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第11話。奪還作戦!

読んでいただきありがとうございます。

 

 憔悴した様子のスコットを、中央広場から少し離れた路地にまで連れて行く。

 夕方で、多少人の流れは少ないものの、あんなところで立ち尽くしたままでは危ない。

 ただ俺に手を引かれるまま、というのは少し気になるが。

 事情を聞かなければ何が起こったかわからない。




 スコットの話を聞くには(理性派らしきスコットにしては意外だが)混乱していたのか、時間を必要としたが、それでも話を聞きだすことに成功した。


 彼曰く、魔具がなくなった、とのこと。

 それならばハッフル氏にお金の無心をすればいいのではないかとも思うが、彼が使う魔具は特殊なもので、新しいものを手に入れられるかどうか不明なのと、それ以上にお金を借りるのは流石に返す見込みもないため出来ないそうだ。

 スコットの使う魔具は黒鉄(くろがね)のネックレス『闇の訪れ』という中級の魔術まで使える高級品らしい。

 何でそんな物を無くしたんだ、と呆れはしたが、どうやらチェーン自体脆くなっていたため、普段は上着のポケットにしまっていたが、どこかで落としてしまったそうだ。


 他の幼馴染3人はスコットから無くすまでの行動を聞き、それで範囲を分担して調査しているらしいが、気付いたのは今日の昼ごろで、今のところ見つかったという情報は入っていない。


 ちなみに、落し物として届けられていないかどうかは既に自衛団の詰め所に行きそこで確認はしているが、今のところ届けられては居ないそうだ。


 此処で俺には関係ない、と引き下がることも出来るのだが。

 不幸なことが起こったという相手を見捨てることは俺には出来ない。

 それが度々であれば考えるが、ここまで憔悴しているところを見る限り、そうではなさそうだ。

 そもそも、何故憔悴しているかといえば、それがなければ魔術の訓練も出来ず、魔術師の道も閉ざされる。そうなると借金返済どころですらなくなるから、だそうだ。



 手伝うことにした俺だが、あまり遅くなって家族に要らぬ心配をかける必要もない。

 スコットとは別れ、一度家に戻り、報告だけはしておいた。

 その後はすぐ合流、人通りの多い場所を重点的に落し物と、あと不審な人物が居なかったかの聞き込みを始めた。


 黒いネックレスなんて珍しいものが人目につく場所に落ちているのであれば誰か見つけているだろうし、善良な人であれば届けているだろう。

 ただ、そうでない場合はそのまま自分のものにする可能性なんて十分にあるし、魔具だと気付かずとも売り払う可能性は高い。

 その可能性もあり、まずは買取をしている宝石商や装飾品店にも出向いたが、今の所そういったものは見つからない。

 それに商人に話を聞く限りでは、そういったものは市民に関してはほとんどの場合、自衛団に届けるそうだ。


 理由としては、盗人は酷い罰を受けるし、町での生活もそれが原因でし辛くなる。

 誤魔化そうにも売っている間に持ち主が来て、それを盗品だと言われてしまうと買い取った商人側にもダメージがあるため、ある程度の身分の証明は必要なのだそうだ。

 そのため商人も買い取る場合はそれなりの審査が必要らしい。とはいっても万全ではないそうだが。

 よく俺が魔具を売った時そういったことにならなかった。あの受付の男に感謝すべきか? いや、騙し取ろうとした男に感謝するのもおかしな話だ。


 ともあれ、今の所売られた形跡も誰かが拾って届けた形跡もない。となると、誰かが拾ってそのまま自分の懐に入れた可能性が高い。可能性としては子供が持ち去ったか、あるいは時たまいるらしい他の町からの流れ者が拾った可能性が高い。

 町に入れないのはモンスターか重犯罪者くらいなもので、ゴロツキ程度なら町の外れのほうで、少なくない人数が巣食っているらしい。

 ただ、何か騒ぎが起こればすぐ自衛団や騎士がやってくるため、コソコソと生活するのが精一杯だそうだ。


 というわけで、そんなゴロツキが居ないかどうか聞き回る。

 子供が黙って持っていった場合に関しては、親が見つければ自衛団に持っていくだろう。それなら数日もあれば手元に戻ってくるはずだ。




 そして、全員と合流したのはもう日も沈み、暗くなってからだ。

 そこで俺は彼らの4人目の幼馴染、アンジェと顔合わせをした。

 彼女は幼馴染の仲でも一番背が低く、緑の髪もツーテールに縛り上げ、どこか他の面々よりも幼い印象を受ける。同じ色の瞳も焦ってはいるんだろうがぽやんとしていてどこか危なげで守りたくなる印象を受ける。背が低いといってもそれでも俺より高いんだが。


 そこで交わした情報としては、普段見慣れない男が何名か中央広場周辺をこの数日ぶらついている、ということだ。


 1人は俺だったのはみんなには黙っておこう。説明もしきれないし。


 そして、有力な情報としてはそんな男の中で1人、ずいぶんとぼろぼろの装束を纏った男が中央広場から外れた、だが2番目に活気のある通りで営んでいるアクセサリ売りに黒いネックレスを売りに来たらしい。

 アクセサリ売りは男の素性も分からないし、そんな高価そうなものは買い取れない。というと苛立たしそうに去って行ったそうだ。

 その男が犯人かどうか分からないが、現状では一番有力な情報だ。

 スコットとトールは今にもその男のねぐらを探そうとしたが、俺が制した。

 夜、子供がこれ以上出歩くのは拙い。特にこっちはソフィアにアンジェと女の子を2人も連れているのだ。

 そういったものが集まる場所は治安もよくないだろうし、夜ともなればさらにだ。


 2人をそう言って説得するとまた明日の朝、中央広場に集まり作戦を練ることにする。

 お姉さんには悪いが、こちらはあまりのんびりとはしていられないだろう。

 普通の宝石商などには売れないだろうが、売るだけなら手段は幾らでもある。

 売ってしまっているのであれば取り返すのは難しいが、夜に行動するのはデメリットがありすぎる。

 俺が単独で行動するならまだしも、それをするのはよしておこう。彼らは俺をポーション売りの売り子としてしかまだ見ていないだろう。

 そんな中、取れる手段があるのにそんな自分の力を見せるのは意味がないだろう。


 女の子を無事に送り届けるのが男の仕事だ、とトールとスコットに言って聞かせ家に帰る。



「そんなわけで、犯人は恐らくその男だと思う。明日、調べついでに出かけるよ」


「危ないことはしちゃ駄目だからね? 危なくなったらみんなまとめてソラが連れて帰るんだよ?」


「俺たちだけで行くことはないよ。幾つか当てはあるし、出来る限り安全策を講じる。

 こんなことで危険な目に遭うのもバカらしいし、回避できることはするよ」


 そうやって身を案じてくれる母に出来る限り大丈夫だとは伝える。

 家に飾っている防具などを持って行こうとも思ったが、あいにくと子供用のものはない。

 体格は俺より優れているとはいえ、それでも魔術職希望だ。そこまで体力などついてはいないだろう。行動の邪魔になるくらいならまだ私服のほうがいい。

 と思っていると母がせめてこれを持っていけ、と何処かから持ってきたかは知らないが幾つかのアクセサリを持ってきた。


 それは母が旅をしている時に見つけたもので、防御力の上がるバングルやアンクレットだそうだ。

 あまり効果は期待できないが、それでもつけないよりはましだから。と言われ持たされることに。

 どれもDEF+1や2程度だが確かにないよりはましだろう。

 俺が作っても良いが、どんな効果が出るか分からない。

『レジェンド』の時に作っていたアクセサリは大体、防御力だけで言えばDEF+20以上のものだ。DEX+10のポーションですら驚かれるのだ。それを作るだけならまだしも、使うのは緊急時以外よしておいた方が無難だろう。


 母に感謝をし、その日は眠ることにした。明日はそれなりに忙しくなりそうだ。早く寝ておいたほうがいいだろう。




 朝起き、朝食を摂るのもそこそこに、いつもより早い時間にサンパーニャに到着した。


「おはよう。ソラくん。今日はいつもより早いね?」


 こんな時間に来ているお姉さんにはびっくりだが。ちゃんと休憩は取っているんだろうか?


「おはよう、お姉さん。お願いがあるんだけど、いいかな?」


 首を傾げるお姉さんに事情を説明する。トールも関係していてお姉さんは不承不承と言った感じではあるが、何とか頷いてくれた。

 お姉さんもそんな盗人は許せないのだろう。あるいは職人として何か思うこともあったのかもしれない。


 あと、お姉さんにポーションを持っていくように勧められた。店の品を持っていくのは抵抗があったが、何かあってはダメだとのことでポーション10個を持たされることに。

 それと、お姉さんが独自に作ったらしいベルトにひっかけるタイプのポーション……何と言うべきだろうか。シザーバッグとでも言えばいいのか。

 革で作られたそれは、中に革の紐がくくりつけられており、そこにポーションを挿し入れられるそうだ。

 昨日の俺が言ったポーションの運搬用の箱と鍛冶道具を納めている布、それと元々のポーションベルトを元に考え出したらしい。

 これも強度には若干不安があるが、せっかくお姉さんが作ってくれたものだ。

 1つで5個ポーションが入れられるので、左右に1つずつ括り付け出ることにし、お姉さんに礼を言うと中央広場へ向かうことにした。



 中央広場に向かうと、まだ辺りは日が昇ったばかりだというのに4人はすでに来ていた。何かを話し合っているようで、対策を練っているのかもしれない。


「おはよう。俺が最後だったみたいだな」


「おはよう。いや、巻き込んだのは僕だ。来てくれるだけでもありがたい」


 そう言って礼を言うスコットは昨日に比べ、冷静さを取り戻していた。

 時間の経過によって焦ってはいるのだろうが、表面には出していない。悪くない傾向だろう。


「これからどうするの? ボクたちが話あった結果だと乗り込んで行くだけだけど」


 そういうアンジェは外見には似合わず好戦的なのか。暗い笑みを浮かべ、どう犯人を処刑するのか考えているのだろうか。


「それはまずい。相手が単独犯とも限らないんだ。子供だけで出来ることは高が知れている。ハッフル氏に自衛団、後はそうだな。お金があれば冒険者でも雇うんだが、そんな資金も時間もない。だが、打てる手は打って、万全の対策は採っておくべきだ」


 ハッフル氏自身も知名度のある魔術師だ。どういったことが出来るかはわからないが、戦力になるだろうし、氏の力を借りれば自衛団や騎士にも協力を仰ぎやすくなるだろう。


「師匠、そういうのは自力でどうにかしろって言うタイプだから、協力するかどうか分からないぞ?」


「それならそれでも仕方ない。

 だが、最初から突貫するのはまずい。相手の戦力すらわかっていないんだ。

 やる前に諦めるくらいならやって後悔した方がまだいい。話を聞いてもらうだけなら可能だろう?

 そこで力及ばずとも、現状を知ってもらうだけでも後は違う。なら、話したほうがいい」

「ソラはちっちゃいのに賢いんだねー。わたし驚いちゃったよ」


 俺の頭を撫でてくるソフィア。いや、小ささは関係ないだろ。っていうか、ちっちゃい言うな。


「師匠も話は聞いてくれる、かな。今日は1日屋敷にいる予定のはずだし。うん、そこからまずは攻めよう」


「よし。なら交渉は任せたぞ、トール」


 ソフィアの手から逃げ、面倒なことはトールに振る。というか会ったばかりの俺よりも愛弟子からのお願いの方がいいだろう。

 スコットでも良いが、こういったことはトールに任せた方がおも……上手く行くだろう。

 何か腑に落ちなさそうなトールを連れて、一路ハッフル氏の邸宅に。

 こんな朝早くに押しかけて迷惑にならなければ良いが。




「自分たちでどうにかするんだね」


 とはハッフル氏が説明を始める前に投げた一言だ。うむ、断るのが突っ込みをいれたくなるほど早い。


「師匠、俺まだ何も言ってないんだけど」


 トールの表情は硬い。応客間で待っていた人間から開口一番聞く科白ではないだろうから気持ちは分からなくもない。


「こんな朝早くから君たちが来ることなんてない。それに、そちらの子に関しては一昨日きただけで君たちの深い友人でもないはずだよねぇ。

 となると、何らかに巻き込まれて今此処に居る。ともなれば、此処にきたのも何かの頼みごと。一応話は聞いてあげるけど、ほとんどのことは自分たちでどうにかするっていう約束だったよね」


 話を聞いてもらえるだけでも良い方だ。とはいえ、そうなると色々考え直す必要があるだろう。

 俺のコネはまだまだないに等しい。

 知り合いも工房関連のものしかないし、工房主くらいしか話はしていない。

 後は常連客だが、そちらを巻き込むわけには行かないだろう。



「無くしたものを取り戻すのは難しい。そんな魔術もないわけだしね。そうなると確かに怪しい相手から調査するのは当然だけど、買い直した方が早いよ。それくらいならお金は出してあげる。返してもらうときはそこそこの利子も貰うけどね」


「これ以上借りても返せそうにないし、僕はあれじゃないと上手く使いこなせる自信もないです。ですから、お願いします!」


「そこはなくしたスコットの責任だよね? どうしても協力して欲しいというのであれば。そうだね、昨日トールが買ってきたポーションの製法。あれを教えてくれたら考えなくもないけど?」


 頭を下げるスコットに、退屈そうに答えたハッフル氏の言葉に全員が俺のほうに向く。


「あれは今の所『魔術工房サンパーニャ』の秘伝のレシピ。工房主の許可も取らずに教えるわけには行かないし、こっちは生活もかかってる。代用の効くそれと秤にかけてどちらが上か。分かって訊いてるんでしょ」


 俺は冷たい口調でそう返す。どちらにせよ、考えなくもないという言葉だけだ。

 協力すると確約しているわけではない相手にそうそう教えるわけもない。

 周りから来る敵意には苦笑するほかないわけだが。


「うん。君は賢いだろうからそういうのは分かっていたよ。だから、自衛団に手紙だけは書いてあげよう。それ以上は、なしだよ」


 だから、というのには引っ掛かるが何か思うことがあるんだろう。

 というかそれでまた面倒ごとに巻き込まれそうな気がするが。

 暫く時間を稼げば問題ないだろう。


「分かりました……。ありがとうございます」


 納得はいかないという表情を隠さないままスコットは頷く。他の3人に至っては俺を殴りそうな勢いだ。



 手紙を書いてもらった俺たちはその足で今度は自衛団の詰め所へ向かう。


「すまない。あいつらも俺のことを心配してくれているんだ。決して悪気があるわけじゃないんだ」


 怒って先行する彼らの後をのんびりと追っていると、そうスコットにフォローされる。


「悪気があるかどうかの問題じゃないけど、怒ってないからいいさ。ただ、彼らにはもう少し、それで生活している人が居るという事実も知って欲しいところだが。難しいだろうな」


 俺が知っているだけでもこの町でポーション売りの露店を開いているのは20人ほど。

 それで生計を立てている人間も居るだろう。ハッフル氏がもし、それを商人にでも売ってしまえば、買い手は通常のポーションになんて目もくれなくなるだろう。

 そうなってしまえば彼らの生活は成り立たなくなりかねない。


 20人全てに家族が居るかどうかは分からないが、居ないわけではないだろう。そう考えるとそれ以上の人間が飢える可能性すらある。

 ポーション売りに先に技法を渡さなければ、大量生産可能なポーションは今までのものを全て排除してしまいかねない。

 今は販売数を限定しているからこそ何とかバランスを保てている。

 出来れば製法が商人によって明かされる前に、サンパーニャも他のもので売り上げを確保しなければならない。やることはまだまだ山積みだ。


 まあ、そんなことまで説明する気はない。特にスコットは賢い。俺が説明しなくても気付いてくれるだろう。



 詰め所にやってきた俺たちは、てっきり門前払いか取り合ってもくれないと思ったが、きちんと対応され、集めた情報を聞いてもらえた。

 ハッフル氏の手紙も有効だったようだが、以外にも俺の存在も大きいらしい。


 最初に対応してくれたのがジールというのもあるようだ。父の知り合いである彼は自衛団の中でもそこそこの立場であり、信頼も厚い様だ。

 それに、この前露店で騒いでいた騎士も居た。

 2人とも俺のことを覚えており、自衛団の中でもあのポーションは中々に人気らしい。

 時々客の中に鎧を着込んだものもいて、すっかりと俺は自衛団でも知れた存在になっている様子だ。

 あくまで認知されているのがサンパーニャの店員として、というのも中々俺にとっては都合もいい。


「それで、導師の教え子である彼の魔具を取り返すのを手伝って欲しい、か。

 確かに、あの辺りに住み着くやつらのなかでそういったことをしでかしそうなのはいるが。

 それは確実な情報なのか?」


「それが分からないからこうやって手助けをしてくれる人を探してるわけです。

 もし誤認であれば困りますし、事実でも俺たちが突っ込んで行って勝ち目があるかどうか。証拠さえあれば捕縛も可能ですよね?」


「ああ。そりゃな。俺たちはあそこの連中を一掃したいんだが、証拠もなく追い出すことは出来ない。

 だから今回のことは俺たちにとってもチャンスだ。

 もし、あいつらがまとまって行動しているならむしろ好都合だしな。

 しっかし、トニーのやつににて、しっかりしているというか、何というか。

 まあ、そんなやつからの頼みだ。よし、俺の部下を適当に見繕ってやる」


 利害関係も一致し、ジールは条件に合いそうな人を集めてくれる。

 訝しそうな表情でトールたちは俺を見るが、まあ気にしないで置こう。


「ソラって、一体何者なの?」


「単なるポーション売りだよ」


 ソフィアの質問にもそれで答える。ジールは父の知り合いだし、自衛団で広まっているのはポーション売りとしての俺だ。そう答えても問題ないだろう。


「協力してくれてるんだ。これ以上言うと失礼なだけだぞ」


 スコットのフォローもどこか白々しいが、まだ出会って時間もほとんど経っていない。信頼関係が生まれるにはまだ時間がかかるだろう。




 何処となく重い空気が流れ、言葉もなかったが時間は流れる。

 今回のために選ばれたのは護衛に1人、偵察に2人、あと突撃用に3人。それと何故かあの騎士。本人曰く監督役らしいが。

 挨拶もそこそこに、12人という大所帯で動くのは流石に怪しまれる。組を分け、行動することにした。

 偵察はそのまま2人で先行。護衛と、2人の突撃要員、それと俺。あとは残りの6名。

 人数はバラバラだがバランスをとると、これくらいらしい。俺がポーションを持っていることも大きいようだ。

 トールたちに、後で返すことを約束させアクセサリを渡すと、別れて行動する。



 流れ者たちが暮らす一角、通称ドロ板通りと言うらしいが、大きな入り口が2箇所ある。

 今回はその両方から侵入する。最初は目立って仕方なかった鎧を着けたまま出ようとしたのを慌てて止めたのは間違いではないだろう。

 俺は軽装になった男たちに挟まれて行動する。

 武器はナイフだけだ。ファルシオンは目立つし、振ってしまえば相手を傷つけてしまう。最悪命まで奪いかねない。

 そんな度胸は俺にはないし、その結果、家族を傷つけてしまう。

 出来る限りそんなことはしたくないし、今回に関してはする必要もない。

 護衛の男も突撃要員の2人もシンプルな剣だけだ。これくらいなら町を出歩いていてもそこそこ居るし、不自然ではないだろう。


 ちなみに俺が持ってきているポーションは白色、黄緑、緑が3本、いざとなったときの黄色が1本。

 これだけあれば恐らくは大丈夫だろう。母の持っていたアクセサリの中には魔術品も幾つかあった。いざとなればそれを使ってもいい。

 使える回数が少ないため、使用は控えなければならないが。


 そして、進んでいると、急に小道に先頭の男が入った。

 付いていってみると、そこには先行していた偵察の男が居る。どうやら男の視線の先にあるボロい家が目的の場所らしい。

 その家は1階建ての、半分廃墟と化していて中には男が3人、リビングに当たるであろう場所で魔術品を前に酒を飲み交わしているそうだ。

 男たちは盗んだものがどうだとか、売り捌く方法だとかを話していたそうで、捕縛は可能なようだ。

 そもそも何故場所が分かったのか、どうやって忍び込んだのか疑問は尽きないが今は聞いている暇は無い。

 トールたちと合流次第、どうするか決めよう。

 というか、俺たちはこのまま戻って自衛団の応援を呼んだほうがいいと思うんだが。



 と、上手く行くはずもなく。合流し、話をしても自衛団や騎士の面々は賛成したがトールたちは賛成するはずがない。

 此処まで大事になればスコットだけの問題じゃないと説得する俺に対し、魔術が使えるから足手まといにならないと主張するトールたち。

 そんなに怖いなら帰っていいんだよ、というアンジェにカチンとは来たものの。俺を帰すために護衛や突撃要員を減らすわけにも行かない。

 今控えている偵察に補充人員を頼むと、トールたちに絶対突入したり、危ないことをするなと言いつけ俺も残ることにした。

 前では、身体を鍛えるためにこの歳で一通りの運動はしていたし、それなりに喧嘩もした。

 合気道の真似事も齧っていたから自衛だけで言えば俺も何とかなるとは思う。

 いざとなったら囮となって逃げればいいだけだ。逃げ足は誰にも負ける気はしない。


 魔術が使えるからといって、トールたちは気楽だが実戦経験はなさそうだ。

 この年齢にしては落ち着いてはいるが、使えるということと使いこなせるということの違いは理解していないだろう。

 俺が守るなどとは決して言えないが、危ないことに巻き込まないようにはしたい。

 此処に居る時点でそれはある意味不可能といえば不可能だが。


「俺の合図でお前たちは回りこめ。突入したら逃げ場の封鎖と身柄確保。

 家の中で確実に行動不能にしろ。窓から1人、裏側から1人、俺と正面に1人。

 お前は子供たちに怪我をさせるな」


 騎士の指示で役割を決めて行き、指定の場所に移動していく。

 俺たちも危ないから少し距離を取る。もし何かあったとき困るだけだ。

 相手は3人だが、4人……いや、室内に潜んでいる偵察も含めれば5人か。

 それだけでは少し不安だが何とかなるだろう。あとは騎士たちの力を信じるだけだ。

 あとで人数も補充される。それを待ってもいいんだが、そうしているうちに他の者たちに気付かれ乱闘騒ぎにでもなったら収拾が付かなくなる。


「よし、突入!」


 その言葉と同時にドアが蹴破られ、窓枠がぶち破られ、騎士たちが家に突入して行く。


 少し離れた場所に移動しているため内部の様子は窺えないが、叫び声や何かがひっくり返るような音がする。拙いなこれは。

 逃げ出そうとする人間は今はいい。どうせ後で戻ってくるだけだろう。

 ただ、それに乗じて俺たちを襲ってくるやつらが居ないとは限らない。

 護衛1人だけなのは少し、というかだいぶやばい。


 『気配探知』を使い、周囲を警戒し、敵が接近次第対応出来る様にする。

 トールは呆気に取られていたが、俺の姿を見て慌てて周囲を観察、警戒を始める。

 ソフィアもアンジェも、それに引き摺られるように周囲をきょろきょろとし、不安そうだ。

 スコットに至っては魔具がないのが不安なのか、オロオロするばかりで現状戦力のカウントにすら出来そうにない。


 今は護衛の人間と俺で4人を挟んでいるような状態だ。

 魔術職の俺が護衛とは随分と不適切な役割だが今は仕方ない。

 彼らの危険を排除するには現状一番適切ではあるんだろう。


 俺が今使えるのは、鋳鉄で出来たアンクレットから発動できる『シールドLv.2』くらいか。

 他は逃走用だったり支援のものだったり。此処で派手なものは使いづらい。守ることを優先したほうがいいだろう。下手に支援をすると戦い始めかねないし。


 と、正面の扉から男が1人飛び出し、こちらへ走ってくる。男の首元には黒いネックレス。それと右手にはショートソード。首のあれがスコットの魔具だろう。

 それを見つけたスコットは慌てて飛び出そうとするが、護衛が止める。

 何の攻撃手段も持たない子供が相手をして勝てるものでもないだろう。


 とはいえ、護衛がスコットを止めてしてしまったため、実質相手を出来るのは俺とトールたちだけ。

 とはいえ、男が持つ刃物に怖気づいたのか、誰も魔術の詠唱をする気配はない。

 仕方なく俺が対峙すると、男は容赦なく俺に狙いを定めショートソードを逆手に持ち走ってくる。

 俺を殺せば逃げられるとでも思ったのだろうか? 全く、舐めてくれる。


「敵を退ける力をっ『シールド』 発動っ!」


 こちらの言葉で唱えた力は、魔術品を通して現実となる。

 威力と場所を抑えたそれは見えない線となり、男の両足を打つ。

 男としては急に太ももの辺りに見えない棒が現れたようなものだ。

 抵抗する手段はなく、走ってきた加速度も生かし、男は頭から地面に強烈なダイブをする。

 ズシャーっという音を立ててすべる男に対し、頭頂部を思い切り蹴り抜く!

 幾ら貧弱な俺でも、男の加速度と遠慮なしの力を篭めれば男の頭を思い切り揺らすことは可能だ。

 やり過ぎと言われるかもしれないが、剣を持ち出したんだ。それくらいは許されるだろう。


 念のため、鞄からナイフを取り出し、倒れこんだ男の首元に宛がう。詠唱をされてもその間に喉くらい潰せるだろう。


「ったく。あまり手間をかけさせるなっての」


 男が気絶しているのを確認すると、念のため呼気だけ確認し、首元から黒いネックレスを外す。

 騎士たちが突入してきて慌ててつけたのだろう。止め具は壊れかけていたが。


「おい! 大丈夫か?!」


 ようやく補充部隊なのか、ジールが走ってくるのを確認し、息を吐く。

 小競り合いが始まっているのか、回りは騒々しいため安心は出来ないが。




 結局、自衛団や駐在騎士のほとんどを投入して終わったそれは、捕縛者20名を超える大捕物になったそうだ。

 正直やりすぎだとは思うが、組織だっていない彼らを捕まえるにはこうやった方法が一番なのだそうだ。


 立役者として表彰したいと言ってきたが、俺は当然固辞。

 俺がしたのは単なる提案に過ぎず、実働は騎士や自衛団だ。

 元々はスコットがきっかけだし、表彰したいのなら彼らを表彰してやって欲しい。

 魔法学校に行くのであればそこそこの箔になるだろう。

 むしろ大したこともしていないのに目立つのも、噂になるのも勘弁して欲しい。そのため秘密にして欲しいと頼んだほどだ。




 終わったのは既に昼を過ぎた時間だ。動き回ったこともあったので昼を摂りに中央広場へやってきた。

 ちなみにそれまでの道中で貸したアクセサリは回収している。

 俺のであればそのままあげてもいいのだが、今回は母からの借り物だ。


 俺は前のリベンジでチュロスとあとはパニーニ、それと適当な生絞りのジュースだ。

 それを持って広場の端の方にあるベンチを確保し、座った。


 と、付いてきた一行の様子が何かおかしい。いや、事件が終わってからもずっとそんな感じだったが。

 まあ、あれだろう。日常的に騒ぐことはあっても、剣を自分たちに向けられることはない。

 それで今更だが恐怖心が勝ったのだろうか。俺も、熊やトラに襲われる経験をしなかったら怖かったに違いない。何故日本でトラに襲われたかは今でも不思議で仕方ないが。


 そんなわけで飯でも食って落ち着け、と言ったら何故か頭を下げられた。それも全員から。


 何か何処かで見たような光景だな、と思ったが、こんな所で頭を下げられても困る。

 いいから飯を食え、と言ったら渋々食べ始めた。


 その間に話は聞いたが。



 彼らは俺をバカにしていたそうだ。まあ、態度から考えるとそうだろうが。

 ハッフル氏からの提案を断る、作戦には消極的、そもそも態度もよくない。

 自分たちなら戦える。相手を圧倒できる。そう考えていたのに、結局何も出来ずに居ただけ。

 俺の行動はやりすぎているところはあるとは思ったものの、結局最終的に正しいのは自分たちじゃなかった。

 だからごめんなさい、と。


「別に気にしてないよ。俺もトールたちの立場なら同じことを思っただろうし。

 そもそもちゃんと言ってなかった俺にも原因はあるんだろうからな」


「でも、ボクは怖いなら帰ればなんてことも言っちゃったんだよ?! 怒るでしょ、ふつうっ」


 怒られても俺が困るんだが。


「気にしてない。つーか、俺は俺がしたいことをしただけだよ」


 というか、微妙に自分たちを悪く思いたいだけなんじゃないかと思うのは俺の気のせいだろうか。

 これを機会に改められる部分を改めてくれればそれでいいんだが。


「そうは言われても、僕はこれの礼もある。そのままでは気がすまないんだ」


 スコットは渡したネックレスを大事そうに見つめる。それほど大事にしているんだから今後はなくさないようにする、はずだ。


「気がすまないと言われてもな。じゃあ、あれだ。友達になって欲しい」


 4人の頭に疑問符が飛び交うのを見て俺は笑う。予想もしては居なかったんだろう。

 だが、あまりの反応過ぎておかしい。


「何でそうなるのー? だって、迷惑かけたのこっちだよ??」


 戸惑っているのか、ソフィアの顔は強張っている。


「俺は今まで大人の中でずっと暮らしてきて、あまり同世代の人間との付き合いが分からなくてさ。

 だから、利用すると言ってしまえばそれまでなんだろうけど、付き合ってくれれば助かる。無意味な上下関係なんてばかばかしいし、今回のことで変な意識持たれても困るから。

 それなら友達の方がよっぽど有意義だろ?」


 友達は対等だろ? と言葉を加えて。


「ソラがいいなら俺は構わないけど、本当にいいのか?」


「ああ。それでいいんだよ」


 出来れば本当の友達になりたいが、それは無理になるものではなく自然になるものだと思っている。だが、ある程度きっかけは必要だ。

 今回は特殊な状況を利用させてもらっているが。……そうでもしないと友達すら作れないかと思うと目の端が熱くなりそうだが。


 どちらにせよ、機会は作った。後どうなるかは今後の展開次第だ。


「何かちょっと納得できないけど。ソラがそうしたいなら、ボクもそうしたいと思うよっ」


 他の2人もどこか納得しない、という表情は浮かべながらも頷いてはくれた。

 特にスコットは顕著だ。恩人として俺に感謝してくれている分、友人というのはしっくり来ないのかもしれない。


「じゃ、家族に無事を知らせてこいよ。どうせ碌に話もしてないんだろ?」


 声を詰まらせるそれで答えは分かった。普通はそんな危ないところに送り出す親は居ないだろう。

 うちの母ですら散々渋っていたのだ。他のところでは尚更だろう。

 幼馴染を大切に出来るのは美徳だが、あまり心配をかけさせるなといいたい。

 人のことを言えないからこそ俺がそれを声に出すことはないのだが。


 存分に怒られて来い、と笑って送り出すと恨めしそうな顔をしてとぼとぼと帰路につく幼馴染4人組。

 さて、俺は心配をかけた相手に謝ってくるか。



「ソラくん、大丈夫だった?!」


 そうやって俺の姿を確認すると不安そうに駆け寄ってくるお姉さん。


「ああ。この通り。俺はポーションすら使わなかったよ」


 とはいえ、自衛団で何人か傷ついた人が居たから大盤振る舞いをしてきたが。

 それも販促活動の1つだ。実際の使用による体験と、今回の事件で使われたという事実があればそこそこの集客効果はあるだろう。

 後は本格的にサンパーニャの魔術工房としての活動を始めればいい。

 そのためにはお姉さんの努力も必要だが。


「ソラくんのことだから大丈夫だと思ってはいたんだけど、もう危ないことはしちゃ駄目だよ?」


 心配も俺の言葉で飛んだのか、めっと言いながら指を突き上げる。顔も真剣そのものだが、どこか可愛らしいそれに笑いが込み上げる。


「ソラくん! 人が心配してるのに笑うってどういうこと?!」


 憤慨して顔を真っ赤に染めるお姉さんも俺にとっては可愛いとしか言いようがない。

 そう思うとさらに笑いが止まらない。そうやって暫く、怒られながらも笑うということは続いた。



「悪かったって。俺もなんか安心しちゃってさ」


「ソラくんのバカ」


 すっかりいじけてしまったお姉さんを宥める間にも時間は流れていく。

 やりすぎてしまったようだ。少し反省しよう。


「けど、お帰り。ソラくん」


 そうやって満面の笑みを浮かべるお姉さんに。


「ただいま」


 とだけ俺は返した。





「で。お姉さんは今日何をしてたのかな?」


 散らばった布と幾つも割れたガラス瓶。何となく意図は分かるが、まあ。


「わ、私もソラくんみたいに色々作り出せると思って……それで」


 尻すぼみするお姉さんの言葉。


「別に間違ってないから気にしなくていいよ。問題なのは片付けないことだろ?


 工夫したり色々考えるには失敗も必要。失敗を繰り返してようやく成功は導き出せるんだから」


 これはポーションの収納や運搬に関して、何か出来ないかと研究していたんだろう。

 販売している最中もリピーターから色々指摘をされたり注文されてたりしたし。


 今の2倍の容量を装着できないかとか、完全に割れないようにして欲しいとか、果てにはわざわざ取り出さなくても飲めるようにして欲しいとか無茶振りもあったが。


 どうしても外側につけているため、接近戦だと掠って割れることもあるらしい。

 ただでさえ障害物が多い森や山をターゲットにしている購入層は多い。そういったこともあるだろう。

 それでも以前に比べたらましだとはいうものの。

 あまり強度を高めると重さが増すし、材料費も高くなる。

 ポーションの瓶自体を別のものにして欲しいといわれても、そもそも作るのが大変だ。

 金属製のものやソフトビニールのような素材のものも考えたが、どうしても原価が高くなるのと再利用のしづらさが問題になった。


 ガラスが愛用されているのは、再加工のしやすさが一番だ。

 使用後のガラス瓶は露店や工房に持ち込めば買い取ってもらえる。

 それを工房などで砕き、再度溶かして瓶にする。

 それは重さで買い取るため割れているものも多いし、他のものにだって利用する。

 一見割れていないようでも細かなヒビが入っていたりもするので買い取ったものは一度全て砕いてしまうそうだ。

 洗えばいいとは思ったが、洗剤もないし細長いものを洗って何度も利用はできないだろう。

 ある程度砕いたものを一度水で流し、余計なものを除去してそれから再加工するらしい。

 そう考えると金属いちいち溶かして再加工するのは費用がかかってダメだし、ビニールは再加工できないからもっとダメだ。

 他の職人であれば金属を使って作るのであればそのまま流用しそうだが、俺は怖くてそんなことは出来ない。

 結局、今の状況ではガラス瓶が一番なのだそうだ。


 洗浄の強化か素材の防菌効果が高まればポーションの量り売りなども出来そうだが。

 だが防菌効果を狙っても使う側としてはどれだけ再利用できるかなんて判断はつかないだろう。菌の繁殖を完全に防止することなんて出来ない。

 まあ、うちだけの問題でもない。他が考え付けばいいのだが、それまでは規格は合わせた方が何かと便利だ。


 と、そういった背景もありポーションベルトの改良も仕事のひとつだ。

 お姉さんの作ったものも中々ありだと思う。後はこれの中に綿でも詰めれば割れ辛くなるだろう。

 その場合の取り出しやすさがどうなるかは実験してみないとダメだが。


 現状としては、そういう研究をしていた最中に転んだかひっくり返したか何かでガラスを割ってしまったんだろう。

 すぐに片付ければいいものを。


「ガラス割っちゃったの、ソラくんが帰ってくる少し前だったんだよ。だから今から片付けるよ」


 と、そのまま片付けようとするお姉さんを制する。


「素手で触れると怪我しかねないから、厚手のグローブするか掃除道具取って来て。俺は革から片付けちゃうから」


 ぽいぽいと革を片付けていく、んだが。途中で妙な事に気付く。

 革が全て違う形をしている。元のままであれば、それも当然なのだが明らかに裁断した跡がある。

 その切り方の荒さは今後の課題としても、どうも一定の種類で同じように切られたそれはまるで拡大・縮小コピーをしたもののようだ。

 今の所見つかったのは3種類。それも大きさが5パターンほどあるようだ。

 大きさの違いは最大で8cmほど。これは何をしたいんだ?


「お姉さん、この革どうしたんだ?」


「それはね。人によって手とか体の大きさ違うでしょ? だから幾つか種類作っておけばそういうのにも対応できるかなって」


 確かにそれはそうだ。ベルトのような完全に固定するものであればともかく、今日持っていったある程度自由の利くようなものならそうやったほうがいい。


「なら、大きさと種類ごとにサンプルだけ置いてそれで販売じゃなくて予約にするか?

 いや、だとするとやはり大量に作る必要があるし、その前にもっと可動式にして個人で調整できるようにして、その前にオーダーメイド……は高いにしても、素材だのを調整して他のものとの格差をつければ売れるのか? いや、そんなことをするなら種類を増やすほうがいいだろうし、種類を増やすくらいならそれを個別の工房にでも売ったほうが早い。けど、そうなると派生したものをこちらでも利用できるように契約を結ぶか? いやいや。それはうちだけが得をするから相手もそんな契約を結びたくないだろうし、そもそもうちにだけ利権を集中させるのはもっと問題だし、そもそもお姉さんには鍛冶をいい加減覚えてもらわなきゃいけない……」


「ソ、ソラくん! 何だか一杯考えてるみたいだけど少し落ち着いて!」


 俺の考えはお姉さんによって中断され、少し暴走気味だった思考も薄らぐ。


「あ、ああ。えっと、悪い。これに関しては、俺も後で考えてみるよ。

 お姉さんは、ああ。もう片付けてくれたんだ」


「ソラくんはもう今日はあがっていいよ。後は私がしておくから」


 お姉さんにそこまで言われるということは、俺も相当疲れているのだろう。

 それなりには、慣れていない出来事でもあったし。

 日常生活程度であれば問題なく過ごせるだろうが、調合や鍛冶は流石に無理か。


「といっても、仕事しなくても出来ることはあるんだけど」


「うん。休むことが、今日のソラくんの仕事だからね」


 帰宅することにしました。ええ、それはもう脱兎の如く。

 いや、最近のお姉さん妙に迫力が、うん。



 帰った後、母に随分心配されたが、話をするとそのまま部屋に連行され、ベッドに押し込められる。


 無理はしていないはずなのだが、顔色が良くないから! だそうだ。

 まあ、疲れているのは疲れているからそれも当然か。


 アイテムボックスから以前作った特製ポーションを取り出し、飲み干す。

 そういえば、これは特製ポーションのままだ。新しくアイテムを作れば最初は特製~で、その後は追加されるような仕組みなのか?

 考えるときりがなさそうだ。

 今はまず、ゆっくりと身体を休めることにしよう。



主人公についに同い年の友達? が出来るの巻き。

本当は派手な戦闘になったり、敵が魔王の使いだったり、そもそも悩んでいる理由が全く違ったりと色々考えたもののこういった形に収まりました。


評価、つっこみ等ありましたらお願いします。


2011/9/20

誤字等の修正を行いました。おっさんA様、kent様、独言様ありがとうございます。

ポーション瓶の扱いに関しても補足を追加。細菌学なんて発達してなさそうですよね。。

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