表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/99

翡翠さん、飛んでイスタンブールを去る...けれど

バイロンの長大な叙事詩「ドン・ジュアン」。オリジナルのティルソ・デ・モリーナ、フランスのモリエールの戯曲、モーツァルトのオペラのドン・ジュアンは、女たらしでスケコマシ大王ですが、バイロンのドン・ジュアンは自分から動かなくても次々に女が手を差し伸べてくれ、そして面倒なことにならないというラノベ的ハーレム製造機です。年齢も若く、美少年という設定です。

「青水よ、ますます翡翠が以前の翡翠と違ってきているが。」


「それを人は成長と呼ぶのだろ。」


「そうか。ところでJK隊の衣装は返したぞ。」


「当たり前だよ、何やってんだよ?ただでさえコンカフェのステージ要員が足りなくなったのに。」


「私が出てやろうか?」


「おまえ、何ができるんだよ?ステージをなめるなよ。」


「ソロだからしっとりと歌い上げる。」


「昭和歌謡じゃないだろうな、このラックス・スーパーリッチ女神!」


「いや、今ウケるのはアニソンだな。アイドル系アニソン。」


「画像生成をインアクティヴェイト!」


「ん?私のアイドル姿が...」


「毎回毎回お目汚しの画像を貼られるわけにはいかない。作者権限で作画を停止した。」


「くっそー、姑息な手を使いやがって。」


 









翡翠たちは驚いて声のしたほうを見た。


「あなたは?」


「ジュアンナ、スペイン人の女奴隷、と言いたいところだが、隠しおおせそうもないな。」


「つまり、女装した男性ということか?」ファウストは興ざめしたように返した。


「そういうことだ、ご同輩。私の名はドン・ジュアン。紆余曲折の末にここに流れ着いた者だ。スペインの貴族だが、その造形はイギリスの詩人の手になる。」


「やはり女目当てか?」


 ファウストの問いに、やれやれといった風情で肩をすくめ、ジュアンは語り始めた。


「私がここに来たのは海賊に捕まって奴隷として売られたからだ。最初は労役か宦官かという目的で買い取られたのだが、スルタンの后に気に入られて、逢瀬のために女装してここに放り込まれた。后は愛が欲しかった。なので私も愛で応えようと頑張った。だが、どういう運命のいたずらか、異国の女奴隷と一夜を過ごしてしまった。そしてそれが后にバレた。この先どうなるかはわからない。現状はそんなところだ。」


「とりあえずここを出て、私たちの部屋で今後のことを話し合いましょう。」


 翡翠の提案で3人は翡翠とファウストの寝所に向かった。翡翠はドン・ジュアンを観察して思ったところを述べた。


挿絵(By みてみん)


「ジュアンさん、男と女の範疇を超えて人間の美を体現してらっしゃいますね。」


「そうですか?あまり意識したことはありませんが...」


「意識した瞬間にヴァニタスが美を壊します。そのままで良いのです。」


「その美しさにスルタンの后が夢中になったのですね?」


ファウストは羨ましそうにジュアンの頭の上から足先まで見つめた。だがジュアンは悲しそうに瞳を落とした。


「私はこのままこの後宮にいられないと思います。スルタンの后の名誉を傷つけました。一夜の相手のドゥドゥとともに殺されると思います。」


 翡翠はしばらく腕組みをして考えてから結論を述べた。


「すぐに危機が迫るとは思えません。スルタンの后も夫を裏切ったという引け目があります。ただ、あなたが一夜を過ごしたという女奴隷は無事では済まないでしょう。殺させたくないなら、連れ出してここから脱出すべきです。」


「逃げ出すといっても警備は厳重です。」


 そう言って目を伏せるジュアンの手を取って翡翠はメフィストフェレスに目を向けた。


「こういうときにためにあなたがいるのよね?」


「私に丸投げですか?仕方がありませんね。飛んでイスタンブールへ来たけど、飛んでイスタンブールから脱出しましょう。」


「ドゥドゥはどこから連れてこられたの?」翡翠はジュアンの目を見て尋ねた。


「黒海の彼方ジョージアです。完璧なオリーブ色の肌、あなたのような漆黒の髪、黒い瞳。」


「ならばそこまで送って行きましょう。彼女を連れてきてください。」


「彼女は捕らえられて牢に入っているのです。」


「メフィスト、あなたが悪魔の力でここまで連れてきなさい。」


「賢者様、タダより高いものはないのですよ。」メフィストは羽虫に姿を変えてその場を離れた。



 日が落ちる前に、翡翠、メフィスト、ジュアン、ドゥドゥの4人は中庭の木陰に集まった。メフィストフェレスがマントを翻すと熱気球が現れ、4人はそれに乗り込んで黒海方面に飛んだ。海上をしばらく飛ぶと黒海東岸が見えてきた。ジョージアだ。ドゥドゥに別れを告げて、しばらく北上するとロシアの領土である。大帝国に捕まるといろいろ厄介なので、一行は西へ向かった。ファウストと翡翠はドイツから来たので、とりあえずその方向を目指した。メフィストフェレスは指先から小さな炎を出して器用に気球を操りながら西を目指した。


「ファウストくん、もし君が気球に乗ってドイツを離れなかったらどんな未来が待っていたと思う?」


 翡翠はいたずらっぽい笑みを浮かべてファウストに尋ねた。


「マルガレーテが僕の子どもを身籠もって、あとどうなったんだ?」


「酷いものよ。あなたとメフィストフェレスがマルガレーテの兄さんを殺す。まあ正当防衛と言えなくもないけれど。マルガレーテは産んだ赤ん坊を殺す。ここは本当は踏ん張りどころだと思うんだけど。そして子殺しの罪で獄につながれ刑を待つ。どう?一緒に来て良かったでしょ?」


「君はそんな酷いことをしでかすところだったのか...」


ジュアンはあきれたような顔をして立ち上がりファウストから身を離した。


「ちょっと、旦那がた、ゴンドラの中で立ち上がらないで!」


 メフィストフェレスが警告すると同時に気球はバランスを崩し、くるくる回転しながら墜落し始めた。


「ちょっと、メフィスト!何とかしなさい!」


 翡翠は天使モードになってゴンドラを出てロープを掴んでリカバーしようとする。


「む、無理ですよ~!」


 メフィストフェレスも翼と尻尾を出してゴンドラから降りた。


「墜ちる!」ジュアンは悲鳴を上げた。


「地上に激突する瞬間にジャンプしてゴンドラを降りれば...」ファウストは小学生のようなことを言った。


「私が耐衝撃結界を張ります!」翡翠が解決策を言うと同時に地上が迫ってきた。


墜ちましたね。ジョージアから北西に向けて飛行中に墜ちました。どこに墜ちたと思いますか?空からぼた餅ならぬ空からイケメン2人、拾って喜ぶのは誰でしょう?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ