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翡翠さん、国王一家を連れてパリを離れる――王族やめて自由な人生

いよいよフランス脱出です。


「翡翠、ご苦労様。次はいよいよフランス脱出ね。」


挿絵(By みてみん)


「はい、女神様。ネッケルさんがカジノを順調に成長させていれば問題なく脱出できると覆います。」


「あなた、カジノだなんてよく思いついたわね。」


「ヴェルサイユはもともと貴族の財力を削るために設えられた黄金の檻のようなものだったのです。」


「そうだったの?ルイ14世が?」


「はい。ルイ14世は子どものころフロンドの乱という貴族の内乱を経験して九死に一生を得ました。なので、貴族が領地で内乱の牙を研げないように、自分のそばに集めて豪華絢爛な宮廷生活を送らせ、その出費――貴族たちがマウンティング合戦で自発的に浪費する――で財力を削り、反抗する力を失うという黄金の檻としてヴェルサイユを作り上げたのだと聞きました。次は外国貴族や商人の財力を削って力を奪いつつフランスに資金を流入させる黄金の檻を作るのです。」


「カジノのプロデュース、楽しそうだわ。とくに紳士のナイトライフ、私が支配人を務めたいくらいよ。」


「試練の女神様が紳士のナイトクラブの支配人...お店の方向性が独特なものになってしまいそうです。鞭とかロウソクとか....一定の需要はあるかも知れませんが、収益の効率を考えますと、あまり趣味に走るのは如何なものかと。」


「あ、え?そうかしら。」


「スタール夫人なら上手くやってくれそうですが、ネッケルさんの娘さんなので、お父様がその仕事を任せてくれるかどうか。」


「彼女はあくまでも表の世界のマダム、裏の世界で赤裸々な男性の欲望をマネージメントするのには向いていないと思う。翡翠がそれをできないのと同じでしょう。生々しい修羅場を自らのものとして引き受けた経験がないと、そういうお仕事はできないものです。」


「さすが試練の女神様、綺麗事だけでは済まない試練もご理解なさっているのですね。」


「いちおう...ではなくて、一流の女神ですからね。」








「こんにちは、マダム・スタール!」


「あら、ジャディー!お元気?」


「はい、マダムは?」


「それがちょっと心配事が。」


「何でしょう?」


「父が毎晩色町へ出かけているのです。あんなに真面目だった父が。」


「あ...それは心配ないと思います。お父様はヴェルサイユのカジノ経営のための人材を探しているのでしょう。夜のお仕事ですから、ある程度は肌感覚で仕事がどのように動くのか知っておく必要があります。ネッケルさんは真面目な銀行家でいらっしゃったからそういうことのの経験がありません。今、未知なる世界を探訪してビジネスの実態を知ろうとなさっているのだと思います。ヴェルサイユのカジノは国家の存亡がかかった重要なプロジェクトですから。」


「そんな苦労があったのですね。綺麗事だけで世界を見ていた自分が少し恥ずかしくなりました。」


「マダムはそれで良いのです。これからドイツの文化人とたくさん交流なさるのでしょう?そんな夜の匂いを付けて会いにいったら、ロマン派の方々はドギマギしてしまいます。それよりスイス、特にジュネーヴで湖のオゾンをたくさん吸って森の孤独を感得なさったほうがよろしいですよ。きっと良い出会いがあります。」


「ええ、私もパリの社交には少し疲れてきたところなので、スイスやドイツの森で癒やされたいですわ。」


「王様と王妃もレマン湖に連れて行ってあげたいですね。」


「はい、あの湖はかつてミルトンが失楽園を書いた場所です。詩的想像力の源泉なのでぜひ王様とお妃様にもその独特の雰囲気を味わっていただきたい。」


「みんなで行ってみませんか?お父様も連れて。」


「父の仕事が一段落したら是非。」




 翡翠はティエルリー宮殿に王と王妃を訪ねた。


「王様、お妃様、旅立ちの準備はできましたか?」


「持ち出せる財産は限られているが、生きていくだけなら困らないだろう。いつでも良いぞ。」


「ネッケル様の館があるジェネーヴに参ります。カジノ収入を安全に運用できる銀行口座の開設が表向きの理由ですが、王様ご一家の個人資産の口座も作ります。カジノ経営が成功して現金がどんどん入る今なら、国民議会もジュネーヴ行きに難色を示すことはないでしょう。国王が王族ネットワークで新しい顧客を呼び込むと思ってもらえればますます歓迎するはずです。今がチャンスです。」


「なるほど、われわれもカジノのCMキャラクターのようなものか。ジュネーヴにはたくさんお金が眠っているから掘り起こしに行くと思わせて出国、これは上手く行きそうだ。」


「もちろんお子さん3人も同行なさると思いますが、われわれが目指す北アメリカまで連れて行くのは難しいと思います。」


「フランス国外へ出られれば、子どもたちは実家のハプスブルク家へ託すことができます。北米での生活が落ち着いてから呼び寄せることもできましょう。」


「ならば妹のエリザベートをお守り役に付けよう。フランス語を忘れないよう先生役も兼ねてな。」


「パリからジェネーヴまでの旅程でブルゴーニュ地方を通ります。ワインの他に命の水(eau de vie)と呼ばれる蒸留酒があります。見学したり試飲するのも一興ですね。カジノで提供するという名目で熱烈歓迎されると思います。」


「ネッケルにはもう話したのか?」


「月煌を放って説得しました。彼もカジノ経営が軌道に乗れば、自分の居場所はなくなると覚悟を決めています。元々プロイセン出身のプロテスタントですからフランスに骨を埋めるわけにはいかないと思っていたようです。」


「ならば娘のジェルメールも一緒かな。」


「はい、ゆくゆくはですね。ただ、さすがに今回の旅でそのままおさらばというわけにはいきません。カジノの総支配人で経営の責任者です。ジュネーヴで銀行関係の取引を終えたら、いったんフランスへ戻って事後処理を終え、後継者に経営を託してから円満退職になります。あした出発します。馬車は2台。装飾をできるだけ簡素にして、その代わりスピードが出るように設えました。オルレアン、デジョン、リヨンと進みます。」


「途中で何もなければ良いのですが。」


「王妃の人気は、とくに地方の女性の間でもとても高いのです。女性のネットワークというものがありまして、友だちの友だち、親戚の親戚という広がりで、協力者がたくさんいるはずです。カジノに職を得た女性もたくさんいます。どこへ行っても歓迎されますよ。」




 ブルゴーニュ地方ディジョンのワイン醸造所で、翡翠たちは命の水(eau de vie)を飲んでいる。ブルゴーニュではマール(Marc)と呼ばれている。これはワインの絞り滓から蒸留した酒で、もともとは農家が自家消費用に作ったものらしいが、高いアルコール度数と力強い味で人気が高まった。イタリアではグラッパと呼ばれ愛好者が多い。


挿絵(By みてみん)



「蒸留酒は上手に作れば高級品として流通させることができます。」


「ご馳走を食べた後の食後酒にぴったりね。」


「アメリカには美味しいお酒がなくて、高級品はすべて輸入品です。強い男たちは薄いビールでは我慢できない。お酒造りには商機があると思います。」



 ジュネーヴに到着した。ここは独立都市国家でスイス連邦には属していないフランス語圏である。ネッケルの父親はプロイセン出身でジュネーヴ大学の公法の教授だが、ネッケルは学者の道を歩まず、実業家となった。フランス語風にネッケルと発音されているが、綴りはNecker で完全にドイツ風である。一行はさっそく銀行取引の作業に取りかかった。北アメリカとの間で安全に金銭を動かせるのは、やはり何と言ってもスイスの銀行である。ルイ16世は現金や宝石をジュネーヴの新設口座に預けた。



「では、ネッケル様、マダム・スタール、私たちはここでお別れです。ここで密使を雇ってウィーンへ送り、ハプスブルク家からリヒテンシュタインへ迎えを寄こします。リヒテンシュタインで子どもたちの引き渡しが行われるのを確認したあとで、私と国王夫妻はイギリスへ渡ります。ネッケル様には国王と王妃から国民に宛てた書簡をパリに運んでいただきます。お二人がパリを離れなければならない事情と辛い心持ちが書かれています。反感を覚える国民もいるでしょうが、共和制に移行したあとの状況を考えると仕方がないと納得してくれる国民も少なくはないでしょう。署名はシンプルにルイとマリーです。もう王族ではないというしるしです。」


これから更新が遅れ気味になると思います。戦わなければならないのです。「スーパーロボット大戦Y」が始まったのです。戦いの合間に執筆します。

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