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翡翠さんが休暇をもらって実家に戻り、女神がやりたい放題をします

女神の悪巧みなのでしょうか?謎の失踪、謎の置き手紙で始まりますが...


「いや、めでたしめでたしだった....って、あれ?女神がいない。あの出たがり女神がいないぞ。ん?何だ?置き手紙か?」


「青水よ、少し疲れた。頑張っているのにちっとも認めてもらえない。悪徳プロダクションに入ってしまい苦労ばかりで人気が出ないアイドルの気分だ。私の代わりに梅干しの壺を置いて行くから、それをしゃぶって私のことを思い出してくれ。そして頼む...探さないでくれ。 試練の女神。」


「は?何がアイドルの気分だよ。ふざけんな。数万年も生きてきたくせにやさぐれたガキのようなことを言いやがって。ふん、いなくなってせいせいするわ。誰が探すか、このあんぽんたんが。」




挿絵(By みてみん)


「女神様、お久しぶりです。ずいぶんと勇ましい格好ですね。」


「うむ、戦闘に赴くときは同業者の装備を使おうかと思って。愛と正義のセーラー...じゃない、ワンダーウーマンだ。」


「かっこいいですね。憧れます。」


「翡翠のマーズ・クリスタルパワーには負けるがな。あれ、ずるい。巫女つながりでなおかつ黒髪つながりなんて。」


「いえいえ、私のは青水さんの悪ノリの結果ですから。」


「うむ、あいつは調子に乗ってる。いまいましい。ギャフンと言わせなければ気が収まらない。」


「そうですか?そんなことはないと思いますけど。」


「いや、おまえにはわからないのだ。あいつがどれだけ陰気で弱虫でケチでバカで情けなしなのかを。ふう、台詞が長くなりすぎて途中で切らざるを得なかった。あいつは怠惰で酒飲みで人をおちょくるのが大好きな最低野郎で思いやりの欠片もない。要するにだ、お仕置きが必要なのだ。わかったか?」


「はあ。」


「そこでだな、翡翠よ。ものは相談だが、しばらく休暇をやるから故郷に帰って墓参りをしたり温泉でくつろいで命の洗濯をして来ないか?あとのことはこの女神に任せろ。」


「よろしいのですか?」


「ああ、もちろんだとも。あれだけ長期にわたってアメリカとヨーロッパを行き来し、革命のフランスから国王夫妻を救出したんだ。それくらいの褒美があるのは当然なんだよ。うちはブラックじゃないのだから。」


「わかりました。ではしばらく実家に帰らせていただきます。」


「うむ、行ってこい。お父様とお母様によろしくな。」



「ふっふっふ、行ったか。これで私の思いのままだ。お気に入りのワンダーウーマンをご披露できたから、次は何にしようかな?そうだ!翡翠がいないので私が介入してやろう。まずは、目立たないところで、読者も名前を知る人が少ないルートヴィヒ・ティークの『金髪のエックベルト(Der blonde Eckbert)』に介入して悲劇の源を断ち切ってやろう。ふっふっふ、私は翡翠のように甘くはないぞ。待ってろよ!」



「ふ、ここか、年代もはっきりしないメルヘンの中世。森と城があるわかりやすいテンプレ設定だ。ティークよ、おまえも雑だのう。たしかベルタという少女が貧乏な家から逃げ出して森に迷い込むんだったな。この設定もグリムのヘンゼルとグレーテルをパクってるんじゃないのか?お、いたいた。初の出動なのでコスチュームはバッチリ決めてきたからな。」



挿絵(By みてみん)


「これ、少女よ。怖がることはありません。私は試練の女神。人々に成長を促す試練を課す者です。あなたは道に迷っていますね?」


「はい、父に穀潰しと罵られていたたまれなくなって家を飛び出しました。」


「そして森で道に迷い空腹で倒れそうと?これは実に美味しい試練です。大切に噛みしめたほうが良いですよ。そうだ、この梅干しを一粒授けましょう。酸味が唾液を分泌させてますます空腹を感じることになりますが、塩分とクエン酸とわずかなカロリーが得られますからマイナスにはなりません。さあ、迷わず我が試練を受けよ。」


「ひぇ~ん、酸っぱいです~。」


「そこで泣かずに完食すれば自ずと道は開けましょう。どうです?」


「遠くに家が見えます。」


「そう、それがあなたの第2の試練です。あそこには魔女が住んでいます。でも恐れる必要はありません。家の手伝いをしていれば食事と寝床は確保されます。さあ、行って飛び込むのです。」


「ありがとうございます、女神様。」



 ベルタは駆け去った。女神は初の介入に酔いしれてよだれが止まらなくなった。


「よし、しばらくやることがないので、ここいらの魔物でも狩ってやるか。何かいないかな?翡翠の式神みたいなのが欲しいな。ん?こないだ分身が出せたのだから、私も式神が出せるんじゃないか?失敗したら収束、よしこれで安心だ。出でよ、式神!」


「ご用は何ですか、女神様?」


 リスの形をした式神が現れて目をパチクリさせながら女神を見ている。


「おまえが式神か。何でリス?」


「女神様が子リス大好きと聞いたので。」


「それは女神違いだ。まあ良い。このあたりに魔物がいないか見てきなさい。」


「了解しました、女神様。料金は1回100ゴールドです。」


「カネを取るんかい!」


「はい。なおゴールドはゲーム内通貨ですのでリアルマネーで購うことはできません。現在ゼロなので、マイナス100ゴールドになります。」


「まあ良い。さっさと行け!」



しばらくすると式神子リスが戻ってきて報告した。


「ここより8時の方角、500メートル先、魔獣がいた。金ピカで強そうだ。倒せばゴールドが手に入ります。」


「よっしゃ!バトルモード女神の姿に酔いしれろ!」


挿絵(By みてみん)


「ふっ、メスの金色ミノタウロスか。金満牛女、覚悟!」


 金色ミノタウロスは動きが緩慢なので女神の剣は簡単に敵を切りつけることができるが、金色の皮膚は恐ろしく硬く、1撃のダメージは微弱だった。女神は緩慢な敵の攻撃をかわしながら何度も何度も....そう数え切れないほど切りつけ、どれだけ時間が経過したのかわからないころにようやく魔物は倒れた。


「ふう、面倒かけやがって。私が梅干しパワーで疲れ知らずじゃなかったら大変なことになっていた。」


「女神様、100ゴールドを得ました。現在女神様は0ゴールドを所有しています。」


「くそお、何だ、この徒労感は!まあいい。ベルタの様子を見に行こう。子リス、案内しろ。」


「別料金が発生しますがいかがしましょう?」


「はん?ならば頼まん。収束!」



 女神が歩いて戻ると、魔女の館があった。バトルモードで押しかけては厄介なことになりそうなので女神は元の姿に戻った。



「おーい、ベルタはいるか?」


「あ、女神様!」


「どうだ、毎日の暮らしは?」


「掃除洗濯と鳥の世話と犬の世話です。」


「それだけか?」


「魔女様が読み書きを教えてくださったので本を読んで暮らしています。」


「ほう、そりゃ大当たりの魔女だったな。」


「はい、宝石や綺麗な着物に溢れた貴族の物語を読んで胸をときめかせています。」


「ほう、胸をな。そういえばおまえ、会ったときは平ら胸だったのに、少したわわの兆しが見えるようだが、そんなに年月が過ぎたっけ?」


「2年近く経ちましたから、私は14歳です。」


「な、何だと!私は金ピカウシ女と2年も戦っていたのか。たった100ゴールドなのに。」


「女神様、どうされました?顔色がすぐれないようですが。」


「いや、かまわん。そうか、14歳か。不良の入り口に立つ年頃だ。中坊デビューだな。おい、ベルタよ、悪いことしたくてムズムズしてないか?嘘をついても女神にはお見通しだからな。」


「はい、実は鳥が毎日宝石を産むのですが、魔女は数えているように思えないので、少しくすねてやろうかと。」


「それだ!来た来た来た、試練だ!それも特大の!これがすべての悲劇の源だからな。良いか、ベルタよ。この森の生活は森の孤独(Waldeinsamkeit)だ。これはティークの造語らしいが、別にたいした新概念ではない。外界との交流を断って森の中で無窮の平穏を過ごす。しかしおまえの好奇心、いや今は無害な響きの好奇心と言っておくが、深層においてそれはリビドーだ、おまえの潜在的リビドーが森の孤独に耐えられなくなる。侵犯の誘惑がおまえを苛む。さあどうする?おまえはこの試練にどう立ち向かう?」


「そんな難しいことを早口で言われてもわかんないですう。」


「じゃあ、ネタバレ覚悟で言っておこう。おまえがそのリビドーに屈したとき、おまえは実の兄と結婚することになる。禁忌だな.自然の理に反する許しがたい禁忌だ。」


「そんなのイヤですぅ。」


「そうだろ?だから私の言うことを聞け。良いか、私がおまえの兄を連れてここに戻ってくるまで森の孤独を壊してはならない。リビドーに蓋をしておけ。ほれ、この梅干しの壺をやるから、心が折れそうなときは一粒食べるが良い。クエン酸と塩分がおまえの情欲を浄化してくれるだろう。」


「ありがとございます、女神様。おとなしく梅干しを食べながら持っています。」



思った通りやりたい放題のめちゃくちゃです。しかも子どもにも容赦ない。でも...試練ちゃん、とても楽しそう。

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