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翡翠さん、アメリカで画策したあとでパリを再訪、でもウンコは踏みません

新宿で飲み会があって、1次会で切り上げて帰ってすぐ寝て、目覚めたらまだ酒を飲む時間だったのでウィスキーを飲んで書きました。はい、物書きの酔っ払い運転です。

「めっちゃ羨ましいぞ、ヒトラーめ!犬のウンコ踏め!」


「そう言うな、女神よ。実際にパリで犬のウンコを踏んだ俺が悲しくなる。」


「パリの道路は犬のウンコだらけだな。何で日本みたいに飼い主が始末しない?」


「ウンコを持ち帰るという発想がないんだろ。」


「読者のみんな、景観に見とれていると犬のウンコを踏みやすくなるから、常に足下チェックな!それからリュックは前に抱えて財布を取られないように常時警戒モード!」


「パリは危険がいっぱい....というほどでもないな。ヴェネツィアとかと比べれば。」


「パリとかけて?」


「ウンコと解きます。その心はどっちもつかみ所がない。」


「紺野ぶるまをパクるのかと思った。」


「男がチンコと解きますと言ってもウケないんだよ。」


「まあそうか。じゃあマ...」


「やめいっ!おまえな...バンされるかもしれないから本当にやめれ!」






 翡翠はニューヨークのロスチャイルド財団ニューヨーク支店に来ていた。


「こんにちは。私、ジェイディ御巫と申します。財団の芸術家支援について相談があります。責任者の方に会えますでしょうか?」


「はい、こちらの応接室でお待ちください。」



「こんにちは、御巫様。私、ニューヨーク支店を任されているジェイコブ・コーエンです。お話を伺いましょう。」


「ヨーロッパの若手芸術家への支援活動を立ち上げていただきたく参上いたしました。基金の原資はここに300万ドル用意いたしました。私の私財、というか親から受け継いだ遺産の一部です。」


「おお、これは!」


「基本的に支援対象は、ヨーロッパ各地から芸術家を志してパリに集う若者たちです。選考は公募ではなくて、実績を秘密裏に観察した結果、こちらから本人に伝えます。財団の名前は、本人の成果が一定の水準に達したときに伝えます。つまり、こちらの財団には何の経済的負担がかからず、支援をしたという事実だけが残ります。いかがでしょうか?」


「そんなこちらにメリットしかない条件を提示されて、うかうかと話に乗っても良いものかと。」


「支援対象者が成果を残せない場合は財団の名前は伏されたままなので、リスクは何もないかと。」


「たしかに。」


「300万ドルのうち、100万ドルはここにお預けします。看板代のようなものです。残りの200万ドルは、すでに始動中の支援プログラムのために使わせていただきます。」


「了解いたしました、御巫様。成功を祈っております。」




「お久しぶりです、ヒトラーさん。パリの生活はいかが?」


「おお、マドモワゼル御巫!フランス語の日常会話はほぼ問題なくなりました。やはり周囲がすべてフランスなので習得のモチベーションとプレッシャーが大きいからだと思われます。」


「絵は描いてらっしゃる?」


「はい、毎日セーヌ河畔やリュクサンブール公園で風景のデッサン。そして請われるままに似顔絵として人物画も描いています。人物画は、商売をしているわけではないのですが、買ってくださるお客様がいるので励みになります。」


「それは素晴らしい。それではそろそろ美術学校のことも考えましょう。パリにはたくさんの選択肢があります。そして美術学校ごとに様式が異なっています。ヒトラーさんはこの半年、パリの美術界のトレンドを調べましたか?」


「はい、荒々しい筆致で有名なフォーヴィスム、アンリ・マティスが筆頭です。作品はまだ謎に包まれていますが、キュビスムというものがあり、パブロ・ピカソというスペイン出身の画家が主導しているようです。一般に写実から抽象的構成へ関心が高まっているようです。今まで通りの美しい模写では古いスタイルと受け止められてしまうようです。しかし、亡くなったセザンヌの影響もまだまだ強く、後期印象派の人気は高いようです。」


「なるほど、イノヴェーションの覇権を争う群雄割拠と行ったところでしょうか。ヒトラーさんはどのような絵を描きたいのですか?」


「私はこれまでおとなしい古典的な絵を描いてきましたが、パリという風土に触れて、新しい様式の模索を考えております。」


「なるほど、では美術学校の候補を考えましょう。一番の権威は国立のエコール・デ・ボザールです。ただ、国立の権威ですから古典主義に傾きます。フランスの古典主義は、ルイ14世のころから、フランスこそギリシャ・ローマの伝統を受け継ぐヨーロッパの中心であるという信念に基づいていますから、外国人の学生にとって居心地が良いかどうかはわかりません。私立の学校、アカデミー・ジュリアン、アカデミー・コラロッシ、アカデミー・グランド・ショーミエール、アカデミー・ド・ラ・パレットは、それぞれ新進気鋭の講師に習うことができます。とりあえずすべて回って自分に合う学校を探してみてはいかがでしょう?授業料はすべて財団が払うので費用は気にする必要はありません。」


「複数の学校に通うことも可能なのですか?」


「もちろんです。たいていの学生は掛け持ちで、午前中はジュリアン、午後はコラロッシのように通学しています。すべてカルチェ・ラタンにあるので徒歩で行き来できますから。」


「わかりました。まだあまりフランス語に自信はありませんが、描きためた作品を持って入学が可能かどうか訊いて回ります。」


「はい、頑張ってくださいね。私はまたアメリカに帰ります。今度会えるのは、たぶん3年後ぐらいでしょう。」


「ウィ、マドモワゼル!成長した姿を見せられるよう頑張ります。」



 翡翠はヒトラーと別れてモンマルトルのカフェに来た。パリには女の乳房のように2つの丘がある。モンマルトル(殉教者の丘)とモンパルナス(アポロンとムーサの丘)。どちらも芸術家が集う場所として有名だが、翡翠は今日モンマルトルに来た。痛みや受苦の予感を得たからだろうか?



「きゃっ!」


 誰かが相手に投げたワインの一部が翡翠にかかった。


「おい、角砂糖を並べた絵とは何だ!」


「四角形のオブジェで溢れた絵画のどこが前衛だよ!


「複数の視点から観察すれば立体的に見える。おまえは学校に戻って物理学を勉強しなおせ。」


「世界はそれぞれ単数の視点で受け取られる。一度に複数の視点から観察された世界を表現すればグロテスクでしかない。美術は美しい技(beaux arts)だろ?」


「ふん、古典主義の俗物め!表に出ろ!」



「やめなさい!」


 翡翠の一喝が場を鎮めた。


「芸術についての議論が暴力に帰結するのですか?美は多様で捉えられないからこそ美なのではないのですか?私、ワインをかけられましたよ。」


「すまない、マドモワゼル!」


「Je viens du Japon. On dit là : une fois c'est une fois!」


 翡翠はグラスの水を相手にぶちまけた。


「水でもかぶって反省しなさい!面倒なのでメークアップしませんが。」


「おう、これは何と勇敢な!自己紹介させてください。私はギョーム・アポリネール。詩人です。お名前を伺ってもよろしいですか?」


「ジェイディ御巫、日系アメリカ人です。」


「おお、ジャポネーズ!プッチーニのオペラを観ました。」


「ふん、あんなものは腐ったオリエンタリズムです。あれを観て怒りが湧かないなら、あなたも同類ですね。火星に代わって折檻されればよろしいかと。」


「先ほどからくり出される独特な攻撃に不思議な感動を覚えます。」


「まだまだあるんですよ。でも、あなたはもっと過激な“1万1千本の鞭”をお持ちでは?」


「え、それは....匿名で出したもので....こんな公衆の面前で言及されると困ります。」


「ふふふ、羞恥心はあるのですね。良いでしょう。オーストリアから来た画家のイトレール氏、できれば会って元気づけてください。外国人なので友人がいません。パリの前衛芸術について教えて挙げてください。実直で真面目な男性です。」


「わかりました、マドモワゼル。」



アポリネール、いまネットで検索して始めて顔写真を見ました。思っていたのと違う。まあ、往々にして作家とその画像がいまいち結びつかないことがありますよね。

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