翡翠さん、またもやデンマーク?またもや英文学?
エラさんの初出エピソードに潜む空所に翡翠さんが絡んでみました。
「エラは私より古参だが、そんなことがあったのか。」
「うん、洞窟で助け出されてから、フレッセンたちの村に連れて行かれてコンカフェを始めたんだよ。だけどその店でエラは客から精気を吸っていた。主人公のフレッセンも常連になって毎晩精気を吸われていた。」
「なんだか健全な村が水商売や風俗の試練に晒されるみたいで私の管轄だな。」
「で、フレッセンが彼女ポジのライツの寿司屋に行ったところにエラ登場でバチバチになって、サキュバスモードが発現した。これがそのときの写真だ。」
「おう、修羅場か。それも試練の一種だから私の好物だぞ。」
「で、そのあとはふつうに仲間になって重要な戦力にもなるのだが、寿司屋で主人公に飯を食おうと言われたときに、太るからイヤよと窓から飛び出したところで、今回の翡翠の介入につながるわけだ。」
「なるほどな。大事なミッシングパートを翡翠が拾ったわけか。」
「エラのヴァイタルアブソーブがないとさまざまな戦いに勝てずに詰んでいた。これはコンカフェの制服で初ヴァイタルアブソーブを撃った記念写真だ。」
「ここで大活躍したから、翡翠と並ぶ主役級ポジションに上り詰めたわけか。それにしても、あやつは昔ずいぶんと巨乳だったんだな。」
「ああ、あいつのたわわは安定しないんだ。吸った精気の量と関係しているらしい。」
「不便だな。その点、私は女神なので随意だ。少女の儚くて薄い胸もナイスバディーの姐さんも。」
「はいはい、あんたの勝ちだ。」
「まあ、今回のは1回休憩という感じなので、次は大物を狙うのだろう?」
「別に狩りや釣りではないのだが、仕込みに準備が必要なやつだな。」
「みんなが知ってるやつか?」
「もちろん。大人気戯曲だ。」
「おお、燃えるのお!文学的古典にして大衆文化でも生き続ける...」
「話は結構複雑なのでラスボスに到達するまで寄り道しなければならない。」
「で、そのラスボスとは?」
「デンマーク王クローディアス。」
「え?ハムレット?シェイクスピア?」
「そうだよ。」
「おまえ、前に言ってたよな?シェイクスピアの原文を見ると目が回るって。」
「言ってた。でも目が回っても挑んでみれば楽しいこともあるだろ?バンジーとかウィングスーツとか。」
「楽しいわけあるか!空中ゲロだわ!」
「ベオウルフ編に続いてまたデンマーク、でもってまた英文学。もうふつうの英語に近い世界なので、名前はジェイディで良いですね。登場人物もホレーショとか英語風になってるし。」
城の兵士たちの会話が聞こえてきた。
「だから昨夜も出たんだよ、同じ時刻に。」
「にわかには信じがたいな。」
「だったらその目で確かめてみろ。」
「おう...あ!これは紛れもなく...」
「ほら、出ただろ?」
「ハムレット王!ハムレット王ですね?お声を、何卒お声を!」
「無駄だよ、呼びかけても....ほら、消えてしまった。」
「でもあれはたしかにハムレット王だった。」
「だろ?俺以外にも見た者がたくさんいるんだ。」
「幽霊かな?」
「だろうな。何かを伝えたいのかもしれない。」
翡翠はここで声をかけるのはマズいと思って、秘匿結界を張って中庭へ出た。王族らしい格好の若者が月を見上げていた。
「父上...私はどうしたら良いのでしょう?父上が急死なさってすぐに叔父上が即位して王となり母上と結婚した。このままこの現実を受け入れて良いものなのでしょうか?」
翡翠は秘匿結界を下ろして姿を現し声をかけた。
「ハムレット様!」
「う、何奴?」
「旅の賢者ジェイディです。お耳に入れておきたいことが。」
「何だ、言ってみろ。」
「お父様の亡霊が夜な夜な現れて兵士たちに目撃されております。兵士たちに尋ねてみるべきかと。」
「何、父の亡霊だと?」
「はい、兵士たちが語りかけても何も答えてはくれないそうです。」
「よし、わかった。私がこの目で確かめてやろう。」
ハムレットは去って見張りの兵士たちと会う。
「旅の賢者から聞いた。先代のハムレット王の亡霊が出ると。」
「おっしゃるとおりです。毎夜11時から12時にかけて城壁の上に現れるのです。」
「今夜も出たのか?」
「はい、さきほど。見張り3名で確認いたしました。」
「よろしい。明日は私も見張りに参加しよう。ぜひ亡き父の亡霊に会ってみなければならない。」
翌日、約束通りハムレットは見張りの場所にやってきた。
「さて、そろそろ時刻だが。」
「王子!出ました!あそこです!」
「おお、行って確かめなければ!」
「いけません、王子!何をされるかわかりません!」
「ええい、手を離せ!父の言葉を聞かねばならんのだ。」
「あの世に引きずり込まれるかも知れませんぞ!」
「黙れ!手を離さぬというのなら、(剣を抜く)...斬るぞ!」
家来たちは手を離し、ハムレットは亡霊の元に駆けつける。
「父上!父上なのですね?」
「...」
「父上!ハムレットです!何か、何かお言葉を!」
「その言葉を聞いたら...おまえは復讐しなければならなくなる。」
「復讐...復讐いたしましょう、この剣にかけて!」
「私は卑劣な手段で殺されたのだ。」
「犯人は?犯人は誰なのです?」
「弟のクローディアス。悪逆非道のクローディアスだ。我より妻と王国を奪った。」
「な、なんと!叔父上が!」
「そうだ、現国王だ。今や権力の頂点におる。復讐を遂げるのは容易ではないぞ。」
「どんな手を使ってもやり遂げて見せます。周到に準備します。父よ、照覧あれ!」
亡霊は満足そうに微笑んで霧の中に消えた。
駆けつけた家来たちにハムレットは言った。
「各々、剣を抜け!そしてその剣にかけて誓うのだ!今宵見聞きしたことは決して誰にも漏らさないと!」
「この剣にかけて秘密を口外することはありません!」
翌日、城内の鏡の前でハムレットは考え込んでいた。慎重に動かなければ、そもそも状況がわかりやすすぎる。国王は我が父を殺したという事実を抱えて日々を過ごしている。自分に対する警戒は怠らないだろう。どう接したら良いか?急に愛想良く接しても怪しまれる。だが、敵意を剥き出しにするのも危険だ。
「ハムレット様。」
「お、君は賢者ジェイディ。」
「お悩みのご様子。」
「うむ、君が言っていた父の亡霊に会った。」
「それでお言葉を得て今後の処し方にお悩みなのですね。そのお言葉についての詮索は控えましょう。ただ、偽りの恭順と真実の敵意、その選択にお悩みなら、そのどちらにも属さないもう一つの道がございます。」
「ほう、それは何か?」
「捉えどころのない狂気です。」
「何だと?」
「狂気の言葉は尻尾を掴ませません。捉えたと思えばそれは虚像、虚像と思って放置したところに実像が潜む。狂気の仮面の下に筋道―― Method つまりメタホドス――が潜む。その道を進めば、自ずとその先にさらなる道は開けると思われます。」
「ハムレット」はもちろんシェイクスピア作品でもダントツ1位といっても過言ではない名作ですね。俳優なら誰でも主演を演じてみたいと思うらしい。そんな世界に飛び込む翡翠さん、プレッシャーは半端じゃありません(ぼくが)。