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翡翠さん、ヴェルサイユを有効活用しようと奔走する

とりあえずティエルリーに落ち着いた王と王妃。だけどこのまま幸せに暮らしました、にはなりそうもない。

「なんかどこかで聞いたような話の締めだったな、私たちもパリジャンだ、っての。」


「気付いちゃった?女神ちゃん。」


「ケネディのベルリン演説だろ?最後にドイツ語で Ich bin ein Berlinerって。」


「ふっふっふ、これは寄り添い宣言の古典的手法なのだ。」


「あ、そんなことはどうでも良いんだ。おい、青水!今回も甘やかしに大活躍させやがって!私の気持ち、どう落とし前付けてくれるんだ!」


「そう言われてもなあ。みんな飢えて疲れていたし、甘味の癒やしが一番効くかなと思って。そのうち梅干しが活躍する機会もあるだろ。それまで待ってろ。」


「....みんなが梅干しを渇望する場面が思いつかん。」


「渇望されて与えるのがあんたの仕事じゃないだろ?試練の女神なのだから梅干しは試練だ。試練を与えなければならない局面がきっとくる。」


「そうか、そうだな。試練を乗り越えて強くなる場面を期待しよう。」


「兵士の訓練なんか良いんじゃないか?課題をクリアしたら梅干し1個。」


「うむ、クエン酸による覚醒と殺菌効果、兵士には非常に重要だ。レーションに梅干しを採用させよう。」


「あ、余計なことを言ってしまったかも。忘れるのを待とう。」



挿絵(By みてみん)


「アン、ドゥー、トロワ、カトル!全体止まれ!おい、貴様!口を開けろ!試練の梅干しだ!トリコロールの旗の下、われわれ革命軍は人民の盾となり...おい、貴様!そら、試練だ!」


「これで腹を下すことはなくなるだろうから....まあ、がんばれ!Courage!」







 翡翠はティエルリー宮殿のルイ16世とマリー・アントワネットを訪ねた。


「ジャディーよ、良く来てくれた。」


「あなたのおかげで民衆の支持も安定して、安心して暮らしていけます。」


「王様、ヴェルサイユはどうなっていますか?」


「あれはすべて国有財産となって、居住者は清掃と管理を担当する者たちだけだな。者たちだけと言っても、あれだけ広大なので、管理にはかなりの人手が必要となるが。」


「統括責任者はネッケルさんですね?」


「そうだ。だが彼も長くは持たないだろう。国民議会と対立しているからな。」


「実は、ヴェルサイユの有効利用についてネッケルさんに提案したいことがあるのですが、むしろ王様からお伝えいただくほうがよろしいかも知れません。」


「ほう、有効利用とな。たしかに今のままでは管理費用だけが膨らみ、国庫にとっての大きなお荷物になる。」


「ヴェルサイユはヨーロッパ随一と言える豪華な総合施設です。庭園も広間も遊技場もダンスホールも劇場も揃っています。放置するのはもったいない。これを使って国庫を潤すべきだと考えます。」


「何か商業施設に転用するのか?」


「はい。カジノです。ヨーロッパ中から富裕な貴族や商人を集めて賭け事に興じてもらい、宿泊し、食事をして、ナイトライフも楽しんでもらいます。富裕層がお金を落とし続けて、フランスの国庫に転がり込む仕組みです。これが実現すれば、国民に大きな雇用の機会を与えることにもなります。」


「すばらしい。ヴェルサイユが外国の富裕層で栄えれば、その余波はパリにも及ぶ。パリ市民の仕事も増える。国が栄える事業だ、国民議会も反対はしないだろう。さっそくネッケルに相談しよう。」


「私も何かお店を出したいのですが、王族は許されないでしょうね。残念だわ。」


「失礼ですが、王様は不動産のすべてを国有化で失われましたが、動産はすべてこちらティエルリーへ持ってこられたのですか?」


「すべてではないわ。私が集めた装飾品の多くは差し押さえられました。歴史的に価値あるもの以外はイギリスでオークションにかけられたようです。」


「王様、お妃様、今はまだ安全ですが、来年以降はどうなるかわかりません。憲法が制定されて立憲君主制の道が閉ざされたら、フランスに留まるのは危険かも知れません。これから数ヶ月のうちに持ち出せる資産をまとめておいてください。」


「わかった。」


 ルイ16世とマリー・アントワネットは、フランスとの決別の覚悟を決めた。問題は出国の時期だ。長い目で見ればネッケルの辞職は避けられないだろうが、カジノが成功すればその時期はかなり遅れる。新規事業の責任者だ。スタートアップを安定的に成功させるまで、その首を付け替えるわけにはいかない。国王一家がフランスを出国するとき、ネッケルが失脚していると様々なことが困難になる。カジノの成功が国王夫妻の避難の条件となるだろう。翡翠はネッケルを訪ねた。



「ネッケルさん、国王に進言したカジノについてお話があります。」


「ん?カジノですと?」


「はい、詳細は近々国王からお話があると思いますが、ヴェルサイユの有効活用です。ホテル、レストラン、ダンスホール、劇場等々については、それぞれの専門家がパリにたくさんいると思うので、これから計画立案など忙しくなると思います。」


「壮大な計画のようですが、立地と言い魅力と言い、成功する未来しか見えませんね。」


「私が進言したいのは...あまり大きな声では言えませんが、紳士のナイトライフのことです。かつてパリを追放された女性を北アメリカにお連れしたことがあります。カリブ海のフランス植民地で、一晩だけ営業の真似事をしました。30分30リーヴルで彼女と会話できる権利を買うことができ、その30分で彼女の心を動かせればその先のお付き合いができる。売春ではありません。お金が正式に動くのは30分30リーヴルだけ。延長して60リーヴルで1時間でも良いのですが、それは他に待っている客がいるかどうかで決めます。このやり方で大きな利益を得ることができました。ヴェルサイユでも同じようなお店を開けば十分な商機があると思われます。魅力的な女性を揃えることが大前提ですけど。」


「その手の仕事については全く疎いのですが、お話を聞く限り大きな利益になると思われます。それにしてもジャディーさん、お若いのにさまざまな経験をなさってきたのですね。できればその店の支配人をお任せしたい。」


「いえ、私はかつて北アメリカへお連れした女性に会いに行かなければなりませんので、それはできません。パリには才能ある女性がたくさんいると思われるので、ネッケルさんの選択眼で優れた支配人を探してください。」



 翡翠は撒くべき種は撒いたので、いったん帰還することにした。次に転移したときは、いよいよフランス脱出大作戦の開始だ。



王と王妃は国外脱出の覚悟を決めた。あとはその機会を待つだけだ。翡翠はカジノのプロデュースに後ろ髪を引かれながらも、いったん帰還することにした。

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