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翡翠さん、無事に家庭教師的ポジションに

シュタイアーマルクの州都はグラーツですね。英語しかできない翻訳者の翻訳で「グラッツ」と書いてあるとふつうにイラッとします。ちなみに、行ったことはありません。


「無事潜入に成功したな、青水...っておまえアイス食べてるのか?」


「む、ハーゲンダッツ....溶けかかった瞬間を...」


「私にもよこせ。」


「冷蔵庫から勝手に取ってきな。どっさり買い込んであるから。」


挿絵(By みてみん)


「うーん、まろやか、そして濃厚...」


「あのー、女神さん、なんで水着でビーチなんですか?」


「水着に着替えたら勝手に場面が最適化されてビーチになった。」


「そういうどうでも良いことに女神能力の無駄遣いするなよ。」


「どうでも良くはないぞ。グラビアはこうでなくてはな。」


「あんたのグラビアなんて需要ないから!」


「いや、読者の7割は私のグラビア目当てで読みに来てるはず。ファン投票したらダントツ1位だ。」


「なわけないだろ。主人公の翡翠がダントツ1位で、本編に出る固定キャラは翡翠だけなんだから、漫才の女神なんて誰も眼中にねえよ。」


「そのうち本編にも出ることになろう。」


「な、何だと?」


「期待して待つが良い。」


「不吉なことを言うな。俺が作者だぞ。」


「作者がすべてを支配できるわけではないということを何度も思い知ったはずだ。」


「ぐっ...」


「で、カーミラだが、あのアラサー家庭教師――こう訳すしかないのかもしれないが、良家では子女を学校に通わせないで家で教育する習わしだったから、日本で言う家庭教師とは違うんだがな――はすぐ墜ちる。「おぼこ娘」ならぬ「おぼこアラサー」が竜騎兵の筋肉をガン見して、さらに軟膏を塗るという濃厚なボディータッチ、これは一直線にエロマンガでいう「メス墜ち」だ。」


「竜騎兵のスペックは?」


「おい、アラサー目線でそこに食いつくな!」


「誰がアラサーだ。私は永遠の...」


「やめい!話が長くなる。竜騎兵は近辺の弱小貴族、男爵(Freiherr)ぐらいにしておこう。乙女ゲームでも爵位は大事だろ。」


「女神って恋愛がないからつまんない。」


「あのなあ、恋愛というのは世代交代でいのちをつなぐためにあるんだよ。不老不死が恋愛してどうする?不死はともかく不老かどうかはしらんが。」


「ほれ!」


「あ、きさま、半分残ってるハーゲンダッツに梅干し入れやがった!」


「夏は塩分補充が大切よ、えへへ。」







「外が騒がしいわ。馬車が壊れるのね。」


 翡翠は外に出た。馬車が大木に衝突して転倒していた。2頭の馬は倒れ、馬車も横転して、中から人が助け出されていた。ひとりは中年の女性、もうひとりは15~6歳の少女だ。少女は気絶して芝生の上に横たえられていた。アッシュフォード卿は中年女性の元へ駆けつけ、助力を申し出ている。中年女性はさほど感謝している風でもなく、気もそぞろに失神した少女を見つめている。アッシュフォード卿は軍隊時代に医学の手ほどきを受けていたので、少女の容体を診て言った。


「大丈夫です。お嬢様に外傷はありませんし、呼吸も心拍も平常です。じきに目を覚ますでしょう。」


 中年の女性はそれを聞くとようやく落ち着きを取り戻し、マダム・ペロドンが付き添っていた少女の元に駆け寄って、手を握り、額にキスをして、涙を流した。そしてアシュフォード卿のもとへやってきて、この付近の村は遠いのかと尋ねた。


「私たちはのっぴきならない用事で旅をしているのです。時間を無駄にすると大変なことになります。このままでは娘は連れて行けませんので、村において行きます。戻るまで3ヶ月かかります。」


「それならばぜひ娘さんを私どもの城にお預けください。マダム・ペロドンもいますし、不自由をさせることはありません。それに、娘のローラも話し相手ができれば喜ぶと思います。むしろ私たちのほうからお願いします。ぜひ娘さんを我が城に。」


 それを聞くと女性は少女の元に駆け寄って二言三言耳元で囁くと、御者や従者たちに命じて馬車を元通りに起こし、アシュフォード卿に別れを告げると、馬車に乗り込んで風のように走り去った。



 預けられた少女はカーミラという名前だった。人間とは思えないほど美しく、時折愁いを含んだ目で外を見ている姿は、まるで傑作の絵画から切り取られたもののように透明感に満ち、儚さを閉じ込めたプレパラートのように見えた。



 怪我をしていた竜騎士は、ラ・フォンテーヌ嬢の献身的な介護と翡翠の治癒薬のおかげですっかり回復した。彼は出立の挨拶とお礼を述べにアシュフォード卿の部屋を訪れた。


「すっかりお世話になってしまいました。怪我で身動きが取れなかったので自己紹介もまだでした。出立の挨拶に自己紹介を含める非礼をお許しください。私はカール・アントン・フライヘア・フォン・フェルトバッハと申します。」


「お元気になられたようで何よりです。」


「お世話になっておいて申し上げにくいのですが、実は...お願いがあるのです。貴家のマドモワゼル・ド・ラ・フォンテーヌを私の妻に申し受けたく存じます。結婚式は領地に戻ってから両家の都合なども鑑みて執り行う所存です。」


「おお、そうですか、それはめでたい。彼女も良い年で、時折寂しげに空を見上げているのを知っております。良縁がまとまって本当に良かった。偶然があなたを当家に連れてきてくれて本当に良かった。」



 廊下でその成り行きを聞いていた翡翠は、心の中でガッツポーズ...ではなくて拍手をした。



 正式に家庭教師の後任にという打診はなかったが、マドモワゼル・ド・ラ・フォンテーヌの役割を自然に翡翠が引き継ぐことになった。ロマンティックな中年婦人のマダム・ペロドンとは違って、ド・ラ・フォンテーヌ嬢は、諸学に通じた父親の影響で、理知的で博識だったようだ。月の満ち欠け、星座の変化、各地の伝承、さまざまなことをローラに教えてきたらしい。それは翡翠の得意分野でもあるので、カーミラとローラを相手にさまざまな知識を開陳できて翡翠は満足していた。そしてカーミラとローラもすっかり打ち解けて本当の姉妹のように語り合うことが多くなっていた。



「ねえ、カーミラ、私あなたと会うのが初めてではない気がするの。」


「あら、実は私もよ。ちょうど12年前...」


「そう12年前、あなたはその姿のままで幼女だった私の前に現れた。」


「私の夢でもあなたは今の姿で幼女だった私の前に現れたわ。」


「私たち、そのころから知り合いだったのかしら。だとしたらうれしいわ。」


「私もよ。」そう言ってカーミラはローラの髪をかき上げ、頬にキスをした...不安になるほど長いキスを。



 カーミラとローラは良く連れ立って城の周辺を散歩するのが日課となった。ベンチに腰掛けていろいろなことを語り合って笑った。そんなとき、2人の前を葬送の列が通った。泣き女たちの言葉によれば、村人が次々と謎の急死を遂げ、この葬式は3人目だという。カーミラが城に滞在するようになって、村人の急死が増えた。これは状況証拠としては十分に怪しい。だけど、これは推理小説ではない。カーミラの物語への調律の介入だ。村人事件の調査は必要ないだろう。むしろ、カーミラとローラの関係性を注視しておかなければならない。翡翠が耳をそばだてていると、ローラが自分自身のことを隠し続けるカーミラに苛立っているところだった。カーミラはその様子を見て、ローラに次のように言った。


挿絵(By みてみん)


「あなたのハートは傷ついたのね。あなたの愛しい心が傷つけば、私の激しく燃えるハートも同じように血を流すのよ。大きな屈辱の歓喜のうちに、私はあなたの温かないのちに生きて、そしてあなたは死ぬ、甘美に死んで私に溶け込むことになるでしょう。私があなたに這いよったように、今度はあなたが、あなたの番になったとき、他の人に這いよって、残酷な歓喜を知ることになります。残酷だけど、でもそれは愛でもあるのよ。」



 明らかに眷属化しようとしている。だが、まだ介入するときではない。2人の関係性を見極めなければならない。



耽美が始まりましたよ。なんか湿っぽくてねちっこいキスとハグが多いんですよ、カーミラさん。

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