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翡翠さんタイムトラベル――巫女が女神に送り込まれた歴史や物語に介入して胸くそを潰します  作者: 青い水


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翡翠さん、古代ギリシャへ向かう

ついに来ました、古代ギリシャ.前にもちょっとだけ、女神が行きましたっけ。あれはノーカンですね。なので初の古代ギリシャ挑戦です。まずは古代ギリシャ風の衣装をまとった翡翠さんをご堪能ください。


「さて、これで浦島太助も桃太郎とその友人たちも無事に更生したな。」


「浦島のガキは15歳で白髪になってしまったけど良いのか?」


「精力枯渇でああなっただけだ。数日おとなしくしていれば元に戻るさ。」


「みんなまじめに働いてくれればいいな。」


「あれだけお灸をすえられたんだ。まじめに働くさ。」


「次はどうするんだ?」


「おとぎ話でお茶を濁すことも考えたんだが、次は大作に挑戦するぞ。」


「お、青水にしては気合が入ってるな。」


「そろそろ年末が近いし、しっかりしたものを残しておこうかと。」


「で、翡翠に介入させるのは何だ?」


「ホメロスの“オデュッセイア”だ。」


「マジか?チャレンジャーだな。長いぞ。」


「だから良いんだよ。少しずつ介入だ。西洋古典の原典だから、そう易々と扱うわけにはいかない。それに...」


「それに何だ?」


「実は別の物語も書き始めちゃって。」


「何だと!それに私は登場するのか?」


「いや、しないよ。俺も登場しない。現代日本を舞台にした普通のラノベ。」


「翡翠は?」


「出ない。出るのはこの普通の女子高生。」


挿絵(By みてみん)



「高幡不動の不が抜けてるぞ。」


「うん、AIあるあるだな。画像生成に文字が絡むとだいたいこうなる。」


「多摩の話なのか?」


「うん、そういうこと。あそこはこういう普通の子がよく似合う。」


「私も...」


「やめろよ!よその物語なんだからここにコスプレをぶっ込むな。そもそもおまえの青髪は多摩の風土に合わない。」


「うん、自分でもそう思う。女神が降臨できる場所じゃないな。」


「地味にディスるのやめてもらっていいか?」


「ていうか、おまえはそっちの物語に注力して甘酸っぱい学園もので回春を図ろうというのではあるまいな。」


「う、そんなことはありましぇんよ。」


「ほら、図星だな。口調が怪しい。」


「ともかく、翡翠はしばらく古代ギリシャだ。古典ギリシャ語は習得してあるから大丈夫。」


「翡翠よ、聞いての通りだ。まずはイタカへ行け。」






 翡翠はイタカのオデュッセウスの屋敷の前に出現した。屋敷の中から宴会の男が聞こえる。中を覗くとたくさんの男たちが酒盛りをして声高に騒いでいる。見るからに品がない。服が着乱れて出すべきでない肌が露出している者が多い。召使いの奴隷に我が物顔で酒や食べ物のおかわりを要求している。翡翠が中庭に足を踏み入れると、男たちの好色そうな視線が集まった。


挿絵(By みてみん)


「おい、ねえちゃん。踊り子か、それとも歌人か?踊り子ならもっと肌を露出した衣装が良いな。なんなら全裸でも良いんだぜ。」


 この言葉に場の一同が下品な笑い声で賛同した。


「脱いだら銀貨やるぜ。」


「俺も。」


「脱いで触らせてくれたら3枚やるわ。」


 再び下品な笑い声が上がった。



 翡翠は顔色を変えずにその場を去って建物の中に入った。この屋敷の当主の息子が悔しそうな顔で座っていた。


「こんにちは、テレマコスさん。私はイアスピア、パルテノンの巫女です。」


「おお、パラス・アテナの巫女ですか。いらっしゃいませ。歓迎したいところですが、父が留守なのを良いことに無礼者たちが屋敷を占拠して騒いでいるのです。」


「先ほど中庭で遭遇しました。あの狼藉、女神に神罰を願いたいほどです。」


「まったく。毎日やって来てただで飲み食いして、その上音楽や踊りまで要求するのです。」


「石つぶてを雨のように降らせて痛めつけましょうか?」


「そんなことができるのですか?」


「直接の暴力で排除するとあとあと面倒でしょうから、まるで自然災害のように石を降らせて見せましょう。」


 翡翠は中庭が見える室内から軽めの土魔法を唱えた。中庭一帯にザクロぐらいの石粒が雨のように降り注ぎ、酒宴を楽しむ男たちを襲った。皿や杯は割れ、男たちは頭から血を流して地面に突っ伏した。翡翠は中庭に出て突っ伏して呻吟する男たちを見下ろして言った。


「石の雨が降ったのですか。どう考えても自然現象ではありませんね。私はパルテノンの巫女ですが、かすかに神意を感じます。パルテノンの巫女をあのように侮辱すれば、アテナ様は当然お怒りになるでしょう。人間と違って神の怒りは忘れ去られることはありません。あなたたちは死ぬまで女神の怒りを恐れながら生きて行かなければならなくなりました。愚行蛮行に走った己の愚かさを呪うが良い。そして今すぐこの場を立ち去れ。再び現れることがあれば今以上の罰が与えられるものと思え。」


 男たちはうなだれ足を引きずりながら屋敷を出て行った。それを見送る翡翠の元にテレマルコスが駆け寄った。


「イアスピア様、何と痛快な出来事だったのでしょう。胸がスッキリしました。あの下郎どもの顔を二度と見ないで済むと思うと心が晴れやかになります。イアスピア様、どうか私からの贈り物を受け取ってください。」


「いえ、私はアテナ様の怒りを伝えただけです。巫女として当然の行動です。もしアテナ様への感謝の気持ちがあるなら、パルテノンに供物を捧げてください。」


「わかりました。すぐにでも人を遣わします。本当にありがとうございました。」


「テレマコスさん、あなたの父上は生きてらっしゃいます。アテナ様の神託はそう告げています。ただ、ポセイドンの怒りを買って航海が難儀を極めているようなのです。神の怒りは他の神によってとりなされることはできません。たとえゼウス様でもです。なので、テレマコスさん、ここから旅立って父上を迎えに行ってはどうでしょう?父上も立派に成長した息子に会えればこの上なく幸福だと思います。」


「わかりました。今日のうちに旅の支度を調え、城下の人々に挨拶して、明日旅立つことにします。」


「先ほど立ち去った無礼者たちには気をつけてください。あなたが父上を迎えに行く旅を始めると知れば、様々な妨害を仕掛けてくるかも知れません。城下の人々への挨拶は、信頼できる数人だけにとどめておくほうが賢明です。」


「わかりました。旅立つ前に暗殺などされてはたまりません。屈強な供を連れて慎重に行動します。」



「では私はこれで失礼します。またエーゲ海のどこかで再会するかも知れません。お元気で。」


あの狼藉者たち、「オデュッセイア」では「求婚者」と訳されていますが、かぐや姫に求婚するために珍しい品々を持参した皇子たちとは真逆で、屋敷で狼藉の限り。求婚者と言っても、恋を成就させるために来ている人々ではなくて、婚姻権を主張して押しかけた連中です。オデュッセウスが治めるイタカの貴族の悪ガキどもです。そして古代ギリシャには来訪者を饗応しなければならないルールがあったので、主不在の屋敷でやりたい放題です。初っぱなから翡翠さん、胸くそを潰してくれました。

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