは必要としても今後の対策を考える必要があると思うんだけど」


「それも、そうね。それはミランダも含めてまた話し合いましょう」


 最後にありがとう、とリオナは礼を言うと足早に去っていく。

 学術区とは違う方向だから何処によるんだろう。

 俺もいつまでも此処に居るわけには行かない。お姉さんに見つかったら怒られそうだし。

 それにしても、あそこまで支離滅裂な思考を考えて作ったとなると手ごわい相手になりそうな気もする。

 まだ納得はしていないだろうし、現状に満足もしていないだろう。強制的にどうにかするつもりはないが、暫く疲れそうな日々にはなりそうだ。


 さっさと撤退すると、ようやく家に帰りつく。

 その後夕食を手伝おうとしたが母に暫く家事を手伝わなくていいと言われ厨房から追い出された。

 その前に鰹節だけは確保して、自室に戻る。


 結果は、失敗と言うべきか。火を一度入れただけで後は何もしていなかったため薫りはついているが、乾燥していない。これから乾燥させたら大丈夫なのだろうか?

 室内だから虫がつく心配はしなくて良いが、満遍なく乾燥させるために窓際にでも置いておくか?

 風通りが良いところで日の出来る限り当たる場所、屋根裏辺りにでも候補にあげよう。



 乾燥といってもどうやってすればいいかアイデアが浮かばなかったので、屋根裏の窓の前に紐で括って置いておいた。

 1日に2回くらい見ておけば平気だろう。


 さて、今日はほかにすることもない。庭弄りでもするか?

 此処で自分の工房を弄るのではなく他をするというのも大概だが。

 まあ、炉を買うにしろ作るにしろ費用が足りない。

 炉が無くても錬金も鍛冶も出来るが、それなら最初からそうしている。

 恐らくだが、生産スキルで作った武具に関しては高レベルの物になってしまうだろう。

 ファルシオン1本だけならさして問題はないと思う。反則アイテムを1つ用意したらいいだけだ。

 それも低レベルのもの位ならすぐに作れるだろう。


 そんなわけで、庭弄り。もとい発酵用に前に作った小屋の中を確認する。

 防水性能が特に高いわけではないため、若干室内が湿気ている。

 となるとこれの防水性を高めて、それから樽を持ち込んで、という必要があるか。

 樽に関してはサンパーニャでも使うだろうから多めに仕入れて、それから買い取らせてもらおう。

 後はせめて味噌だけでも作る方法を考えてみよう。それが上手く行けば醤油もどきも作れると思う。

 ダメ元で麹を使わずにやってみるか? 少量で試して、雑菌が発生しないように温度管理をすれば案外いけるかもしれない。いや、分からないが試してみる価値はあるだろう。



 決意を新たにすると、今日はそれで終わりにすることにした。

 良く考えてみると給料日すらいつにするか決めていなかった。材料も買えないのだが、お金を貰いに行くのは何かばつが悪い。

 いや、原因は分かっているんだが。今会うのは気まずい。リオナもそんなことを意識させるために俺に話したわけじゃないんだろうが、気まずい。

 それでも何時までもこの状態でいるわけにも行かないから、さっさと話し合うべきなんだろうがどうやったらいいのか。

 食事を摂り、ひとまず寝ることに決め、ベッドに潜り込んだ。



 起きたのはいつも通りの時間。習慣とは恐ろしいものだ。暫くまとまった休みがあるはずだからもう少し寝ていても良いはずなのに。

 そうは思っても身体は眠りを必要としていない。井戸水で顔を洗い、体を解すと既に通常営業状態。

 戦闘訓練として、身体を軽く動かそうにも獲物がない。木剣あたりでも作ろうかと思うが木材も小屋を作るために使い切ってしまった。

 竹でもあれば切り出して竹刀をスキルで作れるんだが、竹もない。家の木を切り出すのも問題があるだろう。

 足の動きなどを合わせるにはトレーニングが一番だ。そろそろステータスを振ることも視野に入れるべきなのも分かっているが、振り加減が分からない。

 というか、単なる鍛冶師とはいえ、子供がモンスターに襲われ装備もなしに怪我をしないのもおかしいだろう。

 牙を突き立てられ、皮膚が破れもしないのはぞっとする。異常すぎるとしか思えない。

 というわけで、肉体そのものの強化よりも魔術品を充実させたほうが良いだろう。

 そうなるとやはり問題は資金不足に尽きるんだが。


 まあ、軽く身体を動かすか。変に思考がループするのもよくない。何も考えず身体を動かせばその後に良い考えも浮かぶだろう。

 そんなわけで朝食を摂って暫く経った後、町に出ることにした。軽く走るついでに、街の散策だ。

 今自分が住んでいる住宅区すら俺は良く知らない。全て知りたいということではないが何も知らないのも拙いだろう。

 知っているのは叔母夫妻の家とお姉さんの家、それくらいだ。

 幼馴染4人組みの家すら知らない。というか、あれ以来会ったのはアンジェだけか。

 友達になりたいと言ったのは俺なのに行動すら知らない。少し薄情すぎたかな。

 ハッフル氏の屋敷に出向けば会えるのだろうが、俺とハッフル氏を直接結ぶものはない。行くのは躊躇われる。

 あとはアンジェだが、買い物もないのに店に行くのも失礼だと思う。

 買い物でもあまり長々と居るべきではないだろう。

 それが喫茶店だったりすれば別だろうが、食料品店でそれはない。

 スコットとソフィアに関してはどんな家の子供で、普段どうしているのかも知らない。

 何だか変な気を回しすぎて純粋に友達になれるかどうかすら、今の俺には分からない。

 うん。余計なことを考えないために走り回っているのに何で俺はこうも色々考えているんだ?

 暫くは走ることに専念しよう。



 と、軽く流すだけでもじんわりと汗をかいて来たのでちょっとした広場を見つけてそこで休憩することにした。

 この町にはそういった場所がいくつかある。公園のような少し広めの空き地なのだが、植物が植えてあったり、ベンチや椅子が設置されていたりと有志を募って整備されているようだ。

 あるいは此処で屋台や露店を開く人々が少しでも客を集めるためにしていることかもしれないが。

 とにかく、ベンチに座り汗が引くのをぼんやりとしながら待つ。出店も出ているし、訪れる人を見ているだけでもそこそこ時間を有意義に使えそうだ。



「やー。ソラ、どうしたの?」


 ぼんやりとしているとタイミングよくというか、狙ったかのようにソフィアが現れた。


「少し町を散策してて、休憩中。ソフィアはどうしたんだ? お使いか?」


「そうだよー。ソラもついてくる?」


 何故そうなるかは分からないが折角誘ってくれているんだ。

 頷き、ソフィアについていくことに決めた。



「ふぅん。ソラは今お休みなんだ。けど、魔術工房ってそんなに面白いの?」


 どうして今日は此処に居るんだ、という当然の質問から始まった会話はほとんど俺の魔術工房でのエピソードになっている。


「面白いかどうかで言われれば、そうだな。面白い、かな。作れるものは多いし、新しい発見は出来るし。お姉さんも楽しい人だからな。

 で、それはそうとソフィアは今日は何の買い物なんだ? 特に荷物も持っていないようだけど」


「うんー。今日は1つだけだからねー、あ、でもソラにも決めるの手伝って欲しいかなー」


 笑って話すソフィア。1つだけで俺にも手伝って欲しいこと?


「食事とかそういうのじゃなさそうだけど、何だ?」


「うんー。あと少しでトールの誕生日だからねー。プレゼントをみんなで1つずつ贈ることになってるんだー」


 だからこれから合流して話し合うそうだ。まあ、都合が良いと言えば良いか。




「やー、おまたせー」


 合流したのは中央広場の片隅、そこには当然ながらアンジェとスコットが居る。


「遅いっ! って、ソラまで一緒なんだ。どうしたのよ」


「ああ。偶々な」


「家を探す手間が省けたからいいだろう?」


 いきなり食って掛かりそうなアンジェを抑えるスコット。

 これだけでも4人組の力関係というか相互関係が見えそうだ。


「そーそー。アンジェもあまり怒らないの。それで、何にするか決めたー?」


「ボクはいつもと同じでうちから何か適当に持ってくるよ」


 ということは食材そのものを送りつける気か。しかもいつもって。


「僕は、今年は本でも贈ろうかと思う。あの人に扱かれてそういったものも興味を持っているだろうから」


 むしろそれは嫌がらせの類だと思うんだが。本好きならともかく、そうでないなら詰め込まれた上でさらに読めというのか?


「あたしはこれから探すよてー。ソラはどうするのー?」


「さっき聞いたばっかでそんなすぐに浮かばないって。トールの好みも知らないし」


 この4人に関して本当に知らないことばかりだ。これから知っていけば良いとは思うが、あまりのんびり構えていても時間ばかりが過ぎていくだけの気がする。


「トールはあれでも甘いものが大好きなんだよー。本人は恥ずかしがって言わないけどー」


 まあ、高くて中々口に出来ないというのもあるが、この世界でも男が甘い物好きというのは軽く禁忌に触れるものなのかもしれない。

 ともあれ、甘い物好きか。ならそれも選択の一つに入れておいたほうが良いのかもしれない。


「あとは、この前ソラが使っていたものを見て魔術品にも興味があるみたい。あいつの魔具じゃシールドなんて使えないのに」


 やれやれとアンジェはため息を吐く。そういえば、スコット以外の属性も知らないな。


「なら、候補はとりあえず魔術品か甘いもの、か。他にも何かあるか?」


「大まかに言えばそれくらいかな。あいつは趣味があってないようなものだし、今は魔術がそうだとは言えそうだけど。

 魔具なんて僕たちで準備できるものでもないし、必要なものはあの人が用意してくれているから」


 だから必要なものではなく欲しいもの、か。

 そういった意味では魔術品の方がいいのか?


「うーん、ならあたしは服でも縫ってあげようかな。トールの着てる服、結構ボロイし」


「フィア言い過ぎっ、トールだって好きであんなボロイ服着てるわけじゃないんだから」


 アンジェ、何気にきついことを言っているのは変わらない気がするぞ?


「こういった案だけど、ソラの参考になったか?」


「ああ。俺は俺の領域ってことで魔術品かな。完全オーダーメイドの一品モノだったら誕生日のプレゼントには相応しそうだし」


 何故かその発言に3人とも驚いたような表情をする。一体どうしたんだ?


「いやいやいやっ! 魔術品のオーダーって高いんだよっ?! 下手したら金貨あたりまでするよ!

 ソラどれだけお金持ちなのさっ!」


 焦ったようなアンジェの表情。他の2人も同様の意見なのか、こくこくと首を縦に振っている。


「別に俺が作るわけだし、材料費だけだぞ? 今だってセミオーダーでアクセ作ってるんだし、特に変わらないんだけど」


 所詮アクセの応用でしかない。材料を安いもので作れば銀貨1~2枚といった所か。


「あたしの知ってる限りだと、アクセサリと魔術品って全く違うものなんだけど。ソラってもしかして鍛冶職人だったりするのかなー?」


 そういえば俺は自分をポーション売りだと言っただけだっけ。

 鍛冶さえ出来れば4人とも魔術品くらい作れそうなものなんだが。


「ああ。となるとお姉さんに使用許可貰わないとダメか。後でサンパーニャよらないと」


 とはいえ、あまり強い効果は出さないほうが良いか。商品として作るつもりはないが、それをプレゼントしていたらサンパーニャとしての面目が立たない。

 そういうわけであくまで長時間使用に耐える程度で自衛程度の効果を持つ補助スキルにとどめておいたほうが良いか。


「ね、ねえ。もしかして、ボクの誕生日にも贈ってくれたりする?」


「あまり良いものでなきゃな。アンジェはいつ誕生日なんだ?」


 ついでに全員の誕生日を聞くことにした。

 アンジェは春の2月目の15日、スコットは夏の1月目の5日、ソフィアは夏の1月目の20日だそうだ。

 この世界は春夏秋冬が3ヶ月続きの30日単位。そういった意味では元の世界に近い。

 ただ、日本とは違いそんなに四季ごとの区別ははっきりとはついておらず、それもやはり神がどうたらで分けられているそうだ。

 で、トールは秋の1月目の5日。あと3日しかないんだが、何でまだ用意していないんだろうか。


「そーいえばソラは? あたしたち、ソラのことあまり知らないよー?」


「俺は、ええと。秋の2月の7日目だっけ、確か」


 多分それくらいだったと思う。というか、村に誕生日を祝うような習慣はない。

 その日の近くにある収穫祭と一緒にされてたし、こっちでも祝うものだとは思ってもいなかった。


「聞かなきゃきっとソラ言わなかったでしょ! 何でそういうことをもっと早くに言わないかなっ!」


「住んでた村ではそういった習慣無かったからな」


 というか、それなら毎年レニの誕生日は盛大に祝っていたのに。今年もすでに過ぎてしまってる。来年こそは豪華に盛り上げるべきか。


「ソラが魔術品を僕たちにまで作ってくれるかどうかは別としても、だ。その日はちゃんと空けて置いてくれよ?」


「あ、ああ。まあ、急な用事が入らなかったらそうする」


 というか、良い笑顔をするな、スコット。何故俺が男相手に照れさせられなきゃいけないんだ。


「じゃ、俺は交渉してくるから」


 と、行こうとするとアンジェに捕まる。魔術工房は行ったことがないので興味があるらしい。

 ソフィアとスコットも止めないようで興味があるみたいだ。



 まあ、構わないと判断し連れ立ってサンパーニャに。2、3日来ていないだけなのに妙に懐かしい気がする。

 急に大勢で入っていくものでもないだろうし、そもそも来るなと言われている。

 俺だけで入る事にして、3人には待ってもらった。



 ドアが開き、ベルが鳴る。相変わらずクローズの札がかかっているが鍵はかかっていない。

 どうせなら鍵も掛ければ良いのに、とも思うがお姉さんらしい。

 と、奥で作業をしているのかハンマーで金属を叩く音が一回だけ聞こえ、その後こっちに近づいてくる。


「ごめんなさい、お休みなんですけど……って、何でソラくんいるのっ!?」


「そりゃ、ドア開いてたし。俺だって此処の店員なんだからさ」


 久しぶりに見るお姉さんは服も髪も煤だらけ、そんな姿のまま対応をしようとして、俺を見て慌てふためきだした。


「で、でもソラくんはまだ此処に来ちゃダメなのっ!」


「父との話し合いの結論で?」


 目を見開き大きな目がより大きくなるのは少し面白いが、驚きすぎだ。


「な、な、何でソラくんがそれを知ってるの?!」


 語るに落ちるとはこのことか。


「そりゃ、次の日父を締めたから。ちなみにリオナにも事情は聞いてる。あとはお姉さんだけだよ」


「リ、リオナ、私にそんな話一言もしてなかったのにっ。え、えっとね。ソラくん。その、ごめんなさい。いつも迷惑ばっかりかけて。それと、この前は助けてくれてありがとう。それと、ひどいことしちゃって、本当にごめんなさい」


 深く頭を下げるお姉さん。いや、そうして欲しいわけじゃないんだが。

 というか焦りすぎだと思う。


「俺だってお姉さんとちゃんと話さなかったからお姉さんに辛い思いをさせたんだ。俺だって謝らなきゃいけない。だから、話すのは後はお姉さんとだよ」


 謝って欲しいわけじゃない。ただ、ちゃんと向き合いたい。今までそれを避け続けてきた俺が今更だが、これ以上目を逸らし続けられるものでもない。


「う、でも出来なかった私が悪かったし、ソラくんに頼りきりだったし」


「ちゃんと話していない俺も悪い。現状に甘えすぎてたって認識はあるよ」


 出来る限り話せるようにしたい。全てとはさすがにいかないものの、ちゃんと俺だけの考えだけを押し付けないようにしないと。

 まあ、そう考えている時点でもまだまだなのは分かっているんだが。


「じゃあ、これからはちゃんと話し合おうね。けど、どうして今日来たの? ソラくんもう少しは来ないかなって思ってたんだけど」


「あー。呼んで来るから少し待ってて」


 店先で待ってもらっていた3人を招き入れる。


「左から順にソフィア、スコット、それにアンジェ。俺の友達で、工房見学したいって」


「よろしくお願いします」


 そう言って挨拶をするのはスコットだけだ。ソフィアは何だかおどおどしているし、アンジェは興味があるのかきょろきょろしている。


「あ、そうなんだ。ようこそ、『魔術工房サンパーニャ』へ。私は一応ここの工房主のミランダだよ。よろしくね」


 そんな3人にも動じず笑って対応するお姉さんは大物なのかなんなのか。


「あー、でさ。お姉さん。()ちたいんだけど、平気?」


「え? うん、それは構わないけど」


 大枠の形は先に作ってしまったほうが良い。後は細かな調整が必要だが、それはつけてみたときに調整できるようにすれば良いだろう。


「じゃあ、材料は……どうすりゃいいんだ?」


「あ、ソラくん。ちょっとこっち来て」


 お姉さんにちょいちょいと手招きされ、工房の奥の方にまで行く。いったいどうしたのやら。


「あのね、材料はソラくんが自由に使って良いからね? それでえっと、必要な分に関しては買い取って貰う、のでいいかな。それと、これ先月のお給料だよ」


 お姉さんから金貨3枚渡される。いや、これは多すぎないか?


「買い取るのはそれでいいよ。金額はどうするかはその時に決めよう? それと、これは多いって。俺の取り分は決まってるだろ?」


 売り上げを考えると多すぎる。先月の収益は恐らく金貨10枚行くかどうか位か。

 翻訳のスキルを付与した腕輪を加えると40枚だが、あれは価格が確定したわけじゃない。

 返す可能性がある以上、それを収益に加えるわけには行かないだろう。

 と、それを思考するだけだと今までと何ら変わりない。そんなわけでそれを話してみた。


「もらえるのはありがたいけど、先月の収益考えると店の運転資金にも影響出ると思うんだけど。

 サンパーニャの軌道が安定するまで俺は貰えない。だから、それまでは一緒に頑張ろう?」


 本当なら俺はご両親を探すのを手伝うべきなんだろうが、正直この町に居るとは思えない。

 となると土地勘すらない状況でどうやればいいというのか。

 地図らしきものは図書館には無かった。小学生の落書きのようなぼんやりとした大陸図ならあったが、作られたのが500年前のものだったし、地形はともかく国や村の場所や名前なんてあてにならないだろう。


「でも、受け取って。じゃないと働かしてあげない」


 無理やり俺の手を閉じさせると脅迫を始めるお姉さん。


「今回はとりあえず受け取っておくよ。けど、次からはちゃんと話し合いの結果で両方納得しよう」


 それ自体は異論は無いのか、頷いてくれた。



 というわけで、鍛冶をすることにした。

 モノはアームレットでいいか。色は、属性に合わせたほうが良いか?


「そういえば、トールって属性は風だっけ?」


「そうだよ。中級をこの前使えるようになったって言ってたよー」


「サンキュ、ソフィア。お姉さん、どうしてそんな怖い顔を?」


 トール、の名前が出た途端にお姉さんの顔が引き攣る。

 まだ気にしているのだろうか。


「う、ううん。何でもないよ? ソラくん、私も作業あるから、ね?」


 何とか我慢している、といったところか。ちゃんと説明しておいたほうが良かったな。


「分かった。ごめん」


 お姉さんだけ聞こえるように謝ると、作業を開始する。


 それにしても風か。となると、透明か青色と考えると、青生生魂(アボイタカラ)かジルコニウムかチタン。どれも加工が大変だったり、そもそも精製自体不可だったりするんだがどうすれば良いのか。どれも青っぽいものであって青じゃないし、透明な金属なんて聞いたこともないが。

 カラーゴールドの応用で熔かした金属に粉にした宝石でも混ぜてみるか?

 なるわけないとは思うが、表面に塗装処理をするのも問題だ。塗装が剥がれる可能性が高いし、はがれてしまった場合なんともみすぼらしい。

 青銅が青っぽくなるのは単なる酸化現象だし、どうしたものか。

 青生生魂の生産レシピは永久氷河の結晶に王金、そして賢者の石が必要とあるんだが、どれも超高レベル金属。そんな物を用意できるわけもない。

 ジルコニウムもチタンも現状で精製不可。だから代用品を見繕うしかないんだが。

 一瞬ガラス製のもので作ればいい、とも考えたがそっちは最終手段だ。

 まあ、砕けやすいしガラスはないとしても、青玉とも呼ばれるサファイア、それも品質のよくないものがある。

 これを砕いて粉にし、溶かした鉄に混ぜてみた。

 で、粘土などに顔料を混ぜるように混ぜ合わせ、板金として固める。

 本来なら時間をかけてゆっくりとするのだが、今日はそうも行かない。

 駄目押しといわんばかりにサファイアを溶かした水で冷やし、固める。

 そうして出来た板は、ほんのり水色っぽい気がする。まあ、鉄も白っぽいし、色を混ぜたことによって変化はしている、ようだ。

 むしろマーブル模様っぽいというか似非ウーツ鋼のようになっている。

 まあ、これで作ったら面白いことになりそうだ。



 鉄を打つ音が工房に響く。熱した板金を打ち、折り曲げ、熱し、折り重ねる。

 本来の魔術品の作り方を元に、さらに複雑な紋様を描くようにハンマーを打ち下ろす。

 最終的にはある程度成形したものをさらに叩き模様を刻むつもりだが、魔力を此処で籠める。

 シールドが使えないと言っていたので籠めるものはそれで良いだろう。

 全力で打てばきっと+9とかになるので成形を前提としたもので本気は出さない。

 それはそれで失礼な気もするが、歪にさえならなければ良いだろう。


 成形した金属を冷やし、最終成形を為す。彫金で模様を刻み、ハンマーで形を整える。

 とはいってもこれは後もう少しだけ調節する必要がある。以前見た外見からだけでは完全な一致はまず無理だし。

 そんなわけで出来上がったのは


 青斑の妖精の尾ブルーマーブル・フェアリーテイル+4

 青いまだら模様のアームレット。

 DEF+2【+2】 重量2。耐久【560/560】

 スキル『シールドLv.2』を使用可能。


 性能も軽めに出来たし、そこそこのレベルで抑えられたからこれくらいなら平気かな?

 というか、2時間ほど打っていたのだが3人とも帰る様子も見せなかった。気が向いたからってすぐに打ち始めるのは拙かったか?


「何というか。ソラはおかしいね?」


 真顔でアンジェに言われるが、失礼な。


「おかしいは言い過ぎだと思うぞ。ポーション売りとは前に言っていたけど、魔術品を打てる鍛冶師は少なくないだろう?」


 まあ、鍛冶師の絶対数はそんなに多くないとは思うが。

 この町の鍛冶師は大体100~110名程度といったところだろうか。鍛冶屋が20軒ほどはあるし、少ない方ではないだろう。

 ポーション売りとしては製法のおかげで上の方だとは思うが、鍛冶師としては下層に近いだろう。

 俺が知識を幾ら溜め込んでいてもそれを放出しなければあまり意味がない。


「でもボク、ポーション売りの鍛冶師なんて聞いたことないよ?」


 前提条件が違うんだからそもそも聞くこともないんだろうが、会話に加わると泥沼になりそうだ。


「ソラくんは鍛冶師なんだよ。ポーションは副業みたいなものだから。あまりそういうことは言わないで欲しいな」


 お姉さんはあくまでにこやかだ。今のところいつもの圧力を感じないのは相手を選んでいるらしい。


「ご、ごめんなさい。アンジェ、失礼すぎっ」


 俺の話題のはずだが、加われない。

 あくまでにこやかなお姉さんに不思議そうなアンジェ、それとオロオロとどうにか仲裁しようとするソフィア。


「スコット、今まで大変だったんだな」


「これからはソラも一緒さ」


 いや、仲間意識は嬉しいんだがこれは巻き込まれたくない。

 とはいえ、俺が止めなきゃいけないんだろうな。


「お姉さん、あんま困らせないように」


「アンジェ、これ以上言うようだったらお仕置き」


 スコットは俺の行動に察したのか、ほぼ同時に諌める。

 どちらも不満そうな表情をするが、ソフィアだけは少しだけほっとする。


「ごめんなさい。アンジェにはあたしたちからよく言っておきますからっ!」


「わ、私は別に気にしてないからそんなに頭下げないで、ねっ?」


 頭を下げるソフィアに慌てるお姉さん。お姉さんに関してはまあこれで平気だろう。むしろ問題は


「ほら、アンジェ。ちゃんと謝るんだ」


「……うぅっ。ごめんな、さい」


 謝るアンジェの方だろう。ばつが悪そうに見えるのは謝り所を無くした結果か。

 だが、父親同伴で謝りに来た娘みたいで少し居た堪れない。


「うん。私もあまりあなたを怒れないんだけどね、本当は」


 苦笑するお姉さんに3人は不思議そうな顔をする。まあ、お姉さんも同じようなことをしたことあるし強くは言えないか。


「アンジェ、コット。もーそろそろ帰ろっか? あたし買い物しなきゃいけないからさー」


「そうだな。ソラ、今日は良いものを見せてもらった、感謝する」


「ミランダさんも今日はありがとう。ソラ、ごめんね」


 3人は自分たちの役割を確立させているのか、ソフィアが流れを作り、スコットがそれを促し、アンジェが纏める。

 4人であればアンジェが切り込みでソフィアがバックアップ、スコットが参謀でトールがリーダーと行ったところか?



 3人が去っていくのを見送ると、改めてお姉さんと向き合う。


「さて、じゃあ改めて何度目かの作戦会議と行こうか?」



金属に宝石の粉を混ぜてもきっと混ざらないと思います。

それはさておき。

スロー進行が止まらないです。。


評価、つっこみ等ありましたらお願いします。


2011/10/4

誤字等修正しました。エリアさま、○よさま、東雲さま、あさるとかんさま、ごるばさま、カイウスさま、暁さま、ありがとうございます。


2011/10/6

誤字等修正しました。独言さま、悠烙さま、ありがとうございます。


2011/10/30

トールの属性を水から風に変更しました。

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