翡翠さん、浦島太郎の息子や成長した桃太郎と会ってあきれてしまう
翡翠さん、17年後の物語世界へ行くのですが、どうなってるでしょう?
「わかったぞ、青水、あのヴァイキングが鬼の正体、アッツ島が鬼が島だな。」
「ご明察。昔話の桃太郎は侵略者だぜ。傭兵を募って攻め込み、住民をジェノサイド、ため込んだ資源を強奪。プーチンもヒトラーもやらないレベル。」
「それな。なんか戦前には『桃太郎・海の神兵』というアニメがあったとか。」
「ああ、非常に高度な技術が投入された傑作なんだが、公開されたのが1945年4月。もうね、負けるの必須な状況なわけよ。沖縄戦が4月1日に始まったし、制空権は完全にアメリカに渡って日本中が空襲で火の海だし。なのに南方で桃太郎率いる神兵たちが圧倒的な強さで勝ち続けるという、典型的な現実逃避。」
「空襲におびえながらよくそんなアニメ映画を作れたな。」
「松竹の制作陣を京都に移動させて作ったらしいよ。あそこ、歴史的に貴重だからという理由で空襲を免れていたから。ただし、制作現場の状況は最悪。食糧不足で餓死寸前、電気も不安定、セルをはじめとする材料が足りない。執念だけで作った、というか軍の命令で作らされた。」
「人間は追いつめられると現実逃避に走るという典型的なパターンだな。」
「ホントそれ。血のにじむような努力の末に完成したアニメ映画が公開されてすぐに敗戦。上映は中止。しばらくは危険思想作品としてGHQから上映禁止のお達しが来てフィルムは倉庫に封印。ようやく1970年代ぐらいになって、戦中の作品を歴史的資料として鑑賞できる環境が整った。」
「うちらの桃太郎は鬼ヶ島へ行かないよな。」
「うーん、その辺は翡翠にお任せしよう。」
「今はまだ桃太郎が赤ん坊だから、17年後に出撃だな。」
翡翠は17年後に昔話の村を再訪した。浜辺で少年が亀とじゃれあっていた。何かしきりに頼み込んでいるようだ。
「なあ、いいだろ。乗せてくれよ。」
「料金が発生しますが。」
「親父はただで乗せていってもらったって言ってたぞ。」
「私の父の話ですね。あれは助けてもらったお礼です。」
「じゃあ俺も助けるからさ。」
「いじめられていませんが。」
翡翠は近づいて声をかけた。
「あら、あなた亀に乗りたいの?」
「お、きれいなねえちゃんだ。俺、浦島太助、よろしくな。」
「浦島さん?浦島太郎さんのお子さんですか?」
「そうだよ。父ちゃんも隅に置けないな。こんなきれいなねえちゃんと知り合いだなんて。」
「私は巫女です。きれいなねえちゃんではありません。」
「じゃあきれいな巫女さんだ。一緒に泳がないか?」
「いえ、これから山のふもとへ行かなければなりませんので。」
「ちぇ、まあまたの機会でいいや。それよりこの亀を説得してくれよ。竜宮城へ行きたいんだ。」
「あなたはいくつですか?」
「15歳だよ。」
「まだ早いですね。あそこはお酒を出す場所なので20歳になってからです。」
「乙姫っていうマブい女がいるんだろ。ヒャッホーしてえな。」
「あなた、お父様とはずいぶん性格が違いますね。そんなにチャラいといつか痛い目を見ますよ。」
「大丈夫だよ。しょうがねえな。町へ出向いて片っ端からねえちゃんに声をかけて遊んでもらうか。」
浦島太助は浮かれた足取りで去って行った。
「困った子ね。エラさんに有り余ってるものを吸い取ってもらおうかしら。」
翡翠は山のふもとにある桃太郎の家を訪れた。
「こんにちは。お久しぶりです。御巫翡翠です。」
「おお、あれから17年になるのに全く歳を取っておらんですな。」
「やはり天女様でありましたか。」
「ええ、まあ、似たようなものです。桃太郎さんは?」
「町の道場に剣術の稽古に行っていますよ。すっかり腕を上げたと師匠もほめていました。」
「そうですか。剣術の修行ですか。」
「強くなって鬼を退治するんだって意気込んでおります。」
「鬼がどこかに出没するんですか?」
「いえ、この辺りには来ませんけど、海の向こうの鬼ヶ島というところにいるそうです。」
「こっちに攻めてくるわけじゃないのに、わざわざ出向いてやっつけるのですか?」
「鬼ですからね、退治したほうが良いでしょう。」
「そう決めつけないほうが良いかもしれませんよ。桃太郎さんは稽古が終わったら何をしているのですか?農作業の手伝いとか?」
「いやあ、それがさっぱりでな、少し困っておる。町で悪いことをしてなければ良いのじゃが。」
「では私が町へ行って様子を探ってきましょう。」
「お願いします。悪い友だちができていなければ良いのですが。」
翡翠は町へ着くと、団小屋の縁台で団子を食べている4人組を見つけた。何やら真剣に話し合っている。
「金が欲しいなあ。」
「金がないと女も振り向いてくれない。」
「手っ取り早く遊女屋へ行くのが一番楽なんだが。」
「金がかかる。そして俺達には金がない。」
「俺たちに明日はない。」
「ん?なんだ、それ?」
「捨て鉢な気分になったら思いついた。」
「犬田、猿田、雉田、よく聞け。良い考えがある。」
「何だ、桃太郎。」
「鬼ヶ島というところに鬼が住んでいて、たんまりお宝をため込んでいるそうだ。」
「ほう、鬼ヶ島か。聞いたことがある。」
「俺たちで乗り込んでそのお宝をいただいてしまおうぜ。」
これは聞き捨てならないと思い、翡翠は彼らに近づいて声をかけた。
「ちょっといいですか、みなさん。私は御巫翡翠という巫女です。」
「おお、超別嬪や!」
「お姉さんも団子食うか?おごってやるぜ。」
「ほら、俺の隣に座れよ。」
「いえ、そんなことより皆さん、何やら良くない相談をしていませんでしたか?」
「ああ、鬼ヶ島で鬼退治?良い相談だよ。正義が悪を討伐。」
「皆さんが鬼と呼んでる人たちは何か悪さをしましたか?」
「いや、見たことないけど、鬼なんだから悪に決まってるだろ。」
「そう決めつけてはいけません。悪事を働いたという事実が何も確認されていないのに、異民族を鬼と名付けて討伐するのは残虐な侵略、それこそ悪です。」
「だって俺たち金がないんだよ。金がないと女に相手にされない。」
「そうだそうだ。それともお姉さんが相手してくれるのか?」
「とんでもない悪党ですね。そんなに戦って財を成したいのですか?負けて死んでしまうかもしれないのですよ。」
「俺たちは最強のチームだから負けねえよ。」
「ならば良いでしょう。現実を知っていただきます。ふふふ、死なれると後味が悪いので私も付いていきます。」
そのとき遠くから翡翠の姿を見つけた浦島太助が近寄ってきた。
「なあなあ、何か面白いことしようとしてないか?俺も交ぜろや。」
「あ、浦島んとこのガキ。」
「はあ?ガキって2歳しか違わねえじゃねえか、桃太郎。」
「呼び捨てにすんな!」
「浦島さん、私たちはこれからダンジョンという危険な場所に行って魔物と戦うのです。あなたは戦闘ができそうにないので連れていけません。」
「へ、俺は戦いは無理でも女相手なら無敵だぜ。女のいるところへ連れて行ってくれよ。」
「そんな便利な場所は....あ、ありました。良いでしょう。でもいろいろと準備があるので明日まで待ってもらえますか?」
みんな悪ガキでしたね。口を開けば女女女で、「女の尻を追い回し」とハマーン様にせせら笑われます。




