翡翠さん、パリとヴェルサイユは結構遠くて大変です
いよいよ革命のパリに潜入です。薔薇よ薔薇よ...はい、女神と同じで歌詞は知りません。
「青水よ、フランス革命は私の好物だぞ。」
「血なまぐさいのが好物なのか?」
「いや、試練だ、革命は試練の塊だ。」
「何だかよくわからんが、興奮しすぎて鼻の穴を広げるのはやめろ。」
「ふん、鼻づまりよりはよほどマシだ。」
「おまえが何を考えているかわかってるからな。」
「何のことだ?」
「出オチかよ。」
「薔薇よ薔薇よ薔薇よ、ふんふんふんふーん♩」
「おまえ、歌詞を覚えていたためしがないな。」
「アンドレ!」
「危ねっ!剣を抜くな!」
「なあ、オスカルって革命派なのか、それとも反革命?」
「おまえ、そんなこともわからないでコスプレしてんのかよ?」
「コスプレなんてそんなものだろ?」
「謝れ!全国の真摯なコスプレイヤーさんたちに謝れ!原作への深いリスペクトがあって初めてコスプレは輝くんだ!」
「輝いてるか、レイヤーども!パンチラ防止はしっかりとだ!」
「ここはヴェルサイユ...何だか騒がしいですね。」
「議場が閉鎖された!第3身分は球技場に集まれ!」
「憲法制定を要求する!制定されるまで議会は解散しない!」
「第3身分が生産し、第1身分と第2身分が食い散らかす!ふざけるな!」
「何があったんですか?」
「議場が夜のうちに閉鎖されて入れなくなったんだ。」
「国民議会は球技場で審議を続ける。決して解散はさせない。」
翡翠はヴェルサイユを離れ、乗合馬車でパリを目指した。ヴェルサイユとパリの距離はほぼ20km。これだけ遠いとおいそれとは行き来できない。かつてはパリ市内のルーブルにあった宮廷がヴェルサイユに移転したのは、貴族の反乱を抑えるためだった。貴族たちは豪華絢爛なヴェルサイユで日夜に渡って奢侈に耽り、王の歓心を買うために莫大な支出を余儀なくされ、反乱の牙を抜かれる黄金の檻に閉じ込められていた。馬車はパリ市内に入った。黄昏が迫るが、夕餉の準備をする竈の煙がほとんど見られない。道ばたに座り込む人々がたくさんいる。
「食べ物をください!」
「きのうから何も食べていないんだ!」
「弟が死にそうなの。」
痩せ細った子どもたちが翡翠の周りに集まってきて、両手を差し出している。翡翠は何も渡すものを持っていない。翡翠は一計を案じた。
「待っててね。女神様にお願いしてみる。 甘やかしの女神様!この飢えた子リスちゃんたちにマシュマロをたくさん食べさせて!」
空から大量のマシュマロが降ってきて、子どもたちはむさぼるように食べた。みんな笑顔だ。だがこれでは一時しのぎにしかならない。翡翠はサクレクールへ急いだ。
「パックス・テクム!町で子どもたちが飢えています。どうにかならないでしょうか?」
「今日の分の炊き出しはもう終了しました。貯蔵してある食糧は有限なのです。明日も、明後日も、神の子たちにパンを与えなければなりません。」
「そうですか...わかりました。私は私のできることをしましょう。」
翡翠は服を世俗のものに着替えてセーヌ左岸のスウェーデン大使公邸へ赴いた。ここではスタール夫人のサロンが開かれている。
「こんばんは、マダム。初めまして。ジャディー・ミカナンジュと申します。」
「あら、初めてかしら?ゆっくりしてらしてね。」
「いえ、のんびりはできないのです。パリ全土が飢餓に苦しんでいます。お父様のネッケル財務大臣にとりなしていただきたく参上しました。小麦の貯蔵庫から、せめて3日間、市民がお腹いっぱいパンを食べられるよう緊急開放していただけないでしょうか?このままではいつ暴動が起こっても不思議ではありません。」
「まあ、そんなに逼迫しているのですか。わかりました。一筆したためましょう。届けていただけるのですね。」
翡翠はセーヌ河畔の人目に付かない窪みで天使モードに変身し、さらに秘匿結界を張った。フランスで作戦行動として有益な場合を除いて天使の姿を目撃されるわけにはいかない。空を飛べばパリからヴェルサイユまでの20kmも30分未満で移動できる。今回の作戦は、パリとヴェルサイユの文化的および経済的な断絶を何度も乗り越えなければならない。
「こんにちは、ネッケル閣下。お嬢様の紹介状を得て参上いたしました。」
「ほう、どれどれ...何、飢餓がそんなに?」
「はい、このままでは暴動が起こります。人間は餓死する前に武器を取るでしょう。」
「だが、備蓄庫も無限ではない。いつか抜本的な対策を講じないと...」
「そのための時間稼ぎが必要なのです。」
「わかった。市中のパン屋たちに緊急配給を行おう。」
とりあえず飢餓問題を少しでも和らげないと市民は爆発寸前です。