翡翠さん、マルガレーテ(=グレートヒェン)の悲劇を回避したよ
マルガレーテの悲劇は触れるだけでも胸くそなので翡翠さんは華麗にスルーですね。
「なあ女神、若返りって罪だな。」
「どうした青水、おまえも私のように若返りたいのか?」
「いや、俺は元々次元と肉体を超越しているから若返る必要もないのだが、ファウストの豹変ぶりを見るとな。」
「あれは酷いな。ゲーテの悪ふざけは自分を投影しているのかもしれん。俺だってそうなりかねんとか。」
「まあ現実に若返った人間はいないから、想像と連想のたどり着く結論が常軌を逸していても仕方がない。」
「私は女神なので永遠に若く美しいから問題ないがな。」
「そうだっけ?ラックス・スーパーリッチでアラフォーいじりされたときずいぶんダメージを受けていたようだったが。」
「やだなー、もう!婆扱いしないでよ?」
「おい、JK隊のユニフォームを勝手に着るんじゃない!それ、ステージ衣装だぞ。」
「えー!好きなくせに!」
「女神さん...そんな恰好じゃ威厳もへったくれもなくなってお仕事できないでしょ。さっさと脱げ!」
「やだ、こんなところで脱げだなんて!」
「おまえ...次は翼と角と尻尾付けて劣化エラにしたろか!」
「あら、そんなことされたらエラさんが見劣りしちゃうので申し訳ないわ♪」
「...(禁酒で怒りの散らしようがない)」
ファウストの前にマルガレーテが歩いてくる。大胆に近づくファウスト。
「美しいお嬢様、どうか私の腕を!お家までお送りしましょう。」
「お嬢様でもないし、美しくもありません。」
一目惚れだ。そして何とアホなアプローチなのだろう。童貞を拗らせて魔法使いへ、そして魔法使いから大魔道、さらには魔神へレベルアップしたファウストは、若さを纏って痛々しい暴挙に出た。
「メフィストフェレス、今すぐあの女をものにしろ!」
「えー?そんなの無理ですよ。」
「今晩中に抱けないならおまえとはこれっきりだ。」
「ちょ、ちょっと、何ですか。そんなボタン押したらポンみたいに手に入れてもつまらないでしょ。それじゃデリヘルならぬデジヘルですよ。」
「無能を棚に上げて上手いこと言った気になってるんじゃない!せめてあの天使の持ち物、靴下止めとか、下着...ブラとか、何でも良いから持ってこい!この欲望をなだめたい。」
「ちょっと旦那、いくらラノベでもそんなゲスい改変したらマズいのでは?」
「いや、ほとんど原作のまま台詞を読んでいる。」
「マジか...ゲーテ先生にドン引きですわ。」
このやりとりを翡翠は物陰から見ていた。介入するなら今しかない。
「ファウストさん!覚えてらっしゃいますか?あのときは名乗りませんでしたが、私、賢者ヤーディアです。もはや隠す必要もないでしょう。そして、ファウストさん、あなたを博士や先生という称号で呼ぶのも止めます。だって、そんなに生々しく若返ったのですもの、もう尊称はふさわしくないでしょう。むしろ親称で呼ぼうか、ヨハン!」
「何だ、無礼だな。そして何だその出で立ちは?」
「ヨハンの若返りに合わせて私も賢者コスチュームだよ。それよりヨハン、さっきの会話は何だよ?恥ずかしくないのか?」
「何のことだ?私は知らん。」
「まあ、そう言い張ると思ったよ。だったらこれを聞きたまえ。私はエディソン博士からフォノグラフの技術を継承したんだ。自分の声を初めて聞いてみな。」
『メフィストフェレス、今すぐあの女をものにしろ!今晩中に抱けないならおまえとはこれっきりだ。せめてあの天使の持ち物、靴下止めとか、下着...ブラとか、何でも良いから持ってこい!この欲望をなだめたい。』
「ぐっ....」
「どうだい?自分でもびっくりだろう?でも紛れもない君の声だ。時代を超越したゲスの極みだね。」
「うるさい!私は契約によって無際限の力を手に入れたのだ。現世を謳歌して何が悪い。」
「まあ、そういうと思ったよ。でも、君が求めるべき女は別にいたんじゃないのかい?魔女の台所で見ただろう?魔法の鏡に映し出された女性美のイデア。君は理想を求めて悪魔と契約したんだろう?無垢な町娘と一時の快楽に耽るって、それが君の求めたものなのかい?ただ性欲を満たしたいだけなら私が相手をしてあげようか?」
「え?マジ?」
「ばーか、よだれを垂らしながら股間を硬くするんじゃないよ。冗談に決まっているだろう。君は初心を忘れているな。急激な若返りで性欲をコントロールできていない。性欲がまるで自分の自由意志であるかのように勘違いしている。これは末期的だ。もっと広い世界を見て気持ちを落ち着かせたほうが良い。いったんドイツを出てみよう。」
「どうやって?」
「君の僕のメフィストフェレスに命令すれば良いじゃないか。女というものを知りたいのでトルコの後宮へ行ってみたいと。入り込むのは至難の業だろうが悪魔の力で何とかしろと。」
「世界中の女が集まる男子禁制の女の宮、ぜひこの目で見てみたい。そしてできることなら女たちと触れ合いたい。」
「ヤーディアさんというのですか。あなたはほとほと困った人だ。こっちが何か計画しようとするとことごとく先回りして潰しにかかる。私はマルガレーテを籠絡するための宝石箱も用意したというのに。」
メフィストフェレスは不機嫌そうに熱気球に炎を供給しながら翡翠を睨んだ。
「まあそう言うなよ、メフィスト。これから未知の領域オリエントに乗り込むんだ。仲良く協力してヨハンに良い思いをさせてやろうじゃないか。」
「この用意した宝石箱はどうするんで?」
「トルコの後宮で使いどころはあるだろう?」
人間はリアルに「強くてニューゲーム」するとこんなにもゲスくなるのでしょうか?ゲーテも胸に手を当ててそれを実感したのでこんなシーンを作ったのでしょうか?