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よくあるプロローグ。または第0話

 よくあるプロローグ。または第0話


 いつだって俺はついていない。

 昔からそうだった。


 一番最初に思い出せるのは、幼稚園の頃。

 人並みに初恋だった幼稚園の先生がある日突然寿退職した。

 それくらいならほろ苦い初恋の思い出程度ですんだろう。

 けど、それが自分のだいっ嫌いな近所の変なおっさんで、1年後には離婚した。

 まあ、それはいい。幼稚園の頃の思い出なんてろくなものはないわけだし。


 小学生になり、頻度は上がった。毎日の如く怪我はするし、物はなくす。

 好きな女の子が出来たと思えば、ダチと出来てるのは日常茶飯事。

 行事ごとは面倒な事前の準備はさせられるものの、当日は体調を崩したり怪我で参加できず。

 卒業式に至っては、参加は出来たものの途中でぶっ倒れる始末。


 中学高校に至っては。止めておこう、多すぎて思い出すのもたるい。

 とにかく、俺はついていない。

 今、海風に1人で吹かれているのもその証拠だろう。

 別に家族や友達がいないわけじゃない。ただついていなかっただけだ。

「お前、今年はもう予定入れてると思ったから誘ってなかったんだけど。悪い、もうチケット取っちまった」とは悪友の話。その後すぐに行き先を確認すると、向こう1ヵ月空きはないらしい。

「兄さん今年こそ友達と遊びに行くって言ってたでしょ。だから気を利かせて兄さん除いて組んだのに」と、中二の弟が言う時点で終わった。一応、確認はしたがこっちは3ヶ月待ち。どうやら人気の旅行パックを随分前に予約していたらしい。普段なら旅行なんて家族の車でしか行かないくせに。

 高校最後の夏休みだって言うのに1人で家でゲーム三昧なんて残念すぎる!

 だから、最安値で遠くまで行ける旅行をムシャクシャして探した。

 普段ならどこに行くのも細心の注意を払い、時間を掛けてゆっくりと検討する俺が、自分の体質すら忘れて、ノリだけで決めてしまった。

 その結果が、これだ。


「……ほんと、ついてねーな」


 これだったら、家で1人寂しくゲームでもしておくんだった。

「いや、船が陸を離れた時点で気づいてはいたんだけどさ」

 とはいえ、ここまで天候が荒れるなんて、聞いてねえよ! 普通こんな荒れる海に客船なんて出さないだろ!

 そう叫びたい気分だ。甲板には誰も居ないから言っても仕方ないが。というか、いつまで俺はここに居るつもりなんだろう。

 大しけ、とでも言えばいいのだろうか? 風は小さな子供くらいなら平気で飛ばせそうなほど強い。波も台風がやってきた時にしか見ないような荒れっぷりだ。

 流石に、海に落ちたらやばい。

 さて、そろそろ部屋に戻るか。入ってきた鋼鉄製のドアのノブを回す。……おいおい、いつからドアは一方通行になったんだ? 普通、ドアのノブは外れないだろ?

 むりやりくっつけてガチャガチャ回しても、意味がない。むしろ、ゴリゴリとドアが削れる音がする始末。

 ……こりゃ、詰んだな。何だよ、たまに1人で遊びに行っただけでどうしてこうなりやがる。

 いや、1人で遊びに行くっていうのがまず死亡フラグだったんだな。なら、あえてここで死亡フラグを増やしてやる。


「俺、この旅行から帰ったらあの娘に告白するんだ……」


 瞬間、船が大きく傾いた。おお、やっぱ死亡フラグか、これ?! 時代がある程度進んだからといって今までの科学が無駄になるわけじゃないよな。よって、万有引力の法則に従い、俺はごろごろと全身をぶつけながら下――、つまり海面へと身を投げ出される。

 こんなこと考えてるなんて余裕があるんだな――というよりも、きっと本能的にわかっているからだ。

 もう、持たないって事くらい。夏でも、こんな荒れた海に投げ出された後どうなるか、ぐらい。

 どぼん、という音とともに身体が海に叩きつけられる。その衝撃で肺から一気に空気が抜け、その代わりに水が大量に浸入してくる。苦しい、息が出来ない、何でこんな目に。

 最後に思うのはそんな単純なことだけ。それと、家族や友達に、ごめん、と。言葉にならない言葉を出すと、意識が遠く、暗くなっていくのだけは分かった。



「おー? 俺まだ生きてんのか? 案外ついてん……じゃねー!?」


 意識があるのはまだ生きてるのかと思ったが、どうやらそうじゃないらしい。

 明らかに今まで見たことのない何やら光ってる海らしきものや砂浜らしきもの。

 砂浜らしきものに打ち上げれていれば良かったんだが、あいにくと今は海らしきものの中。

 いや、触ってすらないからもしかしたら砂浜ではなく、別のものかもしれんが。

 そもそも、海はこんなにべとついて身体に張り付いたりしない。まだ何らかの生物の粘液だと言われたほうが納得はいく。


「いや、それならここはどこだ? 普通に考えるとあの状況で生き残れるとも思えん。なら、死んじまったのか? なら、ここは死後の世界。つまり、天国やら地獄ってことになる。


 で、俺の今までのついてなさを考えると、何も悪いことをしてなくても必然的に地獄になる。かつ、悪いことを何もしていないかといえばそんなこともないから、どうやっても地獄行きか。……地獄も案外良いところなのかもしれないな」


「考えているところ申し訳ないけど、違うよ?」


 うおっ!? 何時の間に現れたかしらんが、俺の隣には金髪の、ちんちくりんなロリなガキがいた。今、周りを見渡したときにはそんなの居なかったが、背景にでも紛れてたか?


「失礼だよ、キミ。神様に向かってちんちくりんなんて」


「いや、何で俺の考えてること分かったよ? はっ、俺は何時の間にサトラレ体質になったんだ?!」


「残念だけど、それも違うんだよ。神様は人の心くらい簡単に読めるのだよ。特に魂だけとなった今はね。どぅーゆーあんだーすたん?」

 すんげえ片言発言された。つーか、神様? こんなちんちくりんが?


「だからちんちくりん言うなといっているのが分からないかな、キミは。

 というかこんなくだらない押し問答をするために来たわけじゃないんだよ。時間がないからね、こう見えても」


「確かに、そりゃそうかもしれんが。まあいいや。まず、どうして俺はここに居るんだ? やっぱ死んだのか」


 何か微妙に上から目線がむかつくが、相手が神様なら仕方ない。見た目はロリだが。というか、それを疑っても仕方ないだろう。


「ようやく本題に入れそうだね。そう、キミはフェリーから落ちて死んだ。原因は溺死、よかったね。自分の死体見なくて」


 水死体はずいぶんとグロいらしいからな。まあ、どんな綺麗な死に方でも自分の亡骸なんて見たくもない。


「それで、わざわざ神様っていうのは1人1人死んだらそのことを説明してくれるのか? それよりも、これから俺はどうなるんだ?」


「まあ、落ち着きたまえ。どちらも同じ結論といえば結論なんだが。まず、キミの言うとおり神様がいちいち死んだ人間に説明などするはずがない。1日にどれくらいの人間が死んでるのかなんてキミは想像もつかないだろう? 膨大な人間が生まれ、死んでいく中で私がいちいち声をかけてしんだことの話なんてする時間なんてないさ。

 では、何故キミにこんな話をしているかといえば。ずばり、キミはあの時死ぬ予定はなかったんだ」


 ロリにずばりといわれても、全く威厳も何もあったもんじゃねえ。つーか、死ぬ予定ねえ。


「……なあ、つまりそれは俺が間違って死んだって事か?」


「ああ。そもそも、キミは思ったことがないか? 自分は不幸すぎるとか、ついてなさすぎる、とか」


「そんなの生まれつきだからな。最初は少しは思ったが、今はついてないとしか思ってねえよ」


「だが、それが仕組まれたことだとしたらどうだ? それも、人の手ではなく、もっと上の何かからだとしたら」


「それならざけんなってぶん殴ってやる。つーか、そんなこと知ってるって事は、あんたがそう仕向けたのか?」


 ならガキであろうとロリであろうと関係ない。一発ぶん殴って、今までの憂さを晴らしてやろうか。


「落ち着け。早合点するな、気持ちは分からなくはないが。世界にはいくつも神様がいてな。その中の1つが、面白半分で不幸をキミに植えつけたんだよ。知ったのはついさっきで、そいつはもう神様じゃなくなったが」


「おいおい。俺がぶん殴る前にか? 何勝手なことしてくれてんだよ。どうすりゃいいんだよ、この気持ちは!」


「すまないとは思うが、それ以上は知らないよ。さて、ここでキミに選択肢がある。2つだけだけどね。

 1つは他の死んだものと同じく、輪廻の橋を渡り魂を浄化した上で転生を行うこと。もう1つが、別の世界への転生だ。すまないが、この世界の(ことわり)上、一度死んだ人間を生き返らせることは出来ない。だから、今の記憶を持ったままなら他の世界に移って貰うことになる。まあ、その時はある程度の希望をかなえることは出来るけどね」


「希望……ってあれか? 能力付与だとか、不老不死だとか、チートだとか、そういうやつが貰えるって事か?」


 時たま読んでいたノベライズにもそういうのあったよな。


「能力の付与はそうむやみやたらにでなければね。不老不死は流石に無理だけど、死にづらくなるとか老い難くなるとかなら可能かな」


 まじか。にやにやと笑ってるその顔が若干怪しいが、そうであるなら話は早い。


「なら、『レジェンド』で作ったキャラみたくなるのも可能か?」


 レジェンドってのは去年終了したVRMMOの1つで、RPGでありながらFPSやアクションゲーム要素を取り込んだRPGで、3年前までは一世代を築いたタイトルだった。俺はクローズドαから終了するまでずっとやっていた『レジェンド』廃人だ。1キャラだけだが、転生もしたしカンストまで育て上げた。2度転生しなきゃカンストまでレベルを上げられない仕様で、何度心が折れかけたことか。

 しかも物欲センサーが働き続けたのか、あるいはリアルラックのなさが影響したのか最後の最後になるまでレアアイテムには恵まれなかったし。ドロップには期待しなかった分露天を毎日あさってたけどな!

 ただそれ以上に、プレイ中何度思ったことか。――こんな世界で冒険がしたい、と。


「キミの記憶の中にある、この……変な名前だね。このキャラになりたいってことかな? うん、確かにこの世界に似た世界であれば―」


「いや、キャラだけでいい。つーか、名前は変えてくれ。流石にあの名前で生活は出来ん。だから、せめて能力だけでいいからそれを維持したままでもっと平和っぽい世界に送ってくれ」


 『レジェンド』は設定上、ゴブリンからドラゴンまで出てくる王道のファンタジーだったが、幾つか異なる点があった。

 まず、各国の状況だ。常に各国は小競り合いを続け、戦争に近いものも度々公式イベントとしてあった。その時は悲惨だ。通常のイベントはほとんど凍結されるし、町に襲撃されることも何度もあった。それだけならまだいい。その時町は普段と違いPK可能になるし、NPK(Non PlayerCharactor Kill)も可能になる。

 つまり、高レベルのプレイヤーが集団で攻めてくると戦争が終わるまで町はNPCが誰もいなくなり、町の機能が麻痺する。そんなときに新人が入って来ようものなら何も出来ずに死んでいくのがセオリーだった。そんな自由すぎる世界には行きたくない。


「つまり、キミは強いままだけど世界は穏やかなほうが良いんだね。ただ、均衡をとるためにある程度キミが暮らしていたところよりは物騒になるけど、それは構わないね」


 何故か苦笑するロリの問いに頷く。荒っぽすぎるのは勘弁して欲しいが、平和すぎるのもいただけない。それだと何をしにそんな力を得たのかが分からないからな。


「後、性別も変えないでくれ。女にされても、意識がこのままじゃやりづらいからな。とはいっても、キャラのままの設定なら問題ないだろうけどな」


「ああ。ではあまり人間以外になるのも困るだろう。そこは調整してあげるよ。で、キミの結論は異世界への移住で構わないだね」


「……俺はこの世界でこのままは生きていけないだろ? たとえそれがあんたらのせいでも、記憶を失わず生きていけるならそれでも構わないさ」


 やっぱり死んだことに抵抗はある。それも面白半分で、死ぬべきじゃなかったなら余計だ。出来れば、家族に別れの挨拶くらいしたかったが、仕方がない。変に話をしてこれ以上苦しめたくもない。今までも何度も負担を掛けてきたんだ。これからはそれがないんだから、後は弟に任せれば良い。


「ずいぶんと潔いんだね。てっきりもう少し抵抗するものだと思ったけど」


 どこか、本能で分かっていた。俺は長生きは出来ないんだろう、と。その理由自体は随分とむかつく。だが、転生出来るなら儲け物だ。正直、現在進行形でわくわくしているしな。


「そろそろここにいる時間もおしまいだ。キミの次の生が実り良きモノになることを、期待しているよ」


 殺したやつがなにを言いやがる、と言いたいところだがまあいい。話が本当ならこいつが俺を殺したわけじゃないんだし。

 今までが誰かのせいでついてないものだったならその分楽しんでやる。それが、この世界で、あいつらとじゃないことが惜しいが、一度起こったものはもう戻せない。なら、前を向くしかないだろう。


「またね。向日(ヒュウガ) (ソラ)


 俺の名前を呼んだロリ神様の笑顔を最後に、景色はぼやけ、俺は意識を失った。



2011/9/11


誤字等を修正しました。haki様、ありがとうございます。


2011/9/13

誤字の修正をしました。bogusmonster 様、ありがとうございます。


2011/9/28

誤字等修正しました。暁闇さまご指摘ありがとうございます。


2011/10/4

誤字等修正しました。くらんさまありがとうございます。

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