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第五話 いくらでも生きられる

イグの寿命が増えた。


 量にして一日分くらい。

 それを『命覚』で感じ取ってリナは確信する。

 まちがいない。自分たちの奪われた寿命はこの怪物の中に存在していた。


 そしてそれは、怪物を倒すことで取り返すことができる。

 それは今日で終わる命を抱えた者が、明日を迎えるための突破口だ。


 リナとて死ぬことに絶望こそしないが、決して死にたいわけではない。


 怪物を倒せば、明日も生きられる。


 ―それどころか、リナにはこんな考えが浮かんでいた。


「この怪物がずっと湧き出てくれれば、いくらでも生きられるじゃん!」 


 それはおよそ常人には考えられない、常軌を逸した考え方だ。

 本来、ここはこの怪物を少なくとも毎日一体は倒さないと生きられないのか、と悲観すべきところだ。


 だが、リナはそれを怪物を倒し続ける限りいくらでも生きられると解釈した。

 一つ一つの考え方に、リナの常軌を逸した『天才』としての感性がにじみ出る。


 そうと決まれば、やるべきことは単純明快だ。

 できるだけ多くの怪物を倒し、寿命を増やしまくる。


 そう考えて、動きだそうとしたリナは――その必要がないと気づき、足を止める。


「わざわざそちらから出向いてくれるなんて、面倒が省けたわー」


 四方八方からの刺すような視線を感じながらリナは朗らかに呟いた。



 

 少なくとも目に見える範囲で十体ほどの怪物に、二人は囲まれていた。


 だが、慌てるでもなく、リナは冷静にそれらの特徴を観察してみる。


 全体的には地球上の生物の特徴をランダムに取り込んだような印象だ。


 例えば、正面の怪物は蛇のような胴体に、ムカデのような足が何本も生えていて、胴体からザリガニのような鋏を持った腕が生えている。

 他の怪物も各々が複数の生物の特徴を持っており、同じ外見のものはいなかった。


 しかし、どの怪物にも共通して言えることがある。

 それはどれも、人間を攻撃するための手段を持っていることだ。


 そんな怪物の集団がリナ達を取り囲みながら、じりじりと距離を詰めてくる。


 リナは静かにイグの背後に回り、自分の背中をイグの背中に合わせる。

 それは映画やアニメでよく目にする、信頼する仲間に背中を預けて戦うワンシーンのようだ。


 怪物たちの群れがすぐそこまで近づいている。

 一発触発の状態だ。

 その一発をリナは自ら引いてやる。


 

 「この背中合わせるやつやってみたかったんだよねー!」


 

 その瞬間、その声を合図のように、怪物たちが一斉に襲い掛かってきた。


 

―――――――――――――――――――――



 次々と襲い掛かってくる異形の怪物を相手に、リナは驚異的な瞬発力と優れた勘で怪物の攻撃を躱し続ける。


 わざと反撃は行わず、躱しながら敵の分析を行う。


 まず『命覚』を働かして気が付いたのは、その弱点となる「核」がどこにあるかはてんでバラバラだということだ。

 さっきは目だったが、腕の一部分にあったり、厄介なものはその胴体の深部に埋まっていたりした。


 他に気づいたのは、その動きの機敏性や攻撃力に個体差があるということだ。

 もっと分かりやすく言えば、強さ、と言い換えてもいい。

 そしてそれはそれらの個体から感じられる魂の総量に比例している、ということにもしばらくして気が付いた。


 つまり、敵が強ければ強いほど、その敵を倒したときに得られる寿命も大きくなるということだ。実に分かりやすくていい。


 そしてあらかた分析を終えてもう得るものがないと判断すると、


「よしっ、イグ、もういいよ。」


 と、イグに声をかけた。リナに倣い、イグも敵の命までは奪わずに立ち回っていたのだ。。


 しかし、それを聞いたイグはすぐさま処刑作業を実行する。


 襲い掛かる怪物の急所を正確に切り付け、一撃で次々と絶命させていく。


 リナも、もう一段階スピードをあげ、とんでくる敵の攻撃をかわし、すばやく敵の懐に入り込み、急所を的確に突く。


 リナの尋常でないところは、イグのように刃物で切り付けているわけではないのにも関わらず、その突きが皮膚を突き破って、その内部の臓器まで届いているところだ。


 怪物に臓器があるかは不明だが、とにかくその突きは確実に相手の『核』を破壊し、相手を絶命させる。


「イグっ!」


 背後で怪物を全て倒し終わったイグにリナは呼びかける。

 それだけでリナの意図を察したイグは、持っていた包丁をリナの方へ放り投げる。


 リナはくるくると回りながら飛んでくる包丁の柄の部分を器用にキャッチし、その見事な剣筋で、核を体の内部に隠し持っていた目の前の怪物の胴体を真っ二つに切断する。


 その最後の一体をリナが真っ二つにしたところで、その場の戦いは終了した。


 周囲の怪物の死体の切り傷から次々と光の粒が漏れ出してきて、その核を破壊した功労者のもとへと飛んでいく。


 そして無事リナも寿命を獲得し、ひとまず今日死ぬことだけは回避できた。

 この調子でバンバン敵を倒して永遠の時を―そう考えて次の戦場に向かおうとしたリナだったが、ふと違和感を感じて足を止める。


 イグも驚きこそしていないが、不思議そうにリナの方をじっと見ている。


 リナが感じた違和感の正体、それは。



「あれ? 私の寿命、百年くらい増えてないか?」




 ――――――――◆◇◆◇◆――――――――


「ッ!」


 船内には衝撃が走っていた。


 異常事態も異常事態だ。

 デュフォンも長いこと生きてきたが、こんなことは初めてだった。


 それは地上に突如出現した大きな生命反応。その大きさは百年級。


 一応デュフォンも百年級の将だ。

 だが、それは地道に『ザーク』を倒してきた結果であって、こんな突如として百年の寿命を獲得したわけではない。


 寿命の大きさはデュフォンの世界で、強さを表す指標としての役割も果たしていた。


『ザーク』を倒した数が多いほど、当然、強いとみなされる。

 一方で、『ザーク』にも持っている寿命の大小があり、それがそのまま『ザーク』の強さに直結していた。


 ならば、百年級の『ザーク』が地上に降臨したのか。

 いいや、それはあり得ない。

『ザーク』は強ければ強いほど発生に時間がかかる。

 こんな『命喰い』が発生して数時間しかたっていない地球で、そんなに早く百年級の『ザーク』が出現できるはずはない。


 ならば一体何が起こったのか。

 それが分からないからこそ、船内の者達に混乱が生じているのだ。


 そのとき混乱に騒めく船内に、凛とした声が響く。


「みんな、ちょっといいかな?」


 その場が水を打ったように静かになる。


 奥から出てきたのは、その声の主、淡い朱色の髪をなびかせ、すらりと脚の長い、儚げな雰囲気をまとった女性だった。


「ノア総監…」


 この船の総監である彼女は、周囲が静まると、にっこりと儚げに微笑んだ。


 それだけで皆の動揺が収まる。

 そばにいるだけで皆の心をまとめ上げることができるカリスマ性。

 彼女もまた常人とは一線を画す「持つ者」だった。


 そんな彼女は周囲の一人一人に目を向けるように首を回しながら、静かにその場の全員に告げる。


「みんな、方針変更だ。私は小型艇で今すぐ突入する。デュフォン、ついてきて。」


読んでくださってありがとうございました!

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良ければ次の話も読んでみてください!

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