翡翠さん、ニューヨークでお店を始める、メロがママだよ
いよいよニューヨーク生活が始まりますが、せっかくなので音楽のマネタイズもしましょう。
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「やっぱ物語世界に戻る。舞台がニューヨークになるなら私も活躍したい。」
「やめとけ、と言っても無駄なのかな。万能女神だしな。」
「グリニッチヴィレッジか、良い場所だ。」
「ああ、並木道のベンチでギターを弾きたくなる場所だな。」
「詩も書きたい。」
「シンガーソングライターがこのあたりで生まれたのだろう。」
「だろうって、ずいぶんテキトーだな。」
「あまり良くわからないことを深掘りすると馬脚を現すからな。」
「なんで馬の脚なんだ?」
「西洋で悪魔は山羊の脚を持っていたっけかな。メフィストフェレスもそうだった。」
「馬じゃないじゃないか。」
「日本語の馬脚は、芝居で馬の役をしていた端役が失敗して身体を見せてしまったのが語源だそうだ。」
「要するに、下半身に真実が宿っているから気をつけろという意味かな?」
「おまえが言うとすべてエロに結びつきそうだが、あながち間違いではないだろう。」
「私の脚はいつでもツルツルピカピカなので全然エロではないよ。」
「はいはい、わかったわかった。」
「ということで行ってくる。いざグリニッチヴィレッジへ!」
「あ~あ、あーなったらもう止められないな。」
「ただいま。」
「あ、スイ、おかえり!」
「ロリータちゃん、ニューヨークに引っ越すよ。」
「え、みんなで?私も?」
「うん、みんなで引っ越しだよ。新しい女学生の館が見つかったからね。」
「うわ、すごい!ニューヨーク、行ったことがない。」
「みんなも初めてだよ。さあ、引っ越しの準備をしよう!」
「うん!」
「あとでお母さんにお話に行くので付いてきてね。」
「わかった。」
メロが珍しく真面目な顔で近づいて来た
「ねえ翡翠、引っ越したら大都市になるからサキュバス活動を始めても良いかな?」
「ダメですよ。大都市だけに警察の目が厳しいから、いろいろ面倒なことになりますよ。アメリカの警察はすぐ発砲するし、サキュバスは撃たれても死なないと思うけど、弾が当たったら熱くて痛いですよ。」
「だって精気を吸えないとちびっ子になっちゃう。」
「エラさんが編み出した技、『こっそり少しずつ』でお願いします。」
「だって、あれはスナックとかコンカフェとか、水商売のお店があったからできたんだよ。」
「そうですね。ではニューヨークにお店を出しましょう。」
「やった!なら私がエラみたいに支配人になる。」
「この時代、まだコンカフェという概念はありませんが、その筋で作りましょう。店内に簡易ステージを作って、スタッフがパフォーマンスを見せる。ジャズの店はありますが、新しい音楽の店はたぶんないので、注目を浴びますよ。メロがママ、よろしくお願いしますね。」
「ふっふっふ、まかせて!お客からちょこっとアブソーブしてお店を回すから。大丈夫、異世界コンカフェでノウハウはしっかり身についているから。」
「頼りにしてるわね、メロちゃん。」
ニューヨーク、グリニッチヴィレッジの館にて。
「私、こっちの角部屋が良い!」
「えー、ズルい。じゃんけんで決めようよ。」
「JK隊の過去のナンバリングで決めるのは?私、JK壱号なんだけど。」
「今は亜依でしょ。過去の名前はもう関係ないの。」
メロがパタパタ飛んできた。
「ふう、たまに羽根と尻尾と角を出さないと身体に悪いからね。で、何?部屋割りでもめてるの?そんなのくじ引きで決めなさい。私、こう見えてもママだからね。」
「え?ママ?」
「そう、異世界の店のママはエラだけど、ふふふ、ニューヨークにお店を開くことになりました。私がママよ。」
「ステージは?ねえ、ステージはあるの?」
「ふふふ、もちろんありますよ。みなさん、お客さんの前でパフォーマンスできますよ。」
「きゃー、マジ!やったー!」
「もう部屋割りなんてどうでも良いわ。みんなでライブの構成を考えよう!」
「そうね、こうなったら部屋割りより歌割り。フォーメーションもリニューアルしよう。」
翡翠は館の大家である不動産屋へ来ていた。
「こんにちは。御巫翡翠です。」
「いらっしゃいませ。物件はお気に召しましたか?」
「はい、入居者の女の子たちもみんな大喜びです。」
「それは良かった。あれだけの大きな物件なのでなかなか借主が見つからなかったので、こちらも助かっています。」
「きょうはもうひとつ別の案件できました。」
「はい、どういったお話でしょう?」
「店舗、それもライブハウスに使える店舗を借りたいのです。」
「どのくらいのサイズをお考えで?」
「ステージは5~6人が歌って踊れるサイズ。客席は、そうですね、ボックス席が50~60、そしてそれに加えてバーカウンター。」
「なかなかの大店ですね。」
「お客を集める自信はあります。」
「わかりました。近日中に候補を集めて報告に参ります。」
「よろしくお願いします。グリニッチヴィレッジに新しい音楽の炎を灯したい。」
数日後、グリニッチヴィレッジの新しい女学生の館で翡翠はメンバーを集めた。
「新しいお店が決まりました。皆さんに出演してもらうライブハウスです。ライブハウスと言ってもお酒も出して収益を上げますので、異世界のコンカフェとほぼ同じですね。エラさんに代わってメロさんが支配人になります。一言ご挨拶を!」
「ハーイ、みんな元気かな。このお店で私はお客から少しずつ、そうバレないように少しずつ精気を吸わせてもらいます。そうしないとチビになるからね。みんなは安心してパフォーマンスに集中してください。そうそう、お店の名前は“Melo’s Melody“だよ。もう看板も発注してあります。」
メンバーたちの大きな拍手が沸き起こった。翡翠が代わって話を続けた。
「ニューヨークという土地柄で、みなさんにはたくさんのスカウトが集まるでしょう。でも、皆さんはこの世界の人間ではありません。いや、こんなことを言うのも申し訳ないのですが、人間でもありません。個別にスカウトと話をするのは控えてください。すべて私との契約で動いているということになっています。ロリータちゃん以外は、ミッションが終わったらこの世界から転移しなければなりません。ニューヨークのミュージシャンということでついつ楽しさに飲み込まれそうになるのはわかりますが、私たちは転移者なのです。そこを忘れないでください。」
「ふっふっふ、私に任せておけ。」
降って湧いたように女神が登場した。
「私は試練の女神改め音楽の女神として君臨するぞ。ガッデス・オブ・ミュージックだ。」
異世界のコンカフェでノウハウはわかっていますから、きっと繁盛しますね。なにしろ未来の音楽を発信する場所になるのですから。