表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/99

いざ、鎌倉へ!――翡翠さんはいったん離脱して壇ノ浦へは行きません

いよいよ鎌倉へ!

「なあ、そろそろ鎌倉で動きがあるんじゃないか?」青水はシングルモルトをチビチビやっている。


「ああ、以仁王の令旨がが発端になる。」


「京都の実権を握っているのは平清盛。平家にあらずば人にあらず。中学生でも知ってるな。いちおう名目上は天皇家が一番偉いはずなのに、腹立つよね、天皇家。なので後白河法皇とその息子の以仁王が平家打倒を呼びかける。このあたり、面倒くせえと思うよ、日本。何かというと天皇の後ろ盾がないと動かない。」


「まあ、そう言うな。そこに突っ込んで話を広げてもラノベ的に得られるものはない。ヨーロッパだって教皇の後ろ盾で動くではないか。権威が大事なのだ。正統性が。強大な武力だけではみんなが付いて来ない。」


「頼朝は、たいした兵力がなかったけれども、とりあえず呼びかけに応じて蜂起。そして案の定負けちゃう。今の小田原の石橋山だったっけ?死なずに生き残ったのがラッキーだった。そういえば徳川家康も負けて、何とか死なずに生き残ってラッキーだったよな。」


「兄の蜂起を知った義経たちは駆けつけるのです。兄弟初顔合わせです。感動の場面ですね。」


「義経以外にもモブ源氏が参戦してんだろ?」


「言葉に気をつけなさい。読者のなかには義円推しとか範頼推しとかいるかもしれないのですよ。」


「へい、失礼しやした。」





 1180年夏、奥州藤原氏の館に書簡が届けられた。書簡は二通あり、一通は以仁王の令旨の写し、もう一通は源頼朝の打倒平家の戦いへの参加要請であった。義経は色めき立った。


「これは兄様からの呼び出しではないか!」


「馳せ参じますか?」経春が義経を見上げた。


「もちろんだ。今すぐ出発しよう。」


「ならば海路を参りましょう。途中で平家に従う豪族に邪魔されると面倒です。」



 義経一行が出発の準備をしているところに、金塊を持った秀衡が現れた。


「いよいよ鎌倉へ参られるか?ならば軍資金が入り用でしょう。これをお持ちなさい。船は気仙沼にいる海人の長にこの書状を見せれば都合してくれましょう。ご武運を。」


「何から何まで世話になりました。恩に着ます。またお目にかかれる日を楽しみにしています。」



 気仙沼は漁港として栄え、漁業や海運に携わる人々で賑わっていた。義経一行は海人の長を捜し当てて秀衡の書状を渡した。


「そうですか。あなた様が源氏の嫡男、義経様。すぐにでも船を出したいところですが、今出すと魔物に沈められてしまいます。船を出すために魔物を退治していただけないでしょうか?」


「海の魔物ですか。お任せください。」


「船の甲板に乗ると海から魔物が現れるのです。」


「ねじ伏せて海に叩き落とせば良いのであろう?」弁慶が金棒を振り回した。


「しかし魔物はイカヅチを呼ぶのです。」


「そのまま戦うのは危険ですね。良いでしょう、私が何とかしましょう。」翡翠は懐から御幣を取り出した。



「出てきたぞ!」


挿絵(By みてみん)


「身体中に雷を纏っている。」


 翡翠が動いた。


「七の原子、疾く集まりて結びつき、虚ろなる冷気、光を閉ざし、息を奪う。幽かなる凍り、死の吐息、此処に顕現せよ!急々如律令!」


 巨大イカの周囲に冷気の結界が生じ、イカは凍り付いて絶命した。


「翡翠殿、今のは?」経春が興味深そうに尋ねた。


「液体窒素を限定空間に顕現させました。窒素は大気中に多量に含まれているので簡単に大量に作り出せます。温度は-196度、気化するとき体積が700倍に膨張するので、周囲の酸素濃度を急速に低下させます。これによって敵は窒息と凍傷という二重のダメージを受けて絶命します。あまり見せたくなかった術でしたが。」


「液体窒素?」義経がたどたどしい発音で尋ねた。


「この時代では説明しても無駄だと思います。要するに、空気中には様々な成分が含まれていて、それを分離して大量に顕現させると様々な現象が引き起こされるのです。念のために申し上げておきますが、この術を私は人間相手に使うつもりはありません。さっきのは危機回避として仕方がなかったのです。皆様を無事に鎌倉へお連れしなければなりませんから。」



 補給のための2回の寄港を挟んで、船は2週間後に鎌倉に到着した。



「兄上!」


挿絵(By みてみん)


 このとき義経は22歳、頼朝は34歳だった。生まれて初めて会う肉親。義経は無邪気に感動していた。


「義経、良く来てくれた。道中はいかがであった?」


「でかいイカが出た以外は順調でした。」


「それは何よりだ。ともかく夜は宴だ。積もる話もあるだろう。楽しみにしておるぞ。」



 義経が1人のときを見計らって翡翠は近づいた。


「義経様、私はしばらくおいとまさせていただきます。これから義経様は平家との戦いに参じることとなるでしょう。重力との付き合いを常に意識してください。それと...これはご理解頂くのは難しいかも知れませんが、戦とは殲滅戦ではありません。頼朝様ともしっかり話し合って、戦の具体的な目的を、何を達成したら勝利となるのかをご確認ください。頼朝様と求める世界が違うことになると、義経様の身も安全ではなくなります。安全ではなくなったとき、行く末が危ぶまれるようになったとき、私はまた現れます。それまでどうかご無事で。」



翡翠さんはしばし離脱して、平家との戦いには参加しません。表立っての歴史介入は、女神も青水も望んでいませんから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ