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第8話。魔術工房サンパーニャ【2】

読んでいただきましてありがとうございます。


日間ランキングが何時の間に1位に!

読んでくださる皆様のおかげです

 初めてのポーション売りから2日経った。

 その間にお姉さんは何とかポーション作りの基礎を覚えることに成功した。

 そうは言っても、特製ポーション(白色)のみしかまだ作れず、他のものを作ろうとすると工程や分量を間違え失敗するんだが。


 その間、俺は何をしていたかと言えばだ。午前中はお姉さんのポーション作りを見守りながら店番、昼を一緒に食べた後露店めぐりをしていた。

 これはお姉さんからの提案だ。俺はそういったことには疎い。市場調査も大切だとのことで色々な出店を見回り、幾つかポーションを買ってきた。

 一応『変化』は使っておいた。市場調査はどの店もしている、との事だったが念を入れておいて問題ないだろう。

 ポーション代は店からのものを使っている。合計5個買って483R(ルード)店によって多少値段は下がったがほぼ銀貨1枚で売られており、種類も1種類しかなさそうだ。

 後は自腹で本を一冊買った。古本屋で少々値段は張ったが、暇つぶしに読むにはよさそうだ。


 そんなこともあり、夕方には戻りまたお姉さんの調合を見守る。

 お姉さんは慌てるとその時点で自分が何をしていたか分からなくなるという悪癖があるらしく、そのたびに俺は止めていた。

 これがポーションの調合でよかったと思う。もし鍛冶でそれをしていた場合は大変だ。最悪全てが無駄になる。

 ポーションは前の過程こそ戻れないが、繰り返し同じ事をすることと一旦手を止めることが出来る。慌てることがないように暫くはポーション作りに専念してもらうことにしよう。


 ただ、1つ問題がある。ポーションを入れるガラス瓶がないのだ。

 納品に来てもらうのは明日。元々サンパーニャにあったストックは10にも満たない。

 変則的ではあるが、作ったポーションは大きな木の樽があったのでそれに移し変えた。

 熟成ポーション……作ったら売れるのだろうか? もし醗酵してアルコール分が加わったら。

 駄目だ。ピンチの時に飲んだもので酔っ払いでもしたら戦いは続行できないだろう。

 晩酌用として売るのも面白いかもしれないが、それがちゃんとアルコールになるかどうかも分からないし、ポーションが醗酵するかも分からない。

 いや、いっそのことワインと混合してみるか? ……止めておこう。きりがなくなる。


 ちなみに、露店で購入したポーションを飲んでみたところ、全て味は一緒だった。

 おそらくポーションはこういうものだ、という固定観念の元改良することもしていないんだろう。

 全て一口だけ含んでみて味を確かめた後、適当な容器に移し替えた。これもどうにかすれば他の使い道もあるだろう。

 残ったガラス瓶は粉々にした。溶かして再利用する予定だ。


「お姉さん、どう?」


「うん……何とか覚えられたと、思うよ」


 お姉さんはくたくたになったらしく、作業台に頭を乗せ倒れこんでいる。

 肉体的な疲労ではなく、慣れないことへの精神的な疲労だろう。

 作り置きの特製ポーション(赤色)をコップに注ぎお姉さんに渡す。これはSP回復と同時に簡単な頭痛薬にもなる。

 まあ、がばがば飲むには適さないが、原価で言うなら8Rくらいだ。濡れ手に粟とはよく言ったものだ。

 まあ、抽出する以上、他のポーションに比べ1個あたりの原価が安くなるのもあるが。


「お疲れさま。今日はこれくらいにしておこうか?」


「うん、ありがと」


 それだけ返すのが精一杯なのか、お姉さんは俺からコップを受け取りゆっくりと飲んでいく。



 その後はお姉さんが落ち着いたのを見計らい、帰る事にした。



 帰ってからはレニが構って欲しいと擦り寄ってきたので遊ぶことにした。

 館の中はレニにとって遊び場なのだろう。廊下も広く、危ないものは適当な空き部屋に運んでいるので走り回ってもぶつかる心配もほとんどないし。

 とはいえ、転んで怪我でもしたら大変なので多目的室で遊ぶことにした。

 小さな女の子の遊び方を良く知らないので、話をして聞かせたり元々持っていた遊び道具で一緒に遊んだりする程度だが。

 おもちゃを作るか露店で見繕うのも良いかもしれない。



 夕食を食べ、疲れ切ったレニを寝かしつけ向かったのは地下のある一室。

 魔法陣を設置しているところとはまた別の、何もない部屋だ。

 地下には幾つか部屋があるが、その中でも狭目のこの部屋を俺の工房にすることにした。

 両親には話してあり、危なくなるので俺がいないときは近づかないようお願いをしている。


 この部屋を選んだ理由は1つ。一番館の外側であり、換気用のダクトが地上と繋がっているからだ。

 何でこんなものがあるのかは分からないが、確認したところちゃんと繋がっており、炉を導入しても何とか使用できると判断し、ここに工房を設けることにした。

 恐らくそのままでは一酸化炭素中毒になりかねないのでそこは送風機でも作ってどうにかしよう。

 今は何もおいていないが、炉を作り、道具を置き、サンパーニャでは作れない魔具や魔術品を作るつもりだ。

 ここでなら魔術の研究もできそうだし、隠匿もすれば何とかなるだろう。


 今日ここに訪れたのは、そのための前準備。隠匿用の魔法陣の作成のためだ。

『レジェンド』の時はクランハウスの共有倉庫くらいにしか使わなかったそれだが、この世界の魔法の事情を考えると魔術の使用痕やそれに類するものは残さないほうが良いだろう。

 作成する魔法陣は二重のもの。魔力を吸収するものと、その魔法陣を隠匿するものだ。

 魔力はどうしても周囲に零れる。それが痕となって残る。それ自体は大したことはないが、それが複数回繰り返されると魔力痕は探査系の魔術を使える人間に判明される。

 なら、それを吸い取る魔法陣と、その魔法陣を発動させたことを外界に漏れないようにする魔法陣を使えば理屈上は上手く行くはずだ。

 そこまで行くのに何十回も魔術を使わなければならないだろうから暫くは意味を成さないだろうけど。


 魔法陣を描写(エディット)してそれを床に転写する。発動はしているし、今回の余りの魔力も吸収してくれたようだ。

 さて、今日はもう休むことにしよう。明日もそこそこに忙しいだろうから。




 眠い。このまま何も考えず眠り続けてしまいたい。

 布団の中でぬくぬくして惰眠を貪ってしまいたい。


 とはいえ、今日もバイト。しかも今日は初めてのガラス瓶の納品日なのだ。

 お姉さんに任せるにしてもやり取りくらいは見ていないとまずいだろう。

 そういえば。一ヶ月の賃金は決めたものの、1日何時間働くとか何時が休みなどは一切話していなかった。

 しかも雇用契約すら結んでいないのだ。労働に対する法はどうなっているんだろうか?

 もし違反してお姉さんがつかまるようなことになったら笑えない。今日聞いておくことにしよう。


 朝っぱらから重要なことに気づいた俺はさっさと身だしなみを整え、朝ごはんを作り、一部を包むという日課になってしまったことを行うとサンパーニャへ向かう。


「おはよ、お姉さん。……なんつー格好を」


「ふわっ!? ソ、ソラくん! な、何でもないよ!?」


 まあ、ノックもせず入った俺が悪いんだろうけど、ここ店だよな?

 気を緩める瞬間もあるだろうけど、うら若き女性があまり背を思い切り伸ばすのはよくありませんよ?

 ……真っ白なお腹でした。というか、これに対して何もないはおかしいだろ。


「朝とはいえ、誰か入ってくる可能性あるだろ? お姉さん、美人だってことをもう少し理解する」


「こんな朝から来る人はソラくんくらいだよ。ソラくんなら子供だし、別に構わないもん」


 そりゃ見た目だけで言えばな。そうはいえどお姉さんに話すわけには行かないし。

 まあ、俺が気をつけさせれば良いだけか。


「さ、お姉さんはこれから白色の精製をもう一度頭から。ゆっくりで良いから、落ち着いてやること」


「うん! 今なら間違えず出来る自信あるよ!」


 今日はまず失敗から始まりそうだな。信じたいところは山々だが、展開は見えている。うん。




 グルンダの工房から商品を納品にきたお兄さんに対応し、お姉さんに受け取りのサインをしてもらう。

 お金はその場その場でのやり取りだ。銀貨45枚を渡し、見送る。と、黙ってそれを見ていたのだが。


「お姉さん、何で荷物の中身の確認しなかったんだ?」


「えっ? な、何でって……しなきゃ駄目だったの?」


 本当に分かっていないようだ。お人よしなのは良いが、これではこの先困りそうだ。


「お姉さん。ガラスは割れやすい、それはまず分かるな?

 で、お兄さんが歩いてたときもお姉さんに渡したときも、カチャカチャガラス同士が擦れ合う音がしてたんだよ。

 あのお兄さんに悪気がなかったとしても、割れてたり欠けてたり。あるいは数量が正しく揃ってるか確認しなきゃ駄目だろ。

 いざ使おうと思ったら全て割れてたなんて洒落になんないぞ?」


 俺の話しに顔を青くすると、慌てて中身を確認しようとするお姉さん。


「お姉さん、深呼吸して。次回から気をつけてくれればそれで良いから」


 慌てて落としたりぶちまけたりしたらそれこそどうにもならない。

 お姉さんからずっしりと重い荷物を受け取ると、作業台にガラス瓶の入った袋を置き、開封する。

 まずは数量の確認だ。数量に問題はない。次は、取り出して中身の確認を、と。


 結果、5本割れてました。まあ、これくらい誤差といえば誤差なのだが。

 お姉さんが半泣きで謝っているが、お姉さんの責任ではない。ミスではあるが。


「では、失敗した罰としてグルンダの工房へ行って、説明してきて。

 交換してもらえるならそれで良し、そうでないなら無理に食い下がる必要もない。

 ただ、それでも追加で購入してきてもらえれば助かる。出来そう?」


「う、うん! ないと困るからね! 私、すぐに行ってくる!」


 ガラス瓶を大事そうに握り、走っていくお姉さん。……怪我しなきゃいいんだけど。

 ただ、あの工房主は優しそうではあるものの交換をしてくれるのだろうか? 個人としての優しさと商売人の甘さは別次元の話だ。

 だから受け渡しのタイミングで中身を一緒に確認するのがベストなんだが。

 まあ、交換してくれなければこっちで溶かして他のものにしてしまえば良いだけだ。


 お姉さんが戻ってくるまでに準備を進めておこう。

 それにしても試験管立てが大量にあってくれて助かる。

 これがあまりにも少なければ作るか買うかしないといけなかったからな。

 今あるストックは、木製の物で1つに10本挿せるもの。

 それが50個あるから、最大500本までは一気に並べられる。

 とはいえ、店で売るならともかく露店では運ぶのが大変だから駄目だ。

 ただ、どうやって運んだものか。

 1個なら重量1だ。重みは大して感じられない。

 けれどそれが100個だと当然重量は100。

 自慢でも何でもないがそれを運ぶ自信はとても無い。本当に自慢じゃないが。

 俺が中央広場まで運ぶにしても1回20個までが限度だろう。お姉さんを入れても40から50くらいだろう。

 もちろんその時は試験管立てに入れて運ぶ。前回は少なかったのとポーションベルトをはさんでいたから問題は無かった。

 台車のようなものがあれば話は別だが、それでも整備されていない道を割れ物が搭載された台車で運ぶのも危ない。

 アイテムボックスに収納すればそんな問題は起こらないのだが、そういうわけにも行かないだろう。

 某たぬきロボットの四次元のやつが欲しい。どちらにせよ見つかったらまずいが。



 俺が何回か往復すれば良い、と結論を出した頃にようやくお姉さんが戻ってくる。

 にこにことしながら俺に傷もないガラス瓶を渡してくるって事は交換して貰えたのだろう。


「今回は持ってきたのが新人さんだったから、って交換して貰えたよ。ソラくんに言われなかったら気づかなかったよ。ありがとね」


「まあ、お姉さんには色々と学んでもらわないといけないからな。じゃあ、さっさと準備して露店始めるぞ?」


 前回と同じ白、緑、黄緑のポーションとポーションベルト。

 数量は白が40の緑と黄緑が30。それにポーションベルトが6枚だ。

 ポーションベルトは1日作れて今だと3枚。作るものは難しくは無いがいちいち手縫いをしているので時間がかかる。お姉さんがもう少し器用ならこちらを手伝ってもらうのだが。

 ポーションは一回の調合で20ほど。鍋の容量上今はそんなものだ。どちらも大量生産するつもりは今は無い。

 今日の帰りにでもまた材料を仕入れておこう。ノノノ草と桃が切れそうだ。

 他のものも少し購入しておこう。ただ、一気に買うのは市場価値が変動しそうで怖い。

 全部野草ではあるから杞憂なのかもしれないが。



 ポーションをガラス瓶に移し、試験管立てに挿していく。

 規定量を移し終わると、お姉さんが持つ分のポーションを露店で広げる布で巻き、渡す。

 それと俺の分のポーションと符を持つと、戸締りをし、書置きをドアに引っ掛けると中央広場に向かう。この前より早い時間なのでまだ人はまばらだ。前回の場所も空いていたのでそこを確保した。


 布を広げ、ポーションを並べ、符を置く。俺はまだ何度か往復をするためお姉さんに店番を頼むと鍵を預かり、また店へと戻っていった。



 最後のポーションとポーションベルト、そして鞄を肩に提げ中央広場に戻ってみると、何やら人ごみが出来ていた。どうやらうちの露店を中心にしているみたいが、さて何があったのやら。

 人ごみを抜け、辿り着いた先は仰々しい鎧に身を包んだ若い男とお姉さん。


「だから、金なら払うといっているだろう!」


「で、ですから……お一人様5個までなんですよぉ」


 どうやら騎士が金を払うから規定数以上売れとごねているらしい。というか、何で誰も助けようとしない。うら若き乙女が困っているんだぞ?


「お姉さん、お待たせしました。どうかしましたか?」


「あっ! ソラくん! えっとね、このお客様が10個ずつ欲しいって……」


 合計30個。銀貨51枚とは随分と豪快な買い物をするんだな。


「お前も店員か? こっちは金を払う、お前らは商品を売る。それに何の問題がある」


「お兄さん、確かにお兄さんの仰ることは正論ですが。

 こちらは事情がありまして様々な方に買って貰うために販売数の制限をかけているのですよ。

 とはいえ、お兄さんの格好を見る限りでは何やら騎士の方と見えるのですけれど。

 騎士の方々は商人さんから直接お買いになると聞いていたんですが……何かご事情でも?」


「ああ。フィリップから良いポーション売りが居ると聞いてな。ちょうど見つけたからまとめ買いをしようと思っている。

 これは部下の分も含んでいる。問題はないはずだ」


 下手に出ている俺に気を良くしたのか、語尾は若干下がった。

 まあ、お姉さん相手で上手く意思の疎通を図れて居なかっただけかもしれないが。


「ご指名いただけるのはありがたいのですが、何せあまり量を作れないものですので。

 騎士さんと言えどまとめ買いはご遠慮いただきたいのですが。

 もちろん、部下の方々も一緒にご来店いただけるのであれば問題ないですけれど」


 まあ、方便でしかないし、ある一定量までであればこちらも困るものでもないのだが。


「あくまで1人に売る量を変えないということか?」


「はい。騎士さんでしたらそういった規則はお守りいただけるかと。

 他にも求めていただける方はいらっしゃいますので、緊急でない限りそれは変更は致しかねます」


 とりあえず騎士の矜持を保つような言葉で持ち上げてみる。とはいえ、騎士は女性に優しくあれというものらしいがこの世界ではどうだろうか。


「分かった。なら5でいい」


 渋々、という感じではあるが納得してくれたようだ。


「はい、ありがとうございます。お姉さん、準備を」


 効果は説明されているのか、白を3、緑と黄緑を1ずつ取ると銀貨を8枚と銅貨50枚を渡し男は去っていく。

 それでようやく周囲を囲んでいた人ごみも散り散りになって行き、治まった。


「ごめんね、ソラくん」


「お姉さん。ああいう人はちゃんと話をすれば分かってくれるんです。

 ああいうことが多発すると良い噂にはならないので気をつけてくださいね?」


 落ち込んでいるところをさらに追い討ちをかけるようで心苦しいが、ちゃんと話さないとだめだろう。

 ただでさえ今はサンパーニャの地位は低いだろう。それでさらに悪い噂が上れば再建どころの話じゃないだろう。


「まあ、出来る限りフォローはします。お姉さんもあまり落ち込まないように。売り子が暗い顔をしていては売れるものも売れませんよ?」


 落ち込んでいるお姉さんの目の前に座り、ぐにーと頬を伸ばす。つねるのではなく、軽く外側へ引っ張るのがポイントだ。

 涙目になっているのは破壊力が高すぎるので直視は出来ないが。


「ゅん……わひゃった」


 何も頬を伸ばされたまま話さなくてもいいと思うのだが。


 お姉さんも固いが何とか笑顔を出してくれているようなので、商品を並べ、お姉さんの隣に座りなおし売る事に徹することにした。




 まだ慣れないが声をかけながら時間を過ごし、行儀は悪いが昼をこの場で取る。

 食べ物系以外の露店ではよく見かける光景だ。問題はないのだろう。お姉さんも文句は言ってこないし。


「……ソラく、ん……?」


 食べている最中、露店にリーゼとその友達だろうか? 同世代らしき少年が現れた。


「やあ、リーゼ。デート?」


「……違う。ノルは、お友達、だから」


 デートと言われリーゼは赤くなり俯き否定する。ノルと言われた少年は呆れているようだ。


「またかよ。何でおれがこいつとデートしなきゃいけないんだ?」


 少年の表情に羞恥や怒りは見えない。無意識下でどうかはともかく、そういった関係ではなさそうだ。


「年頃の男女が連れ添って歩くなんてそれ以外に考えられないだろう? どちらかが結婚でもしてるならともかく」


「……ソラくんは……デート?」


 うむ。中々いいつっこみだ。リーゼは案外つっこみ体質なのかもしれないな。


「俺はお姉さんの店を手伝ってるだけ。ほら、この通りポーションを売っている」


 ただ、何故お姉さんが赤くなっている。どうしてこっちをそんなに直視する。


「ソラくんこっちに引っ越して来たばかりなのにもう女の子の友達が居るの?」


「彼女は俺のいとこだよ。リーゼ、こちらは俺の雇い主で『魔術工房サンパーニャ』の工房主のミランダさん。で、そっちのお兄さんは?」


「おれはノラ。こいつとは腐れ縁だよ。えーと、ソラでいいのか? よろしくな」


 にい、と笑う少年は中々好青年のようだ。あと数年も経てばきっとイケメンになって女性からちやほやされるに違いない。


「ああ、よろしく」


 差し出された手に握手を交わす。


 と、ふとリーゼから強い視線を感じる。何かと思って視線の先を見ると俺の昼飯。


「ほら、持っていくと良い」


 苦笑をし、包みをリーゼに渡すと赤い顔をして、それでもしっかりと包みを受け取る。

 半分ほどは食べたが、まあ昼を食べたかどうかは別として受け取った以上食べるのだろう。


「あれでリーゼの考えが分かるとはね。ソラもなかなかやるな」


 ノラは分かるまで時間がかかったのだろうか? それとも腐れ縁とは言いながらも一定の感情を持っているのか? そうなると面白そうだが。


「リーゼは俺の作ったものに興味があるだけだよ。っと、お客様が来たみたいだ。悪いな」


 リーゼたちの後ろに立つ大人が現れたことで、リーゼとノラは去っていく。

 これから遊びにでも行くんだろう。あの世代はまだまだ遊び盛りのはずだ。羨ましいが俺には仕事がある。割り切ろう。




 その後、大きなトラブルはなく順調に商品が売れていく。数量がこの前より多いため売り切るにはあともう少し時間が必要だろう。


「よお。朝は大変だったみたいだな」


 と、声をかけてきたのは初めてポーションを売った猫の獣人のお兄さんだ。


「噂にでもなっているんですか?」


 下手な噂になっていれば大変だ。下手したら火消しのために色々と手段を講じなければならない。


「いやいや。あいつに話をしたのは俺でな。で、さっき会った時にその話を聞いてな。すまんかった」


 そうやって謝るお兄さん。つまり、この人がフィリップさんなんだろう。


「お兄さんのせいではないですよ。お兄さんも宣伝してくれたのでしょう?」


「そうですよぉ。私が上手く出来なかったのが悪いんですから、フィリップさんは悪くないですっ」


 お姉さんは名前を知っていたらしい。知っていたなら教えてくれても良いのに。


「それにしても、あのポーションはどうやって作ったんだ? あんなの初めてだぞ」


 お兄さんが話すには、お兄さんはこの町を拠点にする猟師団の一員らしく、俺からポーションを買ったその日に森に出かけたらしい。

 途中まで順調に行っていたが、毒のあるモンスター……名前はドマーというらしいが。

 それに襲われ、撃退はしたものの仲間の1人が毒にかかり負傷。

 ドマーの毒は即効性はないものの一週間以上寝込むような酷い毒らしく、前衛の1人がやられたこともありどうしようか悩んでいたところ。

 お兄さんが俺の調合した特製ポーション(黄緑)を飲ませてみれば見る見るうちに回復、狩りに出る前よりも元気になり暴れまわったそうだ。

 自分も特製ポーション(白色)を飲んでみたところ、飲みやすく今までにないほどの活力を得られたため知り合いの騎士に話したそうだ。


「作り方は秘密です。効果は十分だったようで安心しました」


 まあ、そう簡単に教えるわけにも行かないだろう。暫くの収入源だ。広めては貰うが出し惜しみする場面でもあるだろう。


「ま、当然だな。今回も買わせて貰うよ」


 苦笑するお兄さんとやりとりをして、白2個と黄緑を2個、そして緑を1個売った。

 この地域では麻痺の状態異常をかけてくるモンスターは専用の狩人しか相手にしないそうだ。

 軽い毒を持ったモンスターの方が多いため、そちらを少し増やした方がいいかもしれないとアドバイスを貰った。




 売り切ったのはそれから2時間後。今日の稼ぎは17462R。端数が多いのは値引き交渉が何回かあった結果だ。

 こちらに関しては露店の醍醐味とも言えるし、極端なものでなければ問題ない。

 むしろ値引き交渉に一切応じないのもまずいだろう。リピーターを確保する点でも必要な行為だと思う。


 金貨1枚、銀貨74枚、銅貨62枚に相当するそれは時間も早いし、一部を除いてお姉さんの銀行口座に預けることにした。

 治安の良い町ではあるが、あまり大金を持っているのはよくないだろう。

 預けた後は当初の予定通り材料を買い込みサンパーニャへ戻った。


「ホントにこんなに儲かっちゃっていいのかなぁ……」


 お姉さんはやけに弱気だ。今日の稼ぎだけでお姉さんが使えるお金の半分に当たる。少し怖くなっているのだろう。


「今はポーションだけしか作っていないので材料費はあまりかかっていないからそう思うだけ。

 鉱石なり道具なりは高いんだからもっと稼がないと魔術工房としてはなりたたないよ」


 今日の売り上げを、もし一ヶ月毎日維持出来たとしたら白銀貨5枚の売り上げにはなる。

 だが、今のところ週に2回と材料費なり何なりがかかるので収益は白銀貨1枚位だろう。

 魔術品を扱えるようになっても物によってだが1個あたりの収益は恐らく銀貨6~7枚くらいだと思う。維持費を考えると収益はもっと下がるだろう。

 後は月にどれくらい売れるか次第だが、それはサンパーニャの知名度に比例するだろう。

 ここはミランダの家で所有する建物のため月々の賃料が発生しないので必要最低限の費用で済むから何とかなりそうだが。


 ともあれ、もう少し稼がないと材料費の捻出が難しい。

 お姉さんの指導をするにはポーションはほとんど材料費はかからないし無駄にはなり辛いが、鍛冶はそういうわけには行かない。途中で中断するわけにもなかなか行かないのだ。

 最悪火にかけたら最後まで気を抜けないものも少なくない。それを1日中。お姉さんの悪癖がある以上材料も大量に用意しなくてはならないだろう。

 そうなると資金は十分に確保する必要がある。自転車操業では成り立つわけがない。


 後はどんなものを並べるか、だ。アクセサリーの類なのか、防具なのか、武器なのか。

 その付与する効果はどういったものがいいのか、どれだけの強さのものにどれだけの値段を付けるのか。

 それに他の売り物は何を使うのか。

 考えればきりはないが、どういった方向性で店を運営するか決めなければ材料の種類も量も全く違ってくる。無軌道では単に秩序のない店にしかならないだろう。


 ただ、いきなりそんなことを次から次へと投げかけられてもお姉さんは困るだけだろう。

 今出来ていないことを放置して色々な思考が飛び回り、結果出来るはずのことも出来なくなる可能性もある。なら、そこの負担は俺が今は負えば良い。ただ、お姉さんには早めにそれに慣れてもらうつもりだが。



 弱気になっているお姉さんに作業に戻るよう促し、俺も自分の作業に入る。

 お姉さんは白色ポーションの精製、俺は新作ポーションの調整だ。

 今目指すのは多種の状態異常に対する中和剤。万能薬が出来ればベストだが、複数のバッドステータスに対応できるものを目指した方が早いだろう。

 その途中で色々な副産物も出来たし。そうはいっても、失敗も少なくはないんだが。


 今の所分かっているのは2つ。1つは調合次第ではハーブと果物でも劇物は作れるということ。お姉さん限定だが。

 もう1つは、同じ原料でも比率を変えれば効果が変わるということだ。

 不思議なことに濃くしたり薄くしたりでHPの回復量が変わるのではなく、効果そのものが変わるのだ。

 とはいっても多少の濃度の変化では変わることはないのだが。


 それを利用して作ったのが特性ポーション(灰)色的にかなりまずそうだが、味はみかんと桃を混ぜたさわやかなものになっている。

 その効果は一時的に器用さ+10してくれるもの。何故そうなったかは正直俺にもわからない。

 原料はなんと赤色ポーション。原料であるゾーダ草を使って同じように作っても何故か効果は違う。

 そっちは特製ポーション(無色)効果はHP回復10。効果は減少しただけになってしまった。

 特製ポーション(無色)は他の材料でも出来るため、恐らく薄くしたらこうなるんだろうと踏んではいるが。


 本当にこのままポーション売りの店になってしまいそうだが、効果の高いものだけを置いて、他は俺やお姉さんの疲労回復のためのドリンクにしようと思っている。

 俺としては回復量はいまいちだが、疲労回復程度にはなってくれる。

 材料費も無料に近いし、森を探せば幾らでも採ってこれるだろう。あくまでそれは最終手段だが。

 まあ、ともあれコップ1杯分の調合が出来る目安はわかったので最初行った鍋一杯に作り失敗したら廃棄ということはしなくてもすむようになった。

 飲む前に鑑定はしているし、危ないものはお姉さんに悟られる前に廃棄している。お姉さんはもちろん、俺も危ないものを飲むわけには行かない。


 そのポーション作りをしている間にお姉さんと改めてバイトの条件を話し合った。


 というか、お姉さん自体俺の勤務のことにあまり頓着していないようだった。

 お姉さんの家でのことだから、ご両親が店を休むという概念はあっても、自分が休むということは考えていなかったようだ。

 元々の定休日は週の最終日、あと鍛冶の都合で臨時休暇を入れるくらいで営業時間は朝から夜まで。明確な時間の設定はなかったようだ。

 その時にようやく俺もこの世界での時計の存在を知った。

 館にも時計が存在していないからだ。


 この世界で時計を使うのはあまり多くないらしい。大きなギルドが内部的に使うのと、学園。後は商人や王族、大貴族など。一般的にはあまり時間の感覚は薄いそうだ。

 ある程度太陽の動きを見て決め、朝は太陽が昇る少し前から活動をはじめ、夜は太陽が沈んだ後思い思いの時間に休みを取るそうだ。

 何とも大らかな話だが、決まっていないのならそんなものかもしれない。むしろ時間を気にするのはあまり褒められた話ではないのだとか。

 とはいっても、時間は有限だ。あまり決まりきった時間の使い方をするのはよくないかもしれないが、適度に時間を守ることも必要だし効率も上がる。時間を決めて作業をすることは集中力の向上になってメリハリもつけられる。

 そんなわけでサンパーニャへの導入を希望すると少し考えながらもお姉さんは了承、小さいものをすぐにではないが購入してくれると約束してくれた。


 この日はお姉さんの集中力が上がらなかったためそのまま終了。

 ポーションは結局成功はしなかった。抽出の時間に問題がありそうだ。

 お姉さんには実際のお茶を淹れてもらうようにした方が良いかもしれない。

 あっちの方が温度や抽出時間は繊細だ。


 課題は残るものの問題点はある程度見えた。ならそれをゆっくりでも改善するべきだろう。


 町に出た俺は露店で何か掘り出し物が無いか適当に冷やかしながら帰ることにした。


 と、帰り着いた家には何故かリーゼとノラが居た。

 曰く、買い物をしていた母がリーゼとばったりと遭遇。冷やかしながらもうちで夕食を食べることを提案したらしい。

 ノラも最初は遠慮していたが、家にまで押しかけられそれを説得されたため頷かざるを得なかったそうだ。……すまない、ノラ。


「話には聞いてたんだけど、本当に広いな。この家」


「使ってるのは一部の部屋だけだよ。広すぎるとは思ってるし、あまり気にしないでくれ」


 というか掃除も間に合っていないだろう。これだけの広さだ。1日で掃除が終わるとも思わない。

 手伝おうとしたが、母には「ソラにはソラがしなきゃいけないことがあるから、そっちを優先して」と断られてしまった。

 掃除機は無理だが、効率の上がりそうな掃除道具を作ろうと思う。


「それにしても悪いな。急に呼んだみたいで」


「ああ、驚いたよ。急にリーゼに抱きついたと思ったら気づけば俺の家に居るし。ただ、凄い良い人そうだな、ソラのおばさん」


「おばさんって言わないでっ! 言って良いのはリーゼちゃんだけだよっ。遠慮せずクリスさんで良いから」


「……母よ。唐突に現れられても困るんだが」


 ノラが引いているのは正しい反応だろう。


「それで、夕食の準備は済んだ? まだなら俺も手伝うけど」


「うん! 後もう少しだよ。だから呼びにきただけ。リーゼちゃんももう食堂だから、早くね」


 そう言って足早に厨房へ向かう母。足取りが軽いのは何か嬉しいことでもあったんだろう。


「俺は新作を作るから、どっちにしろ行くよ。ノラ、行こうぜ」


「あ、ああ。そういや、あのパンだの揚げてる肉だのはクリスさん……が作ったのか?」


「いや、あれは俺。サンドイッチにから揚げな。結構自信作なんだが、どうだった?」


「あんなの作れんのかよ、お前! いや、今まで食ったことないくらいすげえ美味かったんだけど。特にあのパン、どうやって作ったんだ?」


 どうやらノラにも好評らしい。ただ、から揚げも結構自信があったんだが。

 本当ならしょうゆ味のものにしたかったんだが、なかったから白ワインと塩とハーブで味をつけたものだ。

 柔らかくて冷めても肉汁たっぷり。冷めたら食えなくなる肉料理よりはよっぽど良いと思ったんだが。まだ改善の余地があるか?


「あれは『ユグドラシルの葉先』の特産品だよ。とはいっても、まだ市場に出回ってないみたいなんだけどな」


 とはいえ、この進行速度はあまりに遅すぎる。次、村の人たちが来た時に事情を話してこっちに持ってきて貰うか?


「ふうん。聞いたこともない村だけど、そんな物があるんだな」


 声は冷めているが、目は輝いている。どうやらあれの魅力に取り付かれるのも時間の問題らしい。


「じゃ、ここが食堂だから中で待っててくれ。恐らくリーゼと父が居るだろうから適当に寛いでてくれ」


「おう。じゃあ、また後でな」


 食堂の入り口でノラとわかれると、俺はそのまま隣の厨房へ。

 そこでは何故か妙に張り切って料理を作っている母の姿が。


「母、何か良いことでも?」


「ソラと仲良くなってくれる子が居るみたいだから嬉しくってさー」


 楽しそうに喋る母はまるで自分のことのように嬉しがっている。


「まあ、ノラは良いやつみたいだからね。……ただ、母よ。あまり厨房ではしゃぐのはいただけない」


 そこそこに広いとは言え、やはりこんな所で暴れるのは危ないのだ。


「分かってますよー。ソラのけちんぼ」


 別に心配しているだけであって、けちではないと思うのだが。

 まあ、色々心配もしていてくれているみたいだからこれ以上は言わないが。


 黄身を除いた白身を泡立て固くしたものに蜂蜜とアーモンドの粉を混ぜ、焼く。

 その間に元々作ったあったジャムを用意し、生乳を泡立てそちらにも蜂蜜を入れる。

 焼きあがった生地を割り、ジャムやクリームをはさめばマカロンの出来上がりだ。


 本当なら色とりどりのものにしたかったが、今回はシンプルにした。

 気に入ってもらえるようであればこちらも工夫する予定だ。



 焼きたてのパン、シチュー。それに川魚の煮物。汁物が多いのが若干気にはなるが、今日の夕食だ。

 マカロンは食後だ。今出すときっとリーゼがそればかり気にしてしまうだろう。


「このパン、やっぱ美味いな!」


 そうやってパンを堪能するのはノラだ。とはいえリーゼも無言ながらも味わって食べているが。


「そういえば、ノラくんはソラと何処で知り合ったの?」


「今日俺が露店を開いてるときにたまたまリーゼがそれを見つけたんだよ。そこに一緒に居たのがノラ」


 そこから始まる色々な話。何故か途中で全員の暴露話になったが、和気藹々としているので問題もないだろう。


 全員が食べ終わったのを見計らって出したマカロンをキラキラした目でリーゼが見つめていることによって、ノラのリーゼがいかに食いしん坊なのかをバラす話になり、リーゼは憤慨しているようだったが。

 ただ、ぷんすか! という言葉が似合うような表情だったので可愛らしいことこの上ない。


「にしても、こんな料理まで作れるお前一体どうなってんだ?

 こんなの今まで町のどんな露店でも見たことないし、並べてたポーションだって特別なんだろ?」


「俺はちょっと人とは違う視点を持ってるだけだよ。俺が見つけなくたって誰かが見つけただろうし。

 それに、あのポーションはお姉さんの特製品だよ」


 あくまで俺が作ったということは秘密にしておいたほうが良いだろう。むしろ早くお姉さんに作って貰う様にしないと。

 まだどう作ったかは気になっても、お姉さんが作ったことを疑われることはないだろう。


「まあ美味いものご馳走になってあまり変なことを聞くのも失礼かな。あのパン、売り物じゃないのか?」


「サンパーニャでってことか? 魔術工房はパンを焼く店じゃないぞ」


 それはそれで売れるとは思うが、もっと本来の目的から逸れる。

 売り上げを伸ばすことが目的ではなく、魔術工房としての姿を取り戻すのが役割だ。


「あれ? ポーション売りの露店じゃなかったんだな。まあ、いいや。俺はそろそろ帰るよ。あまり遅いと親が煩いからな」


「おいおい。確かに今はポーションしか売ってないが、そういう店じゃないっての。

 まあ、必要そうな人には週の初めの日と3日目に中央広場で売ってると宣伝してくれよ。あと、送っていこうか? 明かり持ってないだろ?」


 既に日は沈んでいる。子供が歩くには少し危ないだろう。


「大丈夫。リーゼの家も近いから、明かりだけ貸してもらえれば帰れるよ。送ってもらうのも悪い。明日にでも返しに行くよ」


 なら平気か。ここからリーゼの家はそんなに離れていないし。


 家にあったランタンを貸すと、リーゼとノラを見送る。

 いつの間にかリーゼの腕の中には甘い匂いのする包みがあるが、きっとマカロンを母が包み持たせたのだろう。

 気に入ってもらえたのなら何よりだ。




 翌朝、お姉さんにも感想を聞こうと昼食とは別にマカロンを焼き、サンパーニャへ向かう。

 お姉さんは俺が着いた時には既に調合を始めていた。

 今のところ抽出も順調のようだ。黙って見守ることにした。


 真剣に調合に取り組み額に汗しながら向き合う姿は立派な職人だ。きちんとその姿勢が出来ているのであれば、お姉さんは有望な職人になれるだろう。


 調合を終え、何とか白色のポーションを完成させたお姉さんは俺に振り返り、何時になく真面目な表情で告げた。俺に、道具を作ってみないか、と。


 お姉さんが言うには、俺が剣を打てるのは知っているが、きっとそれ以外にも打てるだろうと半ば確信しているらしい。

 とはいえ、俺は魔術品の作り方を知らない。というとお姉さんは父親から貰った腕輪を撫でながらこう言った。思いを込めて打てばそれが答えてくれる、と。


 とも言えど。お姉さんも魔術品に関しては全くの素人のためどうすればいいかは分からないらしい。

 シリアスになった空気を返せ、と言いたくなったが我慢した自分自身を褒めてやりたい。


 それはともかく。思いを込めて打つということは鍛造なのだろう。お姉さんの父親も魔術品を作るときはいつもハンマーを振るっていたといっている以上間違いないだろう。

 ……柔らかい銀をハンマーで打って何故割れないかは不思議で仕方ないがそういったものなんだろう。

 俺の生産スキルと同じだ。気にしてはいけないんだろう。


 というわけで、物は試しと俺は炉に火をいれ、残っていた材料の中から銅とすずを使い青銅の塊を作って腕輪を作ることにした。

 とはいえ、すずの量は少なく赤銅色になってしまったが。


 初めて使う道具になれる為、気合を込めて一撃を打つ。何十回何百回とこなさなければ俺の手に馴染んでくれないだろうが、そこはシステムの補助がある。

 俺が馴染むためではなく、道具が俺に馴染んでくれるよう、丁寧に打ち、出来上がったのはこれだ。


 ブロンズの腕輪+3

 ブロンズで出来た腕輪。

 DEF+4【+2】 重量3。耐久【800/800】

 スキル『翻訳』を使用可能


 はて。翻訳とはどういうことだ? 俺が思ったのは知りたい、と思うこと。確かに言葉を知るためには翻訳する必要も時にはあるかもしれないが、そんなものを今使う必要はない。

 知り合いに国外の人間がいるわけでもなく、今身近に言葉で困っている人間がいるわけでもない。


 そして、1つ失敗を悟る。お姉さんが、どんな効果が付与されたか聞いて来たのだ。

 お姉さんが言うには、魔術職人が魔力を篭めハンマーを打つと、職人の身体が薄く光るらしい。

 ベディの工房でも、今も俺の身体は薄く光っていたらしくお姉さんは俺が魔術職人の資格があることがすぐに分かったらしい。

 俺はそんなことは気づかなかったし、言われることもなかったので知る由もない。だが、それは常識らしくベディにも俺が魔術職人であることがばれていたらしい。


「それで、どんなスキルが付与されたのかな?」


「翻訳だけど、これ使えるのか?」


 俺は出来上がってまだ熱が取れきっていない腕輪を弄ぶ。これで装飾をすればアクセサリーとしては売れそうだが。


「翻訳って、たまにあるけど他の国の人と話さなきゃいけない人が使うみたいだよ。魔法学校だったら他の国からの留学生さんがいるから結構人気みたいだよ」


 他の国からわざわざ留学するということは貴族やら王族で魔術を使える人間ってことか。ボロ儲け出来そうだな、おい。


 まあ、細かい装飾を施しておいて置けば良いか。魔術品であれば魔力があれば誰だって作れる可能性はあるそうだからな。


 となると、お姉さんにはやはり魔術職人として頑張ってもらったほうが良いな。

 鍛冶ギルドであれば鉱石もそこそこ確保出来そうだし、難易度の低い鉱石から始めればいい。

 失敗しても溶かして再利用できる状況であれば何とかなるだろう。


 こうして魔術工房サンパーニャの目指す場所は決まりそうだ。

 なら、お姉さんをしごく日々も続きそうだな。




この物語は6割のファンタジーと3割の料理、1割のほんわりで構成されています。


というのは冗談ですが。


前回に引き続きサンパーニャの話です。

魔術職人だと発覚した主人公にポーションしか作れない工房主。

妙なこの関係は何時まで続く?!

と次回予告にもなっていない現状ですが、物語は一応の区切りを迎えそうです。

とはいえ、まだまだ魔術師としての主人公の話は描けていないので話は続くのですが。


評価やつっこみがあればお願いします。


2011/9/16

誤字等を修正しました。ランペイジ様、瑞樹様ありがとうございます。

シリア…までくるとルを打つのはきっとPCに触れすぎなんです。

さらに誤字等を修正。独言様、神楽光様ありがとうございます。


2011/9/18

誤字等の修正。haki様ありがとうございます。

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