「占いなんて運任せだ」と王子に捨てられた占星術師、大洪水を予知して一人で民を救ったら隣国の皇太子と仲良くなりました
「お前、もういいわ」
ミハエル王子が、執務中の私、エリ・アークラッドの肩を叩いた。
「帰っていいよ。実家に」
顔を上げると、いつもの王子と、横には見知らぬ女の子。わたしより3つ4つ年下だろうか。
「……そういうことですか。私も、私の仕事も、いらないと」
私は占星術師。占いで未来を予測して、それに応じた対策を打つ仕事。
「そうだ。当たったり外れたり、お前の仕事なんて運任せと一緒、価値などない。お前との婚約は無しだ。俺はお前より可愛くて愛嬌のあるこいつと婚約する!」
王子は横の女の子を引き寄せる。
「いやん、王子様ったら〜」
なるほど私にはないキャピ度。
若くてかわいいですね。
そうですか。
「この子は聖女だ、神のお告げを聞けるそうだ。お前とは顔も才能も違うのだよ!」
「もぅ〜王子様ったら、面と向かってホントのこと言ったら可哀想でしょ〜キャハハハ」
うっざ。
五年間。
このクズ王子の婚約者をし。
占星術師として国の危機を何度も救い。
それで、これ。
もう無理。
私の十代後半はなんだったのだろう。
「では失礼します」
私はやりかけの仕事も放り出して執務室を後にした。
*
「ハァ」
王宮をとぼとぼと歩く。
徹夜明け。
目もクマだらけだろうし、髪もぼさぼさ。
酷い顔をしていることだろう。
最新の占いの結果で国のどこかで洪水が起こると出たから、救助隊の編成や物資の準備に追われていたのだ。
あんな王子と別れてもせいせいするだけだけれど、仕事が徒労に終わったことの虚しさが胸を埋める。
「おうち帰って寝よ」
私はこれでも伯爵家の出。王子の婚約者として王宮で暮らしていたが、もはやここは私の家ではない。実家は少し先だ。
占星術師の仕事は、理解されないことが多いのはわかっていた。
確かに外れることも多い。しかし当たった時にどれだけ事前準備できているかで結果が変わる。大事な仕事だと思ってやってきた。
大火事を未然に防いだり、王様暗殺の動きを察知して先回りしたり。
小さいことも入れたら百回は国のためになることをしてきた。まあ、五十回は外してるけど……。
まさか国を背負う立場の、それも私と五年間も婚約までしていた王子があんな認識とは。
「もうどーでもいいや」
若くて可愛くて愛嬌ある子とせいぜい仲良くやってください。そんなもの全部失った私はただ眠い。寝たい。
「馬車、出してくださる」
歩くのも面倒になって馬車を頼んだ。
乗り込んだらすぐ爆睡してしまった。
(あれ……これは……?)
大雨に打たれている男の子。
その先に身なりの良い若い男が倒れている。
鉄砲水だ、という声。程なくして全てが水と泥に飲み込まれる。
「はっ……夢……」
これは、たぶん予知夢。私の才能のせいか、よくあるのだ。
占いの結果と合わせて考えると、実現してしまう可能性がとても高い。
でも、あの風景。
「もう私クビになったんだよなー。でもまあ、ほっとくのも寝覚めが悪いしなあ」
私は馬車の御者に行き先を変えるよう伝えた。
*
王都の中央広場。
いそいそと銅像の上によじ登る。
どう見ても変な人だ。
息を大きく吸ってー、
「王都のみなさーん!! 王宮占星術師のエリ・アークラッドです!! これから、ここに鉄砲水がきまーす!!! 避難してくださーい!!!」
全力で叫ぶ!!
夢で見た風景は、まさにこの王都中心部だった。
街を縦断する大河が氾濫する夢。
昨日の占いでは場所はわからなかった。夢見はコントロールできないけれど、その分占いよりもよく当たる。
「なんだって?」
「本当に?」
「おい、あれ本物か?」
「王宮占星術師は変人って話だから本物じゃない?」
好き勝手いうねみんな。
ぽつ、ぽつ
雨が降ってきた。
ここで降るということは、上流はとっくに本降りのはず。
「はい、急いでー!! 私も避難するからね!!」
銅像から飛び降りて、馬車に乗る。
雨がどんどん強くなる。
私のおうち、伯爵家へ向かうため。あそこは4階もあるし頑丈だから大丈夫だろう。
馬車で川沿いをしばし行ったところで、窓の外に見覚えのある顔が見えた。
夢のあの少年。
横には車椅子の男性。
「とめて!」
馬車の扉を開ける。
「乗りなさい!」
「すまない、動けなくてね」
男の人が答える。
どうも車輪が轍に引っかかって動けなくなっているようだ。
あの夢はそういう事か。
私も降りて手伝う。
どうなっているのか、全然動かない。
川を見ると、水面が濁ってきている。まずい。
「御者の人も来て! この方を中へ!」
車椅子は無理そうなので作戦変更。男の人を担いで馬車に入れてもらう。少年も乗り込む。
遠くから、ゴゴゴゴゴという地響きのような音が聞こえてくる!
「こりゃいかん!」
御者の人も馬車に戻る。
「川から離れて! 全速力で!」
私も馬車に飛び込む。それを待ってか待たずか、馬車が走り出す。
扉を閉めている暇がなかったので、戸板がバタンバタンと跳ね回る。
遠くから流れ来る濁流が目に入ったと思った瞬間。
ドガァン!!!!
ものすごい音を立てて近くの橋に泥水がぶつかる。
石や木ごと跳ね飛ぶ茶色い水と、耐えきれず崩れ落ちる橋が見えた。
どんどん地面が水に覆われていく。どこかが決壊したようだ。
「もっとはやく!」
「やっとるわい!」
ムチを入れる音がする。馬車がものすごい揺れ方をする。
「あわわわわわわ」
舌を噛みそうになりながら椅子にしがみつく。
しばらく経ち――なんとかおうちにたどり着いた。この辺りはまだ無事だった。だが、いつ水が来るかわからない。
「エリよ、帰ったわ! 誰か!」
人を呼び、二人を任せる。
なんだなんだとお父様が降りてくる。
「お父様、鉄砲水で堤防が決壊しました。ここの一階も無事でないかもしれない。すぐ上に上がりましょう」
お父様は慌てて一階のものを回収しにいこうとしたので、首根っこ持って引っ張り上げる。時間ないっつーの。
三階まであがって一息。
「ふう。みんな無事ねー。じゃあ私寝るわ」
「寝るの!?」
お父様がびっくりしてるけど、寝足りないんだからしょうがない。
久々の自室に入り、ベッドに横になった。
(あれは……?)
王子があの女の子と田舎のあぜ道で口喧嘩をしている。
私は空からそれを冷ややかに見ている。
「はっ……」
目が覚めたら、雨は上がっていた。
*
「ありがとうございます、貴女は命の恩人です。私は生まれつき足が不自由なもので、助かりました」
一夜明け、助けた二人から改めてお礼を言われる。
「ま、仕事ですから。車椅子はダメになっちゃったかなー、ごめんねー」
「いえ、とんでもございません。聞けば、こちらはアークラッド伯爵家のお屋敷。貴女様はご高名な王宮占星術師のエリ・アークラッド様と伺いました。お噂はかねがね伺っております」
あら、ご丁寧に。
身なりからして貴族なのだろうか。私は長らく王宮に勤めていたけど、見覚えがない。
銀髪に切長の目をしていて、改めて見るとすっきりと整ったお顔をしている。
「これはご丁寧に痛み入ります。アークラッド伯爵家が三女、エリ・アークラッドと申しますわ」
令嬢モードで返す私。ちゃんとするときはちゃんとできるのだよ。ふふふ。
「あの洪水も予知されたのですか。しかし、なぜお一人で避難誘導を?」
見てたんか、銅像よじ登り。
「おほほほほ、お見苦しいところをお見せしましたわ。実は、私、もと王宮占星術師となりまして……いやほんとお恥ずかしい話で、ハイ……」
「モト!?」
お父様が食いつく。黙ってて今は。ややこしくなるから。
「ご事情がおありなのですね。二割も当たれば上々の占星術を七割近くも当てられ、その解決も自ら陣頭に立って行われる。私の国にもそのご高名は轟いております」
そうなの!? 周りに他に占星術師いないから知らなかったわ……。この方、外国の人なのね。
驚いていると、お付きの男の子が一歩前に出る。
「こちら、帝国の皇太子、グラード様でございます」
「ええーーー!!!???」
隣国の帝国の皇太子!? 確かに身なりもいいし、お付きの小姓がいるとことか、身分高そうとは思っていたが。
「これはこれは、知らぬこととはいえ失礼致しました、皇太子殿下」
お父様がものすごい速さでひざまづいて挨拶してる。我が親ながらすごいわ。
「楽になさってください、ここは私の国ではありませんから。エリ様、いまご所属が無いようでしたら我が国へいらしていただけませんか? あなたは私の命の恩人。国賓として最高位の待遇をお約束いたします」
「ふぇ!?」
変な声でちゃった。
まっすぐこちらを見たキラキラ笑顔が眩しすぎる。
うちの王子と偉い違い。見た目も言う事も同じ生き物なのかというくらい違う。
「ありがたいお話でございます。少し考えさせてくださいませ、ほほほ」
ちょっと眩しくて直視できず、扇子で顔を隠す。たぶん私いま顔真っ赤。
*
車椅子がもし残っていればと三人でまた川辺に向かう。
馬車から見てみたところ、街の被害は甚大なようだ。広範囲が泥を被り、水が引いていないところもまだ多い。
あ、王子がいる。
頑張ってくれたまえ。私はもう無職だ。
よく見ると王様も。二人で視察だろうか。
と思ったら、王子が馬車を見て私と気づき、こっちにやってくる。
「エリ!! 貴様、なんてことをする!! お前が仕事を投げ出したせいでこの有様ではないか!!」
仕方ないので窓から顔だけ出す。
扇子で顔の下を隠すご令嬢仕草して、と。
「私めは貴方様よりお暇を頂きましたのよ。執務室にいた皆もご存知かと」
「何、それは誠か?」
王様が聞きつけてやってくる。
さすがに馬車から降りてご挨拶する。
「はい、昨日。直々に。婚約も破棄されまして、今は聖女様とご婚約されたとか。ご婚約誠におめでとうございます王太子殿下。聖女様のお告げでは洪水はわかりませんでしたか?」
「な、ん、だ、と……!?」
王様の顔がみるみる赤くなっていく。
「ご機嫌よう皆様。おほほほほ……出して」
動き出す馬車。
「あっ、こらー!! 待てー!!」
「待つのはお前じゃー!」
しーらない。
ばいばーい。
「よろしいのですか」
はっ、皇太子に国の醜態を見せてしまった。
「なるようになりますわ」
私は肩をすくめた。
*
しばらく経ちまして。
皇太子は「待っていますよ」との言葉を残して自国へ帰っていった。
川辺にいたのは外交の用を済ませた帰りにちょっとお忍びで観光していたらしい。なんと宿には数十名の配下がいた。行方がわからなくなって探してたらしく大変喜ばれた。仕事忙しすぎて王宮に来ていたの知らなかった。
王子は、王に無断で私をクビ&婚約破棄して大惨事を引き起こしたということで、ど田舎辺境に「ご静養」に出されたらしい。聖女と一緒に。
あー、あの夢そういうことね。はい、末長くお幸せに。
そして、王と王妃が即日我が家にお詫びと復職の依頼に来た。しかし丁重にお断りした。
もう仕事に疲れ果てたし、特にあの職場にはしばらく戻りたくなかった。
そしてなにより、占いで「旅に出るべし」と出た。
皇太子の国も見てみたいし、いい機会だと思う。
「さーて、いってみましょーか!」
旅支度を整え、私は家を出たのであった。
お読みいただきありがとうございました。
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