翡翠さんは出ませんが、女神がますますやりたい法題しています。
タイトルを「翡翠さん」で始めるしきたりなのが辛かったですね。だって1ミリも出ないんだもの。
「女神、おまえ...やっぱりいないか。ん?また手紙か?」
「拝啓 青水様、 季節の変わり目が近づいておりますがいかがお過ごしでしょうか?お酒はどうか控えめに。試練、本当に心配しておりますのよ。青水様が倒れたりしたら、私...もう...どうしたら良いかわかりません。本当に、本当にご自愛くださいませ。梅干しの壺を送りました。必ず毎日一粒は食べてクエン酸と塩分を摂ってくださいね。試練は自分を見つめる旅に出て、いま中世の森で彷徨っております。怖い、心細い、女神なのに小娘のような無力を感じて涙が止まりません。青水様の顔を見たい、声を聞きたい、抱きしめて鼻をなめたい。こんな試練、迷惑でしょうか?」
「キモっ!サイコ系ストーカーじゃねえか!」
「追伸。 私がいない間に寂しくなったら見て思い出せるように、これまでのコスプレ画像をすべて収録したグラビア集を添付いたしました。寝るときはそばに置いてくださいね。」
「こいつの本気と冗談の境目がわからないのが恐怖だ。」
「さて、そう言ってベルタを残して出てきてしまったが、エックベルトの城へまっすぐ行っても良いものだろうか?そもそもベルタはなぜ兄と別々に育てられたのだ。ふっふっふ、こういうときのためにProjekt Gutenberg がある。大して長い小説でもないので女神速読でスキャンしてみよう....お、あった。なんだ一番最後の種明かし的なところに書いてあったぞ。エックベルトが狂い死にする直前だな。どれどれ....
エックベルトは叫んだ、「なぜ私はこの恐ろしい考えをずっと予感していたのか?」魔女は答えた。 「それはおまえが幼い頃に父がその話をしていたのを聞いたからだ。父は妻の機嫌を損なわないよう、この娘を家で育てることができなかった。なぜなら、彼女は別の女に産ませた子だったからだ。」
なるほど、妾の子であったか。悲劇のそもそもの根っこはこの親父の性欲に駆られた不貞か。ここまで遡って親父を懲らしめるとベルタが生まれなくなってしまうな。それでは介入が成り立たん。仕方がない、親父は許してやろう。いや、やはり許せん。子作りは許すが、何らかの罰を与えなければ、試練の女神としての面目がたたん。さて、どうしてくれようか?エラを呼んであの長い名前の禁忌魔法でピッコロにしてやるのも悪くない。いやいやいや、それではベルタが生まれない。そうだ、ベルタを仕込んで気持ちよく帰宅するときを狙ってピッコロにしてやろう。ふっふっふ、待っておれよ!」
「おい、止まれ!不貞の騎士よ!」
「む、何奴?」
「私は試練の女神。貴様に試練を課すために時空を超えてやってきた。」
「何、試練だと?」
騎士は剣を抜いた。
「ちょ、ちょっと待て!すぐに抜くな!こっちにも都合がある。エラを呼ばないとだな。」
「黙れ!女神を騙る面妖な魔女よ!我が剣のサビとなれ!」
「そんなん振り回して当たったら、身体は平気だけど、衣装が破れちゃうでしょ!」
女神はぴょんぴょん跳び回りながら剣を避け続けた。エックベルトの父親は息が上がった。
「ほらね、エッチなお楽しみの直後だからすぐに息が上がるのよ。このエロ親父!待ってな、今エラを呼んでピッコロにしてやるから。エラちゃ~ん、カモ~ン!」
「ちょっと女神、開店準備中だったのに、何?」
「こいつをピッコロしてやって!不倫で女を孕ませてきたところなの。」
「えー、そんなのいちいちピッコロしてたら世界中がピッコロだらけになっちゃって逆に女が困るよ。」
「こいつは悲劇の源だから特別なの。はい、ピッコロお願いね。」
「しょうがないな~!、ヴァイタル・アブソーブ・ミクロ・ドレイン・ピッコロ!」
「はっはっは、ざまあ!奥さんと愛人に謝っておけな!ほんじゃバイバイ!」
「ご苦労だったな、エラ。褒美の梅干し...」
「いらない。じゃあね!」
「さて、試練なのか神罰なのか、とりあえず小さな胸くそはこれでスッキリしたぞ。次はエックベルトの城...待てよ、ここで式神に捜索させるとまた100ゴールドの借金になるじゃないか。くそお、面倒くさいな。まず金策をしておくか。出でよ、式神!」
「はい毎度ありがとう。今日は何の用事だ?」
「手軽にできる金策を探せ。こないだみたいに2年間で100ゴールドという非効率なのはダメだ。」
「かしこまり。」
式神は走り去り数分後に戻ってきた。
「ここから3時の方角、1200メートル先にゴールドスパイダーの洞窟があるよ。1匹200ゴールドが集団で住んでいる。」
「よっしゃ、案内しろ!」
「別料金だけど良い?」
「かまわん、案内しろ!」
「ここだよ。」
「よしご苦労。収束!」
「ふっふっふ、ゴールド取り放題だ。行くぞ!」
ゴールドスパイダーの群れは、思った通り、粘液を纏った糸を吹きかけてきた。女神は剣と盾で防ごうとしたが、多勢に無勢で防ぎきれない。
「うわっ!ベトベトしてキモっ!もー、ワンダーウーマンのコスがベトベトじゃないの!ふざけんなよ、こんのー!」
ベトベトのギトギトになった汚い女神は剣を振るってすべてのゴールドスパイダーを瞬く間に倒した。
「出でよ、式神!」
「はい、おめでとうございます。6匹で1200ゴールドになります。今の召喚で100ゴールド差し引きますから1100ゴールドです。」
「良し、エックベルトの城に案内しろ!」
「そのベトベトの衣装で行くんですか?」
「いや、着替えるよ。」
「女神はアイテムボックスを持っていないでしょ。私がクリーニング預かりしましょうか?」
「おう、それは便利だな。よろしく頼む。」
「500ゴールドになります。」
「高っ!まあ仕方がない。頼む。着替えたらエックベルトの城に案内しろ。」
「今会いに行ってもまだ赤ん坊ですよ。」
「あ、そうか。面倒くさいな。とりあえず収束っと。さてさっきの時間へ転移だ。」
遠くで犬が喜んで吠えている。ベルタが犬に餌を与えているようだ。犬の名前らしい“シュトローミアン”という声が聞こえる。
「出でよ、式神!」
「はい、エックベルトの城までですね。では参りましょう。女神の残高は500ゴールドです。」
「ここか。わりとちっぽけな城だな。何て声をかけるんだっけ?たのも~、は違うな。これは17世紀人ミナルナの台詞だ。あれ?“たのもー”を封じたら西洋風の声かけが何だかわからなくなったぞ。ええい、ままよ!テキトーなドイツ語で怒鳴ってみよう。
„Hey! Ich bin die Göttin der Prüfung, gekommen, um dich zu sehen und sprechen!“
威厳もへったくれもないな。まるで大学生の独作文だ。我は試練の女神、おまえに会って話をしに来たぞ、って。まあ通じれば良い。」
「女神だと?私に試練を課すというのか?」
騎士エックベルトが出てきた。グーテンベルクのテクストにあった通り、中肉中背で短い金髪。だがまだ少年だ。少年騎士だ。ピッコロにされた父と母と暮らしているのだろうか?
「うむ、心の試練だな。だがその前に尋ねるが、ご両親は元気か?」
「父も母もいつも不機嫌だが病気ではない。」
「そうか。ピッコロの影響か。悪いことは言わない。父におまえのティンティンを決して見せるな。何をされるかわからないぞ。さて、それでは付いて来い。会わせたい人間がいる。」
女神の式神、なぜか子リス、実は結構有能だけど、コストがねえ。