表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

84/110

翡翠さん、結局銃撃戦を止められなくなっちゃって...西部劇ってこれだから

翡翠さん、慣れない西部劇への介入でいろいろ苦労します。

「西部劇っぽくなってきたな、青水よ。」


「西部劇だからね。ちなみにレイチェルを演じたのはオードリー・ヘップバーンだよ。」


「へえ、オードリーと西部劇はなんか結びつかない。」


「妊娠中に出演して落馬して流産した。」


「しかし、翡翠がインディアンに間違われるのはわかるとして、オードリーがあの顔で実はインディアンでしたというオチはピンとこないな。」


「そこが謎だな。まあ1960年だから主要な役は白人の大スターが演じるという縛りがあったのだろう。ホワイト・ウォッシングというのは、いまだにはびこっている。顔のメイクで日本人役をやられるとちょっとなんだかねとは思うけど、“攻殻機動隊”のようなサイバー系は別に白人でも良いよ。スカーレット・ヨハンソン、かっこよかったじゃないか。実写版“ワンピース”や“ドラゴンボール”もしかり。元がアニメだから白人でも違和感がない。」


「女神は顔が白人だけど、JKスタイルぐらいは何とか違和感がない。」


「あああ、あれはAIが察して絵柄をマンガ風にしたからだな。実写だと違和感が出まくる。女神という設定のせいか、なぜかおまえの実写風は描いてくれないんだよ。顔が怖くなりすぎるからな。いわゆる“畏れ多い”というやつだ。良かったな。」


「畏れ多いと人気が出ない。かわいくてきれいなのが良い。」


「かわいいコスを着せると自動的にマンガになって、それなりにかわいいんだから良いじゃないか。」


「翡翠みたいにどんなコスを着ても翡翠のままでかわいいのが羨ましい。今のままで白馬に乗ってやる。」


挿絵(By みてみん)


「ははーっ!女神様、今月の供物はどうかしばらくお待ちを、かしこみかしこみ申します。」


「どうした?」


「こえーわ。供物が遅いと白馬に乗って恫喝に来た女神だわ、それ。ティアラも完全に角になって身体と一体化してるし。まさに鬼女神。」


「威厳と言え!」


「待てよ...角があるからこのまま魔王も行けるんじゃね?」


挿絵(By みてみん)


「やめいっ!勝手に魔界でドラゴンに乗せるな!女神っぽさがなくなる!」


「はっはっは、目つきが虚ろになって恐怖がマシマシだ。ロケーションとコスチュームで人はこれだけ変わってしまうんだなあ...」





 場の緊張が高まったので、翡翠はとりあえず双方をなだめつつ話を整理した。


「ウィルさんとエイブさんはカイロワ族に襲われてウィルさんだけが殺されたんですね。ではなぜカイロワ族はお二人を襲ったのですか?何かの復讐とか?」


「俺とウィルはこの界隈で牛の仕事をしていたんだ。まだ自分の牧場は持っていなかったので雇いのカウボーイだな。カウボーイとインディアンは争う定めよ。俺たちは牧場を広げてたくさん牛を飼いたい。インディアンは、それによってバッファローの狩場が減ってしまって食うのに困る。そこでやつらは俺たちの牛を盗むんだ。盗まれたら仕返しに行く。俺とウィルは奴らの集落を襲って皆殺しにした。そのときだ、ウィルが赤ん坊の女の子を見つけてそのまま連れてきてしまったのは。マチルダは知ってるんだろ。ウィルが女の子を連れ帰ったのを。」


「白人の子どもがインディアンに盗まれていたから取り返してきたと言ってたわ。」


「しばらくして俺の息子がカイオワ族に捕まったんだ。連中は俺に、前に連れ帰った女の子と息子を交換してやると言ってきた。俺はウィルに頼んだんだ。あんたが盗んだものを返してやれってな。そうすれば俺の息子は助かる。ところがウィルの野郎はそれを断った。そんな理屈が通ると思うか?だがウィルは、娘は自分のものだ、返すつもりはないと返事した。結果どうなったと思う?息子はインディアンのやり方で殺された。これだけでも俺はウィルを撃ち殺す理由があったというもんだ。しかし、ウィルは俺にではなくてカイオワ族に殺されちまったというわけよ。」



 このままでは水掛け論になり、発砲騒ぎになりかねない。翡翠は一計を案じた。


「血で決着を付けましょう!」


 男たちは一斉に銃に手をやった。


「いえ、殺し合えと言ったのではありません。そして、失礼しました。今のは私が前提を誤った結果の発言です、レイチェルさんが皆さんと同じ血族なら、血を検証すればわかると言いたかったのですが、そうではありませんでしたね。レイチェルさんは養子、そして親は不明。そうなると人種的特性に頼って判断するしかないのですが、レイチェルさんは...髪の毛と瞳がダークブラウン。これはカイオワ族の特徴と同じです。ただし肌の色が白い。ご兄弟たちより、マチルダさんより白い。これは、もしカイオワ族だとすると少し不自然です。」


「そうだろう?だから俺たちはレイチェルが白人だと言い続けてきたんだ。」


「エイブ・ケルビーさん、あなたこのことをカイオワ族に話しましたか?」


「う...それは...」



 緊張が高まったとき、数騎の武装したカイオワ族の戦士たちが現れた。リーダーは、ロスト・バードという英語の名前を付けられていた。


「妹を返せ!」


「何だと!」


「そこの白人の爺が言った。レイチェルは俺の妹だと。」


「おまえ、何と言うことを...」ベンは銃を抜いた。


「やるって言うのか?」ケルビーも銃を抜いた。


「わわわ、ちょっと待ってください、皆さん。いや、ホント、ちょっと待っててね。ほら月煌!ね、珍しいでしょ?これを見て待っててね。」


 翡翠は数歩離れたところで女神回線を開いた。


「女神様、ピンチです。エミリーさんを至急転移させてください。銃弾は多めに持たせて。」


 月煌がフワフワ飛び回って緊迫した状況を毒舌で撹乱している間にエミリーがやる気満々の笑顔で現れた。


「お、撃ち合いか?私も交ぜろや!」


「エミリーさん、ヤンキーの喧嘩じゃないんですから!ガンホルダーから取り出した銃を全部撃って弾き飛ばしてください。格の違いを見せつけてください!」


「OK, Baby!」


 目にもとまらぬ早撃ちで、ベン、キャッシュ、そしてエイブの銃は弾き飛ばされた。その状況を見ていたロスト・バードがライフルを構えると、それもエミリーは手早く始末し、配下のインディアンたちを牽制しながら銃に銃弾を装填する。


「撃ち合いは危険なのでお友だちのエミリーさんに無力化してもらいました。彼女は強いですよ。魔物相手に戦ってきましたから。」


 翡翠は状況を見ながら、インディアンのグループを警戒した。彼らは銃の他に弓矢とトマホークを持っている。ここは派手に、かつてチャーリーとテレサをルイヴィルへ連れて行ったときのように、彼らの迷信的恐怖心を喚起するべきだろう。


「マーズ・クリスタルパワー!メークアップ!」


挿絵(By みてみん)


 翡翠は土魔法で打撲傷程度のダメージを与える岩をインディアンたちに降り注ぎ、大地を集団の範囲で1.5メートル陥没させた。2メートル陥没させるとあとで馬を引き上げられなくなる。


「お聞きなさい!私は火の戦士セーラー・マーズのコスを着たセーラー・ジェイド!それ以上の乱暴狼藉は火星に代わって折檻します。」


 カイオワ族は火に対するトーテム信仰を持っていたのでこの威嚇は効いた。みんな武器を下げて跪いた。


 無力化されたザッカリー家の人々とエイブ・ケルビーは、メークアップした翡翠の姿に戦意を失っていた。


「さて、レイチェルさんの出自について、これ以上の議論は無駄だと思います。この時代の技術では人種の確定はできません。レイチェルさんが金髪碧眼でしたら、白人として確定なのですが、肌の色とまるでハリウッドスターのようなお顔立ちだけで白人と断定するのは、まあみなさんのお気持ちは理解できるのですが、難しい。ここは、レイチェルさん本人に判断していただくのが良いのではないでしょうか?不確かではあるけれど己の血脈に戻るか、あるいは育った環境に留まるか。ロスト・バードさん、それで良いですね?それからエイブ・ケルビーさん、あなたの過去のいきさつを考えると無念は理解できるのですが、これ以上この問題に関わると何の得にもなりませんし、この西部の風土では悪として裁かれてしまう未来しかありません。おとなしくこの土地を去って静かな暮らしをなさってください。はい、これは女神様が黄金の魔物を退治したときに手に入れたゴールドです。これで何か小さな商いでも始めてください。」



この「許されない者」という映画は、アメリカン人にはウケたんでしょうが、何か小さな胸くそがいっぱい詰まっている気がします。あのエイブ・ケルビーという爺さん、そんなに悪いか?映画では主人公のベンに引っ張り出されて絞首刑だよ、野蛮な。何の罪?たしか馬を盗んだんだっけ。でもそれが本当の理由じゃない。家族の尊厳を傷つけたからってことでしょ。ケルビーの家族はどうなるの?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ