第10話。詠唱術と魔法学園生徒候補たち。
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拙い部分はまだまだありますが、今後とも読んでいただければ幸いです。
夢を見ていた。それは多分楽しかった夢なんだろう。
そして悲しい夢でもあったんだろう。どうしてそう思ったかは分からない。けど、そう思う。
ぼーっと、寝起きのまとまらない頭で考える。
せっかくの休みだし、たまにはこういうのもいいだろう。とはいえ、あまりごろごろするのもいただけない。
のそのそと起き出し、身支度を整え、食堂に。そこには母とレニがいて、レニの食事を母が手伝っている。
「おはよう、母、レニ」
「おはよう。今日はゆっくりね?」
いつもはレニが起き出す頃には家を出ている。母の指摘も当然だろう。
「今日は休みだから、ゆっくりしようと思ってさ。レニ、美味しい?」
ご機嫌そうな表情でこくこく頷き、一生懸命朝食を摂るレニは相変わらず、可愛らしい。
思わず家に連れて帰りたくなりそうだ。
……危険な思考の上、此処が家だったとすぐに気付いたが。
俺はその後、適度に食事を取ると町に出かけることを母に告げ、家を出た。
特に用事などは無いが、何か面白いものが見つかるかもしれない。
お金はあまりないが、冷やかしならタダだ。何かアイデアも浮かぶかもしれない。
辿り着いた中央広場は相変わらず賑やかだ。
他の場所でも出店や露店は開かれているが、一番繁盛しているのが此処だろう。
時折、俺の姿を覚えてくれている人が居るため、今日はポーションは売っていないのかと何度か聞かれたのは商品が認知され始めたからだろう。
そんな中、匂いに惹かれ俺は出店でチュロスらしきものを手に入れ、ほくほくで歩いているといきなり正面衝突した。
もとい、こんな賑やかな場所で人ごみを縫うようにして走ってきた少年に体当たりをされた。
俺より幾分体格の勝る少年から発せられる運動エネルギーは、俺を吹き飛ばすのは簡単だったらしい。
一瞬軽い浮遊感を体感すると、ズシャー、という効果音が聞こえそうなほど俺の身体は地面を滑り、止まった。
これは酷い。俺はチュロスの油と塗ってあった蜂蜜で服はドロと油まみれ。
何とかぎりぎりで受身は取ったものの、とっさだったため左半身はさらに酷い。
特に、手は無理に地面から頭を庇おうとしたため擦り剥いている。
職人の手をなんだと思っているんだ!
抗議をしてやろうと、俺にぶつかった少年をにらみつけると、面白いくらい慌てている。
何だかこれではむしろ俺が悪いようではないか。いや、気をつけていなかった俺も悪いんだが。
「ご! ごめん、怪我はっ、ああっ! 本当にごめんっ!」
俺のズタボロぶりを見て少年はさらに慌てる。見ていて気の毒になりそうだ。
「いい。これくらい慣れてる」
これは本当だ。とはいっても、穹としての俺だが。
前はこの位の年齢だとこれはまだ軽い方。
酷いときは両腕擦り剥いて血だらけの時もあったし。
これくらいであればポーションに頼らなくても消毒と自然治癒で大丈夫だろう。
消毒液は…俺はヨード、あの茶色い、謎な液体が鉄板だったがそんなものは此処には無い。
というか、消毒液なんてもの自体見たことが無い。アルコールで殺菌か?
流石にある程度範囲が広いのでつばでもつけとけば治るということも無いだろう。
「慣れてるって……! そ、そうだこっちに!」
少年は俺に有無を言わせず引っ張る。怪我人を状態も分からず引っ張るな!
少年に引っ張られ連れて来られたのは一軒の屋敷。
それも俺の家よりも大きな豪邸だ。ただ、あまり綺麗ではないが。
そこそこに掃除はされているものの、大切にされている感じがしない。住むためではなく、何か他のためにある。そんな感じだ。
そこで案内されたのは応接間だろうか。そこそこに価値のありそうな彫像品が並べられ、壁も名画、かどうかは分からないが風景画が飾られている。それもどこかおざなりだが。
そんな俺の感想を知る由もない少年は慌しく動き、俺の治療をする。
第一印象の慌てふためく姿と違い、中々適切だ。水でぬらした布で傷口の汚れを落とし、軟膏を塗り、包帯を巻く。手当てとしてはそこそこだろう。
「師匠が戻ってたら魔術で回復してあげられるんだけど…ごめんな」
心底情けない顔をして言う少年の顔に思わず笑ってしまう。
一瞬きょとんとした顔をするが、自分がどういった顔をしているか分かったのだろう。
苦笑し、立ち上がった。
「そのままじゃ帰れないよな。合う服があるか見繕ってくるから、少し此処で待っててくれないか?」
俺としてもこの服のままではいられない。むしろ、髪も汚れているから風呂にもはいりたい。
そこまで少年に要求するのは厚かましいし、見ず知らずの他人の家で風呂を貰うのは落ち着かないだろうが。
にしてもだ。此処は貴族か商人の邸宅なのだろう。いや、師匠と言っていたから恐らく貴族なのだろう。
ただ、この家の不自然さはあまりにおかしいが。
まず、人の気配がしない。師匠が戻ってきたら、という少年の発言通り少年の師は今は出払っているのだろう。
そこはいい。だが、使用人がいないというのはこの規模の家ではおかしい。
うちも確かに居ないが、うちは所詮平民。あそこに住むようになったのは単なる偶然だ。
ならこの規模の家を維持するには数人の使用人を雇う必要があるだろう。
もしこの邸宅の主と出かけているとしても、それは多くても2~3人だろう。
屋敷の手入れ、食事の準備、来客の応対などしなければならない仕事はある。
それなのに居ないとなると、没落しかけているかあるいは。
「君は誰だね?」
扉が開く音とともに現れたのは、ローブに身を包んだ。…身を包んだ何か。
フードによって口元しかわからないそれは、種族特徴も性別も詳しい体型も分からない。
要は怪しい人物と言うことだ。声のトーンが若干高いため女性かもしれないが。
「誰と言われても。巻き込まれた平民とでも言えばいいですか?」
知らない人に付いて行っちゃ駄目だよ、と母に言われたのは随分と昔。
そんなことを言われなくても村に怪しい人も見知らぬ人も居なかったので意味はないが。
ああ、今回は強制連行はされているか。
「巻き込まれた? 随分とぼろっちい格好をしているが、君は浮浪者の子供かい?」
これは馬鹿にされているのだろうか? それともただの確認か。
どこか嬉しそうに、対面にあるソファに身を沈めるそれは良く分からない。
「浮浪者じゃないです。見知らぬ少年に体当たりをされて、弾き飛ばされた結果こうなっただけで」
それだけ服は汚れまくっている。洗ったところでこれは落ちないだろう。単なる布の服のため構わないが。
「トールか。いや、弟子が迷惑をかけたみたいだね。謝罪をしよう」
「本人に謝られたので、これ以上は」
怪しげだが、悪い人……いや、常識がないわけではなさそうだ。
この屋敷の主ということは最低でも下級貴族だろう。
それが謝罪の言葉を口にするとは思いもよらなかった。
「これくらいしか見つからなかったけど、我慢してくれ――師匠、お戻りでしたか」
扉が開き、少年が入ってくる。少年にとって師の帰りは意外だったのか、少しだけ驚いたような表情を見せる。
「うん、たった今ね。それよりも、トール。何故この子に怪我をさせたんだい?」
「師匠のお使いを済ませようと中央広場を走り回っていたらぶつかって……」
少年はばつが悪そうに視線を背ける。あんな人通りの多いところを走り回ればそうなるのは目に見えているはずだが。
「気配の察知位、常に出来るよう言っているのに。いや、本当にすまないことをしたようだ」
気配の察知ということは武道でも教えているのか?
いや、拳闘ギルドがあるとは聞いていないし、少年の体つきはどちらかと言えば一般的なのだろう。
ある程度鍛えてはいるかもしれないが、武術家特有のしなやかな筋肉が付いているようには見えない。
「反省してますよ。ほら、着替えと食事。俺が駄目にしちまったから、せめてこれでも食べてくれ」
チュロスのことでも反省しているのだろう。
少年から受け取ったものは麻なのか少しごわついたシャツとズボン、それにパン。
パンは普段町で見慣れているパンではない。少しふすまが残っていたのか若干黒いものは残っているが、俺が食べなれているそれに近いものだ。
ただ、食べてみると製法がおかしいのか、何かが間違っているのかごわごわしていてあまり美味しくない。
町で食べるものに比べたら柔らかいためまだましだが、何が足りないのか。
風味はそこそこだし、もっちりさもある。けど、何かが足りない。
「どうだ? そのパン美味いだろ。師匠が何日か前に商人にセットだけど、金貨20枚も出して買ったものなんだぜ?」
自信ありげに少年が言う意味が分からないが。というか、40倍もの値段が付いてるのかよ。
となればそりゃ広まるはずがないよな。あの工房で大量生産は難しいだろう。
しかも製法そのものも上手く伝わってないようだし。これが不器用や工程を無視したため起こった結果という可能性もあるが。
とはいえ、厚意で貰ったものだ。そうは言えず、曖昧に頷くしか出来ない。
もう少し、村の人にも売り方だとかなんだとかを考えてもらわないと困りそうだな。
父に頼んで村長宛に手紙でも出してもらうか? 村がその分潤っているなら構わないが、そうでもないのかもしれない。
「ええと。着替える場所借りても?」
流石に見ず知らずの他人の前で着替える度胸は俺にはない。
本来の住人に着替えたいから部屋を出て行け、というのもおかしいだろう。
「なら出て右の部屋を使うといい。すぐ右の部屋だからね?」
それに大人しく従い、出てすぐ右の扉を開く。何もない部屋だが、着替えをする分には問題ない。
さっと着替え、脱いだ服をたたみ抱える。着れるわけではないが、置いていくわけにも行かない。
後に捨てるにしても、持っていくことにしよう。にしても、参った。転がったせいか随分とひりひりすると思っていたが、思っていた以上に赤くなっている。
明日にはまた調合したポーションの試飲はするので構わないが。
着替え終わった俺は再び元の部屋に。服まで借りておいてそのまま帰るのは非常識にもほどがある。
軽くノックをして入った部屋ではがっくりと項垂れている少年と、先ほどと変わらない姿勢で座っている邸宅の主。
「よく似合っている。サイズは少し大きいみたいだけど、大丈夫みたいだね」
声は楽しげだが、表情が見えない分笑っているのかどうかが分からない。
外ならともかく、室内でフードを被ったままなのはどうかと思うんだが。
「洗って返します。ええと、返すのは多分明日になると思うんですけど、大丈夫ですか?」
「気にしなくていい。昔着ていたもので、サイズも合わないからね。返して貰ってもそのうち棄てるだけだろうから」
そうは言われてもな。確かにサイズは合わないだろうが、貰うのもな。
素材自体はあまりよくないが、そこそこ着心地はいいし、縫い目も綺麗だ。
ほとんど着ていないんじゃないか?
「弟子が迷惑をかけたせめてもの詫びの品だと思ってくれないかな。
そうそう、状況を聞けば左半身に怪我を負っている可能性もある。こちらにおいで」
俺の表情を読み取ったのか、彼女……彼の可能性もあるが、声で女性と判断したし、便宜上彼女としておこう。
彼女は断りづらいであろう言葉を重ね、俺に傍によるよう指示する。
怪しげなことこの上ないが、酷いことにはならないだろう。いざとなったらどうにかする自信はある。
「いい子だね。さあ、身体の力を抜いて。――光の精霊に願い請う。かの者に癒しを。たゆたう命の焔に一時の安寧を与えよ。我は、あなたを信ずるもの。『治癒の単声曲』」
彼女の首の辺りが光り、俺を光が包む。じわじわと身体を温めるようなそれは、ゆっくりと溶けるように、染み込むように俺の中に入っていく。何だ、これ?
「魔術を見たのは初めて? 大丈夫、これで治るからねぇ」
確かに、治りはし始めているが。どうも生命エネルギーの活性化というか、自己治癒の促進というか。俺が使う治癒魔術と何か根本的に違う気がする。
ただ、魔術を扱うとなると、此処は魔術師の家で少年は魔術師の弟子ということか。
「ありがとうございます」
魔術ギルドやそれに加入する魔術師が胡散臭かろうと、感謝を表さない理由にはならないだろう。全ての魔術師が悪いとは断言できないし。
「俺の時は怪我をしても治癒なんてしてくれないのに」
拗ねるような少年の声。とはいえ、魔術師であるのならそれくらい治癒できそうなものだが。
「基礎は教えた。魔具も与えた。もう基礎は使えるようになっただろう?
なら、別の属性を持つ君の治癒魔術は、君が使えるようになるしかない。
前にも教えたはずだよ。自分で出来ることは自分でしなさいとね」
魔具を与えると言うことはそれなりの意味を持つんだろう。ただでさえ高いものなんだろうし。
まあ、俺にはその感覚は分かりそうで分からないんだが。
「ただ、君は体質なのかな。あまり魔術が効きにくい気がする。動き回って怪我が悪化することはないだろうけれど、少し休んでいくといい。
わたしはまたこれから出かけるけど、よければ弟子と話してやってくれないかな」
それくらいは別に構わない。今日は元々予定はなかったんだ。珍しい出会いに触れるのも構わないだろう。
了承の言葉を返そうにも、魔術師は既に出て行った後だったが。
「帰ってきたと思ったらまた出かけるんだもんなぁ。結局怒られたし。いや、君のせいじゃないから気にしないでくれ」
少年は自分の独白がまずいと途中で気付いたが、既に遅い。
と、普通なら此処で気まずくなり沈黙が流れるだろうが、あいにく俺は自分を普通だとは正直思っていない。むしろこれはチャンスなのだろう。
「それよりも驚きました。魔術なんて見るのは初めてなので」
そう。魔術の仕組みを俺は知らない。学ぶつもりはないが、いざとなったときのためにある程度覚えておいても問題ないだろう。
「そうだよな。俺だって師匠に頼み込んでやっと弟子にしてもらって、それでようやく魔術見せて貰ったんだ。
でも使うのって結構大変なんだぜ? 精霊をまず見ることから初めて、そいつと話せるようになってようやく基本的なものが使えるようになるんだ。
俺だってこの前ようやく風の流れをつかめるようになったくらいなんだしさ」
何て言うか。うん、すげえ不便な気がする。
「精霊と話す……?」
一番気になったのはそれだ。詠唱を聞く限りでは精霊にお願いをするとか、そういった感じで魔術を使っていたようだし。
「そういっても実際に話すわけでもないんだけど。見たりするのもなんとなくぼんやりそこに居るかなって程度だし。師匠が言うには慣れればはっきり見れるらしいんだけど。
けど、そこからがまた大変でさ。基本的に精霊なんて人と考え方が違うらしいからこっちの話なんて聞かないし。
気に入ってくれたらその辺に居る精霊が手を貸してくれるんだけど、それも力がまちまちでさ。もうそりゃ大変なんだよ」
興奮したような少年の談だが、きっと自分の魔術の苦労を知って欲しいのだろう。俺もお姉さんに調合を教えるのは苦労してるし、誰かにぶちまけたい気も少しだけする。
「魔具は? あれは高いって聞いたけど、その分の恩恵は?」
「魔具が高いのは属性石がほとんどないからだよ。
あっても弱い力しかなくて、強いのは研究用だったり、大貴族や王族への献上品がほとんどらしい。
俺も詳しくは知らないけど、師匠がそうだって」
その後少年と話している間に幾つかのことが分かった。
まずは属性石、属性の付与された宝石のことだが。
あれは作り出すのが大変で、弱いものなら何とか作れるが高レベルのものは自然にしか出来ないらしい。
火の属性石であれば火山、水の属性石であれば清らかな湖の底など、長い時間をかけてようやくその恩恵を受けた一握りのものだけらしい。
そしてその属性石自体がまた問題だった。
そのグレードにより使える魔術の種別が異なる。
たとえば少年が持っているものは、オーク枝のアームレット【そよ風の祈り】というらしい。
これは風の初級魔法を使うことが可能で、それでも市場価格は最低でも金貨50枚以上。
父が言っていた白銀貨2枚以上と言うのは、金属製でかつ良質の属性石のついたもの、らしい。
とはいえ、安いものは高いものとは別の理由で出回らないため、普通の人の感覚としてはそっちがあっているらしい。
で、グレードによって使える魔術の上限があるのは、その属性石を通して人は精霊とのやり取りを行えるため、その属性石に見合った精霊とのやりとり、つまり魔術しか使えないそうだ。
あと、これが一番重要だが詠唱術は魔具を使い、自分のMPを捧げて魔術の行使を請う儀式のようなもの、らしい。
だから一部を除いて特定の詠唱はなく、どういったことをしたいのかを精霊にお願いして確実かどうかわからないものでしかないらしい。
とはいえ、使い慣れればMPの使い方や精霊との交渉も上手く行くので安定化していくとのこと。
道理で俺の詠唱が聞いたこともないと言われるはずだ。何せウィンドの文字をそのまま読み上げ……うん。もう1つまずい事に気付いた。
メニュー画面から利用できるものは全て日本語。メニュー名は当然、アイテム名も説明も、全て日本語だ。日本語なのだ。
あまりに俺にとっては当然だったから気付かなかったが、俺はこちらの言葉と日本語、両方使える。発音や文字こそ違うものの、声帯は大して変わらない。今でも日本語でのやり取りは簡単に出来るだろう。
つまり、俺は知らず知らずのうちに日本語で詠唱をしていた。それはおかしいとも言われるよな。
「どうした? そんなに項垂れて……もしかしてまだ痛むのか?!」
「ちょっと気付きたくないことに今更気付いただけだから、気にしないで欲しい」
今後は気をつけよう。というか出来る限り使わない環境を作り上げよう。
基本的なこととして、トラブルを回避することに徹すれば何とかなるだろう。何とかなると思いたい。
「ふーん。まあ、いっか。そういや、聞きたいことあるんだけど良いか?」
「分かる範囲であれば。だけど」
正しくは、言える範囲で、だ。
「ああ。それで構わない。師匠からこの数日珍しいポーションが町に出回ってるから手に入れて来いって言われててさ。何か知らないか?」
それは間違いなく俺の特製ポーションのことだろう。今日歩き回ってたときもポーションを売って欲しいとか、作り方を聞きたい、と声をかけられたことがあっても他で売っているという話は聞いていない。
「何で魔術師がそんなものを必要に? 必要ないと思うけど」
「いや、興味があるとは言ってたけど。詳しくは」
好奇心だけであればいいんだが。というか、専門家があれを判定した場合どう思うんだろうか。製法は判明するのだろうか?
そういった意味では俺も興味はある。
あくまであれは一時しのぎであり、サンパーニャの知名度向上のためだ。
目的を果たせば町のポーション売りに製法を販売してもいい。あくまで対象はポーション売りであり商人や研究者に渡すつもりなどはさらさらないが。
さて、話すべきかどうか。知りたい情報をくれたので俺個人としては話してもいい。けど、これはお姉さんに確認しなければならないだろう。俺が勝手に決めていい話ではない。
「考え込んでるみたいだけど、何か知ってるのか?」
「知らないとは言わないけど、少し事情がある。今此処では話せない」
「つまり知ってるってことだろ? 助けると思って、頼みたいんだけど。……これ以上迷惑かけることも出来ないか」
「明日、朝。中央広場に来れば分かるかも」
客として商品を売ることは問題ない。後は自分で服用しようが、研究されようが問題ない。この世界に詳細な成分分析が出来るとも思えない。
なら、売って異常な悪影響が出ない限り責任はないだろう。
無責任だが、売ったものの全てに対し責任を取ることなど不可能だろう。
と、考えているとゴーン……と低く重い鐘がなる音がする。
「もう来たか。少し待っててもらえるか?」
そういってまた出て行く少年。俺はいつまで此処に居ればいいんだろうか。
まさか魔術師が帰ってくるまでとは言わないよな?
少年は少年と少女を連れ部屋に戻ってきた。
此処で少年も含め自己紹介をされた。
まず、この邸宅の魔術師の弟子である、明るい赤髪を短く刈り込み、人のよさそうな若干目じりの下がった水色の瞳をしているのがトール。俺よりも身長は10cm以上高いだろう。
もう1人の少年はスコット。身長こそトールと同じくらいだが身長の割りに痩せており、ぼさぼさな銀色の髪とメガネをかけた神経質そうな三白眼の髪と同じ銀色の瞳が学者のような風貌をしている。
最後の少女は、ソフィアといい、えんじ色といえばいいのだろうか。深い紅の髪は腰に届くほど長く伸ばしており、鮮やかな青はまるで瑠璃のような宝石を瞳に埋め込んだようだ。
……少女の身長すら俺を上回っているのは正直羨ましいとしか言いようがない。
と、その後に俺の自己紹介をすると俺が男ということと9歳という年齢に驚かれた。心外な。
その俺の表情に気付いたトールが慌てて同い年とは思わなかったからと弁明をする。
まあ、いい。俺もそんなことで怒るほど子供ではない。侮蔑の表情も浮かんでいない、怒る理由はないだろう。
「あのポーション売りが男でしかも同い年とはね。いや、そう考えると多少の納得はいくかな」
どうやらスコットはあの時その場に居て騒動を見ていたそうだ。
それでトールが何か言いたそうだったが、あえて気付かない振りをして改めて彼らの関係を聞く事にした。
「あたしたちは幼馴染なんだよ。もう1人ホントはいるんだけど、今日はあたしとコットだけ」
嬉しそうに少女は言う。仲がいい証拠なのだろう。コット、というのはスコットの愛称なのだろうか。
「なるほど。……家庭教師のようなもの?」
「そのようなものだな。僕とソフィアは学園に通うための学問を習っている。
それも元々トールが僕たちをハッフル師に引き合わせたのが原因だが」
ハッフルというのはあの魔術師の名前だそうだ。
それも家名で本名は長く複雑なため、ほとんどの場合家名しか名乗らないそうだ。
ある日遊んでいた、もう1人の幼馴染と一緒に、既に弟子になっていたトールの紹介でハッフル氏と出会い、偶然全員が魔力を持っていたためハッフル氏がまとめて面倒を見るようになったとのこと。
しかも、合格すれば学費などはハッフル氏が持ってくれるため魔法学校への受験の準備をしているそうだ。
普通ならそんなおいしい話は裏がありそうだが、ハッフル氏は楽しそうなことにはお金を惜しまないタイプの人で、幼馴染が全て魔術師というのは面白そうだ、ということだけで決めてしまったそうだ。
お金は後で出世払いで返してくれれば良いから、と受験の手続きももう済ませているらしい。
1人最低でも卒業するまでに学費で金貨70枚もかかるところをよくも4人も。合計、白銀貨2枚と金貨80枚。
どんだけ金持ちなんだよ、と思うがハッフル氏は元々この国でも有名な一家の生まれで、自身もそこそこには知られている魔術師のため、お金に困るような生活は行ったことがないそうだ。
魔術師自体なるためには狭き門で、なってしまえば生活するに困るようなことにはならないし、上手くすれば一年で白銀貨4枚など、平民の倍は稼げるそうなので先行投資とすれば安いものだ。とハッフル氏は言っていたそうだ。
つまり、面白さと自分の実益を兼ねたもので単なる享楽者ではなさそうだ。
そんなわけで幼馴染4人は揃って魔術師になることを決意。
魔術師自体、子供の人気職業の1つであり、憧れのためなれるものであればなりたいものだそうだ。
だから日々教えを請いにこの邸宅に足しげく通う。たまにこうやって留守のときもあるが、その時は自習をしたりせめてのお礼として部屋の掃除をするそうだ。
元々、ハッフル氏は大の面倒がりでなおかつ、住み込みの使用人を嫌う。
なら通いのものはというと、給料が安く変人のハッフル氏の奇行に耐えられず逃げ出すこと数回。
その後はトールを使用人代わりにこき使い、幼馴染たちもそんなトールを見ていられず感謝もあったので手伝うようになったそうだ。
それにつられるように俺の話をしたら何故か引かれたが。
俺のバイトは異常らしい。簡単にしか話さなかったが、朝から夜まで働き休みが週に1日でしかない。
成人して正式にどこかの見習いとなればそれは当然だが、成人する前の見習いとしてはここまで働かされることはないそうだ。
日本でも昔の商人などは丁稚だとかで無銭働きは当たり前だと聞いたが。
むしろ、女性や子供は文化が未発達な状況での人権は確保されていること自体珍しいんじゃないのか?
認められているなら大いにそれは活かさせてもらうが。
いや、今はそれが重要ではない。月金貨1枚は安すぎるらしい。
日本円に換算して10万として、月25日労働として日ごとで4000円か。
ただ働いてる時間給で言えば400円くらいだ。サンパーニャの現状を考えると別に安すぎる気はしないのだが。
だが工房であればもっと稼げるし、魔術師ほどではないが高給取りで人気職の1つだからもっと稼げるはずだとスコットに何故か諭された。
確かに俺も稼ごうと思えば稼げるが、今そんなにお金は必要としていないし、自分で稼ぐ手段も持っている。そこまでは説明しないが、一度話し合った方がいいといわれてしまった。
そうは言われても今は大切な時期だし、意見だけはありがたくいただいておこう。
賃金に関してはもう少し経って考え直せばいい。他の工房の収益は流石に確認できない。お姉さんなら案外気にせず聞いてしまう気もするが、俺には出来ない。
そろそろ遅くなったので、と帰ることにしたのはそれから2時間ほど経った後だ。
その間は勉強で使っているらしい教材を見せてもらったり、俺のバイトの話を少ししたり。働いている人間は少なくないものの、どちらかといえば家の手伝いがほとんどだそうだ。そこは家事手伝いと流石にレベルが違うが。
案外俺のポーション売りをしている時の話は面白いらしい。製法や他に何を作っているかは話せないが、色々と質問をされて時間があっという間に過ぎていった。
「何だか迷惑かけただけっぽかったけど、悪かったな」
「ソラ、もう傷はだいじょぶ? もう少し休んでかないでへーき?」
「歩ける程度ならもう帰ってしっかりと休んだほうが良いだろう。無理はしないようにな」
それぞれからいたわりの言葉を貰い、大丈夫とだけ伝え屋敷を後にした。
帰って母から心配されたのは想定済みだったから特に問題ない。
レニに心配され、涙目で「おにーちゃん、いたくない?」といわれたのは心が痛んだが。
結局、その日は早くに寝かされ、町に来てはじめての休暇は幕を引くこととなった。
起きてまだ違和感がするため、食事の準備は出来なかったが母が小遣いを少しくれたためそれで昼を買う事に決め、朝だけ摂って鞄を引っ掛けて出かけることにした。
鞄がなければ色々と運ぶのが不便なのだ。食事を運ぶためだけにあるわけでもない。
「おはよう、お姉さん。もう準備できてたりする?」
「おはよ、ソラくん! って、どうしたの?! その手!」
ほぼ大丈夫だったが、念のため包帯だけは巻いていたのだ。まだ微妙に違和感は残っているし。
「転んで怪我をしただけ。荷物を運んだりすることには問題がないから。
お姉さん、ポーションベルトが4本もあるけどどうしたの?」
この前は1本しか作らなかった。既に卸し元でも見つけたのだろうか?
「あ、家で暇だったからつい作っちゃった」
あはは、と笑うお姉さん。いや、休めるときに休まないと休むタイミングをなくしてしまうんだが。
「次からは無理にでも休むように。出かけるでもいいし、家で何かをするでもいいし。仕事は出来るだけ考えないように」
でないとお姉さんのことだ。色々考えすぎてパンクしかねない。
「ソラくんがそういうならそうしてみるけど。けど、私にとって、このお店のことは大切だから」
「それで無理してつぶれないようにね。さて、今日の割合はどうする?」
ポーションを並べる比率も決まり、今回は何故かポーション瓶の納品にエイナさんがやってきた。
どうやら前回のことを気にしていたらしく、わざわざ運んできてくれたそうだ。
今回はお姉さんがきちんとその場で確認をし、エイナさんにお礼を言っている。
それから、ポーションの持ち運びに対し、何かいいアイデアはないかと話を持ちかけられた。
持ち運びの際に割れてしまうことが少なくなく、そのたびに交換する、あるいはその分は取引から除くことも多いため取引する量が多いほど効率が落ちるそうだ。
グルンダの工房にもサンパーニャのポーションベルトのことが知られているらしく、わざわざそれで話を聞きに来たそうだ。
それに関してはこれから露店を出さなければならないから、ということで話は終わった。
と、受け取りも済み、後は運ぶだけなのだが。
手を怪我してるなら無理をするな、とお姉さんに言われてしまい、鞄にポーション5本とポーションベルト、それに地面に敷く布と符を両手に抱えるだけで店を追い出された。
その後、何度、店と広場を行き来するお姉さんを手伝おうと言おうが頑なに断られてしまい、仕方なく店番をして待つことにした。
その後は評判を聞きつけたのか、朝それほど経っていない時間だというのに人が集まり品物は見る見るうちに売れていく。
中には高くても良いから売ってくれ、という人が居たが値を上げることもなく売る。
「本当にソラが売ってるんだな。これだけしかないのか?」
「千客万来、いつもより速いくらいだけどね」
トールが来た時点で残っているのは白色が1、緑が5、黄緑が4だけだ。
2時間も経っていないのにこれだから、販売量を増やしたいところだがもう少し様子を見ないと危険だろう。
あるいは他の商品も置くか。指輪はサイズ直しの必要もあるし、調整可能な腕輪の方がいいか。
鋳型は既に出来ている。後は鉱石を確保すればいいだけだ。
「ソラくん、お友達?」
「一言で言うと、被害者と加害者?」
間違っては居ない。包帯をしている左手をぶらぶらと揺らすとお姉さんがトールを睨む。
「間違ってないけどっ! ほら、お姉さん睨んでるし、ちゃんとした説明をしてくれ!」
ちゃんとした説明も何も。それ以上いうとより印象は悪くなると思うぞ?
「うちのソラくんに何してくれてるのかな? 職人の腕は黄金より価値があるんだからね?」
静かに怒るお姉さんは正直怖い。俺もそっと視線を外すことくらいしか出来ない。
「ソラ! 頼むから助けてくれ!」
「お姉さん、そのくらいで。人目もあるから。トール、それでどれだけ入用で?」
そっと手を握って落ち着かせる。お姉さんは手を握られるのが好きらしいのだ。
ポイントは人が居るところでも見えないようにそっと、らしいのだ。良く分からないが。
「そうだな。じゃあ…それぞれ1個ずつくれ」
「では、合計で金貨1枚です」
にこやかに笑うお姉さん。ただ、口は笑っていないし、声も冷たい。
「そっか。ならこれで、はい」
そうやってトールはバカ正直に金貨を1枚取り出し、渡そうとする。
「トール、それはお姉さんの冗談だ。本当は銀貨5枚と銅貨10枚だよ」
にしても、何故お姉さんは急に20倍近くのぼったくり価格を言い出したんだ?
「そうなのか? 効果が高いからってそれくらいするものかと思ってたんだけど。
いいや、ほら。銀貨5枚と銅貨10枚」
トールから改めて正しい金額を受け取り、ポーションを渡す。
お姉さんが何故か不貞腐れているが露店を出している最中はあまり不機嫌になられても困るのだが。
「あー…何かやっぱまずかったか?」
「トールはあまり気にせずに。と、お客様が来たようなので……父?」
トールの後ろに人が立ったので見上げてみると、そこには父と何度か来ている猫の獣人のフィリップ氏だ。
何故この2人が一緒に?
「やあ、ソラ。こんにちは、ミランダさん」
「は、はいっ! こんにちはです!」
どうやらお姉さんは父が苦手らしい。2度目なので慣れてもらいたいところなのだが。
「あれ? 知り合いだったのか。トニー、あんたの娘って2セアだとか言ってたよな?」
「ソラは僕の息子だよ。うん、2人とも知っているみたいだね。
僕がこっちで所属している猟師団の副団長に言われて、良いポーションがあると聞いてやって来たんだけどね。
サンパーニャのことだったんだ」
嬉しそうに笑う父。こっちの猟師団に入ったということはこれで仕事をするようになったということか。いい事だ。
「それにしても、今日は随分と少ないな。もう売れたのか?」
「そうなんですよ。もう日ごとに売れるのが速くなって、今日なんて休む暇がないくらいだったんですよ!」
今日は随分とお姉さんも頑張ってくれたし、昼前には売り終えられるだろう。
売り終わったら昼食を摂ってグルンダの工房にでも顔を出せばいいだろう。
何かいいアイデアももらえるかもしれないし。
「そうか。そりゃ良かったな。うし、なら残りの分は買っちまうぞ」
父とフィリップ氏の2人であれば残りを売っても問題ない。
お姉さんも異論なく、残りを銀貨11枚と銅貨90枚で販売した。
「本当に売れてるみたいだな。…何か甘いにおいもするし」
トールは父たちが来た時点で少し立ち位置を横にずらしている。
目の前に立たれても商売の邪魔だしな。
「まあ、そこら辺が人気の秘訣だから。父はこれからどうする予定?」
「うん。僕は副団長と狩りに行くよ。少し帰るのが遅くなりそうだから、ソラが早めに帰るならクリスに伝えておいてくれるかな」
まめな父のことだ。それは既に母に伝えてはいるのだろうけど。
「分かった。父、気をつけて」
手を振って去る父に軽く手を振り返すと、片付けの準備を始める。
「お姉さん、これからどうする?」
「うん、銀行行った後にエイナさんの所かな。ソラくん何か用事あったの?」
「そうでもないけど、トールが何か気にしてるようだったから」
欲しい商品を手にしてすぐ帰らないのはそういうことだろう。
探るほどではないが、こちらをちらちらと気にしているようだし。
「あ、いや。何でもない。もし良かったら昼でも一緒しないかなって思っただけだからさ。それじゃ、また」
返事も聞かずトールは走っていく。急いでまた誰かにぶつからなければ良いけれど。
「なんだ、あれ。まあ、いいか。お姉さん、昼先に行かない?」
「あれ? ソラくんが用意してくれてるんじゃなかったんだ?」
「俺はお姉さんの専属シェフでもないからね。
食べた後、工房に寄ってその後は鍛冶師ギルドにでも寄ろうと思ってたんだけど」
不思議そうなお姉さんに釘を刺す。というか、お姉さんには料理も教えなければならないのだろうか?
俺が教える料理だと色々と愉快、もといまずいことにはなりそうだが。
「そ、そうだよね。うん、ごめん。私勘違いしてた」
言わなければそのうち俺は職人は職人でも、パン職人かシェフにされていたに違いない。
やはり対話というものは重要ということか。
その後、宣言通りに食事を摂り、少し余裕を持って手元に資産を残した上で銀行に預金をしてグルンダの工房へ寄った。
そこでそれぞれアイデアを出しているのだが上手く行かない。
エイナさんは元々割れて仕方ないと思っていたし、俺のポーションベルトがなければそのままだっただろう。
お姉さんも同じだ。言われたことは注意するが、何をどうやればいいかという発想はまだあまりない。というか、新しいアイデアなんてそう出るわけもないだろう。
それにより2人の視線は俺に飛ぶ。といっても、ガラスなんてどうやって梱包されてたっけ。精々パッキンに包まれてたくらいで……いや、待てよ。前に引越しのバイトしてたときに食器だのを専用の容器に詰めてたことあるよな。
ただ、それは割れづらいように柔らかいクッション材で覆われてたし、いちいちそれを使うにしても工房によっては保存法のないところだってありうるし、個人だったらなおさらだろう。
とすると、コストが安く収まるようなもので、収納と持ち運びを別々に考えて。
きょろきょろと工房内を見渡すと、目に付いたのは合板に使うのか、木の板が何枚も置いてある。それも、端材なのかえらく短いものが何本も。
木、支える、接点、触れない。これならいけるか?
「エイナさん、この木の板使っていいですか?」
「構わないよ。それは後は燃料にしちゃうだけだから。でも、それで何をするのかな」
エイナさんは興味津々といった具合で俺を見る。どういったものが出来るか楽しみらしい。
俺が作ったのは板の幅半分くらいまで切り込みを何本も入れたものを幾つか。それを上下にあわせ、切り込み同士を差し込ませ、くっつける。
それを何枚も重ねると、出来上がるのは斜め格子になった板の集合体だ。
板の長さや幅はそれぞれ別だったため、幅だけ合わせ、あとは長さを調整しながら差し込んで行った。
そこにガラス瓶を何本も差し込んでいく。すると、格子の間一つ一つにガラス瓶が納まり、多少振ってもガラス同士は擦れ合わない。間隔を密にせず、強めに振らなければ割れないはずだ。
それと、それを持ち運ぶものにも工夫をする。
金属の箱のようなものがあればよかったが、今回はそれもなかったため同じく木の板でとりあえず代用することにした。
箱を作り、中に段差を作る。これに先ほど作った斜め格子の板を引っ掛ければガラス瓶は宙に浮き、下とも直接当たらない。
本当は稼動式にして板の大きさに合わせ調節したいが、それには金属のレールを作る必要がありそうだったため、今回は今のサイズに合わせ仮で作った。
格子も板を合板にして厚みを増せばもっと密度を高めても触れ合うことはないだろうし、それに取っ手かなにかつければ取り出せるだろう。
ちなみに、これは取り出したあと傷の有無を確認しやすいよう板の長さは瓶の半分もない。持ち上げ、平坦な板の上に置けば上下の傷の有無が分かるだろう。
後は入れ物も今回は分かりやすく木の板で作ったが、こちらも工夫次第ではどんな風にでもなるだろう。
で、その光景を見ていたエイナさんは、俺にこれを鍛冶師ギルドに登録するよう言ってきた。
俺は首を傾げたが、お姉さんは納得いったのか目を輝かせ首を縦に振っている。
ギルドには1つ特徴がある。それは技術の売買だ。新しい技術を登録すると、それに応じまずは報奨金が支払われる。
その後、ギルドを通じ所属しているメンバーに販売される。その売り上げの一部が登録者に支払われるそうだ。
ポーションベルトも含めると、そこそこの売り上げになるはずだ、とエイナさんは言う。
ただ、それだと一度売った情報が他のメンバーに無断で流れていくんじゃないか、と思ったが、後で自分が登録をしたときに損をしたくないためあまり露骨にはされないとのこと。
分かりやすいが、人の考えることはそんなものだろうと納得しておいた。
エイナさんにお礼をいい、その足で鍛冶師ギルドへ。
俺の登録と道具の登録、そして素材の購入のためだ。
俺の登録は、審査があるため後日になってしまったが道具はポーションベルトがそこそこ有名になり始めていたため銀貨10枚と安かったが即登録。
ポーションの持ち運びの道具に関しては発想がユニークだということと、斜め格子、そして書いた設計図のこともあり、何と金貨10枚。
ポーションの持ち運びはグルンダの工房以外でも問題になっており、何度か改善案を依頼されていたため、これならその問題をクリアできる。と、その値段になった。
ちなみに、開発者のことは秘密にされるらしい。公表してその人が開発意欲をそがれたらそれはマイナスでしかない。当然の措置だろう。
これならパンも同じように登録しておけばいいんじゃないかとも思ったが、石臼も脱穀機もすでに存在しているし、食品に関しては登録できないそうだ。理由は昔トラブルがあり、国が禁止しているとのことだ。
そしてそのお金はそのままお姉さんの銀行口座に。
お姉さんは俺にお金を渡したがっていたが、あくまでもサンパーニャのためであり素材を買うためだから、と納得してもらった。
だからこそ、当初思っていたよりも多めに鉱石の仕入れはしたが。こちらは後日サンパーニャへ送ってもらう予定だ。
その後も露店や鉱石商、宝石商を回って必要なものを買っていく。
今日だけで金貨7枚飛んでいったが、そこそこ必要なものは手に入れられた。
後は重い荷物を何とか2人で協力して店に戻った。
お姉さんは俺に荷物を持たせたくなかったようだが、お姉さん1人で持てる量じゃない。
そこは2人で協力するべきだ。
戻ってきた俺たちがすることは、鉱石の整理と薬草などのポーションの材料の残確認だ。
特に、果物に関しては日持ちするものも多いが、中には腐りやすいものもある。何故かポーションにすると関係なくなるが。
それらの消耗次第では明日も買出しだ。
鉱石を扱うには難易が低いものから順に、道具に慣れるためにもお姉さんにもやってもらうが原石を溶かし不純物を除いて塊にするのが第一目標だ。
とはいえ、俺にそこら辺の仕組みはともかく、工程の流れの名前などは詳しく知らないから作っていくのが優先だが。
それがすむと、俺は新しいポーションの調合、お姉さんは特製ポーション(白)と(黄緑)の調合。
緑はまだ余裕があるがその2つに関してはもうストックがあまりない。こちらの調合に関してはお姉さんに任せても問題ないだろう。一応様子は見ているが。
仕事が終わり、お姉さんに上がることを告げると町に出る。
調合し、試飲したポーションで傷も癒えているし、違和感もなくなったが念のため包帯は巻いている。誰か知っている人に見られたらあまりよくない。
ポーションを飲んだといえばいいんだろうが、そこはそこだ。
と、中央広場に足を進めると昨日見たばかりの三白眼が佇んでいた。
どこか元気もなく、あまり生気も感じない。
また面倒に巻き込まれるかな、とは思ったものの。知り合いが困っているようだ。話だけでも聞いておこう。
そう決めると、スコットに足を向けた。
今回はだいぶ悩みました。
書いては消して書いては消して。
それも醍醐味の1つなのでいいのですが、少し時間がかかった気がします。
物語はまだまだ続きます。速度が遅いということもあるのですが。
評価、つっこみ等ありましたらお願いします。
2011/9/19
誤字等を修正しました。まーや様ありがとうございます。
さらに修正を追加。社怪人様、独言様ありがとうございます。
2011/10/6
誤字等の修正を行いました。FACEさま、パーセニーさま、ご指摘ありがとうございます。
2011/12/9
表記を鍛冶ギルドから鍛冶師ギルドに統一