翡翠さん、マリー・アントワネットに接触して民衆好感度を上げる策を伝授、ルイルイは月煌に任せる
フライドポテト、ファストフードの付け合わせの定番ですが、あれはよくフレンチフライと呼ばれたりしますが、ベルギー発祥です。マヨネーズはフランス発祥です。
「おい、翡翠がこともあろうに甘やかしの女神に頼ったぞ!許せん!」
「だって、おまえは梅干ししか降らせられないじゃないか。飢えた子どもたちの胃に穴が空くわ。」
「うぐぐ...」
「使えねー女神だな、本当に。」
「な、何だと!」
「翡翠は地道に頑張っているんだ。飢餓は、抜本的な対策の前に一時的にでも良いからともかく食べ物を与えないと暴動になる。餓死するくらいなら武器を取る、当然だな。」
「むうう、試練を本質とする私では助けられないか。」
「マシュマロの糖分は餓死直前の人間を復活させられるからな、甘やかし女神様々だよ。」
「く、悔しいが今回は負けを認めよう。」
「お、珍しく素直だな。天変地異の前触れか?」
「私は主役級、あやつはモブ。そもそも勝ち負けにこだわる必要もない。相手にせず、だ。」
「松岡洋右かよ!」
「誰だ、そいつは?」
「すまん、教養を買いかぶってしまった。今後はできるだけ自粛する。」
「謝られているのにディスられてるような変な気分だ。」
「翡翠はそろそろ本丸に進むのか?」
「ああ、だからマリー・アントワネットのコスプレは絶対禁止だ!」
「わかってるよ、もう。」
「上手く出し抜いたつもりだろうが、ちっちっち、女神さん、それ違うから。」
「え?革命軍を率いる自由の女神だ。合ってるだろ?」
「ドラクロワのその絵、1830年の7月革命を題材にしたものだ。1789年の革命とは関係ない。」
「同じ革命なんだからガタガタ言うな!行くぞ!Vive la France! Vive la Liberté!」
翡翠は次にプチトリアノン離宮を訪れた。マリー・アントワネットのために用意された私的な宮殿である。宮殿には付属の小農村が設えられており、人工的な田園風景が広がっていた。マリー・アントワネットがリンゴを摘んでいた。翡翠はレヴェランスをしてから話しかけた。
「Votre Majesté, お初にお目にかかります。ジャディー・ミカナンジュと申します。見事なリンゴですね。」
「ふふふ、そうでしょ?これでタルト・オ・ポムを焼くのよ。」
「いろんな種類のリンゴがあるのですね。赤いのや黄色いの、そしてみずみずしい緑のリンゴ。」
「すべて味と香りが違うの。ポンシュに入れると違いが良くわかるわ。」
「Vous connaissez les différentes sortes de pommes, Madame. 」
「それほどでもありませんよ。」
「土のリンゴ(pommes de terre)もご存じですよね?」
「もちろん。薬剤師のパルマンティエが献上してくれたとても有益な野菜です。」
「野菜ですが穀物の代用にもなります。植えれば3ヶ月で収穫できる美味しい栄養源です。」
「美味しいの?」
「はい。茹でて皮を剥いて塩とバターで食べるだけでも美味しいですし、ピュレーにしても良し、そして何と言ってもPommes frites が最高です。肉汁を絡めても良いし、マヨネーズをかけたら病みつきになります。」
「まあ、食べてみたいわ。」
「お妃様、ネッケル様にジャガイモの耕作をお奨めしては如何でしょう?年に3回も収穫できますし、小麦に比べて畑も手間がかかりません。同じ耕地から得られるエネルギーは小麦の4~5倍!国民の飢餓を救える画期的な作物だと思います。北方のプロイセンでは国王自らがジャガイモを宣伝して食生活の改善に取り組んでいると聞いています。ジャガイモがフランス国民の飢餓を救えば、お妃様の人気もうなぎ登りになりましょう。」
「そ、そうかしら...」
「いま、国民はパンも十分に食べられないようです。このままでは暴動が起きかねません。」
「まあ、かわいそう。そうだ、明日パリの町で大々的にブリオッシュを配りましょう。Brioche de la reine!」
「素晴らしいお考えです!みんな大喜びで、お妃様万歳の声が止まらなくなるでしょう。」
「いろいろ教えてくれてありがとうね、ジャディー。あなた、何だか不思議な人ね。どこか知らない国から来た人みたい。」
「そう思われますか?これを見て記憶に刻んでください。また何度もお目にかかることになりますから。」
翡翠は守護式神を召喚してマリーに見せた。
「まあ、これは...キラキラしていて綺麗!」
「月煌と言います。私のペットみたいなものです。」
「我は汝のペットにあらず!」
「あ、喋りましたわ!」
「はい、とても気位が高いのです。月煌、お妃様にご挨拶してください。」
「うむ、がんばれよ、マリー。」
「す、すみません。お妃様、私はこれでおいとまいたします。」
翡翠は一礼してその場を離れると、月煌に命じてルイ16世の時計工房を探させた。工房はプチトリアノンの付近に設置されていて、国王と后の仲が悪くないことを示唆していた。月煌の報告によると、国王はモノクルルーペを装着して時計作りに邁進しているという。
「邪魔しちゃ悪いかしら?でも、もうすぐバスティーユ襲撃があるし、少しは覚悟をしておいてもらわないと。そうだ、月煌に任せよう。」
「おい、ルイルイ、おまえだよ。」
「うん、何だ?無礼な声が聞こえた気がするが。」
「気がするじゃないんだよ。聞こえてるんだよ。おまえさ、時計は作っても刻は読めてないな。」
「は?青く輝く謎の物体、しかも飛行して人語を話す!これ、新型のオートマトンか?」
「ちげーよ。我は月煌、由緒正しき聖獣にして翡翠の守護式神。まあ言ってもわからんだろうがな。それよりこれから大事なことを言うから良く聞け。ブルボン王朝はおまえで最後。フランスは共和国になって国王はいなくなる。これは変えられない事実なので無駄な抵抗はするな。」
「そうであるか。なんとなくそうなるであろうという気配は感じていた。」
「おまえはおまえの嫁よりは幾分マシだな。あやつは悪い人間ではないが、世の中を知らなすぎる。まあ仕方あるまい。生まれてからずっと宮廷内の理屈で生きてきて、宮廷の外を知らなすぎる。宮廷政治以外の政治に関心がない。貴族と僧侶と王族は全人口のわずか2%、残りの98%は第3身分だ。その動きに無関心で生きていける王族がいると思うか?まあおまえもたいがいだがな。」
「王位を失った私はどうなる?」
「処刑、首チョッパ。」
「え?それはイヤだな。」
「だろう?だから上手に立ち回るんだよ。まず、おまえの嫁の政治的画策をやめさせろ。あいつは王統派のタカ派と組んで武力で第3身分を押さえ込むつもりだ。それではヘイトを溜め込むだけで、困ったときに誰も助けてくれない。食べ物を配れ。あくまで民衆に寄り添った穏健派としての立場を明確に打ち出せ。」
「わかった。良く言い聞かせよう。」
「いずれはフランスから逃げ出さなければならないときが来る。そのときできるだけ多くの協力者が得られるよう、今のうちしっかりと準備をしておけ。」
「具体的には何をしよう?」
「ネッケルとスタール夫人の親子に密使を送り、マリーも含めてヴェルサイユで秘密裏に会合を行い、王制末期の立ち振る舞いについて協議しておくんだな。言っておくが、おまえの時計では計れないほど革命の速度は速いぞ。来月にはバスティーユが陥落する。革命軍が武器弾薬を入手するぞ。」
「わかった。王統派のタカ派とは距離を置き、何も知らない時計オタクとして目立たぬように生きることにしよう。マリーには良く言い含めておく。」
月煌、こういう使い方をすると便利ですね。身分の概念がないのか、空気を読まない口の悪さも魅力ですね。