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第9話。お姉さんの決意。

読んでいただきありがとうございます。

 

 2度目の露店を終わった次の日は何もしていなかった。

 語弊でも何でもなく、本当に何もしていなかった。

 変則的な仕入れではあったが、その時のことはお姉さんも反省して次の日はもっと落ち着いてくれると思ったが、そんなこともなく。

 ソラくんはただ見てるだけで良いから! とお姉さんが言い放ったのは露店を出したその日の夕方のことだった。

 嫌な予感はするものの、まあ、楽を出来るから良いやと思い朝ごはんも母に任せて朝食を取った後身支度だけをして昼も持たずサンパーニャへ出勤。

 やる気の漲るお姉さんに引きはしたものの、いつも通り調整を行おうとしたら何故か怒られ、何もしなくて良い! と言われたので黙って本を読む事にした。


 失敗しそうな度に声をかけようとすると睨まれたので渋々本に戻る。失敗する。声をかけようとする、睨まれる。本に戻る。という一連の流れを作ること数回。


 お腹が空いたので昼でも買いに行こうとすると、昼は用意してあるというのでお姉さんの用意した包みを貰い、開けてみる。そこは闇が渦巻いていた。いや、黒い塊があった。


 思わず震えた声になってしまったが、勇気を出してこれはなんだと聞いてみるとお姉さん曰くパンだと言われた。言われてしまった。

 お姉さんが言うには、俺が以前作った脱穀機と石臼を使って小麦を挽きパンを焼いてみたそうだ。

 とはいえ、お姉さんに酵母は渡していない。製法も教えていない。


 つまり、小麦粉で無酵母パンを作ろうとしたのだ。……うん、白くて平べったいなら分かるんだ。

 恐らく、お姉さんもある程度資産に余裕が出たと分かったためご飯を食べるようになったんだろう。

 だが、だがだ。お姉さんが料理が上手いとは全く思わない。幸せそうに食べるから食べる才能はあるんだと思う。

 リーゼもどちらかといえばそちらに分類されるだろう。


 ただ、お姉さんに現状工程の分からないものを作る才能は一切ない。

 一を聞き十を知る、ということはお姉さんには難しいのだ。

 一を聞き一を行う、のを繰り返さなければ今のお姉さんは術を得ることは出来ないだろう。

 そして出来上がったこの黒い塊。あれか? この世界の人間は白い粉を使えば柔らかいふわふわパンが出来ると思っているのか?

 だからみんな酵母ではなく石臼や脱穀機といった道具に注目するのか?

 そして膨らまないのは熱量や加熱時間が足りないと思っているのか? むしろ、白いだけなら加熱時間や加熱量は下がるはずだろう!

 と力説しても俺自身も菌の分解作用だのガスが発生するだの詳しいことは分からない。


 とはいえ、この臭いは確実に黒焦げになっているだけだし、お姉さんのことだ。

 風味が豊かなのが塩やバターなどによるものだとは思ってもいないだろう。

 単に知ってはいるだろう無酵母パンの作り方で小麦粉を使いパンを焼こうとしたところ待てど暮らせど膨らまないパンに業を煮やし、俺に復讐するためこれを焼いてきたんだろう。

 キラキラとした目で俺を見るのも俺の生き様を見届けるためだろう。よし、分かった。喰ってやろう!


 気づけばそこで一日が終わり、俺は家のベッドで寝ていた。


 何を言ってるのかわからねーとかっこりゃく。

 そんなことをしている場合じゃない。

 確かに頭はどうにかなりそうだが、問題は昨日何も出来なかったことだ。


 起きた俺に暢気に今日は遅いんだね、と言う父。

 外を見ると既に明るくなっているのは分かっていた。分かっていたが、日が変わっていないことをむりやり信じてみたかった。


 今回はロリ神様にも会っていないし、時間なんてほぼ経過していないだろうと。やはり猛毒ポーションを作った腕前は伊達じゃないということか!

 朝食も取らず身支度も手早く済ませた。

 あまり考えている時間はない。というか、そうやっている時間すら惜しい。

 冷静になれるのはきっともう少し先だ。


 

 落ち着いたのは、『魔術工房サンパーニャ』へ出勤し、思ったとおり散らかりまくっている店内を片付けてからだ。

 どうして1日程度でここまで散らかせるのかが不思議で仕方ない。

 お姉さんがびくびくと俺と視線を合わせようともしないのは自覚があるからだろうか。

 ないのであれば俺は切れてしまうかもしれない。


 片づけを終え、散らかってしまったもので使えなくなったものは廃棄し、昨日行えなかったポーションの調整を行うため作業スペースを確保する。


 今回はポーション同士の混合も調査対象だ。ポーションを材料としての混合物も存在するし、特製ポーション(灰)の例もある。

 ポーションに手を加えることでさらに新しい効果も期待できる。


 試験管にいれた液体をかくはんするのは、さながら科学者のようだ。伊達めがねと白衣が欲しいものだ。

 錬金術師は科学者としての側面も持っていたそうだから、あながち間違いではないだろう。


 お姉さんはちらちらこちらを窺っているだけだ。今回は俺からは手を差し出さない。

 暴走したのはお姉さん。現状をどうにかしようとしたかったのだろうが、少し先走りすぎだ。


 とはいえ俺も反省をしなければならない。少し勝手をしすぎた。

 お姉さんには手本を見せるつもりだったが、見方を変えれば俺が上でお姉さんを指示しているだけにすぎない。

 ここはお姉さんの店だ。ならお姉さんの指針を聞いた上で俺は意見を述べるくらいがちょうどよかったのだろう。今更遅いが。


 乗りかかった船なので今から方針を大きく変えるとか、投げ出すとかするつもりはないがもう少しお姉さんの意思を聞いての店作りをしていったほうが良いだろう。

 別に異世界トリップでもないんだ。この世界に何時まで居られるか分からない、なんて心配はする必要すらないんだから。


 ぼーっと緊張感もなく作業を続ける。

 この程度なら何かを考えなくても色の変化さえ気をつけていれば問題はない。

 これが危険物であれば話は別だが、ハーブと果物でそう何度も危険なものが生まれてはたまらない。

 今はポーションに注意しなければならないような反応も見えない。


 ならこれは切り上げてポーションベルトでも作ったほうが良いか。

 あっちの方が時間はかかる。

 というか俺しかまだ作れないならこれはいっそのこと他の工房に作成を委託した方が良いかもしれない。


 ポーションの需要は高い。他の工房でも恐らく作っているんだろう。だからガラス瓶の卸しをする工房もあるわけだし。


 と、ふとお姉さんを見てみると大粒の涙がとめどなく流れ、涙が頬に幾つも筋を作っている。

 ……何時から泣いていたんだ? 泣くのならもう少し声を出して欲しい。

 いや、そこまで言うつもりはないが。

 この辺が限界だろう。俺がこのまま放置しておくのも。

 とはいえ、今下手に手を出すとお姉さんが俺に依存しかねない。

 言っておくが、俺がお姉さんのような人に甘えられたら耐えられる自信はない。皆無といって良い。


 だが、ここで何かしらの理由をつけて席を外すのもいけない。

 思いつめた人間は何をしでかすのかわからないからだ。

 なので、心苦しいが泣きたいだけ泣いてもらおう。

 今の痛みはお姉さんにしか理解できないのだろうから。


 だから手は止めるが話しかけはしない。今仕事をするのは違うだろう。

 涙に濡れた表情は色っぽくて思わず抱き締めたかったが。……自重しろ、俺。


 


 泣き終わったのを見計らい、温かいお茶を淹れる。お姉さんにそれを渡すと、黙って隣に座った。

 お姉さんが泣いている理由が分からない以上、下手に声をかけるのも良くないだろう。


 結局、お姉さんが話し始めたのはお茶を飲み干して暫く経ってからだ。

 とつとつと話し、時折また涙ぐみ嗚咽をこぼしながらのため少々分かりづらかったが、一言でまとめると悔しかったそうだ。


 自分なりにこの2ヶ月頑張ってはみたものの、どうすればいいか分からずただ日が過ぎていく毎日。

 常連は時たま現れて少し話をしてくれるが頼れるわけもなく。

 そこでどうしようかと悩んでいた時に俺が現れた。

 自分が何度やっても上手く出来なかったものが簡単に作られ、見たことも聞いたこともない製法で商品を作り出し、さらに自分には作れないものまで作ってしまう。

 おまけに口下手な自分をフォローしてくれるし、美味しいものまで食べさせてくれる。

 嬉しいが、あまりに自分が何も出来ず悔しい。どうして自分はこうも無力なのか、と。


 それから一念発起し、俺の負担にならないよう一日を過ごしてみせて安心させたかったがそれも上手く行かず。

 そんな自分が情けなく、あまりに俺に申し訳ない。

 そう考えているうちに涙が止まらなくなったのだと。


 ……すっげえ自己嫌悪がする。やはりもう少しお姉さんの話を聞いておくべきだった。

 ただ、状況を利用するようで申し訳ないがここでお姉さんには伝えておくべきだろう。


「お姉さん。俺は自分のためにここでこうやって働いてる。だから俺に感謝する必要はない」


「けど、それで私も助かってる。だから、ありがとうだよ」


 無理やり笑みを作っているのは少し胸に来るものがある。

 そのため、少し空気を換えよう。


「お姉さん。時にご飯は食べた?」


「えっ……? う、うん……へ、平気だ、ょ?」


 と言ってる最中に鳴るのはむしろタイミングを合わせたのかとも思う。

 お姉さんはむしろ恥ずかしがっている方がいい。いや、俺の性癖とかではなく。


 真っ赤に顔を染めたお姉さんに準備をするように言うと、絞ったタオルを渡し表に出る。

 これで少しは気が晴れてくれれば良いんだが。あとはお姉さん次第か。


 暫く待っていると、目はまだ赤いがそれ以外はいつものようなお姉さんが現れる。

 泣き顔を見られて恥ずかしいのか、顔は紅潮していたが。


 お姉さんに先行して歩くと何故か手を取られる。まあ、人通りも多いし構わないのだが。


 精神的に弱っているときは甘いものが一番なのだが、残念ながらそれはない。

 ちょっと頑張ってビートを買って砂糖を精製しようにも小遣いが足りない。


 というわけで市場調査をしている最中に見つけた、路地裏の一軒を今回は選んだ。


 こっちに来てからというもの、というかこの世界に生まれて、食堂で食べたのは父とこの町にはじめて来たときだけだったし、それ以降は自分で作ったものか屋台のもの。

 こうやって適当な店を選んで飛び込んでみるのは、些細なことだが俺の夢だった。

 前だったら絶対失敗するし。


 というわけで適当な店を選んで適当な料理を注文したいところなのだが。


「お姉さん、何か食べたいものある?」


「うー……うん。じゃあ……」


 と幾つかお姉さんの希望を聞き、どんな料理かと量を確認して注文する。

 あざといのは分かっているが、やはり女性の扱いは苦手だ。反応を見ながら対応するしかないだろう。

 とはいえ、腫れ物扱いもお姉さんも嫌だろうからそこの調整は難しそうだが。


 

 ぎこちないが何とか話せるようになり、食事を終えた。正直味なんて覚えてない。

 最初の一口は何となく覚えていたんだが、その後は漂う妙な緊張感に呑まれた。

 これは、俺からもう少し歩み寄るべきなのだろうか?


「お姉さん。帰ったら、もう1つ上のもの挑戦してみる? それとも、基礎をもう少し続ける?」


 お姉さんは狭く深く、を目指したほうが良いとは思う。だが、お姉さんが望むことを手伝う準備はある。

 なら、それを決めるのはお姉さんだろう。


「……少し考えてることがあるから、工房に戻ってからで良いかな?」


 軽く頷くと、それから話もなく歩く。

 工房からそこまで離れていなかったためそう時間もかからなかったが。


 

「ソラくん。私、今まで色々なことに頼りすぎてた。

 お父さんにもお母さんにも、常連さんにも、それにソラくんにも。

 みんな、きっと私のためを思ってやってくれてたんだと思う。それに甘えてたんだとも思う。

 だからね、私はそういう自分を変えたい。

 変えるために何をすればいいか分からないけど、でも自分で考えることが大切なんだって思うの。


 だから、私はソラくんの教えてくれることを全部教わりたい。

 ソラくんには迷惑をかけるけど、それでもいいのなら私に教えてください」


 頭を下げるお姉さん。……とは言ってもなあ。


「お姉さん、それちょっと違わなくない?

 今までの自分を知ることは大切だし、それを反省することも大切だ。

 だからこそ、自分を変えたいと思ったんだろうけど、今のお姉さんにそれが可能?

 俺で教えられることなら教える。けどさ、それはお姉さんの意思は存在しない。

 そしてサンパーニャも存在しない。


 それはお姉さんの店じゃなくなる。


 それをしたくてお姉さんは売らなくても済む努力をしてたわけじゃないよな?

 ならさ、お姉さんは今自分がどんな位置にいて、どんなことが出来るのか。

 そしてどんなことをして、どうなりたいのか。

 そこでもし理想に届かなくても近づくことは出来る。

 近づいたとき、また見えるものは変わってくる。

 なら、そこまで自分を持っていくべきだろ?

 今のお姉さんは耳通りのいい、模範的な回答をしてるに過ぎない。

 今お姉さんがどうしなきゃいけないのか。それを教えてくれ」


 何が出来て、何てばかげたことは聞かない。それは俺が分かってるつもりだ。

 お姉さんに納得させるための話じゃないんだ。お姉さん自身が見つけなきゃいけない問題だから。


「……俺は作業してる。お姉さんはのんびりと考えていてくれ」


 お姉さんは悔しそうに俯いたまま話さない。……俺のキャラじゃないのに。損な役割だな、全く。


 

 革をちくちく縫い、ポーションベルトを作る。

 これは他のポーションにも使えるから中々評判がいい。口コミで徐々に広まっているそうだ。

 とはいえ、購入制限を無くしてしまえば主力商品のポーションとのセットで売れていくだろうからまだまだ作れば売れそうだが。

 いつかは狩場別や職別のポーションセットを売り出しても面白いかもしれない。

 まあ、いつこのポーションの秘密に気づくかによってポーションに割く労力も変わっていくんだろうが。


 明日がまた露店を出す日。

 今回はベルトを10本は出したいんだが、昨日のロスもある。

 今のままでは減ってしまうだろう。レシピを登録したので生産スキルを使えばすぐなのだが。


 あとは幾つか革切れ……とでも言えばいいのだろうか。そういった切れ端もある。

 それを使って何かを作るのもいいかもしれない。こちらは休みの日にでも露店を巡って考えてみよう。


 お姉さんのことは気がかりだが、時間は有限だ。

 今立ち止まってしまえばサンパーニャにも影響は出る。

 それこそお姉さんの居場所がなくなってしまう。それは避けたい。


 2本、3本と作る間にどんどん夜は深まる。父や母は心配しているだろうか?

 普段ならもう家に帰っている時間だ。だが、俺はまだベルトを作る。


 今日は最悪徹夜だな。

 あまり遅くなれば父が迎えに来るだろうが事情を話せば分かってもらえるはずだ。

 この幼い体でどこまで無理が出来るかはわからないが何かあったときのためそういったことは事前に限界を測るのもいいだろう。


 正直今の時点で眠いが、昨日の疲労が抜けていない証拠だろう。

 昼まで寝ていたというのに。子供の身体は扱いが面倒だ。


「ソラくん……まだ、帰らないの?」


「お姉さんこそ。明日は露店だけど、平気?」


 疲れたような、困ったようなお姉さんの表情。ずっと今まで悩み続けていたんだろう。

 いや、今も悩み続けている最中か。


「うん。私は平気だよ。でも、ソラくんは?」


「俺も。それより、作業が遅れてるから少しでも時間取らないと明日売るものが足りなくなりそうでさ」


 そこそこの速度ではやっているが、あくまで売り物。手は抜けない。

 縫う部分も多いし、場所によっては何回か縫い合わせないと強度を保てない。

 そうなると1人で作るにはどうしても時間がかかる。


 ミシンでも開発するべきか? いや、これだとまた同じことの繰り返しだな。

 そこはちゃんとお姉さんと相談しよう。


「あのね……ソラくん。私も、していいかな?」


 両手を顔の前で組み、懇願するようなお姉さんの表情。

 先ほどのこともあり、尻ごみしているんだろう。


「お姉さん。……時間、ないから急いでね?」


 俺が了承するのが意外だったんだろうか? 一瞬驚いた後、嬉しそうに俺に駆け寄り革を受け取る。

 とはいえ、お姉さんの不器用さには変わりがない。ゆっくりでいいから針に気をつけるよう言い聞かせ、作業に戻る。


 ある意味、こちらの方が単純なためかお姉さんは手順や縫い方を何度か聞くだけで大きなミスもなく仕上げていく。

 たまに縫い目がジグザグになっているが、この程度はご愛嬌だろう。

 酷い部分は指摘する前にお姉さん自身で気づいたし、修正も行っている。


 これはお姉さんの中で何かが変わった証拠だと思う。

 これが一時的なものでないことを祈ろう。お姉さんはただ甘えているばかりではないはずだ。


 結局終わったのは11時位だろうか?

 普段5時くらいまでは寝ているため、今から寝ても6時間は眠れる。

 普段はもう少し早く寝ているから明日の疲労は免れないだろうが、その時は秘蔵のポーションを出そう。

 副産物で出来た、効果の高いものだ。

 ただ、効果が高すぎるため一口二口程度にしておかなければまずそうだが。


 結局父は迎えに来ていない。

 恐らく何か感じるところがあっただけで俺を忘れているわけではないだろう。


「お姉さん、送るよ。俺はここに泊まっていくから」


 前に作ったランプを引っ張り出し、お姉さんに見せる。


「う、うん。あの、ごめんね」


「お姉さん1人で出歩かせるわけには行かないって。で、ここから遠い?」


「ううん。すぐだよ」


 まあ、昔から商売をしているという話だし、そう離れているわけもないか。



 戸締りをした後、外は星があるとはいえ薄暗い。

 周囲ももう静まり返り、昼間とは随分と違う形相を見せる。

 お姉さん1人では無用心だし、送っていくという選択は正解だな。





 案内された家は2階建ての広めの家だった。比較はリーゼの家だ。俺の家は流石に比較対象にふさわしくないだろう。


「ね、良かったら上がっていかない? このまま帰したら、怒られそうだから」


 誰に、とは聞かない。恐らくご両親に、ということだろうから。


「少しだけ。あまり夜遅くに女性の家に上がりこむのも変だから」


 お姉さんは子供なのに変わってるね、というがまあ仕方ないだろう。

 お姉さんにとって子供でも、俺は実際精神年齢でいえばそれなりだ。

 このままだと精神だけ先におっさんになりそうだったので、具体的にどうというのは気にしないことにしたのだ。


 と、お邪魔した家は意外と綺麗だった。仕方ないだろう? あの工房の惨状を見てしまうと。


 ただ、綺麗なだけじゃなかった。散らかすようなものが何もないんだ。

 家具もある、食器もある。生活に必要なものは全て揃っている。

 けど、生活をしているような跡が見えない。


「お姉さん、いつもちゃんと家に帰っている?」


「帰ってるよ。ここが私の家だからね」


 そう答えるお姉さんの表情は暗い。それが答えなんだろう。


「お姉さん、台所借りるよ。お姉さんは座っていて。いい?」


 ここで初めて来る家の台所を借りようとする俺も大概だが、お姉さんは俺に見せたかったのかもしれない。自分の弱さを。そして、寂しさを。

 こんな深夜に料理なんて近所迷惑だろうが、目を瞑って欲しい。


 台所にはほとんど食材はない。あるのは芋が数個と干し肉、それに小麦粉に白い塊。

 これは恐らくパンを作ろうとして失敗したものだろう。

 ただ、これは成功だ。俺は危ないからとこっちの方法では作らなかったが、これが何かはわかる。

 パン種だ。


 酵母を使わなくても粉と水を混ぜて温度の関係はあるが数日放って置けば膨らむ。

 つまり、膨らませるためなら酵母は必要ないのだ。

 とはいえ、カビや菌の繁殖により駄目になったり、食べて病気になることもある。

 だが、これに関しては条件が良かったのか適度に膨らんでいる。

 ただこのまま使うと量も少なく、あまり美味しくはないので表面を削り、粉を足し塩と食用のオイルがあったのでこちらを代用で使う。

 本来さらに醗酵もしなければならないので、お姉さんにばれないようこっそりと特殊スキル『促進』を使い醗酵させる。


 その間にかまどと窯に火を入れ、鍋に水を入れたものをかまどに置き、沸騰させる。

 その間に芋の皮をむき、適当に切って水にさらす。水は「湧け、水よ(ウォーター)」を使いたかったが、そんなわけにも行かなかったため井戸から汲んで来ている。

 流石に促進と違い通常の方法が取れるものはそのまま使う。


 沸いたら芋と切った干し肉を入れ、そのまま煮込む。

 干し肉から出汁と塩分が出ていいスープになるだろう。

 そして、灰汁を何度か取り除きながらパンの醗酵具合と窯の温度を見る。

 温度がちょうど良くなると、醗酵が終わったパン生地を切り、丸く整えるとそれを窯で焼く。

 ここまで来ると本当に俺が何の職人なのか分からなくなってくるが、それはそれだ。




 出来上がったのは丸いパンとスープ。

 出来上がったものは品数も少ないが、出来るものはこれくらいだった。

 卵などがあればもう少しレパートリーは広がったんだが。


「さ、食べようか」


「……本当に、これを作ったの?」


 信じられないというお姉さんの表情。それはそうだろう。

 自分が作れなかったんだから。……またしくじったか?


「お姉さんが残していた生地を使ってね。

 ある程度の温度で2~3日置いておくと生地が膨らむから、固くなった外側を切り落として中の柔らかい部分をまた粉と混ぜて作るんだよ。

 とはいえ、あまり膨らみすぎると良くない物まで出来るから注意が必要だけど」


 ポイントは柔らかさと臭いだ。すっぱいような臭いがしたらその時点でアウトだと思っていい。

 その点では醗酵にそれほど時間をかけない酵母を混ぜたほうがいい。


「ソラくんって、何でも知ってるね」


 寂しそうなというか自嘲を含んだような表情のお姉さん。


「お姉さん。俺はまだ知らないことばかりだよ。

 この世界のことはほとんど知らないし、お姉さんのことも知らない。

 そうやって自分を貶める必要はない。知ってることが増えるだけ、動き辛くもなるんだし」


 知るということは恐怖すら知り得るということ。

 一度覚えた恐怖は肢体を絡めとり、全身の制御を利かなくさせる。

 それはただ人を脅かし、臆病にさせるものだ。恐怖を知らないものは長生きも出来なさそうだが。


「でも、私よりも知っている。私はそれが羨ましいよ」


「なら、知ればいい。聞けばいい。見ればいい。世界は広いが狭い。狭いが広い。

 まずはお姉さんが俺を知ればいい。俺もお姉さんを知る。そうすれば、お姉さんは1人じゃない」


 お姉さんの恐怖はきっと1人であること。寂しがり屋で、そして臆病だ。

 手を伸ばしてもらうことを望んでいても、自分から手を伸ばすことは怖くて仕方がない。


 そこに俺が手を出した。なら、その責任は最低限取るべきだろう。


「ほら、冷める前に食べよう?」


 お姉さんは頷き、食べる。泣きながら、嗚咽しながらも、しゃくるように泣きながら食べ続ける。

 昼のときのような悔しそうな表情じゃない。嬉しそうな、救われたような。そんな顔をしている。


 全く、食事は楽しく食べるものなんだけどな。




 ……どうしてこうなった。


 俺は食べた後帰ろうとした。

 泣きながらも残っていたスープも全て完食したお姉さんに苦笑しながらも、この分なら明日から頑張れそうだなと思いつつも工房へ帰ろうとした。

 なのに、何故俺はこうしている。


 いや、この温かさが嫌なわけじゃない。この香りはむしろ良すぎる。というかこの柔らかいものからは逃げる術はない。嫌どころか、これは楽園だ。あのロリ神様がいた変な場所じゃない。間違いなく楽園だ。

 呼気は甘く、思わずそれを奪いたくなるほど甘い。時々動くそれはむしろ押し付けてるのかと聞きたくなるほど密着する。泣き疲れてか、普段見る以上に幼い。普段は美人さんというイメージだが、今はただただ可愛らしい。可愛らしすぎるのだ!

 結論、お姉さんは可愛い。いや、待て自分。少し落ち着け。深呼吸だ。


 ……お姉さんの甘い香りを胸いっぱい吸い込むだけでした。


 何をしても逃げ道はないのか? 抜け出そうと身体を左右に揺すぶっても、お姉さんが力を篭め擦り寄ってくるように抱き締められるだけ。柔らかいものが当たっている以上、これ以上はまずい。

 腕を何とか放そうにも、両腕を抱き締められている。下手に動かすと、当たるんだよ!


 正直天国ですけどね。前も含めてこんな体験初めてだよ!

 けど、駄目だ。これは駄目だ。駄目すぎる。一度これを味わったら抜け出せなくなりそうだ。

 むしろ、俺がお姉さんに依存しそうだ。


 出来ることは身じろぎもせず、呼吸も出来るだけ控えて、ただお姉さんが起きるのを待つことだ。

 ぽかぽかと暖かいこの体温に包まれて眠ってしまったらさぞ極上の眠りを味わえるか。

 だが、それを味わったら何かまずいことになりそうな気がする。

 レニの添い寝をすることがあるが、それとは比べ物にならない。

 レニはただただひたすら親愛の情が湧くだけで、守りたくなるという感情しか浮かばない。

 だが、お姉さんはそれにプラスして色々なものが浮かんでくる。それはまずい。

 お姉さんは俺を子供だと信じきっているからこうして俺を抱き枕よろしく寝ているのだろう。

 人肌が寂しかっただけだ。それを俺が裏切るわけにも行かない。


 俺に出来ることは円周率を数えることだ。下10桁までしかいえないが。

 永い夜が、俺を苦しめる。




 起こせばいいじゃん、と気づいたのは空が白み始めてから。

 どうにかこうにかして何とか起こすと、お姉さんは低血圧なのか、寝不足なのかベッドに座ったままぽーっとしている。……直視は出来ない。

 俺が動いたせいか、色々と大変なことになっているのだ。


 寝る前は部屋の明かりもないし、寝る前はいつもそうしているのか、ボタンやらそのス……げふんげふん。とにかく、直視どころかそっちの方向すら俺には向けないのだ!


 着替えに戻るから、とお姉さんに伝え返事を聞く前に出て行く。

 家にダッシュで戻り、風呂にはいり疲れやら何やらを全て吹き飛ばし、着替えをとりに行くのを忘れていたため部屋に戻るまで今まで着ていた服を着て気付く。

 ……お姉さんの残り香が服に染み込んでいる事に。何というか、未だお姉さんに抱き締められ……とにかく着替えが必要だ!


 母に知られたら盛大にからかわれるだろう。

 このところ近所の奥様集団と積極的に交流を図っているそうだし、下手したら近所中に知れ渡るかもしれない。それは避けなければならない。

 そう決め、こっそりと部屋に戻ることに、


「ソラ、お帰り」


 何故、私の部屋に、いらっしゃいますか、母上殿。


「どうしたの? そんなに真っ赤な顔して。……朝帰り?」


 声にならない声で叫ぶしかなかった。何を言うか、この母は!


「わあ、本当に朝帰りなんだ……ソラ、相手は誰? もうちゃんと告白はしたの?」


 何故そこまで理論が発展する。というか、気配探索しろよ! 俺!


「……さっきまでサンパーニャで露店用の商品を作ってただけ。俺、また戻るから」


 回れ右をして、部屋を出……る前に母に首根っこを掴まれる。


「ほらほら、きりきり白状しなさい」


 楽しそうな母の声とは裏腹に俺を掴む力は強い。どこにこんな力を隠し持ってやがる。


「だから、サンパーニャに居ただけだって!」


「こんなに他の人の匂いくっつけて仕事してたのかな、ソラは」


「教わることがあったからそれでだよ! 細かい仕事も多いし!」


「ソラの場合教えるほうでしょ? 嘘をつくときはもっと信憑性のあること言わないと」


 ……母にその言い訳は通用しないんだった。


「ど、どっちにせよ! 準備しないと間に合わないんだよ!」


 これは事実だ。だから早く解放してください、母上よ。


「面白くないの。パン、用意できてるから持って行っていいよ」


「……ありがとう、母」


 俺はこの人に勝てる日が来るんだろうか?





 その後も追及の手が止むことはなく、俺は徹底的に無視をするという手段をとりパンと即席で作ったおかずをいつもより多めに持ち、家を飛び出た。背後から聞こえる「私に紹介してねー」などという幻聴など聞こえない。


 数時間ぶりのサンパーニャにはすでにお姉さんも来ていた。

 まあ、俺は風呂にも入ったし俺の方が時間がかかって当然だろう。


「おはよう、ソラくん」


「おはよ、お姉さん」


 お姉さんの憑き物が落ちたような笑みに若干目線をそらす。


「あのね、ソラくん。私、今日頑張るよ」


 お姉さんの宣言は何時にもまして力強い。俺は適度に頑張れとしか言いようがないが、いい傾向ではあるだろう。


「あ、ああ。じゃあ、支度するか」


 と、奥の作業スペースにはすでに用意されたポーションとポーションベルト。


「ポーションの比率は白が前と一緒で、40個、黄緑が35個で緑が25個だよ。

 フィリップさんが黄緑が多い方が良いって言ってたからそうしたんだけど、どうかな?」


「この前は最後まで緑が残って通常のポーションの効果もあるからって売ったからもう少し減らしてもいいんじゃないか?

 この辺りは毒のバッドステータスを与えるモンスターや獣が多いって言うし」


「じゃあ、黄緑も40個で緑を20個、売ってる最中に売れ行き次第では変えていく……で大丈夫かな?」


 お姉さんはこれまでの働きが嘘かのように話している。


「ああ。それで多く用意してたんだ。それでいいと思う。

 けど、昼過ぎ位を目処に5個単位で調整ってことで構わない?」


「うん。出来れば他のポーションも並べたいんだけど、まだ難しいかな」


「他のやつは他の薬草や道具で補えないものが多いし、ポーションも少し効能が高すぎる。何か並べたいやつある?」


「出来れば灰色を並べたいな、って。他の職人さんも使えれば便利だと思うし」


「あれは……あーっと。今更だけど、DEX+10はどれくらい高いんだ?」


 器用さがあがるとは言っておいたが、効能は話していなかった。

 +10だとないよりはましだ、程度の認識しか無かったし。


「そんなに高くなるのっ!? そ、それだと銀貨20枚は軽く行っちゃうよ……」


 割かし高級品だったらしい。


「なら、今は出さない方がいいと思う。それにあれは赤色ポーションを原料にするから材料が足りないよ」


 どうやら赤色ポーションを熟成か何かしないとあの効果は得られないらしく、俺が作った赤色ポーションをそのまま使っても薄くなるだけだった。


「う、うん。そうだね……ソラくん、今度から効果は教えてね?」


「そうだな、悪かった。今度からはそうする」



 そんな話し合いの結果、露店の準備を進め完了したのが昼の少し前。

 朝も抜いていたため、少し気は早いが昼食にすることにした。

 その間も客は来るため、人が近づいてきたらどちらかが食べるのを止め対応するようにしたが。





 4時間後、完売。売り上げは17842R。ポーションの総数が変わらず、ポーションベルトを若干数増やしただけなので売り上げも大して変わらない。


 ただ、今回はほとんどをお姉さんが対応した。

 今まではお姉さんはおどおどと俺の対応を見ていたことが多かったが、今回は逆に俺はほとんど傍観していた。

 声を出したり、無理な値引きを要求する客に関しては対応したが、それも途中まではお姉さんが対応したし、積極的に話もしていた。


 途中、目敏く俺を見つけた母が乱入することもあったが、気にしない。夕飯をうちで取るようしつこく誘ってきたのでお姉さんもそれには応じたが。


 売り上げの一部を銀行に預け、足りない材料とお姉さんの家で必要な食材を買い込み俺とお姉さんは一度お姉さんの家に。


 お姉さんは店の売り上げで自分の食べるものを買うことをしきりに気にしていたが、普段はパンを一切れとか安い出店のスープのみとか碌なものを食べてないことを白状した。

 俺の持ってくる昼食が無ければどうしていたんだろうか。まあ、それだけ必死だったということだろう。

 予想していたとはいえ、思った以上の酷さに愕然とするしかなかったが。


 今は、お姉さんの給料をどれくらいにするか設定した上で、どれだけの収益を望むかということを決めることにして、まずは今月の収益目標を金貨5枚に設定した。

 後2週間ほどはあるし、それくらいなら可能なところだろう。

 最初は達成しやすい目標を掲げることで達成したときの自信をつける意図もある。

 お姉さんもそれなら、と納得し食材を嬉しそうに収納していった。


 後は店に戻り、足りない素材を補充して一息つく。

 休んでいなくてくたくただったこともあり、特製ポーション(虹)を取り出し、ほんの少しだけコップに移す。

 これはコップ1杯分、ガラス瓶では3本分だけ作っている。


「お姉さん、これ効果が強いから舐めるだけにして」


「強い……赤色ポーションの5倍位? そんな訳ないよね」


「赤色ポーションの20倍。だから気をつけて」


 HPが1000回復するポーションだ。俺でも結構な量を回復する品物だ。お姉さんのHPがどれくらいかは分からないが、ゲームならともかく現実でそこまで強い薬はきついだろう。


「にじゅっ?! そんなもの誰が使うの?! ほ、ほんとに飲んでも大丈夫なの?」


「俺が効果は試してるから平気。植物に一滴与えただけで萎れてたものでも復活するくらいだから飲み過ぎないようにね」


 お姉さんは恐る恐る舌をつける。と、びくっと全身の毛が逆立ち、ぺたりとテーブルに突っ伏す。


「……一滴でも強すぎるか。これは駄目だな」


 残っていたものを飲み干す。全身に漲る力は今まで以上だ。眠気も飛んで、全身を満たす力強さだけが残る。


「……こ、これ本当にポーションだよね? ソラくん、飲んで平気なの?」


「こういうのには強い体質だから平気。ただ、強すぎる効果の薬は毒にもなりかねないから」


 お姉さんの作った純粋な毒と違い、身体が受け入れられないほどの回復量だ。強すぎる効果は毒にさえなる。だからこれは押さえに押さえた上で他のポーションへ改良しているのだが。


「何時の間にこんなものまで……ううん、私がソラくんに頼られてなかったからだよね。だから文句は言わないけど、信じられるようになったら教えてね?」


 お姉さんのいった言葉はお姉さんが思っている以上に重い。俺は誰にも話していない秘密が多すぎる。それこそ、その秘密を知っているのは俺以外ではあのロリ神様だけだ。

 恐らく、俺の秘密はそれだけの意味はまだ持っているだろう。


「まあ、その時が来たら。かな? まずは、お姉さんが独自にポーションを開発できるようになってからだよ」


「うぅっ……! ソラくんがいじめる」


 拗ねたようなお姉さんの声に思わず笑ってしまう。

 昨日見せたような泣き顔は今は無い。それが何故か嬉しい。

 笑ったことでさらにお姉さんは拗ねているが、どうしても堪えられない。


 暫く俺の笑い声が止まることは無かった。



 次の日、うん? 食事はどうしたか? 気にするな。母がからかうといういつものことが行われただけだ。俺は何も覚えていない。


 いつもの日課を済ませ、サンパーニャへ。いつも通りのお姉さんが


「ソ、ソラくん! おはようございます!」


 訂正。何故か顔を真っ赤に染めたお姉さんがいた。


「おはよう。お姉さん。……忘れた方がお互いのためだよ」


 だから俺は何も覚えていない。


「う、うん。そうだね。あ、あはは」


 空笑いをするお姉さんは……気持ちは分かる。けど、思い出さないほうがいい。


 俺も、思い出せばどうなるか分かったものじゃない。



 そんな微妙な空気の中、淡々と作業へ向かう。


 お姉さんは特製ポーション(白色)は完璧に、とまではいかないが大きな失敗も無く作れるようになった。

 今度は売ってはいないが難易度の高い特製ポーション(赤)だ。

 これは草ではなく雫花を使うもので、ばらした上で磨り潰すタイミングやその度合い、抽出するお湯の温度が異なる。

 他は全部液体が滲むまで磨り潰し、後は沸騰したお湯に入れ、色や臭いでタイミングを計っていくものだ。

 ただ、これが身に付けば他のものも簡単にできるようになるだろう。


 俺は今日は魔術品の研究だ。

 ポーションベルトの作成もしなければならないが、あれはなければなくて何とかなる。

 というか、何処かに卸して貰う予定だ。お姉さんも同意してくれた。あれを2人で作るのは中々大変だ。


 そんなわけで魔術品を鋳造で作り、それを魔力を篭め打ったらどうなるか、という実験をしたいと思う。

 それが可能であれば魔術品の大量増産……は出来るがしないものの、同じ規格のものを頼まれたとき、或いは必要になったとき便利ではないだろうかというものだ。

 それに、そちらであればお姉さんの失敗確率も下がるだろう。

 この数日頑張っているのは重々承知しているが、慌てると混乱するという癖は抜けていない。

 中々治らないからこその悪癖だ。


 そんなわけで前したような魔術での固定などはしない。

 今回はいちいち手間のかかる砂型ではなく、金属で型を作り、それに溶かした金属を入れる。

 それだけでは型の全てには入りきらないため型を回転させ行き届かせる。遠心力を利用した鋳造だ。

 これであれば細かい装飾を施したものも出来るし、指輪などの小さなものも作成可能だ。

 まあ、指輪などは通常のアクセサリーとして作り、腕輪や首輪などを主に魔術品として作る予定だが。


 こちらであれば労力もさほどかからず、同じもので作れば手間もかからないため費用も安く押さえられるだろう。

 時間が短縮できるということは、お金も下げられるということに繋がる。


 ただ、魔術品に関しては店舗での販売を見込んでいる。

 露店で魔術品を売るということにも中々考えは回らないだろう。

 それに、魔術品は試用が普段されているそうだ。

 効果が出なければ高いお金をかける必要は無い。

 そのため、『魔術工房』にはそういったものの使用許可が下りており、効果の減退とダメージ無効化がされる結界が張られているとのこと。


 そんなわけで俺は2つの金型を作っている。

 1つは指輪で1つは腕輪。

 腕輪はそのうち魔具としても使えればと思っているため宝石を入れる穴を作っている。

 ついでにそれ自体は作ったのちに『融解防止』のスキルを付与している。

 酸や高熱で溶けないための処置だ。


 とはいえ、それをまだ説明するわけには行かない。

 恋人に贈るためのものとして、あとで2人で石を選んでもらうため、と誤魔化しておいた。

 後はお姉さんが妄想で補完しておいてくれた。

 お姉さんはそういった話は好きらしい。自分の恋愛には興味が無い様子だが。


 ともあれ、お姉さんの最初の関門は何とかクリアできそうだ。


 明日は休みだし、今日は気持ちよく休めそうだ。



何かと駄目だしのされるお姉さんですが、色々と葛藤があったりします。

人間ですし当然ですよね。

というわけで本格的にだめきゃらになるまえにお姉さんに焦点を当ててみました。


感想で読みづらいとのご指摘をいただきまして、改行等にも注意しつつ作ってみました。

今度は縦に長くなりそうですが。。

分割してというのはあまり好きではないので、そこはどうにかして調整をしてみます。


評価、つっこみなどありましたらお願いします。


2011/9/17

誤字等の修正。ひまじん様、社怪人様ありがとうございます。

さらに追加で誤字等の修正。独言様ありがとうございます。


2011/9/18

誤字等の修正。haki様ありがとうございます。

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