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翡翠さん、なんと英文学の最高峰、シェイクスピアに介入

義経が長かったから少し楽をしたいと思ったのですが...

「長かったな、青水よ。」


「ああ、正直疲れた。歴史改変ものだとつい、『織田家のアナザー・ジャパン』のときのようにマップをサブモニターに広げ、可能な移動手段を調べ、まったくファンタジーを書く愉悦が感じられなかったよ。」


「義経はあのあとどうなる?」


「まだ琉球国ができていない地域に、統一国家樹立後数百年の国からやってきた貴種だ。実力もあるし家臣も有能。王に担ぎ出されるだろう。」


「南国の王か。宇久家とのつながりもあるし、南海の覇者になるのも悪くない。」


「台湾もまだ手付かずだしな。あと300年後にポルトガル人がやってきて好き勝手するから、その前に乗り込んで領土を拡大するのも手だ。」


「強力な船団が必要になるが、沖縄の植生から船の建造に適した木材は得られるのか?」


「沖縄の植生からは大型船の建造に適した檜や杉が得られない。だが台湾は標高差が大きく、亜熱帯から寒帯までの植生が分布しているので十分な木材が得られる。」


「南国義経王国、期待が高まるな。」


「ああ、だが俺の物語はここで終わりだ。歴史改変はスケールが大きくなってしんどい。」


「なんだ、怠け者だな。まあそれがおまえらしいが。」


「次は西洋のフィクションに介入する。みなさんお馴染みのシェイクスピアだ。」


「世界中にファンがいるから怒られるやつだな。」


「ふん、こんな『なろう』小説に目くじら立てる海外読者なんているわけなかろう。だいたいシェイクスピアは、日本では名前だけ有名で実際に読まれることはまれだと思う。」


「まあ、たいていの海外文学はほとんど誰も読まないだろう。読むとすれば大学生が課題でいやいや読むだけだ。」


「なので俺自身の胸くそをスカッとするためだけに翡翠さんに活躍してもらう。」


「また出たな、自己満足作家。」


「まず介入して助けるのはロミオくんとジュリエットちゃんだ。」


「ほう、あの悲劇の恋人著名度ナンバーワンの。」


「そう、悲劇のドラマなので筋書きを複雑にしなければ観客が飽きるが、ただの恋愛成就と死亡回避だけならそう複雑でもない。なので今回は翡翠さんにもう一働きしてもらう。」


「ブラック作家だな。キャラの労働条件を少しは考えろ。」


「ロミオとジュリエットの舞台はイタリアのヴェローナ、そこから東に進めばすぐヴェネツィア。鉄道でも高速道でも1時間半ぐらいで到着してしまう。お岩とお菊のときのように、午前と午後に分けでミッションをクリアし、中間に休憩も挟める。決してブラックではないな。」


「翡翠が鉄道や高速道で移動するわけではなかろう。いい加減なことを言うな。」


「まあ良いじゃん、翡翠は俺のものなんだし。」


「いつからおまえのものになった!読者の皆様に謝れ!推してくださっている人もいるんだぞ。」


「本当に...あ、いかん、ミツコのモノマネしそうになった。」





 翡翠はイタリアのヴェローナに来ていた。ミッションはロミオとジュリエットの悲劇の回避。悲劇でなければ喜劇にしろということか?そもそもあの戯曲、あまり悲劇っぽいフレーバーが漂ってない。漫才みたいな地口の応酬だらけだし、観客席から「ワハハハ」と笑い声が上がって、作家も演者も、「よっしゃ、ウケた!」と喜んでいたとしか思えない。


「ここが2人が初めて出会うキャピュレット家のパーティーですね。たしかロミオ様は懸想するロザラインの顔を一目見るためにここに来るはず。それなのにジュリエット様に一目惚れ。あれだけ褒め称えて、その思いが叶わぬなら生ける屍だとまで言っていたのに、ジュリエット様を一目惚れ。ロミオ様、いやロミオ、生かしておけば次から次に恋をするドン・ジュアンになってしまいそうですね。いっそ....いえいえ、私の役目は彼を生かすこと。私情に囚われてはなりません。」


 ホールの奥からひときわ豪華なドレスを着た女性が現れた。


「あらあなた、お目にかかったことがあるかしら?」


「いいえ、初めまして。ヴェネツィアで薬問屋をやっているミカナーギ家の長女ジェイディと申します。ロザライン様ですね?」


挿絵(By みてみん)


「ええ、この家の当主は私の伯父様。きょうは誰か良い殿方と出会いがあるか来てみたの。」


「ジュリエット様とは従姉妹でらっしゃる?」


「ええ、あの子もそろそろ適齢期ね。でも好き勝手に殿方を選ぶことはできないわ。キャピュレット家の繁栄のために政略結婚しなければならないから。」


「ロザライン様は自由なんですね?」


「そうよ、選り取り見取り。でも一時の感情で男を選んだりはしない。だって一生に一度のチャンスですもの、最高の選択をしなければいけないわ。」


「そうですね、子どものこと、将来の家族の行く末、すべて冷静に考察した上で伴侶を選ぶべきだと思います。」


「あら、私の考えに同意する女性がいるなんて珍しいわ。みんな王子様が現れて魔法のキスで夢の国に連れて行ってくれると信じている愚かな女ばかりなのに。」


「まあ、そういう傾向はたしかにあるでしょう。みんなではないと思いますが。でもロザライン様、一生に一度きりのチャンスなら、思い切りときめく思いを味わうのも悪くはないのでは?」


「そうね、たしかに、一生に一度きりなら、それを知らずに神に召されるのは少しシャクね。そんな人生は損するわ。」


「そうですよ。人生謳歌、煩悩のファイアー、心の叫び、全部出しちゃって、身体の芯からイッちゃってください。」


「は?あなた、何言ってるの?」


「あ、すみません。追憶の彼方の詩が降りてきて...」


「あなた、何だか異世界からやってきたみたいなお方ね。」


「ロザライン様、こんなに美しいのですもの、きったたくさんの殿方が懸想してらっしゃるに違いありませんわ。」


「ふふ、そうかしら。たまには誘いに応じて踊ってみるのも悪くないかも。」


「そうですよ。応援しています。」



 そのころロミオは仮面を付けて、友人のマキューシオとベンヴォーリオとともにパーティー会場に現れた。キャピュレットの甥のティボルトがロミオを見つけていきり立っているが、パーティーでもめ事を起こしたくないキャピュレットに宥められている。



「ロザライン様、あの仮面のお方、モンタギュー家のロミオ様では?」


「あら、仮面越しでもあの鼻筋、たしかにロミオ様ですわね。」


「こちらを見てますよ。」


「あらやだ、こっちへ来るわ。」


 ロミオがロザラインに手を差し伸べてダンスへ誘おうとしたその瞬間を翡翠は見逃さなかった。


「翡翠の霊気、煩悩の火と化し、2人の心に焼き付けん!急々如律令!」


アフロディジアークムの術が発動し、ロミオとロザラインは激しい官能の欲望に囚われた。燃える瞳が相互に絡み合い、唇を合わせたい欲求になんとか最後の理性で耐えている2人。


「ああ、ロザライン、ぼくの命、ぼくの魂、ぼくのすべて!」


「ああロミオ、あなたはなぜロミオなの?この私を愛欲の奈落へ引きずり込むその目、その顔!」


 このままだと周囲の目が心配になったので翡翠が介入した。


「ロミオ様、ロザライン様、このままパーティーにいるのは危険です。急いで館を引き払って、モンタギュー家に匿ってもらうべきです。さあ、ロミオ様、姫の手を取って敵陣からさっそうと脱出するヒーローですよ。一目散にモンタギュー家へ!」


 翡翠は2人を送り出すと、仮面を付けて玄関から外へ出た。障害になるかも知れないティボルトを探さなければならない。ここでロミオと悶着を起こさせるわけにはいかない。



「ティボルト様!酔い覚ましに一勝負いかがです?」翡翠はレイピアを抜いた。


挿絵(By みてみん)


「なんだ、おまえは?」


「ふふふ、強い男に挑むのが趣味のじゃじゃ馬ですよ。行きますよ!」


「怪我をしても知らんぞ。」



 圧倒的な翡翠の勝利だった。まるで重力が存在しないような動きで相手を翻弄し、転んだティボルトの胸に切っ先を突きつけて、「チェックメイト!」


 そのころモンタギュー家で、ロミオはロザラインを伴って父親に対峙していた。


「父さん、ぼくはロザリアと結婚します。反対すると言うなら、この家を出てヴェネツィアでもローマでも行って自立します。」


「そういきり立つな。惚れた女の前で鼻息が荒くなるのはわかるが...ふっふっふ、反対なんかするものか。天晴れだぞ、ロミオ!こんな美人を射止めるなんて、さすがわしの息子だ。明日にも結婚の支度を調えよう。いや、めでたい!」



そう簡単でもないですね、シェイクスピア。午前と午後で2つ介入なんて、やってみたら無理でした。次はシャイロック、待っててください。

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