翡翠さん、桃太郎の誕生を確認したあとで竜宮城を再訪する
天界から落ちてきた桃の正体はアンブローシア、神々の食べ物なので人間が食べるとみなぎりすぎるようです。老夫婦も若返って子宝に恵まれました。翡翠も背中に羽根が生えるくらいみなぎりましたけどね。レッドブルか?
「なんだ、乙姫は魔物だったのか。」
「男性の快楽オーラを吸う魔物。サキュバスと似てるけどちょっと違うわね。」
「それにしてもエビラとはね。」
「かつて東宝映画でゴジラと戦ったこともある超マイナー怪獣。」
「強かったのか?」
「弱かった。自分のフィールである海で負けたもの。」
「これで浦島太郎は日常を取り戻してまっとうな人生を歩むわけだ。」
「そう、幸せの牢獄に閉じこもっていてはいけないというお話だったのよ。」
「残るは桃太郎だけだな。」
「成長するまで長いから、誕生時、子ども時代、そして青年期の3回に分けて翡翠が参上すれば良いわね。」
「最後は鬼ヶ島。」
「犬と猿とキジをどうするの?」
「いろいろ考えるべき点があるな。」
「冒険者のパーティーだとすると問題があるよ。そもそも各個体が弱いのと、タンクがいない。」
「総崩れになるパーティーだな。」
「金太郎から熊をレンタルしてタンクにする。」
「世界観が壊れるわ。そもそも鬼ヶ島で鬼と戦うかどうか。」
「まあ、翡翠にお任せだな。」
「さて、浦島さんは無事に日常に戻ったので、このまま漁師として穏やかな一生を送ってもらいましょう。乙姫さんが魔物だった姿を見ているから、もう二度と竜宮城に行こうなんて考えないでしょうしね。山で芝刈りのお爺さんと川で洗濯のお婆さん、桃を食べて若返ったけど、あのあとどうなったのでしょう?ちょっと様子を見に行きましょう。」
翡翠は山の麓にある老夫婦の家を訪れた。
「おぎゃあ、おぎゃあ!」
「あらあら、桃太郎。お乳が欲しいのかい?それともおむつ?」
「この子は本当に元気だのう。」
「あの歳で身籠もるなんて思ってもいませんでしたよ。」
「わしも桃を食べたら急にみなぎってしまった。」
「私もです。急に身体が火照ってしまって、恥ずかしい。」
「でも、その結果、こうして子宝に恵まれた。桃のおかげで生まれた子どもだから桃太郎じゃ。」
「こんにちは。翡翠です。」
「ああ、あのときの巫女さんか。あんた、空を飛んで行ってしまわれたな。天女なのか?」
「うーん、あのときは桃の力であのような成り行きになったのかと思います。」
「わしらと同じなら、さぞかし....」
「おじいさん、若い女子に失礼ですよ。」
「おっと、こりゃ失礼。翼が生えるくらいみなぎったのですな。」
「あの桃は天界から落ちてきたもののようです。神々の食べ物なので人間が食べるといろいろと不思議なことが起こるようで。」
「なるほど、それでわしらも子宝に恵まれたというわけか。ありがたいことだ。」
「つやつやとした桃色の肌。なんて可愛らしい赤ちゃんなのでしょう。」
「男の子でな、桃太郎と名付けた。」
「抱っこしても良いですか?」
「おうおう、ぜひ抱いてやってくれ。きれいな女子に抱かれれば桃太郎も喜ぶじゃろう。」
「ずっしり重いですね。強い子に育ちそう。」
「うむ、指を握らせると力が強いことがわかる。」
「この子が大きくなったころ、また来ます。どんな子になっているか楽しみです。」
「うむ。わしも頑張って働いてこの子にたくさん食べさせてやろう。桃のおかげで若返ったからな。」
「では、きょうはこれでおいとましますね。お元気で。」
翡翠は浜辺に来た。浦島太郎の様子をうかがうためだ。砂浜にいた亀をいじめていた子どもに浦島のことを尋ねた。
「漁師の浦島太郎さんはどうしてますか?」
「浦島のおっちゃんはこないだ町で見つけた別嬪さんを嫁にしたぞ。」
「あら、結婚したのですか。」
「ああ、この村にはいないようなすごい別嬪さんだ。巫女さんほどではないけどな。」
「まあ、子どものくせにお上手を言えるなんて。でも、本物の幸せを見つけたんですね。良かった。」
「嫁さんのために頑張って漁に出ているよ。今では村一番の漁師だ。そのうち船も買うんじゃないのか。」
「巫女ではありますが、若い女子が若夫婦の家を訪れるのは良くないですね。遠慮しておきましょう。」
「乙姫さんはどうしてるのかな?腕はもう再生しているでしょうか?ちょっと様子を見に行きましょう。」
「こんにちは。あら?なんか様子が変わってる。」
「こんにちは、翡翠さん。」
「あら、エビラの乙姫さん。もう腕は再生したのですね。」
「はい、おかげさまで、って、エビラじゃない、エビラじゃないもん。」
「ごめんなさい。つい。」
「私は本当に海の守り神だったのよ。でも、竜宮城でもてなした男性の歓喜のオーラの味が忘れられなくて、それでつい幸せの牢獄に閉じ込めてしまった。すごく反省しています。」
「なんか竜宮城の雰囲気が変わりましたね。前はディープなキャバクラっぽかったけど、今はどっちかというとコンカフェみたい。」
「はい、竜宮城というコンセプトのコンカフェにしたんですよ。」
「竜宮城というコンセプトってもともとそうだったじゃないですか。」
「まあ固いことは言わず、どうぞこちらへ。」
「まあ、かわいいお店に生まれ変わりましたね。」
「竜宮城は本来こうあるべきだったのです。」
「お客さんは来てくれるの?」
「はい、亀が誘います。お気持ちだけ料金を払ってくれれば竜宮城へ連れて行ってあげるよ、って。海の男は気前が良いですから、往復で1万円ぐらい払ってくれます。亀タクシーですね。集めたお金はここの運営費に回しています。」
「亀タクシーですか。良いアイディアですね。」
「閉店したらご機嫌になったお客様をまた乗せて元の場所に帰します。」
「それなら安心ですね。」
そのとき新しい客が亀から降りて店内に現れた。
「いらっしゃいませ。」
「よお、乙姫、また来たぜ。こっちの姉さんは新しいスタッフかい?めっちゃ可愛いじゃないか。」
「いいえ、この方は巫女の翡翠さんです。新しくなった竜宮城を見に来てくれたんですよ。なので接待スタッフではありません。」
「こんにちは、初めまして。御巫翡翠です。竜宮城では言葉の壁がなくなるみたいですね。」
「ああ、俺も驚いた。だけど接客スタッフが実は魚だと聞いて納得したよ。魚と会話できるなら人間の言語の違いなんて無意味だしな。」
「その特徴的な兜、ヴァイキングさんですか?」
「ああ、よく知ってるな。北欧から流れ流れてアジアの近くの島で暮らしている。もっとも俺は2代目なので北欧のことはわからないがな。親父たちは北欧を出発して新大陸の北東部に入植し、ヴィンランドと名付けたんだ。だけど現地人との間にもめ事が多くて争いが絶えず、そこを離れて北極海を通って東へ東へと、インディアンがいない土地を探したんだが、大陸にはそんな場所が見つからなかった。そこでベーリング海に出てアリューシャン諸島に到着し、良さそうな島を探したんだよ。住めるだけじゃ生きていけない。交易ができる場所じゃないとな。そしてようやくたどり着いたのがアリューシャン諸島の最南部、アッツ島だ。そこを根城にして、ロシア人やアイヌと交易をして暮らしているのさ。アッツ島には誰も攻めてこないから安全だ。」
「苦労なさったんですね。」
「今は幸せだよ。気候は俺たちに合っているし、ラッコやアザラシの毛皮、そして黒曜石は交易の重要な商品になる。あとあの島にはたくさんの海鳥が来るんだ。繁殖地みたいだな。卵や肉は重要なたんぱく源だ。羽毛は衣料資源として交易で高くさばける。俺たちはあの島をニットヴィンランドと呼んでいる。新しいヴィンランドという意味だ。」
「厳しいベーリング海に阻まれて外敵が襲ってくることはなさそうですね。」
「そうさ。あの海を渡れるのは俺たちヴァイキングだけだからな。はっはっは。」
「蝦夷地で、アイヌではなくて日本人と遭遇したことはありますか?」
「ああ、アイヌではない東洋人と何度か出会ったぞ。なんだかすごく怯えて一目散に逃げだしたがな。俺たち、そんなに恐ろしいか?」
「日本人は頭に角が生えていると怖がるのです。仕方がありません。」
「そうか。なら今度出会ったら兜を脱いでお辞儀をしよう。」
竜宮城で乙姫はすっかり改心し、まっとうなコンカフェ「竜宮城」を経営していました。竜宮城をコンセプトにしたコンカフェって、もともと竜宮城じゃないか、と翡翠さんに突っ込まれましたが。そこで翡翠さんはヴァイキングと出会いました。苦労の末に見つけた新天地ニットヴィンランドで幸せに繫栄しているそうです。




