#0-1 溺愛されたい独りの子
「 ただいま 、 」
久しぶりに帰ってきた家 。
否 、帰ってくるしかなかった 、という表現が正しいのだろうか 。
最近は 、雨音や 、陽翠の家に泊まらせてもらっていたから 、
洗濯物も塵も 、大量に溜まってしまった 。
だから 、帰ってくるしかなかった 。
もし 、少しでも溜まっているところが見つかってしまうと 、2 時間程殴られるだろう 。
幸い 、俺がいない間 、家には誰も帰ってきていないようだった 。
珍しく 、LINE も電話も掛かってきていない 。
だから 、今日こそは 、帰ってくるかもしれないな 。
何もかも 、早めに終わらせて 、さっさと寝よう 。
家族がいるときは 、部屋で静かにしておくのが 1 番だ 。
俺は 、家族が嫌いだ 。
買い物に行ったときや学校からの帰りでは 、ほぼ毎日家族連れの姿を見かける 。
俺は 、その姿を 、いつも醜く感じる 。
楽しそうな時間を見ると 、全てぶち壊したくなる 。
遥か昔から 、明るい家庭は 、俺の「憧れ」だった 。
父親は 、まだ 30 代で 、ホストをしていて 、
母親は 、浮気をしているのか 、いつも彼氏らしき奴を連れてくる 。
今まで 、純粋な愛情というのを貰ったことがなく 、分からなかった 。
どちらも 、帰ってきてすぐ俺がいることを確認したら 、気絶するまで殴り続ける 。
ただ 、もう慣れてしまって 、気絶するまで時間が掛かってしまうようになった 。
年齢と共に 、身体には痣の数が増えていく 。
今では 、年中長袖が手放せなくなった 。
「 ... あはっ ♡ 」
年齢や痣と共に 、ずっと苦しみは増えていく 。
学校での人間関係 、追い付かない勉強 。
家族が家にいなくても 、毎日溜まる一方だった 。
何事にも 、繊細になっていくこの身体 。
俺は 、誰かに助けてほしかった 。
愛してほしくて 、愛してほしくて 。
俺は 、所謂病み垢を始めた 。
それに伴い 、「 オーバードーズ 」も始めた 。
タイムラインに流れてくる病み垢の人達は 、自殺未遂を繰り返しているような人達 。
そいつらの方が 、リプもいいねも多かった 。
誰にも負けないくらい 、愛されたかった 。
日々 、薬の量は増えていく 。
今日は 、2 瓶飲んだ 。
最初にすぐ来る頭痛と吐き気を乗り越えれば 、ふわふわして気持ち良くなる 。
その気持ち良さは 、俺の心を楽にしてくれる 。
自殺は 、考えられなかった 。
死にたいより 、消えたいという方が 、俺の心としては正しい 。
この醜い残酷な人生を 、なかったことにしたい 。
何もかもなかったことにして 、来世は楽しく生きたい 。
薬で死ねるんかな 。
なんてことを 、授業中にぽろっと言ってしまったようで 。
その時隣の席だった雨音も 、オーバードーズをしていたことが分かった 。
それから 、陽翠とも話すようになって 。
仲間ができて 、嬉しかった 。
家に帰りたくない 。
その気持ちが強くなった 。
「 独り 」は 、嫌いだ 。
このままずっと 、誰かに依存していたい 。
俺に 、たくさんの愛情を恵んでほしい 。
そんなこと 、誰にも言える訳ない 。
これが俺の本心 。
生きているうちに 、誰かに分かってほしい 。
愛してほしい 。
そんなこと 、叶わない 。
今日も俺は 、自分を殺すために 、
薬漬けの日々を送る 。
... これで 、良いんだろうか 。