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翡翠さん、気迫でいろいろどうにかしちゃった

翡翠さん、いわゆる怒ると超怖い女かもしれません。


「何だ?ペンディングで引っ張り続ける作戦か?姑息だな、青水よ。」


「そうじゃないよ。物語に丁寧に寄り添う方針なんだ、今回は。」


「まあ、良いだろう。それよりこれを見てくれ。」


挿絵(By みてみん)



「何だ、これは?左手が2本あるぞ。キンモー!」


「修正を命じても頑として左手2本だ。」


「まあそれはそうとしてだね、とんでもなくアメリカンだな。アメリカン・ビッチ。そして圧倒的なアラサー感!小ジワも見事に再現!」


「それなんだよ。なぜそうなった?私は原型を作り替えて若返りの美女神として生まれ変わったはずじゃないのか。」


「AIが女神=アラサーと固定してるのかもな。いや、笑えるぜ。顔が下品。膝の位置から察するに、お股も全開だろ、これ。プレイボーイかペントハウス御用達だな。おめでとう!」


「もう一回若返りの原型を作ってくれ。」


「ダメだ。断る。どうあがいてもアラサーはアラサー、現実を受け入れろ。妙な若作りは逆に痛々しいぞ。」


「クスン...」


「だぁー、似合わねえ!クスンだと?女神がクスン、お、ラップに使えそうなフレーズだ。女神がクスン、涙がポロン、ポロンは違う、お胸がポロン!」


「人の悲しみを笑うな!」


「悲しむ必要はないだろ。エラを見習えよ。全然気にしていないぞ。」


「だってあの人、見た目が私より2つ3つ若いもん。」


「ちっちぇえな。」


「女にとって2つ3つは大事なの!」


「女って言うけど、女神だろ?別に結婚も出産も関係ないんだから良いじゃねえか。」


「こうなったら飲んでやる!」


「あ、それ、俺がこないだポチったアイリッシュの名品、ジェイムソン・トリプル・トリプル!」


「わ~お、たまらん、まろやかなのでストレートでなんぼでもいける。」


「なんぼでも飲むな!あ!ボトルを人体に例えると乳首が出るあたりまで飲みやがったな。」


「ひっひっひ、つまみにナッツ持ってこい!」







 城に絵画修復士がやってきた。絵画は放置しておくと表面がくすんで見えにくくなるので、定期的に専門家による修復が必要なのである。修復を頼んでいた絵の箱が次々と開けられ、新品同様の輝きを纏った絵が皆に披露された。そしてその中に、ある女性の肖像画があったのだが、そこに描かれていた女性はほくろの位置までカーミラとうり二つだったのである。


挿絵(By みてみん)


 アッシュフォード卿は絵を見て言った。


「縁に金文字で書かれた名前が読める。ミルカラ、カルンシュタイン公爵夫人、そして冠の上に年代1698年とある。私の母がそうだったように、私もカルンシュタインの子孫だな。」


「あら、私もそうよ。私も古い家系の末裔なの。カルンシュタイン家の者はいま生きているの?」


 それまで興味なさそうにしていたカーミラが言葉を挟み、ローラが答えた。


「内戦で全滅したそうよ。この近所にお城が廃墟として残っているわ。」


 ローラとカーミラ、同じ血族。だが一方は人間、もう一方はアンデッド。引かれ合うのは血の絆のせいなのだろうか。翡翠は、このままカーミラがローラを吸血して眷属にしようと行動を開始するときどう対処すれば良いのだろう。


 しばらくすると、ついにヴァンパイア襲撃事件が起こってしまう。化け猫のようなものがローラの寝室に現れ、ベッドの上の彼女に飛びかかり胸を少し刺して、やがて黒衣をまとった女の姿になり、こちらを見ている。しかし、その後、施錠してあるドアを通り抜けて逃げてしまう。変身と通り抜けというヴァンパイアの能力を遺憾なく発揮して、胸を刺したことによってローラへの支配力を高めることになる。この恐怖の夜のことをローラが翌日カーミラに話そうとしたら、先に彼女から自分が体験したのと同じ話を聞くことになった。カーミラの支配力が深くローラの中に浸透しているので、ローラが体験したり考えたことを自分も同時に体験し考えることができる。つまり、ローラの体験を共有し、恐怖や不安を操ることができるようになったのだ。


挿絵(By みてみん)


 翡翠は式神を放って監視していたので一部始終を知ることができた。そして、今こそ行動を開始すべきときだと覚悟を決めた。このまま放置していると、アッシュフォード卿とシュピールスドルフによってカーミラは滅せられてしまう。ローラの本心を聞かなければ。



 翌日、カーミラがいないときを見計らって、翡翠はローラに近づき目立たない城内の一室に連れ込んだ。


「ローラ、確かめておきたいことがあります。これはとても重要なことなので、嘘偽りなく正直に答えてください。」


「わかりました。」


「あ、その前にちょっと待ってくださいね。」


 翡翠は霊力結界をローラの周りに展開した。


「こうしないと、あなたの思考はカーミラに筒抜けになります。それでは質問します。あなたはカーミラを愛していますか?」


「はい、わずかな恐怖心は否めませんが、たしかな愛を感じます。一心同体と言ってくれたこと、とてもうれしかった。」


「一心同体、それはあなたが消えて彼女の一部になることだとしてもですか?」


「もし彼女がそれを望むのであれば。彼女を失うよりはそのほうがずっと良い。」


「わかりました。あなたの覚悟は本物ですね。でも、このままカーミラの好きにさせておくわけにはいきません。彼女は滅せられることになるからです。なので、私にすべて任せていただけますか?あなたと彼女の永遠の愛を成就させて見せましょう。」


「そんなことができるのですか?」


「私ひとりではできませんが、できる人を知っていますから。」




 翡翠は急遽帰還して女神を呼び出した。


挿絵(By みてみん)


「おや、翡翠、ミッションの途中で戻ってくるとは珍しい。」


「女神様のお力を借りなければならないのです。」


「ほう、おまえがそんなことを言うなんて想像したこともありませんでした。よほどのことなのでしょう。言ってみなさい。」


「ヴァンパイアの真祖へのお目通りを仲介していただきたい。一介の人間が近寄れる存在ではありません。何卒、女神様のお力で。」


「良いでしょう。私も本編に足を踏み入れるのは初めてです。できるだけのおめかしをして...」


「女神様!そんな悠長なことをしている暇はありません。今すぐ一緒に来てください。」


「えー、この恰好のままでですか?」


「女神様....」


「わかった、わかったってば。おまえの目力半端ないですね。行きますよ。本当にもう、神をも萎縮させる迫力って何なの?」




 女神と翡翠は深山の奥にある洞窟に来た。ここにヴァンパイアの真祖がいる。真祖に頼めばカーミラの吸血の呪いを解き、ローラにヴァンパイアの能力――不老不死その他――を与えることができる。



「あら、試練の女神じゃないの?」


 声が聞こえた方向を見ると甘やかしの女神がいた。試練の女神の目がつり上がった。


「あなたも真祖ちゃんのところに来たの?何かお願い事かしら?私が取りなしてあげても良くってよ。」


挿絵(By みてみん)


「貴様の力など借りん!」


「あらあ、また小じわが増えたのかしら?糖分を摂ったほうが良くってよ。」


「口を開け!梅干しを詰め込んでやるわ!」


「やだ、それって食べると顔が一瞬で爺婆になるやつじゃないの。そんなの食べてるから老け顔になるのよ。」


「何だと、ふざけんな!」


 翡翠はオロオロした。せっかくここまで上手く行っていたのに、まさかの女神対立。ミッションはどうしよう?



「あー、もー、うるさいわね!」


 洞窟の奥から真祖が出てきた。



挿絵(By みてみん)



「何なのいったい?梅干しとマシュマロだなんて、わけわかんない。」


 真祖はこの混乱にあきれ果てている。翡翠はこの機会を捉えた。


「真祖様、私が女神たちの争いを止めてご覧に入れます。」


 翡翠は跳躍して女神たちの間に割って入り、一喝した。


「えーい、やめんか!畏れ多くも真祖様の御前であるぞ。控えおろう!」


 翡翠の凜とした声が響き、女神たちは居住まいを正した。


「これから私が真祖様にお願いすることは、2人の女神の総意であるということで良いか?」


「はい、御意のままに。」 


「仰せの通りに。」



「真祖様、シュタイアーマルクの城にいるヴァンパイア、カーミラの吸血の呪いを解いてください。そして2人が未来永劫愛し合えるよう、眷属になりつつあるローラも吸血の呪いがないヴァンパイアとして生まれ変わらせてください。」


「ふむ、おまえは女神をも従えるほどの胆力の持ち主、気に入ったぞ。名は何という?」


「調律の巫女、御巫翡翠です。」


「良いだろう。おまえは気に入った。願い通りにしてやろう。」


「ありがとうございます。」


 翡翠は2人の女神に近づいて「お礼をしなさい」と超低音で命じた。




 シュタイアーマルクに戻った翡翠はカーミラを探し出し、呪いが解けたこと、ローラと永遠に愛し合えることを告げた。


「ありがとう。私たち、誰にも見つからない場所に行って、いつまでも仲良く暮らします。」


翡翠さん、完全に女神より上のポジションでしたね。ケツをどやさなかっただけでもえらい。これで百合の姉妹はどこぞで飽きるほどユリユリできることになりました。

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