#1-3 みんな
今日は いつもの昼休みとは 少し違った
晴れの日なのに 怪我人なし 体調不良者なし
部屋は暗く エアコンや 扇風機すら ついていない
今日は 保健室の先生は 出張で いない
いつも通う 俺ら 3 人だけの 特別な部屋と化している
「 先生いないのに わざわざここ来ていいの 」
「 別にいいよ どうせ教室に居ても ぼっち飯だもん 」
ふと 気になっていたことを 問いかけた
ゆいゆいは いつも先生へ相談しに来ていて でも今日は先生いないのに なんでここに居るんだろう って
ぼっち飯 かぁ
友達と 食べたくないの
もしかして いじめられてるのかな
こんなに 話しやすい子なのに
女の子って やっぱり 性格悪いのかな
ほら よくさ いつも仲良くしてる子の 悪口 かげぐち とか言ってるし
俺らの前では 優しく話しかけてくれてるけど 裏があるんやね
異性だからってのもあるけど なんだか怖い
こう考えると ゆいゆいは裏なさそうだし 優しいなぁ
なんでこんな良い子が 悩まなきゃいけないんだろう
部屋には いんいんめつめつたる雰囲気が流れる
誰も 話さない
昼休みは終わりかけだけど かといって次の授業がすぐ始まりそうなわけでもない
予鈴もなっていないし
最初の方は お弁当を食べていたから 好きなおかずとか話せたけど
あまりにも一緒にいる時間が長すぎて 話す内容がなくなってしまった
なっちゃんなんて ずっと保健室にいるから 話し尽くしちゃったんだろうね
「 ごめん もう耐えられない 」
小さな声で なっちゃんは呟く
ベッドのはじっこにいるゆいゆいには 聞こえていなさそう
なっちゃんは 黒いリュックの中から 薬のシートを取り出した
チャック付きの 袋の中に 5 シートほど まとめられて入っている
俺が処方箋をもらった時の袋も 同じくらいの大きさのチャック付き
きっと ただの処方箋
俺の勝手な想像やけど なっちゃんは 薬が嫌いで 症状がひどい時しか 使っていなかった とか
確かに 俺の目の前で なっちゃんが薬を飲んでいるとこ 今までで見たことなかった気がする
でも ごめん って どういうことだろう
OD じゃないよな
「 なっちゃんっ 」
薬のシートから 慣れた手つきで 錠剤を大量に取り出していく
気付いた時には 取り出した錠剤 ( 70t くらい ) をてのひらに全てのせて 一気に口の中へ流す
その瞬間 お弁当を食べていた時にはなかった 150ml ほどの小さな水筒を口に近づけ
酔った人がビールを気持ちよく飲んでいるかのような テレビコマーシャルでよく聴く音を出し
錠剤も水も 一気に飲み干した
気付いた時には みんなの顔に血色はなく ほんわかしている空気に変わっていた
天井には 芋虫のような カラフルな物体が うようよ飛んでいる
目が悪くてよく見えないけど みんなのこうかくは上がっている
みんな 笑っている
チャイムの音が聞こえても この夢のような世界は変わらない
飲んじゃったね
ついには 1 日これくらいって決めてた薬が入ってるやつは 全部なくなってて
なぜか手に持ってた箱ごと飲んじゃったね
気持ちいいね
楽しいね
みんな 楽しいね
これで からだも治るよね
今日は楽しいなぁ
えへへ
虫さんも お魚さんも みんな笑ってる
先生 俺の病気は治るんですか




