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翡翠さん、無事に子どもたちをルイヴィルへ届けたら、幸せがもっと増えた

はい、どうやらフランス革命で王と王妃の首を守るミッションはこれで終わりのようです。

「おい、青水!」


「おや、宇宙からご帰還ですか、サワー・ガッデス?」


「いや、宇宙に行ってないわ。分身は翡翠がやってるように収束させれば良いだけだったわ。散々面白がって煽りやがって!そしてそのサワー・ガッデスというのやめろ!悪口だってわかったからな。」


「お怒りのようですね。まあこのハーゲンダッツでも食べて怒りを静めてください。クール・ダウン!」


「う、まあもらうけどな。」


「いかがです、お味は?」


「初めて食べる味だな。食感がいつものとずいぶん違う。」


「特注のハーゲンダッツ・マシュマロです。甘やかしの女神とハーゲンダッツ社の期間限定コラボ商品です。」


「貴様...暑いからミニカップ完食してしまったじゃないか。」


「特注品だからそれ一個しかなかったんですよ。おめでとうございます。」


「覚えてろよ。」


「いやあ、酒飲んじゃうと忘れちゃいますね。ところで翡翠の手際が鮮やかだったですね。」


「走りながらマーズに変身して攻略法を瞬時に考える。ああいうの、私もやりたい。」


「前にネプチューンにメークアップしたから読者も飽きてるよ。」


「これならどうだ!愛と正義のワンダーウーマン!」


挿絵(By みてみん)


「そんな決め台詞はないぞ。その姿、初期ヴァージョンだな。パンツじゃなくてそれはキュロットか。つまり最初期、1940年代のワンダーウーマンだ。キャプテン・アメリカと同じで全身からUSA万歳が見て取れる。」


「そうなのか?時代によっていろいろ違うのか?」


「テレビドラマ化された1950年代以降はずっとパンツだ。体育の時間に女子が履かされていたブルマみたいなやつ。もちろん星柄パンツ。現代の映画版からはワンダーウーマンのオリジンであるギリシャ神話に寄せて、説明しづらいが、下半身のミニスカ風ヒラヒラ鎧だ。」


「う、古い戦時プロパガンダ風のコスを着てしまったか。古いのは婆みたいでイヤだな。着替えよう。チェーンジ・ゲッター...じゃなくてトランスフォーム!」


「いろいろ変なのが混ざってるぞ。」


挿絵(By みてみん)


「どうだ?」


「おう、これは紛れもなく現代のワンダーウーマン。女神が女神のコスプレか。」


「え?ワンダーウーマンって女神だったの?同業者?」


「そうだよ。ゼウスの娘だとかアフロディーテに命をもらったとかいろいろ設定がある。」


「そうかそうか。同業者か。ならばこの姿で戦いに出るぞ!」


「危ねっ!剣を振り回すな。」


「しばらくこのままの姿でいても良いか?」


「かまわんけど読者には見えないから全く意味はないな。」


「翡翠みたいに歴史や物語に介入させろ!」


「それは無理。小説のタイトルを覚えているか?『翡翠、世の理を正す――調律の巫女が物語と歴史に介入します』だ。女神が介入したら設定が破綻する。」


「じゃあさ、じゃあさ、外伝で『試練の女神が物語と歴史に介入します』を書いてくれよ。」


「いやだ。読者が逃げる。誰が梅干し婆の話なんて読むかよ!」


「何だと!アラサーアラフォーに留まらず梅干し婆とは何だ!」


「だって数万年生きている梅干し大好き女じゃん。」


「くそー、口の減らない奴め!こうしてやる!」


「ぎゃあ!太股で首を挟むヘッドシザースやめて!苦しい!苦しくて酸っぱい匂いが辛い!」






「パパ、ママ!」


「おお、マリ・テレーズ!ルイ・シャルル!会いたかったぞ!」


「こんなに大きくなって!寂しかった?いっぱい甘えて良いのよ!」


 ルイヴィルに到着した一行は感動の再会を果たした。メアリ・アンのお腹はかなり大きくなっていて臨月が近いことを示していた。


「ルイ・シャルル、あなたはお兄さんになるのよ。妹か弟かまだわからないけど。」


「うれしい!良いお兄ちゃんになっていっぱい遊んであげる。」


「そうしてあげてね。でも遊んでばかりもいられないのよ。ルイ・シャルルもマリ・テレーズもお勉強をしなければなりません。英語もまだまだですから、何人か家庭教師の先生を雇うことにします。」


「そうだぞ、子どもたち、ここアメリカでアメリカ人として生きていくために覚えなければならないことがたくさんある。特に乗馬は必須だ。」


「ルイス、せっかく先生たちを雇い入れるのだから、近所の子どもたちも集めていっしょに習ってもらったら?集団で切磋琢磨というのが良いらしいわ。学校で学んだ経験のある女官が言ってました。」


「そうだな。同年代の友だちがいないと民主社会で生きて行くノウハウが身につかない。貴族の社会なら家系と血筋で何とかなるだろうが、ここではそういうわけにはいかないからな。」


 マリ・テレーズがしばし考えて口を開いた。


「ねえ、私たちもパパやママのようにアメリカ人の名前にしたいわ。名前がフランス語で呼びにくいとお友だちもなかなかできない。」


「ぼく、船で知り合ったケイティからチャーリーって呼ばれていたのでそれで良い。」


「私はどうしましょう?メアリだとママと同じになるからミドルネームのテレーズを英語にしてテレサにしようかな。」


「良いじゃないか、テレサとチャーリー、すごくアメリカっぽいぞ。」


「私は発音を変えるだけでエリザベスになるのね。thの音でいつも緊張するけど、それだけ頻繁に言うからすぐに上手になるわ。」



「おまえたち、お腹が空いているだろう?うちの羊レストランで食事を取ろう。うちのと言ったが、実際にはフランチャイズで、オーナーはチャールストンのマノン・レスコーさんだ。羊料理は上手いぞ。羊のミルク、これが最高なんだ。ほんのり甘くて濃厚で。チーズやヨーグルトに加工できるか今検討中だ。」


「スイーツの材料にもなりそうよ。羊ミルクの生クリーム。」


「農産物を加工して商品を作るのは本当に幸せな仕事だ。何か成し遂げるたびに神に褒められている気分になる。」


「そうね。王宮にいたら決して味わうことができなかった幸せだわ。」



 子どもたちとエリザベスは、羊レストランに併設してある羊牧場で餌をあげたり触れ合ったりしていっぱい遊んだ。3人とも王宮の外で自然と触れ合える喜びを噛みしめた。ここで暮らしているだけでどんどん健康になりそうだ。レストランの食事は最高だった。メアリ・アンはスイーツの店の傍ら、こちらのレストランへも足繁く通い、料理や飲み物についてスタッフと話し合っていた。この店のコックのひとりがスイーツの店でリーダーを任せているジョリーの父親であることを知ったのは2ヶ月前のことだった。


「料理は最高だけど、付け合わせのパンがちょっと残念だわ。」


「うん、メアリ・アン、たしかにここのイギリス風のパンはぼくらにはかなり物足りない。だけど、フランスパンが果たして受け入れられるかどうか確信が持てない。」


「フレンチポテトは大人気みたいよ。お土産にって、食後にポテトをお持ち帰りするお客様がたくさんいるらしいわ。」


「フランスパンも用意して、お客様にオーダーのときにどっちにするか選んでもらうのはどうだろう?」


「良いわね。付け合わせのヴァリエーションも考えましょう....あっ!ルイス!みんな!痛い!陣痛だわ!産まれそうになったわ。どうしましょ?」



 翡翠はレストランの調理場へ行き、スタッフたちに状況を伝えた。ともかく出産場所を確保しなければならない。レストランから一番近いのはジョリーの家だった。馬車で15分、翡翠とルイスとスミス氏――ジョリーの父親――が同乗し、速やかにジョリーの部屋を急ごしらえの出産場所に設えた。ジョリーの母親は、近所の女たちに産婆を呼んで来るように依頼した。


「大丈夫よ、ルイス。私これで5人目ですもの。」


「頑張ってくれよ。ぼくもここで見守ろうか?」


「イヤよ、夫に出産を見られるなんて。隣室でおとなしく待っていて。」



 産婆がやってきた。ルイヴィルで産婆を始めて15年のベテランだ。元は独立戦争のときに従軍看護師をしていたそうだ。入室すると彼女はひざまずき、ルイスとメアリ・アンにフランス語で語った。


「国王殿下、妃殿下、私はフランス人でした。王を敬愛する臣民でした。誠心誠意務めさせていただきます。」


 これを聞いてメアリ・アンは安心して緊張がほどけた。出産という限界状況で母国語...ではないが第2の母国語であるフランス語で対応されるのは心強い。近くに住む女たちが集まってきて、出産準備についててきぱきと手配を始めた。ルイスは、もう自分が出る幕はないと確信して部屋を出た。翡翠はレストランへ戻り、チャーリーとテレサ、そしてエリザベスを連れてきた。


「パパ、心配しないで。ママはきっと上手くやるよ。ぼく覚えているんだ、生まれたときのこと。」


「バカね、チャーリー、そんな励まし方をして。」


 エリザベスはひざまずいて十字を切り口早に神の加護を祈った。


 それから約2時間後に、無事分娩が終わった。生粋のアメリカ人の男の子だった。部屋に歓声が上がった。みんな元国王の肩を叩いて祝福した。ルイスは翡翠の元に歩み寄り、ハグして感謝を伝えた。


「ジャディー、何から何まですっかりお世話になった。ぼくらここで生きてゆけるようになったのもすべて君のおかげだ。お願いがある。生まれた男の子に君の名前を贈りたい。彼をジェイドと名付けて良いだろうか?」


「光栄ですわ、陛下。私も名を分け合った者として遠方から彼の幸福な成長を祈ることにしましょう。」


「私たちはこのルイヴィルでバーボン家のバーボン、”The Bourbon of the Bourbon”を作り続け、バーボン・ウィスキーが世界で認められる飲み物になるよう頑張っていくつもりだ。いつかラベルを目にすることがあったらぜひ一杯飲んでみて欲しい。」


「わかりました。その日を楽しみに待つことにしましょう。革命の混乱で始まった長い旅路でしたが、事業の運営とご家族の成長にはまだまだ時間がかかりそうですね。私はここまで見届けましたので、元の世界、そう異世界へ帰還いたします。人目に付かないところで消えますので、ここでおいとまさせていただきます。オ・ルヴォワール、ムッシュー!」


まさかの Jade Bourbon が次世代のバーボン家をになう若者として誕生してしまいました。19世紀後半まで生きるのでしょう。南北戦争に従軍するのかな?

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